03
「……血痕すらなく野犬の死体は消えてるし、レーザーナイフも使えない。
洞窟内部が光ってるのも情報通り、やっぱりここはダンジョンか」
穴の底に下りた武はそう結論付けると、周囲の警戒と敵の排除を指示した駒モンたちの動向を尻目に、物を並べる。
袋入りの菓子、開けた物、開けていない物、袋から出して地面に直接置いたもの、樹脂製のロープ。
ロープは別に一本上から下ろしてもいる。
準備を終えて駒モンたちを見ると、敵を見つけたようで戦いを終えていた。
倒されていたのは野犬2体の他、大きな蝙蝠が射抜かれていた。
一応防水の鞄を持ってきているが、武の所持しているのはそれほど大きいものではない。
大蝙蝠は入ったが、流石に野犬は無理だ。
「それ、切り分けられるか?」
「ぎぎ」
「わふ」
尋ねたところ、刃物を持っている剣コボルドと短剣ゴブリンが名乗りを上げる。
それぞれに任せると、結果は武の想定以上だった。
武の想定では、単に四肢を分ける程度でそれを持ち帰ればと思っていたが、2体は見る間に皮を剥き、手際よく精肉にまでし終えてしまった。
とりあえず両方から詰められるだけ取り、残りは勿体無いがどうしようと悩む武の目に、ふと駒モンたちが入った。
「食べられるのか?
食べられるなら、残り食べていいぞ」
そう武が告げると、駒モンたちが群がり、内蔵や骨まで見る間に片付けていく。
元々駒なのに食べれるのか、食べた事で何か変化があるかと、食べ終えた駒モンたちをそのままに、一旦家に戻る武。
向ったのは倉庫、そこにある機械に用事があった。
「ハンター仕様のミートメーカー、そっち方面でまさか活用する破目になるとはな」
ミートメーカーは材料をセットする事で、食肉を作り出す機械。
普通のミートメーカーは専用の合成タンパク液などに対応しており、生体由来のものは不可。
対応してるのには購入、使用にハンターライセンスが必要となっている。
ハンターライセンスは武器などの所持、使用等に関わる免許で、未開地の多い辺境なら必須と言われているものだ。
なぜそんなのを武が取得しているかというと、限付ならば短期講習で取得可能、就職にはとりあえず資格をとやらされた結果である。
免許があるのだからと、用意された対応家財は限付で扱える最大級の代物。
正直もてあましていたが、何が幸いするかは分からない。
「……どうするんだったか?
説明書、説明書」
この使い方をするのは講習ぶりだった為、四苦八苦して機械を動かして鞄を空にすると、武は穴へと戻った。
置いてあった物品は無くなっていたが、垂れ下げていたロープは残っていた。
外に繋がっている物は無くならないようで、脚立は外していたがその必要はなかったようだ。
そして、まだ残っていた駒モンたち。
「食事すると延びるのか。
どの程度なんだ?」
調べた結果、飢え的なものはなく単に食べられる事、限度があり、その時点から10分が限界時間であること、限界時間までなら何度でも食事が可能な事が判明した。
現状、再利用時間との兼ね合いで効率が悪いと言わざるをえないが、先々高MPのを使えるようになれば化けるだろう。
検証用に追加分を狩るなどイレギュラーはあったが、事前準備を済ませた武はダンジョンの探索に乗り出した。
「よし、行くぞ」
「「ぎぎ」」
「「ぶも」」
(かたかた)
「「わふ」」」
オーク2体にゴブリンの短剣、弓1体ずつ、スケルトンの弓にコボルドの剣と弩が1体ずつ。
出せる限度の7体を、最初から大盤振る舞い。
なんら消耗が無く、命に関わる事である以上、戦力は過剰な位で良い。
武装したのは手間が掛かるのであまり量産していないが、ファンタジー系でよく出てくるこの辺りは3ローテーション分ぐらいならある。
オークと短剣ゴブリンで前列、射撃の3体で後列を作り、剣コボルドを近衛にして完璧な布陣と自画自賛。
武はというと、方眼紙を用意している。
ダンジョンといえばマッピングは基本。
10フィート棒万能教徒ではないので、それは用意していない。
