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第25話 忘れられない思い出と想い その4(25)

青木貿易東京事務所を立ち上げた健一は、過去の思い出を忘れるように必死で働いた。

だが、年が明けると、亡き妻千恵子の夢を見始めるのだった。


中堀の丁寧な指導により、無事に研修を終えた2人は東京に戻り、予定通り7月、都内に青木貿易東京事務所を開設した。


小さなオフィスは机が5つ並べられていた。正面が社長の青木。

その次に向かい合うように、健一と大串の2人。その隣には、今回雇い入れたアルバイトの女性が座り、事務や受付を担当した。


ちなみに事務所のある建物は、大きな倉庫で、ここにはタイの食材や工場用の資材などが置いてあった。


最初2人は社長の青木とともに、今まで青木が開拓してきたお店や会社を一軒一軒回った。

ちなみにタイ食材はタイ料理専門店だけでなく、中華料理屋さんなどにも卸していた。


やがて2人で担当エリアを分担することになった。

内訳は、郊外が大串に対して、健一は都内の中心部の担当であった。

これは港に荷物が着いたときに、英語とタイ語が話せる健一のほうが何かと都合が良いと考えた青木の判断でもあった。


この日から健一は無心にひたすら働いた。

それは正に、タイ料理のことや千恵子との思い出を忘れるかのように・・・・。


しかし、タイ料理に関しては、そう簡単に忘れる事が出来なかった。

青木から情報が行き渡っているのか、タイ関連のお店に行くとタイ料理への質問が自然に飛びかってきた。

その都度、健一が丁寧に説明する。

またこの時の雑談で、調味料がなかった時代には、いろいろ考えて代用の調味料をつかって料理をしたエピソードなどを話すと、皆大変喜ぶのであった。


この頃になると、都内各地にタイ料理店やタイマッサージの店が少しずつ増え始め、それらのお店に調味料などを販売する機会も増え始めてきたために、少しずつであるが取引先も増えてくるのであった。



やがて年が明けた1991年3月、そろそろ冬の寒さも落ち着いた頃、健一は突然不思議な夢を見始めるのだった。


どこか見知らぬ街中を一人で歩いていると、目の前に見た事のある長い黒髪を結んでいる女性の後姿が見え始めた。「あっ千恵子!」

健一が大声で呼び止めようとするが、女性はそのまま、まっすぐ歩いていく。


健一が追いつこうと早足になるが、相手も同じような速度で動くので、いっこうに追いつかない。そのまま追いかけると、女性はある食堂の中へ入っていった。


健一も、そのまま中に入ると、クロック(ペーストを叩く道具)を使って叩いている大きな音が鳴り響き、唐辛子の刺激的な空気に覆われ、南国の熱気が漂うような気がした。


「ん?これはタイ料理店??」健一は厨房のほうを覗くと、そこには自分自身が鍋を振るっている姿が移っているのだった。

その瞬間、目が覚めるのだった。


「あれ?千恵子が何故?確か井本が “リンネ”とか言ってたけど、もう別の世界に生まれ変わっている筈なのになんで俺の所に?」

気になった健一は、朝一番に親友の井本幸男に連絡を入れた。


「何だよ大畑!朝早くから?今日の大学の講義は午後からだというのに」

眠そうな声で井本が電話に出てきた。

「おい!お前の言っていた“リンネ”と言うやつは本当なのか?昨夜夢に千恵子が出てきたぞ。生まれ変わるのではなかったのか?」朝から大声で、かつ早口の健一に井本は不機嫌な口調になる。

「おい!何を言っているんだ?リンネ??輪廻転生りんねてんしょうのことか??」

「そうだ、嘘じゃないか!千恵子まだ生まれ変わっていないのではないのか?」

「おい、大畑落ち着け。輪廻転生は考え方の一つであって科学的に証明されているわけではない。それよりも、お前の記憶の思い出に千恵子さんがいてもいいじゃないか!

恐らくお前が前向きな人生を送れるようになったので、安心して夢に出てきたんじゃないか」

井本の説明になんとなく理解できた健一。

「あ〜そうか、いやそれならいいんだ。すまなかったなあ朝から。では」と言うとあっさりと電話を切るのだった。


井本は苦笑しながら「こうだと思ったら、すぐに行動に出るのはあいつらしいな。

まあ、でもこれで元気な大畑に戻ったようだからいいだろう。まあそのうち、タイのほうにも再び気持ちが戻るかもな」


「そうかあ、思い出かあ」納得した健一は気を良くして、いつものように出社するのだった。

しかし、不思議な事に、この夢を見始めてから10日間の間に、5回も同じ夢を見るので少しずつ気になり、「何かのメッセージなのだろうか?」と考え始めた。

「いやいや毎日のように食材店やレストランを回っているから、仕事が夢にまで出てきているんだろう」とすぐに自分自身に言い聞かせるのだった。


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