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ありがた迷惑とありがたく頂く

 あたしとアンジェラはミシェルに怯える。ミシェルはそんなあたしたちにきょとんとした表情を浮かべる。

 すると、場の空気を一新するように、ジジイが咳ばらいをした。自然とあたしらの視線はジジイに寄せられた。


「戯れるのもその辺にせい。あの神宮寺家の娘っ子と決闘するのじゃろう? ならば悠長にしている場合ではないぞ」


「たしかにそうかもしれないな」


「彼女は感情的になりやすい傾向をお持ちのようなので痺れを切らして襲い掛かってくるかもしれません。そうなったら大変ですわ……」


 最悪の場合を考えてしまったのか、みやびが顔を青くする。屋敷を荒らされたくないのだろう。屋敷をしっちゃかめっちゃかにされたらたまったもんじゃないだろうしな。


「で、ジジイはなんでここに来たんだ?」


 早急に話を進めることにしたあたしは、ジジイにそう尋ねる。


「ジジイ……まあいいわい……お主が敬語を使ってもきっと気持ち悪いしのう」


 ジジイは本題に入る。


「聞いて驚くな。儂の秘蔵コレクションから持ってきてやった」


 ジジイが大威張りでそう言うと、ガラガラガラという音。

 そんな音を引き連れ新たに、例のジジイ担当と思われる妙齢のメイドが現れた。そのメイドはキャスター付きワゴンを持ってきた。ワゴンには何かが積まれているようで黒布が被さっている。


「うむ。ごくろう」


 ジジイがワゴンを持ってきたメイドに労いの言葉をかけると、メイドは軽く会釈し下がった。

 それを見届けたジジイがワゴンに被せてあった黒布を掴む。


「これじゃ!」


 そんな威勢の良い声とともに捲り上げられた黒布。ワゴンの中身があらわになる。

 そうして出てきたのは戦国時代の武将の付けるような黒光りする甲冑と黒い鞘におさめられた刀だった。


「おおう」


 あたしは、ジジイにしては目の付け所がいいじゃねえかと思いつつ驚嘆の声を漏らし、半歩ほど後退る。

 それを持ってきたとうのメイドは慣れているのだろうか、先程よりポーカーフェイスを崩さない。

 メイドといえば、他の二人――アンジェラとミシェルの反応はというと……、アンジェラは呆れた様子で嘆息し。ミシェルは困惑したように額に手を当てていた。言外に、頭が痛いとでもいうかのように。


「どうじゃ、すごいじゃろ?」


 ジジイはそんな二人の反応をガン無視し、反応が良かったあたしを見て尋ねた。自分のコレクションに相当な思い入れがあるのだろうか、目がキラキラしている。


「たしかにすごいとは思う」


「そうじゃろうて」


 ジジイは満足げに頷く。

 けれどあたしには続く言葉があった。


「…………だが、実用性皆無じゃねえのか?」


 そう言って、あたしは肩を竦める。

 ジジイは途端に肩を落とした。


「つれないのう……。もう少し反応してもよかろうに……。――してその心はなんじゃ?」


 若干落ち込んだ調子をみせたジジイが立ち直り、あたしに問いかけてくる。

 それにあたしはジジイを見て、


「甲冑はもとより使い物にならなそうだし、それにモノホンの刀を使うのは流石にやべーだろ?」


 そう素直に答えを示した。


「どっちもレプリカのようなもんなんじゃが?」


「じゃあなんで。んな自慢げなんだよ!?」


 あたしは、すっとぼけているようにみえたジジイに、声を荒げてツッコミを入れる。


「それはのう。我が財閥が擁する研究所の最先端技術が詰まった代物じゃからじゃよ」


「なんだよ最先端って、骨董品じゃねえのかよ!」


「じゃから、レプリカのようなもんじゃと言ったじゃろ」


「レプリカの意味知ってか……? 見た目は戦国、中身は最先端ってどんなキャッチコピーだよ! それならオマージュのが適当だと思うぞ!」


「まあまあ、人の話は最後まで聞かんかい。この甲冑はのう。ダイヤのごとき、否、それ以上の硬さでどんな方向からの攻撃も全く通らぬ寄せ付けぬ。その上、特定の箇所が脆いなどと言う弱点はない。防弾性はもちろんのこと。見た目にそぐわずとても軽い」


「なんでその技術力で甲冑なんぞを作った! もっと今の時代に合わせやがれ! 技術力の無駄遣いだ! それに、どんな代物であろうと、このご時世に甲冑なんか恥ずかしっくって着れるか! 武将コスとか、どんな罰ゲームだよ!」


