ええ、そういうことです。
今回はアイリス王女様視点でお送りします。
早めに投稿するつもりでしたが、遅くなってしまってごめんなさい……。
――アイリス・モンテスキュー・フォルテイス視点
「千里眼」それが私の恩寵の名前だった。
千里眼はその名の通り、遠くの景色まで見ることのできる恩寵だ。
今回、混龍シャバウォックを見つけることができたのも、私の千里眼があったからだ。
しかし、そんなに便利な物ではない。
というのも、この目は自分の指定した場所を見ることはできない。
いつ、どこで、どのタイミングで飛ぶのか。
……私自身、全く分からない。
勝手に発動しては、どこかの景色を映し出すこの目は、私にとっても予測不能だ。
つまり、私が彼を見つけることができたのは……まさに奇跡と言うほかになかった。
彼は凄まじかった。
なぜなら、彼は魔物と旅をしていた。
それも人生最後の旅だ。
彼が共に行動していた魔物はコンパニオン。
通称、道連れ鳥と言われる魔物だ。
その特性は至ってシンプル。
道連れだ。
自分の命が長くないと感じると旅を始め、旅先で自分のお気に入りを見つけては捕まえ、共に自殺する。
そんな特性を持っている。
彼はそれを知ってか知らずか分からないが、共に行動をしていた。そして人類の天敵、龍を空からの強襲で倒して見せた。
私はその、彼の勇気と行動に胸を深く打たれた。
だからこそ。今こうして彼と話せる機会が設けられるのは数少ないチャンスなのだ。
「何かが、おかしい……。そうは思いませんか?」
それが彼の第一声だった。
爽やかで聞き心地の良い声とは対照的に、彼の目はとても、冷めて見えた。
「何がおかしいのですか?」
……嘘だ。
この状況がおかしいことぐらい、自分でも理解している。
王都内にいる彼を連れてくるように命令したのはほかの誰でもない。
私、なのだから。
彼は腕を組み、少しの間、黙考する。
そして、顔をあげて言った。
「なぜ、僕は誘拐されているのでしょうか?」
その顔には、訳が分からないという文字が透けて見える。こうして見ると、まるで、本当になにも分からないように見える。
……だが、私は知っている。
彼のあれは……演技。だということを。
彼は、偽りを自然体で装うことの出来る人だ。
こと心理戦では、勝てる見込みがまったく立たないほど、彼の技術は完成されている。
だがしかし、今回ばかりは、私は負けるわけには行かない。
理想を叶えるために。
だからこそ私は、彼が最も振られたくのないであろう言葉を口にする。
「私はあの日、ユーリ様のことを観察していました。
そして知っているのです。あれはユーリ様がしたことなのだと」
私がそう口にした瞬間、彼の雰囲気が一変する。
彼は、しばらく黙考したあと、上を見つめながら返答をした。
「僕は、なにもしていない。ただ、王都の街を歩いていただけで……。決して、殿下が見たようなことはしていないのです」
私は確信した。
――やはり、彼は気づいている。
そう私が確信したのは、彼の目線、そして目の種類があの日と全く同質のものだったからだ。
……そう。彼が、混龍シャバウォックを倒したあと、私達は……目が合った。
私の千里眼は、こちらからあちらに干渉することは出来るが、あちらからこちらに干渉することは出来ない。
つまり、覗くことはできるが、覗かれることはないのだ。
これは、私が恩寵を貰ってから、幾度と試してきたので、間違いない。
……だからこそ、違和感があった。
見れるはずがない。のにも関わらず、彼は私から目を逸らすことがなかった。
「……見られた?」
自分が非現実的な思考になっているのは理解している。でもなぜか、そう思えて仕方がなかった。
そして、彼の行動によってそれは証明された。
「何もしていない」口ではそう言う彼は、私たちにしか分からない合図をもって、私に答えたのだ。
「何もしていない」そういう事にしろ。と。
理解はしているが、それでも私は、引き下がる訳にはいかない。
「ええ、分かっています。ユーリ様はあの日なにもしていない」
「……。」
再び沈黙する彼は、こちらの真意を探るかのような目で私を見る。
