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会合

 サバゲーメイド――野崎エリナから襲撃を受けた翌日。

 資金援助という大恩受けているし、昨日勉強する決意したし、行かないわけにも行かないか――、と気乗りしない感じなあたしがダウナーな雰囲気を漂わせ、花園邸を訪ねると、


「応接間へどうぞ」


 昨日ジジイを拭いてた妙齢のメイドに案内され、応接間に向かわされた。

 急に応接間って、もしや……昨夜の神宮寺(じんぐうじ)夕姫(ゆうひ)関連か、と思い至ったので素直に従い着いていく。


「別に、わたくしがどのような方と関わりを持ってもいいではありませんの。少なくとも、夕姫さんには関係ありませんわよね?」


「そんなの認められません! あのような野蛮人! 財閥の令嬢であるわたくしたちが、関わりを持っていい相手ではありません!」


「夕姫さん、落ち着いてくださいまし。会話もせずに、プロフィールだけで決め付けるのは、良くありませんわよ?」


「プロフィールだけで決め付けるレベルの悪行を積み重ねている野蛮人が悪いんです!」


 なんか中で言い争っている声が聞こえるんだけど。

 てか、あたしのこと糞味噌に言っているのは、神宮寺夕姫か! このアマ……!! と怒りを露に応接間に突入する。


「誰が野蛮人か! ふざけるな!!」


 憤慨したあたしは、悪い子を探すなまはげのような気分だ。

 すると、そこには、知らない少女が座っていた。高級そうな仕立ての良い服を着ていて、一庶民とはとても思えない。

 お前が神宮寺夕姫だな! と当たりをつけて、馬鹿にされた怒りを込めに込めて射竦めた。

 あたしがハリセンボンならば、全身から針が飛び出ているだろう。


「あら、ごきげんよう。あなたが胡桃さんですか」


 澄まし顔をしているつもりなのだろうが、澄ませておらず、明らかにむすっとしたお顔のお嬢様が立ち上がって挨拶した。それは、明らかにあたしを野蛮人と糾弾した奴の声だった。聞き間違えではない。

 というか、問いかけというより、断定してたな……、そんなに不良っぽいのか……。不良なのだが……。

 昨日はともかく今日は花園邸に来るにあたってちゃんとした格好はしてきたのにな。オーラ出ちゃってるのかな。

 なんにせよ、一目で不良と断定されたことが引っ掛かった。あたしは不良は不良でも善良な不良のつもりなのだが……、『オニグルミ』と呼ばれたのだって、勝手にそう呼ばれているというだけのこと。別に殺伐とした空間に身を置いていたわけではないのだ。まあ、振りかかる火の粉は払ってきたが……。売られた喧嘩は買うのが礼儀だろ? だからあたしは、今日もそうする。


「これはこれはお嬢様、ご機嫌麗しゅう。なにやらお顔が固くなっているが、トイレに行きたいのか? ぶっこんでやろうか、このアマ!」


 あたしはぶちギレ気味に返した。


「……なんと野蛮な……お里が知れますね……」


 そんなあたしの返答が気に入らなかったのか、神宮寺夕姫と思われる少女は、こちらを威圧してくる。


「みやびの言葉を借りるようだが、合ったこともない奴を野蛮人と評するあんたも程度が知れるがな!!」


「なんですって!? 不良の貴女に言われたくないです!」


「不良か不良じゃないかは今、関係ないだろ!! 人間レベルの話だ!」


「それはすみませんでした! わたくしが悪うございました! けれど、貴女、ひねくれてますね! そういうところは気に入りません! そもそもあなたビジュアルはいいのだから、もっと誠実に生きれば多くの方から信頼を――」


「はいはい。ビジュアルが全てじゃないけどなー」


 そんな夕姫のご高説を聞き流したあたしは、夕姫の隣に見知った人物を発見した。


「――あっ、サバゲーメイドじゃねえか! こんにゃろ! 昨日の続きを繰り広げる気か!」


 夕姫の側には、昨夜襲撃してきやがった、サバゲーメイド――エリナが仕えていた。エリナはあたしが目を向け威嚇(いかく)すると、萎縮(いしゅく)した。小声で、「……昨夜はすみませんでした」と言っているのが、かろうじて聞き取れた。なんともまあ裏表が激しいやつだこと。


 エリナが仕えるお嬢様を見て、神宮寺夕姫はやはりこいつだと完全にあたりをつけた。

 みやびが、夕姫さんと呼称し、言い争っていた奴と同じ声、あたしに対する態度、エリナの存在、もう役満だろ。


(野蛮人とかいいやがって……否定ができないのが悔しいが……)