「そうか……そこまで言うのなら……、残念じゃが……、しょうがあるまい……」


「ちょっと胡桃、あんまりお爺様を虐めないで」


 ジジイの落ち込み具合に見かねたのか、アンジェラがジジイを庇う。


「とはいわれてもな……。ならお前があの甲冑を着るか?」


 あたしの問い掛けに、


「ぜーったい、イヤよ」


 アンジェラはもの凄く嫌そうな顔を見せながら即答し、拒絶した。

 それによりジジイがさらに落ち込んだのは言うまでもない。


「私もあれは着たくないですね」


 さらにミシェルが便乗するかのように言う。

 そのせいでジジイに追加ダメージ。くずおれるジジイ。追い打ちかけてやんなよ……。


「てか、メイド服だってコスプレのようなもんだろ?」


 ふと思ったことを、あたしはそのままアンジェラに言った。


「違うわよ! 私たちはこの仕事に誇りを持っているの! 馬鹿にしないで!」


 あたしに迫るアンジェラは本気で怒っていた。

 そしてミシェルまでも憤慨している。

 どうやらうっかり地雷を踏んでしまったらしい。アンジェラとミシェルの矜持を汚してしまったようだ。

 申し訳ない気持ちでいっぱいになったあたしは、


「す、すまん……決して貶める気はなかったんだ」


 素直にそう謝った。


「今回は許すけど、次は無いわよ?」


「打ち首獄門晒し首です」


 アンジェラの反応は当然として、ミシェルがとても恐ろしい事を言う。目がマジだった。それにはアンジェラですらびくりとした。


「今、空気が凍ったような気がしたわ。この娘マジでやる気よ」


 と、アンジェラが耳打ちしてきた。


「いや、こええよ」


「なにが、ですか?」


 あたしたちのやり取りがまたしても聞こえてしまったようで、けろりと小首を傾げ問いかけてくるミシェル相手に、

 ――お前がだよ! と口に出す勇気はあたしにはなかった……。


 そうこうしている内に、完膚なきまでにあたしたちがのしたジジイが復活した。


「甲冑が駄目なら、こっちの刀はどうじゃ?」


 とジジイが刀に目線を向け提案してくる。


「刀……か」


 あたしは神妙な心持で刀を見る。

 ……こっちはいったい、どんな代物だ。

 気になったあたしは続けて尋ねる。


「詳しく聞かせてくれ」


「よかろう。これはのう――」


 そしてジジイは語りだす。どんな刀がモチーフなのかの解説は長い上に、対して意味もなさそう――どうせ最先端技術を贅沢に使った模造刀だろうし――なので割愛。


「そしてのう。これに詰まっている科学者の魂がのう。これまた凄まじいのじゃ」


「ほう……」


 ジジイの迫真の語り口に、あたしは真剣に聞き入る。


「なんとこの刀は――」


 ジジイは刀に手をかけ、


「刀身が光なのじゃ!」


 引き抜いた!

 びっくり仰天!――あたしは大きく目を見開いた。

 現れた刀身は鋼ではなく、まさかの光だった!

 おいおいおい、模造刀の定義をぶち壊しやがったぞ!


「は!? 刀じゃねえじゃん!!」


 あたしはツッコむ。どう見ても刀ではない。無理がありすぎる。刀身も見た目は刀のものだとはいえ、それを構成しているのは鋼じゃなくて光だし。ここまでくるともはや刀のような何かじゃねえか。


