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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

たてば芍薬、座れば牡丹、銃を見れば修羅の華

作者: 香 祐馬

日常にアクションがあったら。

日常が、映画のようだったら。

そんな非現実的な日常の物語を描いてみたくて書きました。

お時間があれば読んでください。

hey (へい) fuckin’ guy(くそ野郎).... what (どこ) are you (見て) looking (るん) at?()


Look (こっち) at me (だ ウスノロ)!!』


右手の甲で、スナップをきかせて敵の横っ面をぶん殴る。


バキっ!


「guaaaa!!」



※※※



「おはよう!もう具合は良いのか?」


俺は、教室に入って窓際の後ろから2列目の席に座る人物を見つけて駆け寄った。

その人物は、顔をこちらに向けて儚げにふわりと微笑む。

彼女の首が少し傾いた為、腰まである黒髪が肩から一房だけ前にさらりと流れ、ほのかにフローラルな香りがした。


「おはよう、たける。元気だよ。

しばらくは入院しなくて良いみたい。

心配してくれて、ありがと。」


彼女は、俺の幼馴染でもあり恋人でもある亜紀だ。

母親同士が親友だったから、ガキの頃から事あるごとに一緒に遊んだり家族で旅行に行ったりしていた。


小さい頃は駆け回りながら遊んでたが、ある時久しぶりに会うと、亜紀は走れなくなっていた。

どうやら心臓に欠陥があったらしくて激しい運動ができなくなったそうだ。

それでも、一緒にゲームをしたり本を読んだりして変わらず仲良く遊んだ。


今思えば、その頃から亜紀を守らなくてはいけない使命に燃えていた気がする。


だから高校は、出席日数が少なくても留年しない緩い私立に一緒に入った。

授業に出れない亜紀のために授業のノートをとったりあれこれと世話をやいていた。


亜紀は容姿が飛び抜けて綺麗だ。

学校いちの美女だと騒がれている。

それに加えて出席する日も少ないので、上級生からは、出会えたら良い事があるんじゃとか神格化もされた。

黒髪というのも目立つ。周りの女子はみんな茶色く染めている中、艶々の絹糸のようなさらりとした髪が思わず触れてみたくなる魅惑の逸品だ。

さらに肌は、吸い付くようなしっとりとした白い肌で、これまた魅力的である。

脚や手も運動が出来ないのにもかかわらず、健康的に制服からスラリと伸びていて生唾ものだ。

とにかく見た目が完璧だ。

しかも、見た目だけじゃなく頭もいい。

俺の授業ノートだけで成績は学年で一番。俺は、真ん中なのに...。

体が病弱って部分を抜かせばパーフェクトなので当然モテた。

入学して3ヶ月も経てば、告白する男がわんさか湧いてきた。


俺が、小さい頃から大事にしている女の子を他の男に取られるのが嫌で恋人にしてもらった。

その時の条件が、キスまで。それ以上の関係は望まないってものだった。

心臓が弱いから、いわゆる男女の運動が出来ないそうだ....。

俺も、健全な男だからしたい!...だが、愛があるので我慢をしてる。俺、偉い!


そんなわけで、俺たちは高校1年の時から付き合っている。もうすぐ交際3年目のおしどりカップルだ。


「今回の検査入院は長かったな...。大丈夫だったか?」

俺は、亜紀の頬に手を添えて顔色を確認する。

ちゃんと温かい亜紀の体温を確認して、心の底からホッとする。いつも最初に会った時のルーティンだ。

ここに生きて亜紀が存在しているのを毎回確認しないと不安に駆られる。

亜紀も、俺の心境がわかっているから俺の手の上から手を重ねて小さく微笑んでくれる。


「うん、今のところ問題ないってチャールズ先生が言ってた。今回もどのくらい動いたら、心臓に負荷がかかるかの検証だったんだ。もちろん、MRIとか精密機械での検査もしたんだけど。

