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07

「MP50に経験点5、やっぱり現在のMP分消費して1上がるみたいだな。

 50か……盗コボ3レベいけるか?」


 明くる日、朝からキャラクターシートを前日のデータと見比べ、自説の考えの正しさを確認した武。

 MP50で何ができるようになるか、思いついたのが盗賊コボルド。

 今までの数値傾向より、レベル3を出せるだろうそれの職業能力がどうなるか。


 手妻はあれば便利系、天然洞窟タイプのダンジョンでは活躍の場が薄いが、それはそれ。

 高レベルのが使えるようになっていれば、魔術師への期待が深まる。

 聞き取ったところ、レベル2のを全て問題なく使えるようで、自身のレベル未満のを使えるという可能性が高い。


 日課を済ませてダンジョンへ向い、野犬を狩り集める。

 MPが上がった為だろう、倒しても経験点はほぼ0。

 稼ぐには熊が湧いていなければ難しい。

 ボス部屋に辿り着くと、そこにまた熊が蹲っていた。


「ボスは一日か。

 まあ、居るならそれで良し。

 全身全霊、撃て!」


 反撃されては危険と、予定通り武は全力で圏外から不意打ちする。

 結果は、ほとんどがミンチ状。

 だが、残っていた部位を解体し、少しばかりは肉を取れたのでそれで良しとする。


「今回は252、やっぱり補正無しでこれか。

 場違いな怪物配置するなら上方にも経験点の補正つけて欲しいよ。

 まあ、これならゴースト部隊でも勝てただろうけど。

 抜けられたら対処しようないしな、安全第一でいこう」


 少なからず取れると分かった武は、これも出品物として追加登録する。

 追加分も発売時期を揃える事が可能だったが、その場合遅い方に合わせられるので検査が終わり次第にしておいた。


 MPが増えハーピーが強化されたほか、新たに飛行できる駒モンが増えたので効率が上昇。

 この日は昼過ぎには狩り終え、翌日には昼前に終えられるようになった。


「時間できたけど、下層……うーん、まだ安心感が足りないな。

 我慢、我慢だ」




―――




「よし、行くぞ!」


 気合十分に武が向ったのは、最寄のショッピングモール、アイゼン。

 今日は週に一度、特価商品目白押しの朝市がある。

 先週は次の日の準備で行けない予定だったので、先々週にその分買い込んでいた。

 だが、今日こそは行かないと、肉類はともかくその他が底をついてしまう。


 ダンジョンに通う必要がある以上、今回も二週分。

 それに宇宙港がほぼ閉鎖されている以上、いつ値上がりするか分からない。

 日持ちするものや生活用品は多めに買おう、と武は目論んでいた。


 最寄といっても片道一時間はかかるので、早朝から出発。

 エアカーに行き先を入力すると、到着まで時間を潰した。

 駐車場には数多くの車、開店ダッシュを決めようと大勢正面入口に詰め掛けている。


「相変わらず凄い人出だな。

 けど、目玉商品の一部(肉類)を無視できる分、有利。

 色々と、確保できるだろ」


 買い物袋を手に取ると、武も人混みへと向った。

 だが、とらぬ狸の皮算用、難易度十が九になったところで難しいに変わりはない。

 何とか十分な量は押さえたが、余分は主婦の壁に阻まれた。


 休憩スペースで真っ白に燃え尽きていると、武の視界を妙なものが通り過ぎた。


「なんだ、コスプレっ……」


(おっと、危ない危ない。

 外だから独り言控えないとな。

 おかしな奴だと思われちまう。

 それにしても、何なんだあれ?

 ファンタジーな鎧とか身に付けて、イベントでもやってるのか?

 ……って、ダンジョン?!)


 コスプレ集団を目線で追うと、その先に間に合わせだろう看板があった。

 そこにはダンジョンの文字と矢印。

 そちらへと向い矢印の先に目を向けると、店の並びなど周囲の状況とは無関係に聳え立つ石造りの門。

 扉は手前に向って開かれており、門のは周りを柵で囲われていた。

 柵の出入口には治安軍らしき人たち。

 中へ向おうとする人たちは、彼らに一旦止められていた。


(外見からしてうちのとは違うな。

 ダンジョンごとの個性かな?