恐らく、彼のなかで私が信頼に足る人物なのかどうかを見極めるつもりなのだろう。
ここは……私の誠意を見せるべき……ですわね。
「私は千里眼と呼ばれる恩寵を授かりました。
この恩寵は、その名の通り、遠くの景色まで見ることのできる恩寵です」
まずは、私の恩寵から伝える。
恩寵を伝えるということは即ち、自分の長所と短所、その両方を相手に知られるということ。
私の長所は、遠いところでも見ることのできる恩寵。逆に短所は私自身にはなんの戦闘能力がないことを彼に明らかにしている。
つまり……今ここで彼が私を殺そうと思えば、いつでも殺すことができる。ということだ。
だが、ここで出し惜しみをしても仕方がない。
彼に仲間になってもらうには、私という優良性をアピールしなくてはいけないのだから。
「それに」
私は言葉を続ける。
「あそこに居た全員が目撃しています。ユーリ様があの日をなかったことにしたくとも、ユーリ様が行った事実は消えません」
私がそう言うと彼は少し、焦った顔をする。
そして、意味のある言葉を持って返答をしてきた。
「……殿下はどこまで知っているのですか?」
「私が見ていたのは途中からでしたが、おおよそのことは知っています」
「……。なるほど」
「あの日、ユーリ様はわざと捕まったふりをして、機会を窺っていた。そうですよね?」
「……違います」
「フフフ……。では、そういうことにしておきましょう」
ここまで嘘を貫き通そうとするとは……。
決して奢らず、要求もしない。
「ユーリ様はお優しいですね」
私の、心からの言葉だった。
「……はい?」
「皆を巻き込みたくないからこそ、ユーリ様はああいう行動を取ったのでないですか?」
「え、……ええ、その通りですが、」
「っ!やはりそうなのですね!」
いけない。嬉しくてつい、大きな声を出してしまいました……
そう、彼は自らの強力すぎる恩寵に皆を巻き込まないように、あえて単独で行動、そして攻撃時に皆が避難できるようにあえて大げさに行動をした。
擬似的な太陽まで真似て。
私が見たものはやっぱり本当の出来事でした。
「お願いです。このことは誰にも言わないでいただけないでしょうか?罰もいかようにも受けますので、どうかお願いいたします」
そして、彼の謙虚で紳士的な態度。
彼は、本当に、優しく、勇気のあるお方です。
「分かりました。ですが、罰はなにもありませんよ?」
むしろ、罰を与える方がおかしい。
感謝しても仕切れないほど、私はあなた様に感謝をしているのですから。
とはいえ、彼のような若く有望な人材をここで逃すのは、あまりに惜しい。
彼は……この国をいえ、世界を変えることができるほどの力があるのだから……。
彼の行動から察するに、彼の望みはただ一つ。
それは……
自分の恩寵を、最大限発揮することのできる環境。
だから、私は用意した。その環境を。
「それと、ユーリ様がそうおっしゃると思い、既に手筈は整えております」
「手筈?」
「入りなさい」
私は合図である拍手を二回し、少し大きな声でそういった。
すると、黒ずくめの集団が部屋を囲うようにして現れる。
そう。これが……私が彼に提供できる環境だ。
「この者たちは全員が独立した動きをする事に秀でており、剣術・体術・魔法の戦闘系はもちろん、商売・金融・情報操作・工作なども行えます」
彼はこの軍団を前に、なにやらブツブツとひとしきり言ったあと、困惑した顔を向けて、私に言った。
「……何が望みですか?」
さて、ここからが、正念場ですわね……。
私は大きな呼吸をし、はやる気持ちを落ち着かせ、私の望みを言った。
「私に忠誠を誓って頂きたいのです」
場に沈黙が重くのしかかる……。
心臓の音がやけにハッキリと聞こえてくる。
「忠誠、ですか」
「ええ……引き受けてくれますか?」
「……。もし、断わると言った……」
彼が、断わりの言葉をいった瞬間――場に緊張を走らせる。
そう、これは作戦だ。
普通に勧誘しても彼に断わられる可能生の方が高い。
そう思ったからこそ、私はあらかじめ作戦を立てていた。
その作戦は、ずばり――『脅し』