それでね...。やっぱり、まだ運動はダメって言われちゃった....。ごめんね、たける。」


亜紀の心臓は、手術じゃ治らない病気らしい。

それこそ心臓移植しか方法がないものみたいだ。

日本じゃほぼ不可能だから定期的に渡米して順番を待ってる。タイミングが合えば、手術ができるようだ。

俺と付き合い出してからは、関係を進めれるように米国の高度な医療チームのもとで臨床試験にも参加してくれている。

恥ずかしいが、いわゆるあれに耐えられるか確認中らしい...。

今回も、1ヶ月ほど渡米していた。


「あー、気にすんな。全然、大丈夫だ。俺は亜紀さえいればいいからさ!そうだ、親父さん元気だったか?」


「あーうん。ダディめっちゃ元気だった。200kgのバーベル持ち上げてたよ、ふふふっ。

オリンピックに出たらいいと思うくらいのキングゴリラっぷり(笑)」


亜紀は、その時のことを思い出し、ふるふる肩を震わせながら笑った。

目には、必死に爆笑しないように我慢しているのか涙がうっすら滲んでいた。


亜紀は、赤ん坊の時に本当のパパさんが死んでしまっている。

今のダディは、ママさんが再婚した海外の軍人だ。

親父さんは現在アメリカ勤務だから向こうで久しぶりに会えたようだ。


俺と亜紀が出会った時には、もうダディが親父さんだった。子供の時は目の色も髪の色も違う亜紀と親父さんが、かなり不思議に思ったものだ。


「ははっ、そりゃすごいな。

俺一生勝てない自信があるわぁ...。

我が輩より強いやつにしか嫁にやらんって言われたら一生結婚できないぞ。」


「大丈夫!

そしたら、たけるが婿に来ればいいよ!

ね?解決しちゃった。」

亜紀は、手をパンっと鳴らして『名案でしょ?』と目をキラキラさせタケルを見つめる。


「だな。そしたら、たける・ラッセルになるのか?

なんかしっくりこねぇな(笑)」


俺は腹を抱えて、亜紀は声を抑えて互いに目線をあわせて笑いあう。

こんな瞬間も俺は幸せだ。


「ねぇ、たける。今度デートでスカイツリー行きたいな。そろそろ空いてるんじゃない?」


「いいな、それ。俺もまだ行ったことないや。今度の開校記念日に行くか?」


俺は、その日を楽しみにしていた。

そこで起きることを何も知らずに....。



その日は、よく晴れた秋晴れだった。

所々、うっすらと刷毛で塗ったかのようなスジ雲が空に浮かんでいたが、基本澄み渡っていてスカイツリーのてっぺんが、下からはっきりと見えていた。


「亜紀、ちょうどいい天気だったな。

ガスってる日だと登っても周りの景色見えないもんな。

俺たちの日頃の行いがいいからご褒美だなっ。」


「そうだねぇ、私の行いがいいからかな〜。

たけるは、こないだ先生に呼び出しされてたから、違うんじゃない?」

亜紀は、にやにやとタケルを下から見上げて、ぷぷっと笑った。


「なっ!!なんで知ってんだ?亜紀休んでたよな!?」

タケルは、目を白黒させてワタワタと焦った。


「ふふ、なーぜーでしょう♪

亜紀ちゃんは、たけるのことならなんでも知ってるンダなぁ。

物理の点数が一桁だったことも、体育の授業で1人だけ懸垂が出来なかったことも知ってる〜♪

でも、ヘタレのたけるも大好きだよっ。」


亜紀は、名探偵のように両手で丸眼鏡を作ってマルっとお見通しだっと得意げにタケルを見る。


タケルは、隠していたことが亜紀に知られていた動揺と、大好きだと言われた照れ臭さがごちゃ混ぜになってひたすら恥ずかしく顔が真っ赤になった。


「....。恥ずい....。」

タケルは、顔の半分を腕で隠して恥ずかしがった。


それを見た亜紀は、ふふふと笑いながらタケルの頬をつついてからかう。


「真っ赤だね♪可愛いぃ〜、たける。」


えいえいっとひたすらつつく亜紀の指を、タケルは照れ隠しにパクッと咥えた。


バクっ!!