 治安軍居るけど、発見しても申告する義務とか無かったよな)


 携帯端末を操作して行政の公報を見たが、特に追加はなされていなかった。

 他のダンジョンに興味を惹かれた武だが、両手の荷物がそれを止める。


(ここからだと獲物を家まで運ぶの手間だしな。

 ああ、だから肉あんな値段だったのか。

 すぐ近くじゃないと、量産しようが無いよな。

 うん?

 だとすると大儲けできる?

 まあ、問題はどれだけ需要があるかだよな)


 とりあえず外見だけでも見学をと見て回る。

 覗き見た門のなかには、下へと続く壁が見えた。

 横から見ると直角三角形の石壁が、裏に回ると石のスロープが床へと潜りこんでいた。

 石壁との接している床は、どれも盛り上がって罅割れたように見える。


「そこの人、危険なのであまり近づかないように」


「あっ、はい。

 すいません。

 ……帰るか」


 家に戻り、買った物を整理してから遅めの朝食をとると、武はダンジョンへ向う。

 お金が少ないことから来る焦燥感。

 未だ売り出されないが、こうすることで少しでも収入に繋がればと、今日もまた野犬たちを集める。


 昼過ぎには掃討を終え、今日の成果と武はキャラクターシートを眺めた。


「経験点293か。

 今のMPは61だから、明日には……65?

 魔コボのレベル3使えそうだな。

 レベ3の戦コボも6体は出せるし、レベル2魔法覚えたら試してみるかな。

 一当て先に入れておけば、いけるだろう」




―――




「魔法鑑定!

 ……〈模造呪具〉11?

 たしか、これ作ったのは……ああ、MP34の時か。

 使えなかったから減ってるはず無いし、となると1/3が能力値代わりにされるのかな?

 でも、これ作った時はMP消費した後のような?」


 MPは65になり、武の予想通り杖コボルドはレベル3。

 レベル2の魔法を使えるようになっていたので早速〈魔法伝授〉を使わせて、身に付けたものを試し始める。


 〈魔法鑑定〉は、対象物を読み取る、というざっくりした魔法だ。

 細かく知りたければ接触する必要があるが、遠目に見た場合でもそれの放つ気配から大雑把に知ることができる。

 ただ、どの程度まで分かるかはGM次第。

 なので、まず見たのが〈模造呪具〉をかけた木の枝。


 呪具はレベル分体力消費を軽減、〈模造呪具〉で作られた物はかけた者の能力値を参照に使用限界が付く。

 武にはレベルが無い為かまったく効果が無かったので、倉庫の片隅に放置していた。

 疑問は横に置いて、とりあえず触れた状態では、かかっている魔法名とその限界は読み取れた。

 触れなかった場合、読み取れたのは魔法名のみだった。


 試しに何もかかっていない物をみると、何も読み取れなかった。


「他に何か……。

 ……そういえば、駒モンって結局なんでこうなってるんだ?

 もしかして、見えるか?

 よし、……魔法鑑定!

 61と2?

 それだけ?

 なんだろう、この数字……もしかして?!」


 比較対象にコボルドのレベル1と2を出し、〈魔法鑑定〉を使う。

 読み取れたのは10、59と20、47。


「やっぱりMPと、残り時間?

 〈魔法伝授〉3回で軽減含めて3消費、もとが64だから61と。

 戻したらどう見えるんだ?

 ……-64?

 もしかしてこれがMPの倍の時間で出せるようになる理由か?」


 遠目に見ると、読み取れたのはMPのみ。

 これで色々と検証が捗ると、漲らせたのも束の間。

 また日が暮れると我に返り、覚えた魔法の使い勝手を一通り試すと、一旦の気を済ませた武はダンジョンへと向った。

 通り道で遭遇したダンジョンモンスターにも〈魔法鑑定〉を使ってみると、MPが見えた。

 野犬たちを早々に片付け、ボス熊の方へと向かう。


「302か。

 よし、剣コボに〈疾風迅雷〉を。

 ……魔コボは下げて、弩コボに、っと。

 全員、気功術。

 弩コボ、放て!