 そして、夕姫と思われる少女の向かいには、花園みやび。

 側にはやっぱりアンジェラとミシェルが仕えている。彼女らは、ミドルネームがグレイスで、ラストネームがリー、という名前らしい。ハーフなのか、純血かは知らないが金髪で碧眼の花園家の……いや、花園みやびのメイドである。


「ごきげんよう。胡桃さん」


 みやびが挨拶してくる。


「ああ、おはよう」


 サバゲーメイドをけしかけてきた、どっかの令嬢よりは好感度はかなり高めなので素直に返す。生徒手帳見たのと、暴力メイドけしかけたのは、忘れていねーけどな! あれ、こいつのが腹黒くね?


「おはよう。胡桃遅かったわね。もしかして、昨日の『BB弾』で受けた傷が尾を引いたのかしら」


 あたしの思考に割り込むように、暴力メイドの姉、アンジェラが声をかけてきた。減らず口を聞いてきたが、昨日、箒で助けてくれたから、そこまで怒りはわかない。


「え? お姉様、胡桃さん。『BB弾』で、怪我をしたんですか? それは……くすっ」


「BB弾舐めんなよ! 痛かったんだぞ!」


 笑いやがったな――と、ミシェルを(にら)み付けた。こいつは昨日参戦しなかったしな。あたしのピンチの時には、既にぐうすか寝てたんだろ、どうせ。それは別に怒る理由になっていないけれど、ムカつく。


「ごめん……」


 すると、エリナが謝ってくれる。あたしはミシェルに怒ったのだが……。まあ、BB弾が痛かったのは事実だから、エリナが謝るのは当然だ。

 というか、昨夜の襲撃時とは、うって変わり、殊勝(しゅしょう)な態度だな。どっちが本性だよ。サバゲーメイドめ。


「……あ、ああ」


 とはいえ、急に謝られると調子狂うなあ……。


 それはさておき、夕姫と思われる少女を放置するわけにはいかない。そろそろ本題に切り込もう。


 あたしは神宮寺夕姫と思われるお嬢様に向き直った。


「ところで……あんたは神宮寺夕姫か? てかそうだよな?」


「ええ、そうです。神宮寺財閥総帥の娘――神宮寺夕姫とはわたくしのことです」


「そんなあんたが、なんであたしを潰そうとしたんだ?」


「それは……つい、口走ってしまったんです。胡桃さんのプロフィール見たら、気持ちが(たかぶ)ってしまいまして……。ですが、これだけは言わせていただきます! わたくしは貴女を認められませんわ!」


 夕姫は立ち上がった。


「そんなの知らんがな。認められないと言われてもな、あんたに認められようが、認められまいが、正直どうでもいいんだが……」


「それでもわたくしが、納得いかないんです! 貴女がわたくしのライバルである花園みやびに一目を置かれたということが! こうなったら、決闘です! ええ、決闘です! そうしましょう! これはもう決定事項です! さあ、信念と信念をぶつけ合いましょう!」


「はぁ!? 勝手に決めんなよ!!」


「庭で待ってます! エリナはBB弾用意して! あと、車で待機している昨日入ったもう一人のメイドも連れてきて、3VS3よ!」


 夕姫はエリナを連れて、スタスタと庭へ向かっていった。

 3VS3って……、お嬢様のお前も戦うのかよ。


「なんか面倒くせーことになったな……」


 夕姫とエリナが出ていって心なしか静かになった応接間でぼやく。


「ああなった夕姫さんを止めるのはなかなかに骨が折れますわ。彼女の提案に乗ってあげるしかないかもしれませんわね」


「決闘しろってか?」


 みやびの言う通りかもしれんのだが……、決闘はどうも乗り気しない。特に相手が不良じゃないのが大きい、基本善良な奴とは気分的に戦いたくないのだ。


「ええ、まあ、死なないように頑張ってくださいまし。応援してますわ。アンジェラとミシェルも助力してあげて」


『かしこまりました、みやび様』


 アンジェラとミシェルがハモって答える。


「というわけで、私たちも参戦するわよ」


「神宮寺夕姫さんって(やかま)しいお人ですよね。いい機会ですし、おとなしくさせましょう」


 アンジェラとミシェルはわりと乗り気だった。

 というか、ミシェル、丁寧な口調なのに、内容は物騒だな。


「そ、そうだな……」


 あたしはそんなミシェルに引き気味といった感じで答えた。

 こうして神宮寺夕姫との因縁が幕をあげたのである。

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