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08

 朝から狩り三昧の武。

 先日の雑魚狩りで経験点稼げていたので、MPは79。

 剣鬼や大剣のオーガなど戦士オーガ系レベル2が使い頃。

 〈疾風迅雷〉をかけ、ボス熊に赤黒いオーラを出させる事無く倒すことができた。

 だが、ボス蠍には足りないと、今日も見合わせる。


「日に1体、増やせるならその方が良いよな。

 潰れてないし包めば持っていけるか。

 ミートメーカーに入れるのはレーザーナイフでばらせば良いし、上に揚げるのは駒モンたちに頑張ってもらおう」


 そうやって持っていったボス熊、やはり丸のままだと癖はあったがそれも個性と言える味。

 これならいけるかと登録し、次からこれにしようと決める。

 魔法と荷馬車を組み合わせての高速輸送、下層の掃討も昼過ぎには終えたので一層目の残りを、と思ったのがいけなかった。


「……4tでも満タンか。

 でもはみ出た量は少ないし、追加はな。

 最低の500kgので月12万。

 それに見合うだけ売れるか分からないから、とりあえず今は減産で対処するか。

 ……おっ、メール?

 明日から販売開始か。

 売り出されるのは、まだ犬と蝙蝠のだけだけど、売れてくれるといいな……」


 翌朝、武が早速HunMarを覘いてみると、メール通りそれらが出品物に並んでいた。


「おっ、売ってる売ってる。

 あっ、もうコメントがある。

 気の早いのがいるな」


 出品物の更新は0時。

 もうすでに買って届いた人々がいるようだ。

 それらのコメントを見てみると、武はそっと閉じた。


<ダンジョン産とか嘘乙>


<安かろう悪かろう>


<値段相応www>


<ださい>


 他のはと思って見ても、どれも似たような内容。

 ログインして売り上げを確認するだけの気力すら武は失った。


「……うん、千程度にはなったよな。

 それで良しとしよう。

 それに、熊なら、熊なら売れるはずだ!

 ……はぁ、コンテナ追加は見送りだな。

 さて、行くか」


 コボルド(もふもふ)プルン(むにむに)に癒され、言い聞かせるようにしてどうにか気を持ち直すと、武はダンジョンへと向った。

 だが、二層目までの通り道にいた野犬と大蝙蝠は、コンテナに空きがあれば奥ので詰めるからと拾っていかなかった。


 狩りの後は一通りの事を済ませると、武は早々に不貞寝を決め込んだ。




―――




 外は朝だというのに暗く、強い雨音がする。

 気象衛星が旧式な為、雨の予定日は大体こうだが、まるで昨日からの沈む気持ちを反映しているかのように武には感じられた。

 つまり、こうなることは予め決まって――


「……止め、止め、暗くなってもしょうがない。

 それに、その流れなら明日は晴れだから何か良いことあるはず。

 それよりも、ダンジョンがどうなってるか。

 階段また川になってるだろうし、崩れたり水没しているかもしれない。

 ……とりあえず、アレを試して様子見するか」


 朝の用事を済ませ、玄関へ向う。

 雨が降る中出したのは、ウォーターエレメンタル。


「雨避けってできるか?」


(ぷゆぷゆ)


 その言葉にドームのような形へと変化する。

 中に入れば濡れないということだろうと当たりつけたが、一つ懸念が見えた。


 迷宮&魔物には引っ掛けみたいな魔法がある。

 〈絶対障壁〉というその魔法、術者を中心として展開し、どんなものも通さずいかなる攻撃だろうと防ぐことができる。

 一見すると強力だが、当然のように空気も通さない。

 意地悪なGMだと酸欠や温度上昇とか言い出すこともある。


 それが頭を過ぎり、武が一応確認してみると、やはり通していなかった。

 空気穴を開けるように指示し、中に入ってダンジョンへと向う。

 いつも通り階段は急な川のようになっていたが、ウォーターエレメンタルによって易々と回避できた。

 穴は水圧で縁が削れる事もなく健在、中を覗き込んでも水が溜まっている様子はなかった。


「少しぬかるんでるけど大丈夫だな。

 というか、これだけの雨でこの程度なのか?

 ……まあ、考えても仕方がないか」


 問題なく狩り終え、明くる日も晴れだったが特に良いことはなく狩りを終えた。


「……おっ、メール?

 ああ、熊が明日……って虫も?