 剣コボ、行け!」


 放たれた矢の後を追って、〈疾風迅雷〉で高速化した剣コボルドたちが駆けて行く。

 矢が刺さった巨熊は痛みに悶えると、周囲を睥睨し迫り来る剣コボルドたちを見つけ、雄叫びを上げた。


「ガアアアアッ!!」


 ボス熊に黒い煙のようなものが纏わりつき、それと共に刺さった矢が抜ける。


「何?!

 ……魔法鑑定、MPは282に下がってるからダメ(ダメージ)は通ったんだろうけど、〈気功術?〉ってなんだよ?!

 そもそものMPがアレだっていうのに、ボスだからって何付けても良いと思うなよ!」


 ?が付いているので気功術そのものかどうかは不明だが、読み取れたという事は似た効果のものなのであろう。

 〈疾風迅雷〉が無かったらと思うと、ぞっとする武。


 レベルが上がってもまだ命中率は低く、誤射の可能性もあるので弩コボルドを下げる。

 代わりに剣コボルドを追加、気功術を使わせて、1体を護衛にと手元に置き、残りを向わせる。

 先に向った駒モンたちは、その速さで巨熊を翻弄している。

 そこへ更に追加された駒モンたち、連携してボス熊を攻撃していく。


 最初の探索時以外一撃で倒せており、その時も乱戦でこうしげしげと見る機会は無かったので武は今気付いたが、どうやらMPが残っているうちは傷は治るようで、出血による継続ダメージは期待できないらしい。

 だが、ダメージ自体が無くなったわけではなく、攻撃を受けるたびにボス熊の動きは悪くなっていく。

 このまま倒せるだろうと、そう思っていた。


「ガアアアアッ!!!!」


 二度目の雄叫び。

 今度は赤黒い何かが迸る。


「今度は全身全霊かよ!

 はぁ……けど、止まるからそこで終わり、って止まらない?!

 なんだよ、この鬼難易度?!」


 先程までは怯んでいた攻撃をものともせず、狂乱して暴れるボス熊。

 劣悪すぎる仕様に慄く武。

 だが、代償が無いわけではないようで、身動きするたびに血を噴出し、赤黒いので補強?されてはいるが、叩きつけた腕など拉げている。

 その様子に、駒モンたちは慌てず騒がず、巨熊の隙を窺って攻撃を穿っていく。

 そして遂に致命的な隙を見せ、ボス熊は倒された。


「MP低いなら納得できるけど、元々アレな上コレってどうよ……」


 文句を垂れながら、武は駒モンに解体を指示する。

 現実なんだからといえばそうなのだが、野犬と大蝙蝠しか出ない一層とかボス部屋とか、ゲーム的な仕様が見え隠れして、どうしてもこのクソGMと言いたくてしようがない。

 爆散していないので、傷だらけながらもそれなりの量の肉が取れた。

 一応、正面から相手して熊を倒せたので、下層をとりあえず一度は見てみようと思った武。

 ただ、気疲れしたので、下層へ行く前に一旦家にへと戻ることにした。




 熊部屋からの坂道を下り終えると、そのまま続く通路。

 初見の場所だからと、盗賊と魔術師のコボルドに探らせていこうとする。

 魔術師は特に隠蔽していなければ魔法の気配を感じ取れ、その部分に関しては盗賊よりも勝っている。

 だが、そう上手くはいかなかった。


「わふんわふ」


「えっ、全部?」


「わふ」


 ダンジョン自体が魔法的なものでできているらしく、そこら中にありすぎて分からないという。

 武も〈魔法鑑定〉してみたが、何らかの力があるとしか分からなかった。

 盗賊の方は逆に隠蔽されているものに対する察知能力が高いのでそのまま、魔術師コボルドは下げることにした。


 壁面は変わらず土壁、一層目とは違いそこかしこに横穴がある。

 少し進むと、その横穴の一つに駒モンたちが反応した。

 〈魔法鑑定〉は見えていないと効果がない。

 とりあえず〈隠蔽結界〉を張って一旦様子見としていると、ボス熊と同じぐらいの大きさの巨大な蟻が現れた。

 それも、2体。


(げっ?!

