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剣の道  作者: 底虎
vs剣皇編
83/138

蛇腹剣

「それでは、これより剣皇高校と桐木高校の練習試合を執り行います。両校、前へ」


審判の号令と共に、両校の代表選手が整列しお互いに礼をする。

その時、サルが何かに気が付いたのか隣に居た武田に耳打ちをする。


「(あれって、もしかしてアイドルの螺志渡レミじゃないっすか?)」


「(えぇ、そうね)」


「(後で、サインとか貰いに行っても大丈夫っすかね?)」


「(……彼女の試合が終わった後もそう思えるならいいんじゃないかしら?)」


どこか含みのある言い方にサルは首をかしげる。

桐木の2年生以上のメンバーは彼女の本性を知っていたりする。

不思議そうに、チラチラと百合谷を覗くサル。

そんな彼に、ファンサービスの一環ではあるのだろうがニコリと微笑み手を振って返す彼女。

彼女には底知れないプロ意識があった。

裏表の激しすぎる彼女に、剣皇サイドの面々は苦笑いをこぼす。

ベンチに戻る際にニヤニヤと笑う菫見の足を踏みつけ、ベンチに戻ったら下を向いて笑いを堪えていた龍斗に無言で腹パン。

その間も、張り付けた営業スマイルが剥がれることはなかった。

これが、百合谷のプロ根性と言う物である。


「第一試合先鋒戦を行います、両選手前へ」


両陣営から先鋒戦を戦う二人が前へ出てくる。

二人の顔は互いに勝利を確信したような、自信にあふれた表情だ。

戦いへの緊張や、心配など彼女たちには一切なかった。

所定位置につくと、お互いに武器を構える。

宮本は二振りの竹刀を、椿は剣を構えるがその形状は不思議なものだった。

刀身に節があり、いくつかのパーツに分かれているかのような形状の剣。

宮本もその武器を初めてみるのか、不思議そうに彼女の武器を眺める。


「これは、インドで発祥したウルミという剣を参考に創られた物で、蛇腹剣と言いますわ」


彼女が武器について軽く紹介すると、審判がタイミングよく試合開始を告げる。

だが、椿は動く気配を見せず、自分の武器の紹介を続ける。


「鞭剣というと分かりやすいかもしれませんわね。まあ、これもオーバーテクノロジーあっての武器ですわ。さて、どういう武器か見せて差し上げます」


そう言うと、ようやく椿は動き始める。

彼女は、その場で軽く素振りをするように剣を振る。

すると、驚くべきことに剣が節毎に分かれていき、鞭のように伸びてしなりながら宮本を襲う。

椿にとって軽いジャブの様な攻撃だったためか、予想外の攻撃を軽く躱して見せる宮本。


「そういう、ビックリ機能は最後まで取っておいた方が良かったのではないか?」


「いえいえ、貴方と私の実力差ではこれくらいしても足りません事よ」


椿は語尾に「オーッホッホ」とテンプレートなお嬢様口調が付きそうな勢いで宮本を挑発する。

その挑発に乗る形で、宮本は何の策も無しに椿に突っ込んでいく。

彼女が、慎重にもならずに椿に突っ込めたのはある一つの精神的余裕が彼女にあったからだ。

それは、二人の能力にある。

宮本の能力は炎なのに対して、椿の能力は氷。

能力的には宮本が優位に立っていた。

椿も宮本もお互いに二つ名を持つほど有名な選手だ。

お互いの能力を把握していても何ら不思議なことは無い。

だからこそ、宮本は椿の能力を知っており精神的余裕を保つことが出来ていた。

宮本の剣撃を軽く受け止めてみせる椿。

先程は鞭のように柔軟に曲がっていたはずの剣は宮本の一撃を受け止めても、剣の形を保ったままだった。

宮本が椿に打ったのは右の竹刀。

彼女は空いている左の竹刀で椿に攻撃を仕掛ける。

すると、椿は宮本の右の竹刀を弾き、左の竹刀を躱し逆に剣の形態の蛇腹剣で宮本に反撃する。

攻撃が防がれた宮本はバックステップで椿と距離を取り攻撃をかわそうとする。

しかし、伸びていなかったはずの剣が途中で伸び出して、距離を取ろうとする宮本に襲い掛かる。

予想外の動きに、宮本は椿からの攻撃を避けられず直撃してしまう。


「あらあら、折角教えて差し上げましたのにもう剣が伸びることを忘れてしまったんですの?」


大したダメージではなかったのか、直ぐに起き上がる宮本。

彼女は額に汗を浮かべながらニヤリと笑う。

相手が強者であると再確認し、彼女は喜んでいた。

そして、また接近戦を仕掛けに行く宮本。

けれども、二人の間には実力差があったのかもしれない。

何度、攻撃を仕掛けようとも最終的には鞭形態の蛇腹剣の一撃を喰らってしまう宮本。


「もう少し出来るかと思っていましたが、口ほどにもないですわね」


少し残念そうに宮本を見る椿。

どうやら、宮本の実力は彼女の想像の下を行っていたらしい。

そんな彼女に対し、宮本はまだ余裕そうな表情を崩さない。


「3メートル50センチ……、いやお前の事だ最大はもう少し長そうだな。およそ5メートルだろうか」


宮本は何かを呟くように言う。

その言葉に試合会場にいた者はキョトンとした顔をする。

彼女が何を言っているか把握できたものはごく少数だった。

彼女と相対していた椿は、周りの反応とは裏腹に彼女の言葉を聞いて驚きの表情を浮かべる。


「最大まで伸ばすのに、全力でやればスナイパーの弾丸が飛んでくるよりも早そうだな。まあ、気を付けることにするか」


次の宮本の言葉で段々と会場にいた者達は宮本の言葉の意味を悟り始める。

その言葉は椿に更なる動揺を与える。


「貴女っ、まさかこの剣を測る為に敢えて攻撃を喰らっていた訳ですの!?」


「敢えて、か……。まあ、分からなかったからどちらにせよお前の攻撃は避けられなかったぞ?」


涼しそうに言う宮本。

それに対し、椿は若干の焦りを見せる。

彼女はどうやら宮本姫奈という人間を低く見積もり過ぎていたらしい。

初見で、しかも短時間で蛇腹剣の構造と特性を見抜かれるとは想像していなかったことだろう。

実の所、椿は蛇腹剣の伸長による突攻撃を奥の手として取っておくつもりだった。

最初に情報を明かしたのは、それ以外に能力が無いと錯覚させるため。

けれども、宮本はそれを見抜いて見せた。

この瞬間、形勢は完全に逆転したと言っても過言ではない。


「そろそろ、反撃と行かせてもらうぞっ!」

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