駒モンたちに探らせながら先へと進もうとして、武ははたと立ち止まる。
「あっ、キャラシー確認しとくの忘れてた。
……MPなどに変化は無し、経験点は123か。
元が16だから、増加量107。
倒したのが野犬5に蝙蝠3。
16が野犬のMPだとすると80、残りを3で割ると9。
綺麗な数値になってるから、こうだろう。
となると、ルルブ通り、MPがそのまま経験点に入る仕様かな。
簡単に倒されてたし、人数割りでこの数値って事は無いだろうから、駒モンに経験点は入らないのか。
けど、判定で経験点入る仕様の方は無いのか。
こうルルブ通りなのかそうでないのか微妙な感じが……。
とりあえず、先に進むか」
そうして進みだした武だが、すぐに頓挫した。
原因は完璧な布陣(自称)。
動いている相手への射撃命中率が思いのほか低く、誤射して味方を阻害、その隙を突かれ倒されてしまった。
倒された駒モンは即座に消え、相手が抜けてくる事態となった。
慌てて駒モンを追加し事なきを得たが、弓半数は不味いと構成を変える。
駒を回収しようと探したが、見つかったのは燃えカスのようなものだけだった。
その後は、時間の見極めを間違えて戦闘中に駒モンが解除された以外、大きな問題なく進む。
二股になった分岐に辿り着くと、右手の法則と、武は右の道を選択した。
野犬などに出会う事無くしばらく進むと、その先に開けている場所が見えてきた。
塊のようなものがあるそこ、何か察知したのか駒モンたちが駆けていく。
岩にも見えたが、よくよく見るとそうではなかった。
「熊っ?!
待てっ!!」
慌てて武は止めたが、少し遅かった。
蹲っていた大きな熊は身じろぎし、その体を起こしだした。
「戻れ!!」
呼び戻された駒モンたちがそこから出ると、熊は追いかけるわけでもなく、何事もなかったかのようにまたその場に蹲る。
今までとは違う挙動、広い部屋に強力な個体、明らかにボスをにおわせる状況に、今はまだ賭け時ではないと武は退却する事を決めた。
一応警戒しつつ分岐まで戻ったが、やはり追いかけてくる事はなかった。
安堵した武は、緊張で渇いた喉を潤す為に水を飲む。
「……やっぱりボス部屋かな。
となると熊がボス。
ボス部屋のボスベア……。
……そっちに行くか」
気を取り直して武はもう一つの方へと進む。
先程とは違い野犬などと遭遇、辿り着いた先は行き止まりだった。
「これで一通り。
隠し部屋などは置いとくとして、残るは熊のとこだけだな。
今日のところはこれで帰るか」
戻る道中、熊以外全滅させたはずなのに、武はまた野犬などに遭遇した。
「ポップかリポップか分からんけど、ゲーム的だな……。
しかも、前に遭遇したの辺りとか、湧く場所まで決まってるのか?
まっ、好都合だから良しとするか」
来た時ほどは居ないそれらに、武は一つ試す事にした。
コボルドたちはそのままに、残り5体をゴーストに替え、野犬たちに相対させる。
先程のとは比べMPは低いそれら、種族由来の物理攻撃無効があり数値によらない強みがある。
だが、武が試したかったのはそれではない。
「よし、上手くいったな。
すり抜けは剣で牽制させれば良いし、次からはこれで行くか」
ゴーストの物理無効は物理的な体が無いからであり、逆に言えばゴーストからも物理的な攻撃が行えない。
だが、MPがある以上ダメージは出せる事が確定。
幽霊系でよくあるのは、精気を吸ったり生命への直接攻撃。
迷宮&魔物では明記されていないが、死体を検分した武は目論見が成功したと喜んだ。
干物化のパターンも覚悟していたが、外傷無く生きていた時そのままの姿で転がっていた。
大蝙蝠は鞄に詰め、野犬はコボルドたちに運ばせる。
移動していると、壁の光量が下がってきた。
訝しく思いつつも先へ進み、穴まで辿り着いたらゴーストを下げてオークに。
野犬をロープに括りつけて穴から出ると、空が茜色に染まっていた。
「……あれって、もしかして連動してるのか?