「きゃぁ、食べられちゃった♪」

亜紀は、楽しそうにケタケタ笑う。


「亜紀。し〜っ。エレベーターだから、静かにしろよ。」

指を口に当てて、し〜ぃっと互いに微笑み合った。


たけるたちが乗ったエレベーターは、春だった。

ピンクの光沢がある桜の花びらが、暗い箱の中でぽやっと光り輝き、幻想的だ。ここが、日本だと意識できる空間だった。

エレベーターは、グングンと登っていく。

ほとんど揺れなかったが、最後の方は重力がかかったみたいで耳が少し詰まった。


エレベーターを降りて、視界が開けた。

「おお〜、これがスカイツリーの景色か。なんかうん。東京タワーの方が、好きかも....。」


「え!?たける、そんなこと言っちゃう?」


「高すぎて、ビルや道路が遠い。東京タワーの方があれがなんだとか、わかりやすくね??」


「身も蓋もないよう...。

ほら、なんかたくさん写真撮ってくれる場所があるみたいだから行こう!私調べてきたんだから。」


亜紀は、タケルの腕を掴んでグイグイと見て回った。


しばらくすると、反対側がザワザワとしてきた。

元々、観光地だからザワザワはしていたが、違う雰囲気のザワザワ感が漂ってきた。


「なんだろう、亜紀?あの辺有名人でもいるのかな?遠巻きに人が見てねぇ?」


「えー、何だろうね。うーん、見えないなぁ。」

亜紀はつま先立ちで右左と顔を動かして中心人物を見ようとするが、身長が足りずに見えなかった。


タケルは、ぴょんぴょんと飛び跳ねて見ることに成功した。

「亜紀、外人さんだ。

ちょっと渋めのおじさんと、日本人のおっさん。

周りに外国のSPみたいな人がいっぱいいる。

俺、海外のスターって全然知らないからわかんないや。」

タケルは、亜紀の方を向き話しかけた。


すると亜紀はその言葉を聞いて顔つきがガラリと変わった。

「たける、ごめん。せっかくきたんだけど、今すぐ帰りたい。」

亜紀は、表情が抜け落ちたように真っ白な顔でタケルの腕にもたれかかった。


「お、おいっ。亜紀、心臓か!?すぐに帰ろう!顔が真っ白だ。」

タケルは、亜紀の顔を覗き込んで顔色の悪さに慄いた。


2人が、下りのエレベーターを待っているとさっきの人混みの方から悲鳴と大きな音が聞こえてきた。


『....きゃーっ!』

『パーンっ!!』『パ、パーンっ!』

『Get down!Duck!』『身をかがめて!伏せて!』


「銃声!?亜紀、こっちへ!」

向こうのほうから大勢の人がエレベーターホールに向かって雪崩れ込んできた。

タケルは、咄嗟に亜紀が潰されないように腕で囲って抱きしめた。


ぎゅうぎゅうの中、周りの人は座り込みながらエレベーターが来るのを今かいまかと焦りながら見る。

しかし、無情にもエレベーターが開くことはなかった。

銃声が鳴り止むと、フロア一帯が銃を持った外国人に占拠されたのだ。

やけに見かけた中東民族っぽい装いの観光客がテロ組織の構成員だったようだ。


「亜紀?心臓大丈夫か?」

タケルは、切迫した状況のなか腕の中の亜紀を気づかった。

亜紀は、小さく頷いて身を更に小さくかがめた。


(遠くで外人が、英語と何かわからない言葉を捲し立てているけど...。

亜紀の心臓が心配だ。なんとか女性だけでも解放してくれないだろうか。)


「亜紀。英語でなんて言ってるかわかるか?

