強制連行と双子姉妹の制裁
「おいおいおいおい、花園、引っ張るなって!」
あたしはわけもわからぬまま、されるがままに連行されていた。
このままじゃ、主導権はずっとみやびのものだ。滝の流れのように凄まじい勢いで流されていっている気がする。
あたしは必死だった。必死に抵抗した。
「このやろ!! 離せ! 離せったら!!」
しかし、あたしの必死の抵抗は、みやびの拘束から逃れるに能わず。
みやびが「はぁ……」とため息をつく。
「胡桃さん、いい加減に観念してくださいまし。今さら抵抗されても、メイドとも合流できましたので、既に手遅れですわ。――さあ、お車にお乗りになって。わたくしの家に向かいましょう」
「勝手なことを……」
そこで何者かの気配を感じとる。正面にメイド服を着た少女が二人が現れた。顔立ちや雰囲気がそっくりだ、双子だろうか?
見た目的に中学生かそこらくらいだろう。ちなみに金髪碧眼だ。
――もしかしなくても、外国人? それともハーフか?
二人のメイドは髪型も似かよっていた。サイドテールが左に向かっているのと右に向かっているというのが、分かりやすい違いで――、あと、胸が左サイドテールの少女が平坦、右サイドテールの少女がちょっとボインだ。それは、今、左右から組みつかれて実感した。
あたしは、それを振りほどこうとしたのだが、両腕をがっしり抑えられ、もはや抵抗はできない。
「二人は姉妹でメイドとして、わたくしをサポートしてくれている心強い味方ですの。いい娘たちですので、安心してくださいな」
やはりメイドは姉妹だったらしい。
『心強い味方』で『いい娘』とは言うけれど、みやびの味方であってもあたしの味方とは限らないじゃないか。あたしにはみやびの援軍である二人は、『最悪の敵』で『悪魔』にさえ思えた。それは車の運転手のおじさんも枠内だ。
みやびの華奢な腕だったら、力一杯にやれば、振りほどけたかもしれないが、メイド姉妹の腕力はなかなかのものだった。しなやかな腕のどこからこんな力が出ているのか、極めて不可解である。
ていうか、力強くね! メイドなのに鍛えているのか!?
こいつらで、護衛は事足りるだろ!! ってくらいに完璧に押さえ込まれてしまった。解くことはできなくもないだろうが、関節を熟知したこの固めかたに対しては、相応の力で抵抗せねばならない、敵意のない相手にそれをするのは気が引ける。
そのまま、みやびの先導で見るからに、高級そうなリムジンの前まで連れていかれる。
警察官にパトカーへと連行される罪人になった気分だ。
みやびは先に中へと入り、
「さっき連絡した通り、この方が胡桃さんです。暴れるかと思いますので、アンジェラとミシェルはしっかり抑えてくださいね。ついでに、反骨心を砕いてくれると助かります」
と言った。
『かしこまりました。みやび様』
みやびの要望にハモって答える双子姉妹。
反骨心を砕くとはいったいどういうことだろう?――あたしはお嬢様が笑顔でそんなえぐいことを言うのが、恐ろしく思えた。
そんなことを考えている内に、リムジン内に放り込まれる。
運転手のお姉さんに、みやびが「あれをお願い」と要望すると、音楽が流れた。優雅な音楽が流れる。なんて曲かは音楽に疎いあたしは知らないが。
そんなみやびを見ながらあたしは、評した。
――絶対、腹黒だろこいつ。
もはや、あたしにはみやびが、天然の皮を被った、悪魔にしか見えなくなってしまったのである。
――ん?
