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第二話 突然の悲劇 その2(2)

健一は8年前に始めていったタイのバンコクの事を思い出した。楽しい思い出であったがなぜか辛いという理由でタイ料理だけは避けていた。


8年前の1982年の晩秋。

健一は、始めてタイのバンコク行きの飛行機に乗っていた。


当時大学生だった健一は、この頃、将来のことで悩む毎日であった。

専攻していた世界史(中国史)の研究を続けるために大学院に進むか、

3年間続けている“家庭教師”のアルバイトの経験を活かして、そのまま塾講師などの教育部門あたりに就職すべきか思案し続けていた。


「このまま、教育関係のところで就職するのが一番良いんだろうなあ。

家庭教師のアルバイトは『教え方が上手い』と、ご父兄の皆さんには好評だしなあ。

でも本当は、中国史の研究をもう少し続けたいんだけど・・・。

これは、俺が小さいときから興味を持っていた分野だからなあ。

そういえば、高校からの同級生である井本の奴は、自分のやりたい研究をする為、早々と院に進むと言ってたなあ・・・。」


そう言いながら、この日は、大学の帰りに、

乗換する新宿駅でなんとなく少し散歩をしたくなったので、

途中下車して、目的も無く歩き始めた。

しばらく歩いていると、偶然通りかかったある旅行会社の“海外旅行”のパンフレットが、

目に入ってきた。

「このまま悩んでも仕方がない、気晴しにどこか旅に出ようか!」健一は、そうつぶやきながら、パンフレットの置いてあった旅行代理店の中に吸い込まれるように入っていった。


健一は、元来旅が好きであり、これまでも、“香港”に1人旅をした経験があったので、

海外に行くことに、何ら抵抗を感じなかった。

言葉に関しても、英語を得意とし、欧米人と普通に日常会話が出来るレベルであったし、

かつ家庭教師として、小学生に英語を教えているほどであったので、全く心配は要らなかった。

「英語さえしゃべれれば、世界どこに行っても、どうにかなるからなあ」

そうつぶやきながら、早速どこに行こうか考えることにした。


研究対象となる“中国 ”にいくのが本来正しい筈であったが、

この時はなぜかその気がおきなかった。

とにかく全く別の国に行って、全てを忘れたい衝動に駆られていたのだった。

健一は、店内に備え付けてあったパンフレットをいくつか眺めているうちに、

ある国の紹介文に、目が止まった。

「微笑みの国 タイ・バンコク4日間の旅」

健一は、そのチラシを手にしたかと思うと、全体を舐めるように見渡し、早速旅行カウンターへ向かって申し込みを始めるのだった。


しかし、実際に申し込んだのは、チラシのツアーではなく、

より自由に旅が出来る航空券を購入。

「どうせなら」と、7日間の予定を立てての旅立ちであった。


健一はバンコクに到着後、事前に調べていたバンコクの中華街に向かい、

その中の安宿を確保した。

次の日から、毎日、休む暇も無くバンコクの市街を歩き回り、有名な寺院などの市内や郊外の観光をはじめ、タイ式ボクシング“ムエタイ”の試合を見たり、市内から車で1時間ほど北にある、かつての王都“アユタヤ”の遺跡なども見学するのだった。


この間、健一は日本にいたときの悩みなど完全に忘れて、ひたすらタイを堪能する事が

できていた。

しかし、ただ一つ経験していないものに“タイ料理”があるのだった。


健一は辛い料理に対してある種のトラウマがあった。

小学生の頃に誤って唐辛子をそのまま食べてしまい、火を噴くような口の状態に1時間近くも泣け叫びながら苦しんだ経験があった。


“タイ料理=辛い料理”というイメージからタイに来ていても日本料理店や中国料理店でのみ食事をとるようにし、タイ料理を完全に避けていた。


その健一が特に気に入った店は、ベトナム戦争以降、アメリカ人の遊び場所として発展しつつあった、“バッポン通り”や日本人達の夜の街として発展していく “タニヤ通り”などの歓楽街に面した大通りである“シーロム通り”から一本北側の小さな通り沿いに、ある“居酒屋 源次”という名前の日本料理店。


当時、バンコクでは日本料理店=高級店”のイメージがまだ強かった時代であったが、

”源次”では、比較的低価格で食べることができる数少ないお店であった。

定番の寿司やてんぷらのようなものがある傍ら、他店には余り無い、コロッケやハンバーグのような洋食系のものがあったり、

あるいは、カレーライスやラーメンなども置いていて、日本人駐在員の普段使いのお店としての人気も高かった。


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