なんで占拠させれてるのか通訳してくれ....。」

タケルが、こそこそと声をひそめて亜紀に話しかける。


「うん、わかる。

ごめん、私が来たいって言ったから巻き込まれちゃった。ほんとにごめん…」

「いいから。済んだことは考えるな。

まずは生き残るために情報が必要だろう?なんて言ってるんだ。」

「うんとね....。

端的に言うと、偉い人にテロ組織が交渉してる。」

「もっと詳しく。

俺たちに危害は加えられないのか知りたい。」

「多分、運がなければ死ぬ...。」

「マジか....。なんでわかる?」

「英語を喋ってる人は、チラッとしか見えなかったけど話している内容から推察するにロアンナ王国国務次官のダン・ドルトナーだと思うから。」

「誰だ、それ?」

タケルは、時事問題がさっぱりわからなかった。


「ダン・ドルトナー国務次官は、軍事関係をまとめてる人だよ。

日本で言うと外務大臣の下の下くらいの人かな。

最近中東で紛争が勃発してるのは知ってるでしょ?

その紛争国の武器や食糧を融通しているのが彼。

テロ組織からしてみれば、目の上のたんこぶなんだよ。

その紛争が長引きすぎたから、終止符をうつために近く軍を大量投入して空爆もするって発言をこないだ発表してた。

日本でも多分ニュースになったと思う。

現実になれば、かなりの構成員が死ぬし、巻き添えで死ぬ現地人も大勢出てきちゃうから、結構周辺国から非難されてる。

ダン次官は、将校だった時ゴザリダス湾急襲戦を指揮を取ってた人で、『地上の悪魔』って言われた指揮官。

小さなゴザリダス湾に戦闘機を投入して一瞬で焼け野原にした残虐的な面を持っているの。

だから、多分今回の中東の作戦も実行されるって言われてる。

それで、その命令の撤回をテロリスト側が今まさに求めてるんだけど....。

ダン次官が強気に拒否してる。絶対屈しないって叫んでる。

テロ組織の人たちは人質を1人ずつ殺すって叫んでる...。」

亜紀は、タケルをぎゅっと強く抱きしめた。


遠くで英語、アラビア語が飛び交っている。

その音以外は、息を潜めて静かに身を寄せている人たちの呼吸だけが聞こえる。

たまに啜り泣く音が聞こえるだけだ。


しばらくすると、静寂を切り裂いて大きな叫び声が聞こえてきた。

同時に、銃声が1発鳴った。


パンっ


乾いた銃声音が聞こえると同時に、今度は絶叫が聞こえた。

周りの人たちは、何が起きているかわからず、ただひたすらガタガタ震えている。


「.....たける。なるべく目立たないようにして。

人質を1人ずつ足から撃つって話してる。」

タケルが顔を覗き込むと、亜紀の顔が覚悟を決めたような顔をしていた。


「亜紀、心臓は大丈夫か?」

タケルが、小さな声で問いかけると、小さく亜紀は頷いて大丈夫だと答えた。


しばらくこう着状態が続いたが、動きがあった。

良い方への動きではなく、悪い方だ。


構成員が人質1人ずつに何かを貼りだした。

亜紀とタケルにも、貼られた。


「亜紀、これなんて書いてあるんだ....?」

「ペルシャ文字で、数字が書いてある。」

亜紀は、厳しい顔で簡潔に答えた。


「なんの意味が?」

タケルは、想像ができず困惑しているようだった。


亜紀は、しばらく難しい顔で黙っていたが、ボソッと一言呟いた。

「....的..。」


タケルは、へ?と聞き返した。


「猟奇的な愉快犯が、良くする方法だよ。人質の死ぬ順番をダーツやサイコロで決める...。

さながら、私たちは景品。悪趣味極まりない。」


『Sizdah!!Sizdah!!.... Sizdah!!』


テロリストが、何かを叫びながらニヤニヤと一人一人覗き込んで数字を確認し始めた。


「...なぁ、亜紀。なんて言ってるんだ??」

タケルは不安そうに訊ねる。


「13....。

私が、Cāḥārdahで14。たけるが、Pānjahで50。今回は大丈夫だったけど、誰かが犠牲になるね...。」


銃声が一つ鳴り響いた。

