05
「……ん、お?」
どさっという音に武は手を止めた。
音のした方にあるのは宅配ボックス。
もしやと思って向えば、注文したものが納まっていた。
「こんな状況でもちゃんと来るんだな、これなら大丈夫そうだ。
……おっと、もうこんな時間か。
明日に響くから一旦寝よう」
そうはしたもの諸々の疲れが出たのであろう、武が起きたのは昼近く。
査定に響くと慌てて氏神関連を済ませる。
朝食を兼ねた早い昼食を取ると、準備を済ませダンジョンへと向った。
湧く速度がそれほどでもないのか、限度があるのか、穴の底に野犬が犇いてるという事はなかった。
「よし、それじゃあ頑張るか」
肉の量産の為、せっせと働こうとした武。
だがそれは、早速頓挫した。
「あっ、しまった!
回収しないと……あれ、1体多い?!
え、なんで?」
護衛にコボルドを1体、残りをゴーストでと手に取った量が多かった。
ばら蒔かれたそれらから、実体化した数は7体。
全部で8体、昨日よりも多い。
昨日と異なる状況に戸惑った武は、戦う前に一旦家へと引き返した。
とりあえず駒に戻し色々試していると、ここでまた問題が起きた。
時間は過ぎたのに、再利用できなくなっていたのだ。
立て続けの異常事態に、こうなれば最初から調べてやると、武は腹を括る。
「……駄目か、一体何が。
うーん……あれ、できた。
経過時間は、っと……倍?
まさか?!」
ある可能性を思いつき、武は慌ててキャラクターシートを取り出す。
「経験点が15に、MPが34?!
いつの間に変わったんだ?
昨日活動してる間は何の変化もなかったけど、戻った時一旦確認しとけば良かったな。
とりあえずは、そういう状況だと念頭に置いて検証だな」
当初の予定を投げ捨てて武、まず調べたのはレベルの下げ方。
先の事柄から、駒モンのレベルは武のMPに一番近いMPのものが自動的に選択されていると推測できた。
だが、強ければ良いというものでもない。
駒モンの運用予定に差し障る。
「レベル1で、出ろ!」
「わふ」
「レベル1なのか?
「わふ」
「そうか……って、認識できてるのか?!」
「わふ?」
レベル1の再利用までの時間が短いコボルドで試した武だったが、更なる疑問点が生まれ頭を抱える。
とりあえず新たなものは横に避け、駒に戻して時間計測。
結果、20分で再利用でき、当面の問題はあっさりと片付いた。
次に実体化できる数の問題。
昨日と今日で違うのは、駒モンのMP。
となると、考えられるのはコスト制。
まずは、昨日と同じ状態でどれだけ実体化させられるかどうか。
「……17体か。
昨日は7体、変化したのはMP。
15で7、34で17……MPの半分が上限?
コストは、レベル?」
だが、調べてみると違う結果が出てきた。
試行錯誤の結果、MPの一割(端数切捨て)がコストの可能性が高い。
あと調べる必要があるのは、何か使える駒が増えてないかどうか。
だが、それよりも武には気になっている事があったので、そちらを確かめる事にした。
一揃いの駒を実体化させる。
「手妻使えるか?」
「「わふ」」
「全身全霊使えるか?」
「「わふ」」
「魔法使えるか?」
「わふ」
装備を身に付けたコボルドと別システムから鉄砲豆狸。
聞き取りから短剣は盗賊と確定、同値の鉄砲豆狸も同じ。
条件を満たしたのか、戦士は全身全霊を使えるようになっていた。
そして、ローブ杖が魔術師であった。
手妻と魔法はレベル毎に何を取得できるか設定されているので、何が使えるか更に尋ねる。
結果、レベル1のものを全て取得している事が判明、レベル2以降についてはMPが変化してからまた確認する必要がある。
だが、ここまでは前座。
本題は、この後。
「魔法伝授、俺に使えるか?」
〈魔法伝授〉、魔術師が自身の覚えている魔法を相手に教える魔法で、手妻にも〈種明し〉という同様のものがある。
迷宮&魔物では、師匠格などにそれらを使ってもらう事で新たに取得するシステムになっている。
要件は、その職業である事、組織への上納金を支払う事。
だが、ここに組織は無いので、只で済む可能性が高い。
職業に関しては、物は試しであった。
武の質問に魔術師コボルドは答えた。
「わふ」
「よしっ!
