第18話 恩人の下で再出発 その2(18)
熱く語る健一に、青木は感激を受け、かつて独学で勉強したタイ語の本を健一にプレゼントするのだった。
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熱く語る健一に、青木の表情は急に緩んだ。
「ああ、源次郎さんも言っていた通りだ。健一君、あなたと会えて嬉しいよ」
青木は嬉しそうに話を続けた。
「私もタイ語を勉強しているうちに、この国の事がどんどん好きになってしまってね。
実は3年前に本社に戻る辞令をもらったけど、この国にずうといたいということで、
思い切って会社を辞めちゃったんですよ。
そこで、10数年培ったここでの人脈を利用して独立して貿易会社を作ったわけなんですね。
最近になってようやく軌道に乗りつつあるけど、それまでは苦労の連続で非常に疲れていたんですよ。
私もまだ40になったばかりとはいえ、あなたの若さと熱心さに思わず元気をもらいました。ありがとう! あ、そうだ、ちょっと待ってね」
青木は席を立って事務所の本棚に向かい、何かを探し出した。「あ、これだ、これをあなたに差し上げましょう」青木が健一に渡した本は、2冊。
1冊目は、日・タイ&タイ・日辞典。
もう1冊はタイ文字と発音の解説書であった。
「え!社長、これ僕がもらっていいんですか?」「ああいいよ、私はもうこれが無くても平気だから。タイ語を本気で勉強したいという人にあげようと思ったんですよ。それが健一君、あなたと言うわけ」
健一はさっと立ち上がり、丁寧にお辞儀をした。「青木社長!ありがとうございます。
必ず僕はタイ語を習得します」健一は感謝の意を必死になって青木に示そうとした。
青木は、笑顔で「いやいや、健一君、そんなに感謝されると私も照れるじゃないですか?そんなに喜んでくれれば、その本もきっと嬉しいと思うよ」「本当にありがとうございます。僕は頑張ります」あまりの嬉しさに、健一の目には、今にも涙がにじみ出てきそうな表情になっていた。
「ところで健一君は、どこかに就職するのかは決まったの?」「いえ、実は昨年の秋まで迷っていたのですが、この国に来て、もう少し学生として研究を続けようと。タイのことをもっと知りたいので」「そうか、何かあったいつでも連絡しておいで。
私もタイと日本は、頻繁に往復しているし、渡した名刺に日本の住所と電話番号も書いてあるから気軽に会社に電話をかけてくるといいよ」「はい、必ずまた連絡します」
こうして健一は青木に再度挨拶をして、青木貿易を後にした。
健一が去った後、青木はひとりつぶやいた。「大畑健一君かあ。
彼は将来大物になるだろうなあ。
できれば当社に欲しい人材なんだがなあ」
健一は心躍る気持ちでいっぱいだった。
「源さん、いい人を紹介してくれた。
これでタイ語も頑張って勉強しよう。
あれ?さっき食べたばかりなのに緊張した後なのか、また小腹がすいてきたような。
さて、どの店に行こうかなあ」
健一のタイへの熱い想いは、灼熱のタイ・バンコクの暑さように、日々強さを増していくのであった。