 審査が早く終わったのか。

 明日は朝一……いや、一日様子見て明後日に売り上げを見よう。

 売り場は覗かない。

 うん、そうしよう」


 次の日はそわそわしつつ武は一日を過ごした。

 そして、夜。

 次の日に備えて早くとも考えたが、MPが100を超えたので予てからの懸念事項の解消を優先することにした。


「こっちに言葉を伝えられるか?」


『伝えられる』


 耳を介さず聞こえ、武にも意味がわかる声。

 条件は満たしたと、早速聞き取りに入った。


「自分自身が何か分かるか?」


『アークデーモンレベル1である。

 名前は無い』


「ここに現れるまでの記憶はあるか?」


『無い。

 気がつけばここに居た』


「俺をなんだと思っている?」


『造り主』


 色々と聞いてみたが、あまり要領は得なかった。

 ただ、一つ収穫があった。


「こっちは?」


『『我輩である』』


 二体目を出したところ、意識がつながっているという。

 片方に見聞きさせたことが、もう片方にも伝わっている。

 追加で出せば、そちらはそれまでのやりとりを把握していた。

 ただ全てを駒に戻してから実体化させると、さっきまでのやり取りの記憶はなかった。


 気が済んだので就寝し、武は明日に備えた。




―――




「よし、大丈夫、大丈夫だ。

 たぶん、おそらく、きっと、少しは売れて、いるんじゃないかな、たぶん」


 端末を前にして期待と不安で挙動不審になっている武。

 しばらくそうしていたが、ようやく覚悟を決め、ログインし売り上げを見た。

 そして、頬をつねった。


「……痛い。

 えっ、なんで、えっ?

 一、十、百、千、万、十万、百万、千万……1000万超え?!

 売れてないんじゃなかったのか?!」


 水で顔を洗い、武は夢じゃないのを再度確認すると、あまりの高額に未だ現実感が湧かず途方に暮れた。

 ふと、お知らせが点滅しているのに気付き、開いてみる。


「……税金に注意?

 表がついてる、結構持ってかれるのか……。

 心得て計画的に使うようにと?

 こんなの来るんだな……」


 ここまで来てようやく実感を持った武。

 ひとしきり小躍りすると、使い道について考え始めた。


「生活費は当然として、防具類は安全考えるとあった方がいいか?

 でも、機械式ばかりで碌なのが無いんだよな。

 一応、擦り傷も防ぐ衝撃吸収インナーだけは買っておくか。

 そういえば、何であんな格好だったんだろうな、あの時の人たち。

 モチベーション上げる為?

 ……まあ、こっちが巻き添えにならなければ良いか。

 防水シートじゃなく、ちゃんと閉じれる死体袋……いやいや、無駄使いは禁物。

 木材、なんだかんだで消費してるから買っておこう。

 あとは……ゲームシステムの類い、欲しいけど外から入ってこないからプレミアム価格付いてるし、封鎖が解除されたあとで。

 ……あっ、そうだ、豆、豆。

 忘れてた、とりあえず連絡してみよう」


 箱に書いてある会社を調べ、連絡すると応対してくれた。

 一月毎に10kg定期的に納入する契約で、年度分は払い込みが終わっているそうだ。

 これで一安心と思った武だが、予想外のことを付け加えられた。


「送れないと?」


「はい、種苗が外部のものな為、現在出回っておらず確保することができませんでした。

 ですので契約にある通り天災等による遅延として処理させていただきます。

 真に申し訳ありませんが、ご了承ください」


 仕方なく手に入れられる豆を少量ずつ注文し、これに関してとりあえずの対応を終える。


 思わぬ出来事に時間をとられたが、武は頭を切り替える。


「MPは103、これで勝ち目は十分。

 一通り回ったら、蠍を片付けて三層目の調査にしよう」


 予定通りパビルサグの前に到着、駒モンの構成を変更する。


 剣を持ったリビングスタチュー3体とリビングアーマー2体、それに魔術師コボルド1体。

 武の予想ではダンシングソードと同じくゴーストの系列だったが、何故か実体化しなかったリビングアーマー。

 鎧を浮かせる表現が難しいからとチェインメイルでお茶を濁したのが悪かったのか、リビングスタチュー扱いのようだった。


 魔術師コボルドに指示して〈疾風迅雷〉を武と自身にかけさせると、武は持続時間を延ばした〈疾風迅雷〉をリビングスタチューたちに掛けていく。

 魔術師コボルドには時間差で持続時間を延ばした〈魔力付与〉をリビングスタチューたちにかけるよう指示。

 強化しないと〈魔力付与〉はすぐに効果が消えてしまい、他へとかける余裕は無い。

 レベル上昇により低レベルの魔法を強化できるようなっていたので、ようやく使える方法だ。

 〈疾風迅雷〉をかけ終えた武も〈魔力付与〉をかけると、魔術師コボルドを入れ替え、準備は完了。


「気功術使用、全員突撃!

