言霊
言霊、という物を皆様はご存じだろうか。
古来より人間達は言葉には、信じられない様な霊的な力が宿ると信じてきた。
言葉にする事で叶えたり、呪ったり。
だが、その考えはあながち間違ってはいなかった。
その証拠に、ソードロードの世界でもこの意識が残されている部分がある。
例えば、必殺技の名前。
若しくは、二つ名として。
二つ名には、その者を表すための意味だけではなく、こう在り続けて欲しいという願いのような物も込められている。
"弍焔"
これは、宮本姫奈の二つ名だ。
二つの炎。
まさに、今の彼女を一言で現している言葉ではないだろうか。
宮本は、炎を自身の剣に纏わせ優雅に舞う。
その姿は、遠巻きに見れば二つの炎が揺れ動いているかのようにも見えるのだろう。
二つの炎が、激しく燃え上がり凍りつくコートを溶かしていく。
先程までは体術のみで二人はぶつかり合っていたというのに、今度はお互いの能力だけがぶつかり合っていた。
拮抗する炎と氷。
二人の能力は一見均衡を保っているかのようにも見えるが、能力の相性を言ってしまえば椿の能力の方が優れていることは火を見るよりも明らかだろう。
やはり、強豪校と呼ばれる学校の頂点に君臨するものと言われるだけの実力は兼ね備えていた。
そもそも、彼らの能力はPPを燃料にして動いている。
一方はPPを燃やすことで炎を成し、もう一方はPPを凍らすことで氷を成す。
二人の超能力を用いた力には全てPPが通っている。
故に、お互いの能力が干渉し合うのだ。
炎が氷を溶かす姿は容易に想像できるだろうが、炎が凍っている姿など想像できないはずだ。
そう、この世界に常識など通用しない。
「まさか、これが精一杯なんて言いませんわよね!?」
椿が剣を振るうと、剣先から氷塊が宮本めがけて飛んでいく。
しかし、その塊が宮本まで届くことは無い。
彼女に届く前に、彼女から放たれている熱気によって攻撃は全て無効化されてしまう。
「その程度で、私の炎が冷めるとでも?」
宮本は、再び椿に切りかかる。
彼女に近づくにつれ宮本の防具は凍っては溶けを繰り返していく。
今度は、両刀が同時に椿を襲う。
それを椿はいとも簡単に剣で受け止める。
だが、その一撃、いや弐撃はとても重い攻撃だったのか椿は苦悶の表情を浮かべた。
「はあああああああっ」
宮本は、更に剣に力を込める。
椿の表情から察するに、宮本の力ならば若しかしたらこのまま押し切れるかもしれない。
彼女を含めた桐木サイドの人間は特にそう思っただろう。
彼女の力に呼応するかのように、刀に纏った炎が一際大きく燃え上がる。
「これで、終わりだあああっ」
更に、彼女の攻撃は全体重を込めた渾身の一撃となる。
それに合わせ、燃え上がる炎が激しくなり、椿ごと消し炭にするかのような勢いで激しく燃え盛る。
攻撃を受ける椿の顔が更に苦々しいものとなっていく。
が、宮本の優勢は、ある一瞬機に儚く消え去ってしまう。
それは、苦悶の表情を浮かべていた筈の椿がまるで喜劇でも見ているかのように愉快そうに笑い始めた時からだ。
「足りませんわぁ」
先程までの苦々しい表情は嘘だったとでもいのだろうか。
彼女は笑いを堪えるかのようにそう呟く。
その言葉と共に、燃え盛っていた宮本の炎が一気に凍りついていく。
凍るスピードは炎がそれを溶かしていく速度を遥かに上回り、ついには宮本の竹刀を彼女の手首まで凍らせてしまう。
「ソードロードは単純な力比べではありませんのよ? 策略やPPの使い方が物を言う戦いですわ。貴女の今後を思って言うのであれば、貴女はもう少し素直じゃなくなるべきですわね」
椿の言葉には有無を言わせぬ納得感があった。
二人は同い年であるのに、この力量差。
恐らくは経験している修羅場の数が違うのだろう。
数をこなしているからこそ出来るであろう椿の戦い方。
それらが、二人の差を顕著に表す。
「でも、貴方はなかなか出来る方でしたわよ? 私に能力を使わせるなんて誰にでも出来る事じゃありませんもの」
悔しそうに、怒る宮本。
彼女の眼の奥に灯る炎はまだ消えたわけではない。
彼女はまだ、戦いを諦めていなかった。
その証拠に、先ほどから凍らされた手を溶かそうと奮起しているようだ。
それか、凍りついたままでも椿に一撃をお見舞いしようとしているようだった。
けれども、そのどちらも叶う事は無い。
凍りついたまま椿の剣に抑えられている宮本の竹刀は、ピクリとも動かなかった。
「最後まで諦めないその姿勢。私は、嫌いじゃありませんわ」
椿は宮本の腹を蹴り、コートアウト寸前のところまで蹴り飛ばす。
そして、倒れた宮本に対して残酷な二択を迫る。
「このまま潔く負けを認めて自分からコートの外に出るか、私に嬲られて惨めな姿を晒し続けるか。好きな方を選んでいいですわよ」
彼女の言葉に宮本は一瞬だけ躊躇の表情を見せる。
その少し後、彼女はうわ言を呟くかの様に、許しを乞う様にこう言った。
「部長、すみません。あの時の言葉、嘘のままにするつもりでしたが嘘に出来そうにありません」
その言葉が何を意味するのか、ある一人の人物以外には理解できなかっただろう。
しかし、彼女がその言葉を伝えたかった一人に言葉は届いていたようだ。
その者は、卯佐美は優しく宮本に呟く。
「それでこそ、姫奈ちゃんだぴょん。後の事は心配しなくて大丈夫だよ」
それを聞いた宮本は安心そうな、ホッとしたかのような顔をする。
直ぐに、彼女は腹を括ったかのような表情に戻り何かを詠唱し始める。
『我、此の身焦がしこの命燃え尽きようとも敵を討ち滅ぼさんと欲す。黒に染まりし者よ、契約に従い我が命を糧とし敵を打ち払え』
「その詠唱っ……、貴女っ!?」
何故、必殺技には名前がついているのか。
何故、魔法には詠唱があるのか。
様々な説があるが、ソードロードを嗜む者が言葉にして技の名前を言うのには意味がある。
言霊だ。
その言葉に意味を乗せて、自身の技をより強く届けたいという思いがある。
若しくは、自分の力量では足りない技を使うために言葉で力を補う。
どちらにせよ、言葉には意味がある。
そして、彼女の詠唱は彼女の決意でもあった。




