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火事場の超・馬鹿力~絶対に負けない超逆転劇~  作者: ハクセイ
ピンチとチャンスは紙一重
1/17

上空にて、

初投稿です!

―――――――バババババババッッッ!!

 体が空気を切る音が聞こえる。


 フォルテイス王国歴百年四月十五日。

 その日、積雲のはるか上空より落下する影が一つあった。


――そう、僕だ……。


「ギャァァアアアーーーーーーーーー」

「ちょっっっ!!ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ」


 僕は今……


「死ぬぅーーーーーーーーーーーーー!」


 絶体絶命の大ピンチだ……。



 ♦


――フォルテイス王国歴 百年四月一日


「ユーリ起きなさい。朝よ!」


「うっ……。もうちょっとだけ……」


「そんなこと言ってこの前も起きたの昼じゃない!いいから起きな、さい!」


 エリノラ姉さんはそう言って、僕の布団を無理やり剥ぎ取る。

 その瞬間、白日の下に僕の体が晒される。


「ギャァァァア! 目が! 目がーー!」


 容赦なく僕の眼孔焼き付ける日光。

 僕は突然のホワイトアウトに足をじたばたとさせた。


「そんなことばっかり言ってないで、早く準備しなさい。今日は神様からの恩寵(おんちょう)の日でしょ」


 くそっ、悪魔(エリノラ)め。

 僕にとって、神様の恩寵とかはどうでも良い。ただ、安全で、だれにも迷惑をかけずにダラダラとした生活が出来るのならそれで良いと僕は思っている。

 つまり、今の生活で十分な理想は叶っているのだ。


 よって、僕にとって恩寵とはそんな理想を脅かす脅威でしかない。


 もし、万が一でも嘗ての伝説の騎士と同じ恩寵、剣神なんかでも貰ってみろ。

 間違いなく王国の軍に重宝。なし崩し的に軍に入れられ、危険な戦場に連れて行かれる違いない。


 そんな人生僕はごめんだ。


 だから、僕は行く気はない。

 そう簡単に僕を連れて行けるなんて思うなよ。

 そう決意し僕はエリノラ姉さんを説得にする。


「エリノラ姉さん。この家で子供は僕ら二人だけ、それに姉さんは今年から国の軍に入隊するんだ。だというのに……僕までこの町から出て行く。なんてことになったら誰がお父さんとお母さんを見るっていうのさ。それに……もし、万が一でも戦闘系の恩寵なんか貰ったら、危険な戦に連れて行かれる可能生があるんだ。

 僕は安全で、日常にゆとりある生活を送れたらそれだけで幸せだ。せっかく授かった命、自ら捨てに行くような真似、僕にはとても出来ないよ。……分かったなら部屋から出てよ……まだ眠いんだ。僕は二度寝をするよ」


「そう。じゃあ、行くわよ!」


 大人しく帰るかと思われたエリノラ姉さんは僕の右腕を掴んで引っ張りだす。

 ニコニコとした表情で喜々として僕を連行しようとする姿は傍から見ると天使だが、僕からしたら悪魔だ。

 背中の辺りまである長い髪が左右に揺れる。


「は、ちょっ!! 話聞いていなかったの! 僕には恩寵なんて必要ないんだ! 離してくれ! くそ、なんて馬鹿力なんだ!!」


 なんとかして手を引き剥がそうと試みるが、その可能性は無いに等しい。

 なぜなら、これはエリノラ姉さんの必殺技デスハンド。僕ごときの力ではどうしようもない。


 ……仕方がない。こうなったら、最後の手段だ。

 幸いなことに僕の部屋は一番奥。玄関に行くにはリビングを必ず通る必要がある。

 そう、つまり、リビングにいる母さんに助けを呼ぶのだ。

 大人しく運ばれる振りをしながらも、僕は声をかけるタイミングを図かっていた……。


――今だ!