やり方は褒められたものではないが、交渉を成功させる上で重要な要素の一つで、彼のように断わるつもりの人に最も良く効く有効的な手段だ。
「ここにいる者たちは王国を裏から守りぬいてきた、暗部と呼ばれる者たちです。もし断った場合は、秘密を知ってしまったユーリ様を秘密保持契約に基づいて、排除しなくてはいけません」
とはいえ、私も楽観視できるほどバカではない。
なぜなら、これは……私の命を懸けているのだから。
もし、これでも断わった場合、私たちは彼の敵となる。
つまり、断わったその時は、この場で命を奪われても仕方がない。と、言うことになる。
そして彼は、それをたやすく達成することができる……。
『言葉通り……命がけの交渉ですわ』
そして彼は――…
「…………。」
無言になった。
私たちは依然として、彼にプレッシャーを掛け続ける。
そして、その殺意が最高潮に達したころ、彼を……包む世界が変化した。
彼が作り上げた世界は、海に浮かぶ赤い夕日のように綺麗な赤い色をした世界だった……。
『……美しい』
不謹慎にも、私はそう思ってしまった。
そして、分かっているつもりでいても、実際に目の当たりにすると、とても恐ろしい。
その時だった。
兵士の一人がナイフを持って彼に立ち向かおうと……してしまった。
「……カシャ」
私の後ろにいる兵がナイフを抜く音が聞こえる。
いけない!!ここで下手に刺激しては――
そう口にしようとしたその瞬間、
『――ゴウ!』
「――ッ!?」
彼の魔力が計りしれないほど、大きくなった。
……この魔力の前では、私たちは何も出来ない。何もさせて貰うことが出来ない。
いかなる攻撃も反撃も全てを諦めさせるほどの超魔力。
『これが、彼の本気』
『…………フフフ。これは……見事に転んでしまいましたね』
私を含め、この場にいる全員が死ぬ覚悟を決めたその時――
彼の魔力が消えさった……。
「分かりました。忠誠を誓いましょう」
『……はい?』
あまりのアッサリさに、心の声が出てしまいそうになった。
一体どういう心境の変化で……?
そう思い思考を巡らせていると、あることに気づいた。
それは、兵たちの態度だ。
口にはしていないが、私が彼のことを説明したとき、数名ほどはそんなことはあり得ない。と彼を疑っている節が見られた。
だったのが、今では、彼に対して、尊敬や恐怖と言った感情を覗かせている。
……なるほど。そういうことでしたか……。
そう、彼は、初めからこの話を受けるつもりでいた。
ですが、いきなり現れた奴に信用を置くわけには行かない。
だからこそ彼はその信用を得るためにわざと、自分の力を披露した。
……これは、してやられましたわね。
彼は、軍を、将軍という者は何かを完全に理解している。
本当なら、もっと先に渡すつもりでしたが、予想以上に彼は相応しい。
私は彼の元へと向かい「それではこちらを」と言って、黄金の太陽がシンボルのエンブレムを渡す。
「これは?」
「それはこの国で扱うことができる品物です。現在それを持っているのはあなたを含め、この王国には七人だけ。他の六名は既にお気付きかと思われますが、六龍将のみです。この意味、分かりますね?」
フォルテイス王国で、選ばれし者にしか持つことの許されない、幻の金属が使われたエンブレム。
そのエンブレムを渡すということ。
それは……彼を、七人目の龍将として認めると言うこと。
「ええ、もちろん」
彼は……二つ返事で了承してくれた。こちらの意図が完全に伝わっていると教えてくれる返事だった。
「フフ、さすがですね。やはり私の目に狂いはありませんでした」
本当に彼は優秀だ。そして、今まで出会った来た人の中でもとびきりの才能を持っている。
「ユーリ・フィリドール。私に忠誠を誓いますか?」
私の言葉に、彼は片膝を地につけ、右手で彼女の手をとり宣言をする。
「はい。アイリス ・モンテスキュー・フォルテイス王女殿下に一生の忠誠を誓います」
涼しげな印象を与える玲瓏な声でそう言った。
私の勘が言っています。
彼は、いえ……ユーリ様は、この世界の……救世主に必ずなりますわ。