双子姉妹の片方――おそらく姉の方。があたしを小突くので顔を向けた。
「胡桃。私はアンジェラ・グレース・リーよ。姉妹の姉にあたるわ。よろしくね?」
暗黒微笑を浮かべるアンジェラ。
すると、もう片方――おそらく妹の方。からも小突かれるので顔を向けた。
「胡桃さん。私はミシェル・グレース・リーです。妹の方です。よろしくお願いしますね」
天使の笑みを浮かべるミシェル。
双子姉妹はアンジェラとミシェルというらしい。天使を彷彿とさせる名前だが、今は悪魔に思えた。ミシェルの笑みは天使だったが、それには騙されない。だって、双子姉妹にかなり乱暴にリムジン内に放り込まれた後、全く動けないくらいに、押さえ付けられているからだ。人当たりは対照的でも、内に秘めるものは同じと思える。
だから、あたしは愛想の欠片もまかずに、
「――ふん、花園の犬が」
と、ふて腐れきった態度をとった。
するとどうだろう。あたしのそんな態度が気に入らなかったのか、二人が表情を歪め。
「みやび様に危害を加えるようならば――」
「――ここで死んでいただきますね」
アンジェラとミシェルが恐ろしいことを言う。
ちなみに、ミシェルは相変わらず天使の笑みだったが、ヤンデレみを感じた。
――ほらやっぱり。どっちも悪魔じゃないか。
しかも、関節極まってきた。
「いててててて!! やめろ! お前らあああああ!!」
あたしは痛みに苦しみ正面を睨む。
視線で「なんとかしろ」と、みやびに訴えかけたのだ。
しかし、対面のみやびはこちらに取り合う様子はない。お行儀よく座り澄まし顔で、優雅に紅茶を啜っていやがったのだ。
「おい、優雅に紅茶飲んでんじゃねーよ。てめーのメイドの躾どうなってやがる!」
あたしが、がなるものの、みやびは紅茶を置きすらしない、素知らぬ顔だ。
代わりに、アンジェラとミシェルが――
「みやびさまにその口の聞き方は――」
「――万死に値します」
――暴行する。
関節がより極まってきた。いてええええええ。
「ちくしょう! 二人がかりで卑怯だぞ!!」
あたしは、理不尽な仕打ちに訴えるものの、二人は微塵も悪びれない。
「胡桃はもう私たちに逆らうことはできないわ。諦めなさい」
「諦めて私たち姉妹の下婢に付くといいです」
「下婢ってなんだ?」
「有り体に言えば、下僕の女版ですね」
「なるほど……。――っじゃっ、ねぇよっ!! なんであたしがお前らなんかの手下にならねばならないんだ!」
「胡桃がスーパーメイドであるあたしたちよりも弱いからよ」
「お姉様の仰られた通りです。というわけなので、犬のように這いつくばってください」
「あたしより強いからって、調子に乗りやがって……力に溺れてんじゃねーよ」
「減らず口を聞くわね。まだ自分の立場が理解できていないのかしら?」
「そのようですね。お姉様、やっちゃいましょうか」
「そうね。やっちゃいましょう」
あたしは鉄拳制裁された。そうして、車内の優雅な音楽はあたしの絶叫で上書きされることとなる。
「あだだだだだだだだあああああ」
電気椅子にかけられるってこんな感じなのだろうか。そんなことを思いながら、あたしはとても苦しむのだった。
――双子姉妹ツエエエエエ。
そんなやり取りが繰り返され、数分後。
「……暴れねーからもうやめてくれ」
そんなお嬢様らしからぬ、(主に双子姉妹の犯行だが、主導者はみやびだ)えげつないやり口にあたしは観念した。飼い主に付き従う忠犬のような心持ちだ。己とみやびを繋ぐ存在しないはずのリールが見えた。
つまるところ。もはや、逆らう気力が尽きたのだ。
と、そこで、詰んでいることにも気付いた。
超絶強い双子姉妹のアンジェラとミシェルはもとより、弱いものイジメはさっきの不良少女たちと同列、つまりとても惨めなので、みやびに手向かうこともできない。
…………にしても、鉄拳制裁たぁ、やるじゃねえか……。
あたしはみやびの恐ろしさを知った。
おっとりお嬢様――から、澄ました顔をして、恐ろしいことをする平然と女だ――、と評価を改める。そして、双子姉妹はあたしを脅かす脅威であった。
みやびが双子姉妹に指図したように、反骨心は完全に砕かれてしまっていたのだ。
――なんとも、主人の命令に忠実に従うメイドだこと……。
あたしはふかーいため息をついた。