「そう、刀と見せかけて光剣……ならぬ光刀なのじゃ! どうじゃ、すごいじゃろ!」


 あたしの指摘に刀だと言い張るジジイ。おまけに自慢しつつ、共感を求めてきた。

 ふむ……。

 あたしはじっくりと注視する。言われてみると、確かに凄い技術だ。光で構成されているはずなのに、刀身に揺らぎがない。

 なんなんだこれは……。

 オーバーテクノロジーとはまさにこの事だろう。

 感じたそれをあたしは素直に表現する。


「すっげぇなジジイ! あたしはばりくそ感動したぞ! 科学はここまで進んでいたのか! さっすが花園家だ!」


「カカッ、花園財閥の力をなめるでない」


 あたしに褒め称えられて、すっかり天狗になったジジイは続けて、


「しかものう。この光刀、なんと人を傷付けないのじゃ!」


 ――それ、聞いたことあるわ。


「その名も――」


 ジジイは名を言おうとした。だがしかし――


「《慈悲の光刀》」


 言わせねえよとばかりに、あたしが食い気味にそれに割り込む。

 してやったり。と密かにガッツポーズするあたし。

 ジジイは見るからにがっくしする。


「なんじゃ知っておったのか……」


「お決まりのパターンだからな」


「ほれ、貸してやるから。勝利するのじゃ」


 そう言ってジジイが《慈悲の光刀》を差しだした。


「サンキュ、ジジイ」


 あたしは《慈悲の光刀》をありがたく頂戴する。

 普通の重さだ。軽ければいいという物でもないので、使い勝手は良さそうだ。なにより人を傷付けない所がいい。全力で振るえるしな。

 ちょびっとだけ鞘から刀身を出し、見る。

 刀身は頼もしく輝いていた。


「よし、いい武器が手に入った。これで勝てる。行くぞ」


 あたしは身を翻し、庭へと――ぐえっ!


「待ちなさいって! 防具がまだよ!」


 首根っこを掴んで、そう忠告したのはアンジェラだ。あたしは振り向く。

 アンジェラの隣ではミシェルがあたしを見て、呆れたように深いため息をついていた。


「んなもん、これでいいだろ?」


「ロックなスタイルだけど、岩のように硬い防御力があるわけじゃないでしょ?」


「一理ある」


「一理じゃなくて千里よ」


「距離の単位になってんぞ」


「さすがにわかるのね」


「ん? どういう意味だ? 千里にどういう意図があった」


「胡桃を試したのよ。ちなみにもし胡桃が突っ込みを入れてこなかったから『千里ってわかる?』って問いかけるつもりだったのよ。問いに胡桃が『知るか』って無知をさらして、それにどや顔でわたしが返す。『千里は距離の単位よ。そんなことも知らないのね』って。そして胡桃を嘲笑うって計画が破綻したわ。どうしてくれるのよ」


「100%あたしのせいじゃねえよ! あたしで遊ぶな!」


「――そんななりのわりには博識ですね」


 ミシェルが会話に割り込んできた。まるであたしが知っているのが不思議かのようなニュアンスを秘めた言い方だった。なので、馬鹿にしとるのかと睨み付けて、言った。


「抜かせ、この程度知っとるわ。馬鹿にしとるのか」


「はい」


 即答だった。ひっでぇ奴だ。


「はいじゃねえよ!」


「話を再開しても」


 額に手を当てたアンジェラが訊いてきた。


「……ミシェルには色々と言いたいことが……」


「後にしなさい」


 底冷えのするような声でアンジェラは言った。


「元はといえばここまで拗れたのはお前に原因が……」


「何のこと?」


 とぼけるアンジェラ。


「免罪はいけませんよ?」


 追随するミシェル。

 アンジェラとミシェルの巧みな連携には抗う術がない。理不尽だ。


「……いいぞ」


「……ともあれ、これから行うのは仮にも決闘よ。BB弾なんて柔なものでくるとは限らないわ。防具は必要よ」


「BB弾を柔だと評す強者を盾にすればいいんじゃね」


「冗談じゃないわ。なんでわたしがあなたを守らなくちゃいけないのよ」


「そうです。自分の身でわたしたちを守ってください」


「おい、そこは自分の身は自分で守ってくださいじゃないのかよ。ミシェル?」


「いい加減話を逸らすのはやめてくれない、胡桃」


「さっき『一理じゃなくて千里よ』……だとか、逸らしたアンジェラがそれを言うのか……」


「声真似やめてくれない。キモいから」


「明日には焼却炉です」


 ミシェルがあたしのことをゴミだと遠回しに言ってきやがった。ふざけんな。


「率直な意見をありがとう。参考にするわ」


「話を戻すわよ、防具は万全に整えた方が良いわ」


 やたら完全防備を勧めてくるな。これも優しさなのか?


「つまりアンジェラはあたしの身を案じてくれてるんだな」


「何が?」


 とぼけるなって。わかってるよ。お前がいい奴だってことはな。

 そんな風に浸ってると、みやびが発言した。


「わたくしもアンジェラと同意見ですわ。防御もきっちり整えてくださいませ」


 みやびにまで言われたら納得せざるを得ない。


「へいへい。わかったよ、お嬢」


 そう答えて、ジジイに頼んで普通の防具を出してもらった。胸当てだった。まあ、なんとかなるだろう。


「胡桃さんはわたくしのボディガードなんですから、簡単に負けてもらっては困ってしまいますわ。頑張ってくださいまし」


 みやびがエールをくれる。


「ああ、やってやるさ」


 あたしはそう返し、みやびの期待に応えるのだった。

 いざ出陣。あたしたちは庭へと向かった。

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