04 閑話
「タルフ殿、ネイリウス嬢、お二方とも急なお呼び立て申し訳ない」
「いえいえ、こちらにも益があることですし。
気にしてませんよ、ええ」
「能書きは後にして本題に入りな。
それとその背筋が痒くなりそうな話し方はやめな」
「まあまあ、立場というものがありますし。
周りにも示しがつかないでしょう」
「あんたもだよ」
「私は無理ですよ、擬体で対応プログラムが変わるので。
ええ、無理です」
ハルマ・A・アイランズ、銀色の髪に厳しい面構え、猛禽を思わせるその男が出迎えた入室者たち。
一人は合成皮膚すら張っていない機人、タルフ。
もう一人は自走する輿に乗った黒猫、クーチャ・ネイリウス。
返された言葉に苦笑した男からは厳しさが薄れた。
ハルマは二人を卓に着くよう促す。
「では本題に入ろう。
現状についての意見を貰いたい」
「何もありませんよ。
ええ、何も」
「耄碌した気は無いんだけどね」
「そっちでも把握してないのか」
首を振る彼らに落胆し、気を引き締めるハルマ。
彼らの情報網に引っかかっていないとなると、ますますただ事ではない。
「で、あんたは何かないのかい?」
「推進いくらかけても他惑星に進めないぐらいだな。
行けて月軌道の倍程度。
幸い農業惑星、選好みしなければ食料については問題ない」
「代わりに他が大打撃ですね。
鉱物資源はほとんど枯渇しているのでしょう?」
「ああ、そうらしいな。
行政府は黙りを決め込むことにしたそうだ。
ともかく、原因に繋がりそうなものは分かっていない。
こちらから出せる情報といえば、突発地下構造物から生還した者の証言ぐらいだが、その程度は押さえてるだろう」
「比較対象は多いほど良いって、分かって言ってるだろう。
もったいぶらないでさっさと話しな」
キッと睨むクーチャの圧力を軽く受け流し、ハルマは画面を表示させる。
「治安隊が聞き取ったものだ。
目を通してくれ」
「よく渡してくれましたね。
あまり仲は良く無いでしょうに」
「緊急時の軍戦力統合要項だよ。
ただ、あまりよく理解していなかったようでね。
居丈高にこの船を接収すると申し込んできたよ。
丁寧に説明して、理解の後は快く協力していただいている」
惑星軍における将官は、宇宙軍における佐官以下。
平時には額面を立てるが、基本的に中央所属の宇宙軍が上である。
人の悪い笑みを浮かべるハルマに、やれやれといった風情になる周囲。
「貴方が居た事も計算違いでしょうね、大佐」
ここは辺境を巡る警備船の定期メンテナンスを行う寄港地の一つ。
メンテナンス中は連絡要員を数名残し、他は休暇となる。
金を持っている士官はこんな田舎に引き篭もらず、繁華街へと出向いてこの星に居ないのが常であった。
「……うちの子達の情報と大体同じだね」
「まるでゲームの仕様のようですね。
VRに接続しているつもりは無いのですが」
モンスターを倒してExp稼いでレベルアップ。
ステータスポイントが手に入り、ステータスウィンドウで割り振り可能。
倒したモンスターはすぐに消え、アイテムドロップすることもある。
ただ、レベルアップ等は証言者の言い分である。
ステータスウィンドウを表示させたが、聞き取った者は誰一人見ることができなかった。
「こいつらの頭がいかれていて欲しいとこだね。
で、こいつらは野放しかい?」
「以後一般人は入れないようにするらしいが、まだ公布されていないのでな。
今のところは拘束しようも無いので仕方がない。
無理に理由つけても、後々の問題になるだけだ。
誰もが比較的簡単に力を付けられる、冗談では無い状況だ。
君らにも手を貸して欲しい」
「あんたらで済ませられないのかい?」
「内部では近代兵器がほとんど使えなくなる。
兵器を使えない兵士など、ただの人だ」
「それでは私は関係できませんね。
ほら、全身近代兵器ですし」
「その辺りは試している。
機人やサイボーグ部位は影響を受けない、何故かな。
動力直結の武装なら機能も十全、パワードアーマーや大砲に換装するとその限りではないが」
「やれやれ、他に戦力の当てはないのかい?」
「動乱も怪生物も無い辺境。
手練れが居ると思える方が不思議だ」
「貴方がそれを言いますか、レームゼールの英傑殿」
「ああ、この状況で要星崩しと名高いプレセペ工兵団副長が居たのは幸運だよ」
恥ずかしい二つ名を応酬し、にこやかに睨み合う二人。
クーチャは幾つになっても男はと白い目で見ていた。
「あたしには地元なんだけどね。
まあ協力した方が解決も早そうだ。
いいだろう、受けてやるよ。
ああ、当然出すもんは出してもらうよ」
「こちらも、アダマス鉱払いなら受けますよ」
「感謝する」
「それで、プランはどうなってんだい?」
「あれには精鋭部隊を派遣して攻略。
目晦ましで元凶が別の可能性もある為、治安維持分を避けた残りで全土の捜索だな」
「下の子達にも言って手伝わせるよ」
「私は完全プライベートなので、人手が貸せないのは残念ですね。
ええ、残念です」
「プライベートと言い張るには物騒なものを、多数持ち込んでいると聞いたが」
「ええまあ、色々と恨みを買っていますので自衛の為ですよ。
ああ大丈夫、戦場にして巻き込むことはいたしませんから。
ええ、戦いにはしませんから」
ハルマが見つめても鉄面皮は変わらない。
溜息をつくと話を続けた。
「そうできているのなら言う事は無いな。
話を戻そう、君らは私と組んでもらうが異存は無いな。
……無いなら次に移ろう」
そうして細々とした話し合いを続け、ようやく打ち合わせが終わった。
一旦の開放にクーチャは体を伸ばす。
「まったく、とんだダンジョンアタックになっちまったね」
「ええ、まあ。
ですが元々その予定だったでしょう」
「現実は違うって、分かってて言ってんじゃないよ。
やれやれ、突然予定変えて坊やには悪い事しちまったね」
「状況が状況だ、彼も分かってくれるだろう。
この件が片付くまでは仕方が無い」
「ええ、そうですね。
ああ、一言言っておきますが、猪はやめてくださいよ」
「現実でやるほど考えなしじゃないぞ。
それに言うならあっちだろう。
範囲巻き添えは死活問題だ」
「馬鹿言ってんじゃないよ。
あれは当てづらいシステムが悪いんだよ。
あたしの腕前はあんなものじゃないさ。
それよりあんた、装備はきちんと揃えるんだよ。
調査一辺倒で戦力皆無なんてお荷物は要らないんだよ」
「ははは、そんな事する訳無いじゃありませんか。
戦闘を押し付けようなんて思ってもいませんよ。
ええ、思ってもいません」
擦り付け合い出来上がるトライアングル。
「……不毛だね」
「……ですね」
「……そうだな。
では解散、現地でまた会おう」