ぎゃぁぁぁぁっとしばらく悶絶している声が聞こえ続けた。

近くの人ではなかったが、犠牲者が出たことで本当に人を的にしたゲームを始めたことがわかり更に緊張感が高まる。


またテロリストが鼻歌を歌いながら、やってきた。


『Nuzdah♪ Nuzdah♪』


今度は、19らしい.....。

すると、横にいた家族の中から一際小さな女の子が引っ張り上げられた。


「やめて!娘に手を出さないで!」

「ふぇぇぇ。おかあさ〜んっ。助けてぇぇぇ」


俺は、その光景に絶句した。

5歳くらいの幼い子供までもが的にされている事実が受け入れられない。

ここは、日本じゃないのか?

なんで銃が普通に持ち込まれてるんだ?

夢であってくれ!と、心の中で叫んだ。


だが無常にも、母親と女の子を引きずりながらテロリストが歩みを進める。


俺は、頭が真っ白になって思わず叫んでいた。


「...ストーップっ!!!チェンジだ!!俺が変わる!

パーソン、チェンジだ!!」


**********

『チェンジだ!!』


私の横にいたタケルが叫んだ。

その声にテロリストが反応し、こっちを見て歩みを止めた。


『change??HaHa! Impossible(無理な願いだ)

『But if you risk your life,I will accept the proposal!(お前の命をかけるならいいぞ!)』


タケルは英語が分からないくせに返事をしようとする。


「チェン...ジっ」


私は、咄嗟にタケルの口を塞いで返事をさせないようにした。


「返事しちゃダメっ!あの子の脚とたけるの命の交換って、アイツは言ってるの!

返事をした時点でたけるの頭に銃弾が貫通するっ!

今、交換に応じてもどうせ次のターンであの子の脚は、銃弾で撃たれるっ!!

無駄死によ。今は耐えてっ!!」


私は、早口に捲し立てた。

ヘタレなくせして正義感が強いタケルならテロリストに楯突くと想定していた。

だから、目につく人が選ばれないように必死に祈っていたのに.....。


私は、周りを瞬時に確認する。

テロリストは目の前に1人。視界に入るギリギリのところに左右1人ずつ...。


ー私だけならなんとかなるけど護衛対象が多すぎる。

まだなの?日本の特殊部隊は!

今、東京にいる工作員何人いたっけ?

私と、アンジェリカと、ラシード、メルギフ、リュン...。

最初の発砲からすでに40分は経ってる。緊急アラート連絡してから、だいぶ経ってるからうちの連中は多分もういるはず...。

動く?でも、たけるにバレる。

私ほんとは心臓、鋼でできてるのぉぉっ!ー


実は亜紀は、心臓なんて全く悪くなかった。

ダディの国アラブの特殊工作員だった。


亜紀は、ダディの本国基地に子供の頃忘れ物を届けに行った時、検知器に引っかかったことから人生が変わった。


α波、β波、θ波、δ波の4種類の他に実は∞波という脳波がある事がアラブで発見された。

∞波を出す人間は、総じて身体能力が高いことがわかり、さらにその中でも一握りの人間には筋細胞の変異体muscle fiberX(通称MFX)があるということもわかった。

MFXを持つ人物は、日本なら忍者、外国ならスーパーマンになれるのも過言ではない。

よってアラブの王族は、∞波を出す人間を探して工作員を秘密裏に増やしていた。


亜紀も∞波が検出されたので筋細胞も調べられ、MFXが検出された。

それから、あらゆる訓練を受けて超人能力を身につけさせられた。


度々、王族の警護や諜報活動があるので長期で学校を休むので、心臓が悪いという嘘を捏造した。

タケルに嘘をつくのは胸が痛かったが、ダディや王子に『騙すなら身内から』と言われてしまって病弱設定になった。ちなみに母さえも知らない....。

バレたら、ダディ離婚されると思う。


亜紀が、どうするかと高速演算していると外のガラス上部から手が生えた。


仲間からのハンドサインだ。


ーフ・セ・ロ  ヤ・リ・ス・ゴ・セ セ・ン・コ・ウ 3・2・1ー


ガシャーン!!

