第17話 恩人の下で再出発 その1(17)
健一は、青木と言う男がいる会社に行き、青木と面会。やや緊張気味の健一とは対照的に青木は、昔の思い出を語り始めるのだった。
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翌日健一は、予定通り青木と言う人物に会うことにした。急とはいえ、会社の社長に会うので、もって来た服の中で一番きれいなものを着用し、トゥクトゥク(原動機付き3輪車のタクシー)に乗ること20分くらいで、“AOKI FOREIGN TRADE”の事務所がある建物の前に到着した。
場所は、日本人駐在員が多いスクンビット通り。
前回初めて健一がタイ料理を食べたお店があるエリアで、今回もいろいろなタイ料理レストランに来るために何度か足を運んだのだった。
建物の中に入り、“AOKI FOREIGN TRADE”の文字を発見。
3階にあったのでエレベーターに乗り、3階につくと、向かって左側にある事務所を発見した。
健一は、落ち着くために一度深呼吸をしてからドアをノックした。
中で声がしたので「失礼します」と事務所のドアを開けると、スーツ姿の背が高くほっそりとした1人の日本人男性と、1人のタイ人男性、2人のタイ人女性が中にいた。
日本人男性が近づいてきて、1枚の名刺を渡した。
「やあ、あなたが大畑健一君ですね。はじめまして私は青木と申します」名刺には“青木貿易 社長 青木晃”と日本語で書かれていた。
「はじめまして大畑健一です。城山源次郎さんから、あ・青木社長さんのことを昨日聞いてこちらに来ました。
よ・よろしくお願いします」当時まだ学生であった健一は、ビジネス上の挨拶に慣れていなかった為に、緊張で少し舞い上がってしまい、途中で何を言っているのかわからなくなっていた。
「まあ落ち着いて、あなたを呼んだのはこの私ですから。さあ、そこに座ってコーヒーでも飲んでください」
健一は、青木の指差したところにあった応接用のソファーに、緊張のためかあわただしく座った。
それを見届けてから青木は、健一の前に座った。タイ人の女性従業員が、ホットコーヒーを健一と青木の座っている前に渡した。
青木はコーヒーを一口すすってから話し始めた。
「旅でいろいろ回る予定があるのにごめんなさいね」「いえいえ、そんな僕は自由な旅なので」「いや、源次郎さんの店であなたの事を聞いて、ちょっと懐かしくなってね」
青木は一瞬視線を遠くに送って話を続けた。
「私は大学を出てすぐに大手のXX商事に就職して、5年後に、ここバンコクに駐在員として来てからというもの、毎日タイの文化をいろいろ勉強してね、特に食べ物はよく調べたんですよ。
だって食べることは人生の中ですごく大事なことだから。この国に来た以上、この国のものをできるだけ食べようと結構努力したんだよね」
ようやく落ち着きを取り戻した健一は、すかさず質問をぶつけた。「青木社長、タイ料理はどのくらい食べられたんですか?」「うーん、いちいち数えてはいないけど、ほとんどの料理は食べてるね。バンコクだけでなく、北のチェンマイとかにも行ったりしたからね」「社長すごいですね、でもタイ語は大変だったのではなかったのでは?僕も今、料理本と一緒に毎日タイ料理をいろいろ食べてるんですけど、タイ文字がわからなくて一苦労です」
そういいながら、いつも持ち歩いている料理のレシピ本を青木に見せた。
「ほお、頑張っているね。確かにタイ語もタイ文字も難しかったよ。英語とは違うからね。
私の場合は“業務命令”ということもあったので、必死で覚えたけど、これは難しいと思う」
「青木社長!どうやって覚えたのですか?
僕もタイ語を勉強したいんですよ。
英語は大丈夫なので困ることは無いのですが、もっと多くのことを知るにはタイ語を理解しないとだめなんだと思うんです」