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第24話 忘れられない思い出と想い その3(24)

健一は、新婚旅行の最後にいつも行くチャオプラヤー川のほとりに案内し、2人でこれからの生活の事を誓いあうのだった。

そこには、訓練のためいつもの本松親子が登場するのだった。


最終日は、夕方まで自由行動にした。

健一は千恵子を伴ってあるところに向かった。それはタイのチャイナタウン。


やはり中国好きの千恵子には、ぜひ見せておきたかったのである。

メインのヤワラー通りには、“大金行 “と書かれた大きな漢字表記の看板がひしめきあい、通りのあちらこちらにツバメの巣などの中国料理の屋台があって、さらに市場に入れば、ここがタイである事を忘れさせられる”中国っぽい匂い“が満ち溢れていた。


「うわぁー、タイのチャイナタウンは違うね」千恵子の声のテンションが、必然的に上がる。

「そうだろう、多くの中国人がタイに渡ってきたから、華僑の数は日本とは比べ物にならないくらい居るんだよ。それに漢字とタイ文字の不思議な取り合わせが大好きで、タイに来るときは必ず一回はここに来ていたんだ」得意げに話す健一。


「そうなんだ、もっと早く知っていれば良かったわ。私も少しずつタイのことが好きになってきたわ」


千恵子は満面の笑みを浮かべていた。

2人はそのままチャイナタウンからバンコク市内を流れるチャオプラヤー川の辺にでた。川辺りをのんびり眺めながら

「これからいろいろな苦難はあるけど、一緒に頑張ろう。僕は必ず立派なタイ料理人を目指すから」


健一がつぶやくと、千恵子も「よろしくお願いします。日本にいる泰男と3人ですばらしい家庭を作りましょうね」と応じた。こうして2人は、幸せな結婚生活を送れるように誓い合うのだった。


「おっ、久しぶりだね、大畑君。隣にいるのは彼女かね」突然、現れたのは、空手衣に身を包んだ本松親子。

「あっ本松さん。紹介します。妻の千恵子です」「始めまして」

千恵子が深々と頭を下げる。

「あっ奥さんでしたか。失礼!わしは、本松友和。これが息子の和武だ」「こんにちは」和武も挨拶をする。

「和武君。大きくなりましたね」健一がうれしそうに和武の頭を撫でる。

「今年9歳になる。まあ、日々の空手の鍛錬が実って、まもなくムエタイのジムに入って本格的なトレーニングを積めるかなあと思っておる」

「本松さんは、駐在員の方ですか?」千恵子が質問をする。

「そうだ、一応駐在員であるが、今はそんな事よりも和武を一流のムエタイ選手にする事だけしか頭に無い。では、今から訓練を行うのでこれにて失礼」


「スゴイ人がいるのね」千恵子が感動する。「うん、大抵ここに来ると見事に会えるんだけど、やっぱり今日も会えたね。お父さんは空手の有段者らしいんだけど・・・。息子にムエタイかあ。泰男も鍛えようかなあ!」

「何言ってんの!」「ごめん、冗談だよ」

チャオプラヤー川にも千恵子の事を紹介した健一は、幸せの絶頂を謳歌するのだった。


こうして日本に無事帰国した健一と千恵子であったが、

この時こそが、2人のもっとも幸福なときであることはまだ、どちらも気づいていなかった。


〜〜〜


「異文化のイギリスでの出来事・・・。バンコクで受けたみんなからの祝福。それよりも、あのチャイナタウンで見た千恵子の笑顔・・・。

ああ、まさか千恵子をタイに連れて行けたのはあの一度きりだったなんて・・・」

忘れようにも決して忘れる事ができない、新婚旅行の思い出・・・。

暗い表情のまま独り言をつぶやく健一を見て慌てる大串洋次。

「あっごめんなさい。大畑先輩にまずい事言っちゃいましたね」


「いや別に気にするな。もうどうすることも出来ないし、ただやっぱり思い出すと寂しくなるなあ」

健一はぼそぼそつぶやくのだった。


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