入部希望者
鞄から鏡を取り出し、私、七瀬雛は髪型をチェックする。よし、今日こそはもっと柔らかく接しなきゃ!などと気合をいれる。青葉くんを相手にすると緊張してしまってすごく高圧的な態度を取っている気がする。心の準備を一通り終えて校外部の扉を開ける。
「こんにちはっ」
「し、失礼しまーす…」
「あら、七瀬さん。ご機嫌ようお隣の方は?」
読書中だったらしくクーラーを効かせた部屋のソファの上で足組みをしながら読んでいた本をぱたっと閉じて顔をあげる柏木玲奈先輩。ちなみに青葉くんはゲームをしている、、、
「えっと彼女は1年C組の佐倉唯です。この校外部の入部希望者です、玲奈先輩」
「ご、ご紹介に預かりました1年C組の佐倉唯です。えっと本日は入部させていただきたく、こうして無礼を承知で参らせていただきましたっ」
「そんなに固くならなくて大丈夫よ唯」
「へぇ、入部希望者ですか、一体何人目でしょうかね。」
傍らで話を聞いていた俺はその台詞を聞いて思い返す。そりゃやっぱり学園の二大美女が所属する部活に入りたいっていう人は大勢いるわけで…。入部希望者が現れるたびに玲奈先輩は入部条件として無理難題をふっかけことごとく入部を拒んでいた。特にこの前の『この部に入部したければ蓬莱の玉の枝をもっていらっしゃい』などと言われた不憫な男子生徒の顔が思い出される。どこのかぐや姫だよっと俺は内心突っ込みを入れていたりした。だから次はどんな難題を出すのかと内心気になっていたんだけど、、、
「ふぅ、そうねとりあえずひとつなぎの大秘宝でも、持っていらしてください話はそれからです」
最近漫画にはまっている玲奈先輩は某国民的人気漫画における、最大の秘宝を要求し始めた。無茶振りにも程があんだろ…
「ひ、ひとつなぎの大秘宝?そんなの無理ですよぉ」
すでに佐倉さんとやらは半泣きだった…そんな彼女を守ろうと矢面に立ったのが七瀬雛だった。
「そんなありもしないもの持ってこれるわけないでしょ?悪ふざけは大概にしてください玲奈先輩」
と先輩の横暴を鎮圧しようとする七瀬だったが…
「ひとつなぎの大秘宝は実在する‼︎‼︎」
ドヤ顔でそんなことを言う玲奈先輩に俺は、、
「あんた、それが言いたかっただけでしょ‼︎」
と突っ込まざるを得なかった。
「まぁ改めまして佐倉唯さんだったかしら?私はあなたを見込んで頼みたいことがあるの、一目見た瞬間分かったわ、あなたが尋常ならざる魔力…じゃなくて器を秘めていることに。ということで部長をやっていただけないかしら?」
「………え?」
一瞬考えたけれど佐倉さんはやっぱり分からなかったみたいです…
「って玲奈先輩!唯に部長を、押し付けないでよ!」
「そうですよ先輩、それはあまりに酷すぎますよ」
流石に俺も援護に入る。しかし、
「……わかりました、やります、部長を」
「唯?」
「ふふ、やはりあなたは私が見込んだ通りの人材のようね。この部を貴女に託すわ……」
「ええ、任せてください柏木先輩、この部を想う気持ちは誰にも負けませんから……」
などと2人で解決したようだ。ていうか入部して1分も経ってないのにこの部を想う気持ちって嘘から出まかせにもほどがあるよ佐倉さん…
そして手際よく部長を押し付けた玲奈先輩はどこか満足げに読書に、戻っていた。あんたが作った部なんだから責任持てよ⁈などという正論は俺の胸の内で留まった…