……と、あいつらには?」
「わふん」
肯定は貰えたが、他コボルドにはできないという。
この差で考えられるのは、職業:MOB。
一体あれはなんなのか、考えても答えは出ない。
棚上げして、とりあえず武は魔法を取得する事にした。
武が魔法を一つ選び告げると、支払いを迫ること無くコボルドは魔法を使った。
杖に光が灯ると武を掴み、そこを通して光が注がれていく。
注がれ終わると、武は理解した。
頭にある通り、印を切る。
「魔力付与!」
放たれた光が剣コボルドへと飛び、その剣に宿った。
「…………ふっ、ふっ、ふっ、よーしっ!
っと、キャラシーの確認しないと。
……経験点は変化無しで、MPが29/34?
消費は5そのまま、軽減は無しか。
次は呪具使って検証だな。
あっ、その前に……」
MPが変動した為、出せる駒モンや上限に影響がでているかどうか。
試しにオークを2体出してみると、すんなり実体化したので問題なし。
これで心置きなく試せると、武は片っ端から取得していく。
「次は……っと、時間切れか。
代わりのを、って?
……なんで、お前ら残ってるんだ?」
杖コボルドの実体化が解除され、周囲が目に入った武は違和感を覚えた。
同じ時から実体化した盗賊、戦士が残っているのはおかしい。
魔術師とそれらの違いはコスト。
試しに計ってみれば、それらは10分後に解除された。
詳しく調べると、30台は10分、20台は20分、10台は30分が限界時間となっていた。
最大コストより低いと限界時間がそれにしたがって延びるということらしい。
わき道に逸れたが、武は魔法と手妻を一通り取得した。
次は使いようの確認と、それらを試していく。
「次はこれにするか。
無機物だと効果ないから……そこらの雑草でいいか。
……………………魔力投射!
……あれ?」
庭に生えた雑草へ〈魔力投射〉を行うと、陽炎の塊のようなものが飛んでいった。
だが、雑草は小揺るぎすらせず、当たった塊は掻き消える。
「雑草には効果無い?
いや、そんなわけが……。
……まさか、抵抗された?!
比較対象もつけて試してみるか」
魔術師コボルドと一緒に、雑草へと〈魔力投射〉を行う。
魔術師コボルドのが当たった草は根ごと弾けたが、武のでは風が吹いた程度の影響すら見られない。
幾度も試してみるが、結果は同じ。
「雑草相手に抵抗されるとか……」
思い当たるのは職業:MOB。
魔法への抵抗は、使用者のレベルを難易度にして判定する。
レベルが無い武の場合、無抵抗の相手にしか効果を及ぼせないのだろう。
使いようの無いあれこれを思い、武は膝から崩れ落ちた。
だが、勝る点が無かったわけでもない。
駒モンは消費量を増やすことで行える魔法の強化ができないらしい。
レベルが1だからの可能性もあるので、そう誇れるものでもないが。
それに〈魔力付与〉のように対象を強化する類いは、強化の際に生じる不具合を無くす分も含まれていると、〈魔法伝授〉された知識の中に在った。
効果を2倍にするには4倍、3倍にするには9倍消費と、MPが唸るほど無いと使えない代物になっており、この辺りもルールブックと違う仕様になっている。
射程距離や持続時間に関しては、2倍消費で2倍とそのままだった。
MPを使い果たしたので、回復の為に武はしばし休憩に入った。
「……2分で1回復か。
効率良いのか悪いのか判断付かないが、そう連発できるないってことだな。
……ん?