 ……魔法鑑定!

 41?)


 「よし、行け!」


 駒モンたちに集られてあっけなく巨大蟻は倒れた。

 今回の目的は狩りの為の下調べ。

 数だけ記録すると、武はそれらを駒モンたちに与える。

 一層目とは違い、低MPで出てる時間を長く再使用までを短くとはいかない。


「41か、熊に比べると普通だな。

 あのまま下りて来てたら苦労しただろうけど、バランス的にはそう悪くはない。

 ボスだけやりすぎてるのか?

 ……まあ、とりあえずは次ボスまで保留だな」


 初見のダンジョンだからと、盗賊コボルドとゴブリンに探らせていくと、引っかかったものがあった。

 相手させると、現れたのは野犬と同じぐらいの大きさの蜘蛛。


「……MPは蟻と同じくらいだったな。

 虫階か?

 隠れてるのも面倒だが、蜘蛛って毒あるのもいるよな。

 ……これ、食べられるのか?

 食えるか?」


「わふわふ」


「ぎぎ、ぎぎぎ」


「……よければ大丈夫と。

 あっ、食べていいぞ」


 1体を解体して食べる駒モンたち。

 だが、残りの3体はそのまま食べた。

 つまり、それが毒入りだったということだろう。


 探索すると、横穴はほとんどがすぐに行き止まり。

 部屋状になっていて、そこを巣のようにしてモンスターが蔓延っていた。

 大蜘蛛と巨大蟻以外には出会わず、一層目と同じく雑魚は二種のようである。

 大きな分岐は二箇所あり、二つ目の分岐の片方がボス部屋へと繋がっていた。


 熊部屋と同じように、中央にボスらしきものが1体。

 おそらく蠍だろう鋏の付いたそれから、人のような上半身が生えている。

 鎧なのか甲殻なのか不明だが、下半身と同じようなもので身を包んでおり、地面に突き刺したハルバードらしき長物の柄を両手で掴んで仁王立ちしていた。


「パビルサグか?

 ……魔法鑑定、936?!

 どうせ熊と同じくパワーアップするんだろ。

 それに、熊と違って立ち上がってるのがな……。

 ……疾風迅雷。

 部屋に足踏み入れて、即座に撤退、行け!」


 指示を下された盗賊コボルドが駆けていく。

 指示通りに足を踏み入れた瞬間、パビルサグが雄叫びを上げた。


「ギシャアアア!!」


 それと共に纏わりつく黒い煙。

 盗賊コボルドが撤退すると、追うこともなく煙は消えた。


「反応が早いな、熊みたいにはいかなさそうだ。

 それにしても900超えとか、この調子だと下のボスは3000近くになりそう……。

 とりあえず、勝ち目見えるまでは放置だな」


 味見にと持ってきた大蜘蛛と巨大蟻。

 それぞれ解体済みと丸のままとで試そうとしたが、巨大蟻の甲殻は食材と見なされずゴミ箱行きに。

 駒モンたちはぽりぽりと気にせず食べていたのだが。

 味は大蜘蛛がかに風味、巨大蟻がえび風味のに似ていた。

 丸の大蜘蛛は肉を食べてる感じが薄く、解体前後の差を見れば殻が多すぎるのが一目瞭然。

 丸大蜘蛛の残りは処分、これらは解体一本でいくことに決め、集荷に間に合うよう手続きを進める。


「狩りの構成どうするかな。

 まだ、販売の連絡来ないし、犬とかは溜まってるだろう。

 上は通り道分だけで、下のを増産しようかな。

 コンテナ容量、下の方が多かったし重いからまた足りなくなりそうだ。

 次は4t、それ以上だと金払ってコンテナを追加になるのか。

 まあ、流石にそこまでは要らないだろ。

 とりあえず申請っと」



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