ガラスが割れて、周りの意識がそこに向かう。

同時に閃光弾M84が放たれて眩い光が展望デッキを埋め尽くした。


亜紀はカウントぴったりに目を閉じ耳を抑えて備えていた。

光が終息するまで数秒耐え、目を開けた。


民間人は耳を押さえて悶絶していた。

耳鳴りが激しくて目も開けられないからだ。


テロリストは、もれなく簀巻きにされ終わっていた。

仲間が閃光中に突入して簀巻きにして行ったのだろう。


亜紀は、ホッと安心した。

自分の裏の部分が晒されず済んだこととタケルが無事だったことに安堵した。


だが、次の瞬間はっとした。

閃光弾の効果から逃れ、仲間の拘束からも逃れたテロリストがいたのだ。


耳にインカムをつけた白人が、シールド(小型銃)を片手にムクリと立ち上がった。

閃光弾が投げ込まれた瞬間いち早く気づき、亜紀と同じく耳と目を閉じて無効にしたんだろう。

中東系でなく白人種で人質に紛れていたため、気づかなかった。

その男はキョロキョロと周りを見渡し、平然としていた亜紀を見つけた。


ニタリと笑って、亜紀に銃口を向ける。

だが、そのまま銃口をスライドさせて亜紀が庇っていたタケルに銃を向けた。

そして、指に力をかけて引き金を引いた。


バンっ!!


銃が火を噴き銃弾が飛び出したが、タケルに当たることはなかった。

男が引き金を引く瞬間、亜紀がMFXに力を込め超加速をした。そして男の前にドンっと瞬時に現れて銃口を上に蹴り上げたのだ。


男は、何が起きたのか分からなかった。

銃を握っていた手はジンジン痺れていて、自分の意思では無く反射的に腕が持ち上がっていた。


そして次の瞬間、右後方から声が聞こえた。


『《へい、くそ野郎。どこ見てるんだ?こっちだ ウスノロ!!》』


亜紀は、右手の甲で男の頬を思いっきり振り殴った。


脳が、揺れるほどの衝撃で男は銃を落としその場でガクンと膝をつく。

亜紀がダメ押しに手刀を振り落とし、男の意識を刈りとった。


ようやく事態が終息した頃、警察が突入してきた。

亜紀は、タケルの横でみんなと同じ体勢になり何食わない顔でやり過ごした。



その後、簡単な事情聴取が人質になった人たち全員にされ、更にPTSDのケア等のため病院に搬送された。

そこでカウンセリングと眼の後遺症の有無を確認されてようやく2人は解放された。


「亜紀。俺、目が良く見えてなかったけどぼやっと人影は見えてたんだ....。だから、亜紀が俺の側を離れたことも、立ってた人が倒れた時に亜紀がいたことも、そのあと亜紀がそばに戻ってきたこともわかってた。ずっと一緒にいれば、人影でも亜紀ならわかる...。亜紀、すごくはやく動けてたよな?なんで?」


タケルは、信じたい気持ちが半分、疑心が半分だった。断腸の思いで亜紀を問い詰めた。


亜紀は、最初はびっくりと目を見開いていたが、次第に泣き笑いのような顔をしてタケルに苦笑した。


「.....うん。ちょっと、まってて。」


亜紀は、携帯を取り出しどこかに英語とアラビア語で電話をしだした。


「...たける。今、部屋を用意してもらったから着いてきてくれる?」


2人は移動中、目も合わさず黙々と歩く。

しばらくすると、一つのビルの前で亜紀が止まった。


「たける。ここの3階の部屋で話す。」

亜紀がスタスタとビルに入っていくので、タケルも後ろをついて入った。


少しの距離なのに、階段が長く感じいつまでも着かない。

体を上から押さえつけられているような重たい気持ちが占領する。


やがて部屋のドアを亜紀が開けた。

その後にもドアがいくつかあってようやくテーブルと椅子2つしかない小さな密閉部屋についた。


タケルは、ここまでの迷路のような道を亜紀が迷わず進むことで薄々気づいていたが、四隅にカメラがついて窓もない異様な小部屋を前に、自分が問いかけた事がとんでもない秘密だったのだと確信した。