 魔コボは自身に〈疾風迅雷〉、あとはMPの続く限り〈魔力付与〉で援護、尽きたら戻れ!」


 駆けていく駒モンたち。

 彼らが足を踏み入れると、前と同じくパビルサグは即座に反応した。


「ギシャアアア!!」


 咆哮一喝、黒い煙を纏い長物を振りかざす。

 駒モンたちは、振り回される長物や鋏などを叩き落し、あるいは回避しては攻撃を叩き込む。

 甲殻をものともしない駒モンたちに、追い詰められるパビルサグ。

 だが、窮鼠は猫を噛む。


「ギシャアアア!!!!」


 赤黒いオーラを迸らせ狂乱するパビルサグ。

 体液を噴出し、甲殻を内側から弾けさせながら行う猛攻に、駒モンたちは防戦に回ることを余儀なくされた。

 受け止めた攻撃を流せず幾体は弾き飛ばされたりもしたが、辛うじて踏み止まっていると、赤黒いオーラが徐々に減少していく。

 そして、それが掻き消えると、パビルサグは糸の切れた操り人形のように崩れ落ちた。


「……経験点は入っている、か。

 危なかった。

 もっと安全マージン取るべきだったか。

 あれは全身全霊の効果だけじゃないな。

 熊相手に楽に終えられたから、甘く見てた。

 ああなる条件調べて、その前に全身全霊で吹き飛ばすことも考えた方が良いな」


 武は部屋に足を踏み入れ、パビルサグの解体を指示した。

 だが、狂乱の結果か中身はぐずぐずに融けていて、どうしようもなかった。

 砕け散らばる甲殻、その中にパビルサグが使っていたハルバードらしきものがあった。

 刃の部分は潰れ砕けていたが、辛うじて形は残っている。


「……魔力鑑定、何かかかっているわけじゃないようだな。

 甲殻と同じ材質、もしかして体の一部とか?

 壊れずに確保できたら、飾り物として売れるだろうか?

 刃を潰しておけば武器認定されないだろう」


 造形物として面白いので、手に入れた時のことを考えておく武。

 ハンターライセンスでは武器の販売は認められない。

 ただ、抜け道はある。

 素材それ自体がそういうもの、ならばある程度考慮される。


 ボス熊部屋と同じく、下層への道があったので、駒モンを入れ替えそちらへと進む。

 坂の終点につくと、周囲の様相が変わった。


「石造りの壁か。

 ここから本格的にダンジョンってことかな?」


 罠を駒モンに警戒させながら進む。

 だが、見つかったのは低めの落とし穴程度。

 そうしていると、モンスターに遭遇した。


「ミノタウロスにオークか?

 ……魔法鑑定、101?!

 手抜きで倒せる相手じゃないな」


 二足歩行する牛と猪、ミノタウロスが101、オークの方も今まで通りなら似たようなものだろう。

 こちらとあまり変わらない数値な上、全部で5体。

 事故っては大変と、魔法と気功術まで使わせて殲滅に向わせる。


「どうするかな、これ……」


 ミートメーカーは特定の因子を持つものを処理できないように設定されている。

 犯罪等に使われない為の措置で、その中には当然人も該当する。

 ミノタウロスにオークだと思われるこれら。

 一般的なのとは違い、四肢は五指ではなく蹄になってはいるが、はたして処理できるかどうか。

 できない場合は、履歴に残る上、通報される。


 売れてたとはいえ人口の1%にも満たない量。

 初期の珍しさ故の可能性もある、と武は考えていた。

 新商品の模索は続けたほうが良い。

 通報されても、元のものを見せれば大丈夫だろうと、持って帰ることに決めた。

 それぞれ1体ずつ丸のまま袋に入れ、残りは解体して分けてしまうと、そろそろ昼になる頃なので一旦家へと向った。



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