「母さん。助け――」


「あら、もう行くのね。いってらっしゃい、ユーリ。エリノラお願いね」


 僕の希望は母さんの前にあっけなく打ち崩される。

 あぁ、この世界には希望はないのか。

 毎日、エリノラ姉さんに絡まれないように、祈りを捧げているのにもかかわらず神様は僕の願いを聞いてはくれない。


 僕は絶対に逃げれないことを悟り、絶望に苛まれた。

 ……だが、僕も男だ。いつまでも引っ張られるのもみっともない。

 仕方ない、自分の足で歩こう。


 周りの人たちは、僕らを見てヒソヒソと話している。


「わぁ。あの人すごい美人。羨ましいなー」


「な、なんて可愛い子なんだ……惚れたぜ……」


 エリノラ姉さんは町一番の美人と評判だ。

 艶のある美しい黒髪。切れ長で左右対称の目。丁度良い高さの鼻。無意識に魅入ってしまう愛らしい唇。

 全てのパーツが最高峰かつ絶妙なバランスの配置。

 さらにハキハキとした明るい性格。


 うむ、誰が見ても間違いなく美人というだろう。


 だがしかーし! 実は僕もイケメンなのだ。

 身長百七十五センチ。

 金髪の髪に青い碧眼。

 どこかの国の王子様か、といえるほどの甘いルックス。


「ねぇ見て!あの人、ものすごくイケメンよ」


「きゃーー。私、目が合っちゃった♡どうしよう」


「わぁ、美男美女ねえ。恋人かしら?」


 エリノラ姉さんは父さんの遺伝子を、僕は母さんの遺伝子をそれぞれ強く引き継いでしまったため、あまり似ていない。

 そのため恋人に間違われることが多々ある。


 僕らは知る人ぞ知るこの町の美人姉弟だ。


 とはいえ、実をいうと、僕はこの顔があまり好きじゃない。

 なぜなら……


「ちっ、どいつもこいつもイケメンばかり追いかけやがって……この世にお前みたいのがいるから俺がモテないんだ。謝れイケメン野郎!」


「ペっ……。イチャイチャしやがって。へへ……だがそれも今日までのことよ。精々今のうちに楽しんでおくんだな」


 イケメンなんてモテない人たちからやっかみを受ける原因でしかないからだ。

 唾を道端に吐く者。ナイスの歯を舌で器用に舐める者。他にも大量のトマトをなげてくる者……あ、違う人に当たった。


 ……こ、こほん。つまり、イケメンは、モテない人達からやっかみを受ける。平穏な生活が理想の僕にとってはまさに害でしかないのだ。


 ……にしてもコイツら毎回毎回ホントに懲りないな。

 トマト当てられたおばちゃん。もうそろそろトマト投げ返さないであげて、初撃で意識失ってるし全身トマトまみれで殺害現場みたいになってるから。


「あらあら、賑やかで良いわね~。私も今度トマト投げて見ようかしらね」


 花屋のおばちゃんよ、あなたは一体、何に感化されたんだ。

 ……もしかして、誰かを血祭りにでも上げる予定でも?


 僕は引きつる笑み浮かべながら、早くこの地獄が過ぎるのただひたすらに待つ。


 それより、さっきからエリノラ姉さんに掴まれている腕が妙に痛い。

 ……んん?あれ、僕の手、血、通ってる?青白いんだけど。

 これは本当に僕の左腕死ぬかも……これは早急にデスハンドから逃げる作戦を考えねば! そう思い一人思考にふけ――


「ユーリ着いたわよ」


 ――る、暇もなかったか。

 あ、良かった腕取れた。

 何だか、腕ジンジンするなぁ。


 目的地の広場には今年成人を迎える町の男性と女性が大勢いた。

 その中央にそびえ立つ塔を中心に固まっている。


 皆これから何の恩寵をもらえるのか!そわそわしているように見える。


「楽しみね。ユーリ!」

 ……なぜエリノラ姉さんが楽しみそうにしている?





――「カーン、カーン、カーン、カーン、カーン」





 塔の上部に位置する黄金の鐘から音が鳴り響く。


 この鐘の音が僕らの町で、神の恩寵をもらえる合図とされている。


 すると、空から見えるようで見えないような……けれど、確かにそこにあると感じる光が広場に降り注ぐ。


 まさに神からの恩寵と言うに相応しい光景だ……




「ッ~~~~。ヨッシャー。剣術だ!これで俺は冒険者になれるぞー!!!」



 ――はっ。思わず見とれてた……

 僕と同じく見とれていた人も何人かいたっぽいな。

 皆、思い出したかのように、自分の恩寵を確認しだしてるし。


「あぁ…そんな……この超最高綺麗で完全完璧人間でこの世の全ての愛していると言っても過言ではないこのアカマルちゃんが、呪い……なんて……。フフフ。これが私の運命だというのなら、私は神様を……呪ってやる……呪ってやるわ」


 喜びの声と悲しみの声が入り混じった音があちこちから聞こえる。


 とりあえずは、と……超最高綺麗で完全完璧人間アカマルちゃんから離れるか……

 この世界の裏ボスにならないことを心から願うよ。


 さて、僕はなんの恩寵かな?

 農業でも良いし、薬師でも良い、料理人なんかでも良いな!

 とにかく生産系でありますように。

 どうか神様お願いします!



 自分の願いを念入りに神様にお願いする。


 確認方法は簡単、心の中で恩寵解放と唱えればいい。


 さぁ、来い!農業、薬師、料理人よ!

 ――『恩寵解放』




 ユーリ・フィリドール あなたの能力は……


「――火事場の馬鹿力・超――」


 です。





 ……なに、これ?カジバノ、バカヂカラ・チョウ?