「座って、たける。」


お互いに向き合って亜紀が話し出した。


「まず、何から話そうかな。うーん、とりあえずびっくりする事を話すけど、最後まで黙って聞いてくれる?順序よく話せないから、爆弾発言が支離滅裂で出るから。」


タケルは、大きく頷いて覚悟を決めた。


「えっと、まず心臓が悪いこと、運動ができないことは嘘です。」


タケルは、息をひゅっと吸って只々驚いた。


「検査入院で海外にしょっちゅう行ってたのは、私の裏の仕事関係での任務。

....えーっと、私の上司はダディとアラブの第6王子ジャガール様で、身内にもこのことは秘密になってて、母も知らない。」


「ごめん、亜紀。少し喋る。このことって?」


「私が動けること、健康体だということ、怪しい仕事をしてることかな。」


「なんであんな動きができて、秘密にしないといけなかった?」


「アラブの王族主導で莫大な資金で研究が行われているんだけど、ある研究結果を秘匿してるから。

その研究結果に子供の時たまたま私が該当した。詳しいことは省くけど、私には他の人が持たない筋繊維があったの。

それで訓練して、オリンピック選手なんて目じゃないくらいの肉体能力が備わった。

アラブはね、人間兵器と呼ばれる人をたくさん保有しているのを諸外国に秘密にしてる。」


「なんで、俺に話した?誤魔化すこともできたし、国一つの秘密をなんで話した?俺殺される?」


「最悪な場合ね。でも特例があるの....。

第一伴侶には秘密保持契約を書くことで話してもいいことになってる。」

亜紀は、照れ照れしながら話す。


「??ごめん、亜紀。

俺バカだから、伴侶がわからない。」


亜紀は、呆けた。


「......。伴侶は、夫だよ.....。」


「.....えええええっ!俺、結婚するの?いつ?」


「今。たけるもう18歳だから法的に認められるから。」


亜紀は、机の引き出しから2枚紙を出した。


「はい。これにサインして。すでにハンコは、押してあるから。」


タケルは、その1枚を見て驚愕した。


「婚姻届??なんで、えっ?

俺の署名以外埋まってる...。

証人に母さんの名前が書いてある?なんで??」


「ダディが、たけるが18歳の誕生日を迎えた時に用意した。

たけるの両親にも事情は説明してあるの。

ダディ特殊な仕事だから、私を守るために結婚っていう手段を取らないといけない場合があるって説明してあったの。知らない人と結婚するよりたけるがいいでしょ?」


「それに、たける。

こないだタケル・ラッセルになってくれるって言ったし。本当になってよ♪」


タケルは、唖然としたがじわじわと理解して顔が真っ赤になった。


「お、おう。いいぞ。だが、プロポーズがここ?しかも亜紀から?なんか夢が壊れた...。」


タケルは机に突っ伏してしょげたが、ガバッと起き上がって亜紀を真剣に見つめプロポーズをした。


「亜紀、俺と結婚してください!」


亜紀は、律儀なタケルらしいなと思いながら、「yes」と答えた。

紆余曲折があったが、最後はめでたく高校生夫婦が誕生して終わった....。



後日談、

「亜紀?そういえば第1伴侶って言ってたけど、1ってなんだ?」

「たけるは、アラブ国籍になったから私の他にあと3人奥さん作れるってことだよ。」

「えっ、それいらなくね。俺亜紀だけで満足だ。」

「ふふ、ありがとう♪」

今日も2人はラブラブです.....。






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