となると夜間は難しいな」
そもそも大荷物持って灯り無い中、脚立や階段を上り下りするのは危険だと、夜間の探索は止めておくことにした。
野犬を引き上げさせると、荷物持ちたちと一緒に武は一路倉庫へ。
大蝙蝠などミートメーカーで液化してタンクに溜めると、今度は肉造りに取り掛かった。
「タンク分けしたから、今造れるのは蝙蝠、犬肉、野犬と。
とりあえず、そのままを一つずつで量はこれ位……」
操作を終えると、成形肉が排出される。
それらを手に母屋へと戻った武は、先程の反省にまず風呂へ向った。
「調理器にセット、っと。
よし、その間に済ませるか」
風呂から戻った武は台所へ向い肉を調理器にセットすると、小宇宙豆を三方にこんもり盛って、奥の間へと運ぶ。
氏神への朝夕の供物である。
「お食事、お持ちいたしました。
失礼します」
声掛けをして中に入り、朝置いたのと取り替える。
部屋の中には大の字になって寝転がる和服姿の子供が一人。
これが一応氏神らしい。
引き篭もりで失語症の偏食家としか、武には思えないが。
退出の声掛けをして部屋を出る。
取り替えた小宇宙豆、使い回しはするなとの指導が入っている。
勿体無いのでいつも通りスープ行きにする。
「そういえばこれどうするかな?」
氏神用の供物分は別途振り込まれるのではなく、物品がそのまま送られるようにされてあった。
一月分の納入、来月分がどうなっているかは不明。
氏神関連きちんとやっていなければクビにすると、引き受けるにあたり武は脅されていた。
やる事さえやっていれば、それ以外はある程度好き勝手できる安楽な生活を、自ら捨てる気は無い。
が、この豆、結構な値段の代物である。
日に二食とはいえ、口座に残る金額では一月にも足りない。
あとで送ってきたところに連絡、金が掛かるようなら止めて、今ある分がなくなったら安物を試してみよう、と心に留める。
できた順に卓に並べ、ようやく武は夕飯にありつく。
まずは一口と肉へ手をのばし、その後は黙々と食べ進める。
「……ふう、食った食った。
蝙蝠は鳥風味に似てたな。
犬は丸のだと味濃いけどちょっと癖があるか。
嫌いじゃないけど、好き好きだな。
どれも高めので造った合成肉と同じくらい、これならHunMarで売れるかな」
HunMarはハンターライセンス持ちの個人出品物を請け負うネット通販サイト。
キャッチフレーズは、法に触れなければ何でも御座れ。
金づちマークが目印の取得者向けHunMar公式商品も多数取り扱っている。
特定機器を使用した製作物の販売権は免許に含まれており、ハンター仕様のミートメーカーはそれに該当する。
処理されたものは樹脂のように固められ常温保存も可能、そのまま流通に乗せても大きな問題はない仕様になっている。
早速アカウントを取ると、武は大き目の背嚢などを注文した。
「防具、あまり良いの無いな。
値段に見合わないし、とりあえずは無くても良いか。
あっ、そろそろ時間だ」
いつもの時間になったのでチャットルームを覘いてみると、誰も居なかったがメッセージが残っていた。
三人とも似たような内容で、仕事が立て込んでいて一月ぐらいは無理だという。
皆が何の仕事をしているかは知らないが、亜空通信途絶なんて大問題、タイミング的に対処に追われているのだろうと武は見当つけた。
勤め人は大変だと思いつつエールを送ると、武は有用だったゴーストの量産に取り組んだ。