何か引っかかったような…………あっ、気功術の実験!
あの時、どうなってたんだ?
使ってた間も回復してたのか、そうでないのか。
それで結果も変わるな……」
ついでに懸念事項だった気功波の距離の問題も解決しようと、出せるレベル1の戦士駒モンを並べて試す。
限界まで使ってもらったところで、時間を置いてまた使えるか武が尋ねたが、駒モンたちの返答は使えないというものだった。
また、気功波については、体の大きい種族の方が長い距離を飛ばせた。
体格に関連していると考え測定したところ、大体身長の3倍ぐらいと見て取れた。
MPが回復すると、武はまた検証に戻った。
そうこうしている内に薄暗くなった周囲、ふと空を見上げれば夕焼け小焼け。
一番最初に逸れたわき道からは戻る事無く、今日予定していた事柄をまったく行えていなかった。
「うあ……仕方ない、明日にしよう。
とりあえず飯だ」
食事を終えると、武は情報収集に乗り出した。
亜空通信に関しては未だ何の目処も立っておらず、安全の為と宙港の利用が制限され、輸入品目高騰の可能性が示唆されていた。
ダンジョンに関しては行政府が危険地帯と認定、一部免許取得者以外の立ち入りを禁止すると掲示していた。
だが、限付ハンターライセンスから許可がなされていたのであまり意味が無さそうに見え、武にはお役所的な責任逃れのように感じた。
「限付の試験日程とか載せてるし、ダンジョン攻略してるのもいるか。
でも大半がネタに走りすぎだよな。
出てくるモンスターはまあ良いとして、アイテムドロップってどこのゲームの話さ。
……いや、モンスターの中に入っているという話か?
とりあえず、後でゴミ箱見ておくか。
レベルアップ、流石にもうレベル10は冗談だろ。
それにステ振りがHPにAtk、Def?
うーん、碌な情報が無いな……えっ、HunMarに出品?!
先越された!」
武が考え付いた程度の事を他が考え付かない訳もなく、記載を見て慌てて調べるとダンジョン産と銘打ったあれこれが並んでいた。
犬肉の在庫が少ないけれど、流れにこれ以上後れてはなるまいと、武は出品の手続きをし始めた。
「品目は食用品、材料は……特に入れなくても良いのか?
まあ、何なのか分からないものも流れてるしな。
ミートメーカーで処理済、機種はっと……あった。
各種安全性の精査?
試験用に一つ提出する必要、販売されるまで数日かかるのか。
任せない場合は即日販売だけど、こっちの場合HunMar認証が付いて、責任を持ってくれると。
……万が一を考えれば、そうした方がいいな。
競合するだろう高めの合成タンパク液は、大体1リットル千前後。
自然由来は衛生的じゃないと嫌うのもいるから、それより安めに値を付けてっと。
転売は不可。
在庫は追加式で売切れ時は一時中断、注文は受けない。
期間はとりあえず一月。
特記事項は特になし。
商品紹介、ダンジョン生物由来の成形肉です、っと。
あとは、商品名か……。
ダンジョンミート、ダンジョン産○○肉……ありきたりというか、もう使われてるし。
………う………あ…………迷宮………魔物………迷……物…………!!
魔宮迷物、これだ!」
夜中のテンションに任せて武はそれに決定、集荷時間を今から一番早い明日の午前に設定し手続きを終える。
ミートメーカーへ向い、まず備え付けのゴミ箱を確認してみたが、そう旨い話はなくアイテムの類は入っていなかった。
敷物を拡げ、表面の模様、一つ当たりの重量などを設定し、材料がなくなるまで継続処理を選択。
できたのが排出されていくのを見届けると、武はその場を離れ、明日こそはと早めに床に付いた。