 なんの恩寵なんだ、これ。

 てか、どういう能力なの。



 ……うーん。分からん。


 恩寵なんていらないって確かに言ってたけど、なんだかパッとしない恩寵だな~。

 とりあえず僕の知っているどの生産系の恩寵ではないことだけは分かる。

 生産系でガッポリお金稼いでウハウハ計画はここで潰えたな。


「……ハァ~~」


「何ため息ついてんのよ?もしかしてハズレだった?それとも戦闘系?」


「……エリノラ姉さん。いや、幸いにも戦いとは無関係の恩寵を貰えたけど……なんていうか、よく分からない恩寵でさ。多分ハズレだと思う」


「ふーん。まぁ、仕方がないわね。こればっかりは運が物を言うしね。でも、あなたが戦闘系じゃなかったのは残念だわ……」


 少し影を落とし寂しそう笑いながらエリノラ姉さんは言う。

 何故急にそんな事を言うのか。長い付き合いになる僕には何となく分かる。


 ……僕を王都に連れていくつもりだったな?


「そういえばエリノラ姉さんって何の恩寵だったの??」


「私?私の恩寵は剣神だけど?」


 ……は?剣神と言えば、あのおとぎ話で語られる伝説の剣士アキレスと同じだと……?

 マ・ジ・デ・ス・カ。


「エリノラ姉さん!前に聞いたとき、大したことない恩寵だって言ってたじゃないか!アレは嘘だったの!?」


「まぁ、仮に剣神なんて貰えなくても私は軍人になるし、それに剣に関して言えば恩寵関係なしに小さい頃から負けたことがないのよね、私って」


 そんな事を言ってのける当家のお嬢様。

 なんだよそれ。もう普通に怖えよ。


「でも、もうすぐ私も王都か。今思うとあっという間だったわね。軍に入ったら、父さん母さんにもそう簡単には会えないだろうし、すこし寂しくなるわね」


 えっ……急に?!

 目ウルウルさせ、下から見上げるようにして僕を見る。


――いや、僕は知っている……。


 これは一部の女子が扱うとされる、秘技。泣き落としだ!


 これを受けてしまった者(主に男性)は為す術無く、女性に何をしないといけなくなるのだ。


 一昨日、秘技泣き落としを食らった人が、女性の抱えていた借金を肩代わりして支払っているのを目撃したので間違いない。


 ……くっ。これをまともに受けてしまった今、昨日から楽しみに取っていた一日限定50個しか生産されない幻の饅頭を渡すしか僕の取れる選択肢はない。


 昨日から楽しみにとっておいたのだが、仕方がない。


 覚悟を決めるか……


 真剣な表情の僕を見て「……プッ」と吹き出すエリノラ姉さん。


「……ふふふ。冗談よ。だから、その真剣な顔はやめて!面白すぎるわ」


「な、なんだ。冗談か。あー、ドキドキしたー。全く、僕の饅頭を返してよね」


 まったく、苦渋の決断をしたというのに。

 純情をもてあそばれた気分だ。


「え、どうして私が饅頭を食べたことを……いや、あり得ないわ、あの後似た饅頭を置き換えたから偽装は完璧だったはず……」


「エリノラ姉さん?」


今、とっても不穏な事を言わなかった?


「えっ。いや、な、なんでもないわ!そんなことより結局ユーリは何の恩寵だったの?」


「あ、うん、僕はね……火事場の馬鹿力・超って恩寵だったよ」


「火事場の馬鹿力・超。ね、うーん……聞いたことない恩寵ね。どう言う恩寵なのかしら?」


 戦闘系統に詳しいエリノラ姉さんでも知らなかったか。

 ということは戦闘系統である可能生は少ないということか。

 うーん……名前的に生産系あり得ないし、戦闘系の可能生も低い。

 なら、いったい僕の恩寵はいったい――


「まぁまぁ。聞いたことない恩寵だけど、誰か知っているかも知れないし、それに火事場っていうぐらいだから火事の時に力を発揮する恩寵かも知れないじゃない?……だとすると、ユーリの将来は火消し師になるのかしら?」


「え?……あ、いや火消し師は命が懸かる仕事だからやらないよ?」


 でも、うん?

 そう考えると火事が起きた時に大事な物をまとめて安全に脱出できるということだよね?

 火事で死なない。いつ火事がでも安心。

 安心=安眠。


――あれ?思ったよりもいい恩寵?


 うん、良い!火事でも安全安心!

 実に素晴らしい!

 落ち込んでた僕がバカみたいだ!


「ありがとう、エリノラ姉さん。僕は理想的な恩寵を手に入れたよ」


「え。う、うん。良かったわね……?」


 そうして僕は理想?の恩寵を手に入れた。

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