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剣の道  作者: 底虎
出会い編
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不思議であやしい

 帰り道、僕達3人の会話はソードロード部や先輩の話で持ちきりだった。


「しかし、先輩達はスゴい動きをしてたよな」


「確かに。僕達も鍛えればいずれあんな風に動けるようになるのかな?」


「あの動きもオーバテクノロジーだったりするかもですよ」


 美子の言うとおりだ。

 今日1日だけで、数えきれないほどオーバーテクノロジーという言葉が出てきた。

 あの言葉は信じられないほど便利だよなあ…。


 宮本先輩も今になって考えてみたら、朝からスゴい人だったと思う。

 朝、僕が彼女とぶつかった瞬間、彼女は不意に僕にぶつかられたはずなのに微動だにすらしなかった。

 だからこそ、僕はあの時、まるで壁にでもぶつかったのかと錯覚したのだ。

 …実は、あの柔らかさもオーバーテクノロジーだったりして。

 折角だし、明日聞いてみよう。

 先輩は寛大な人っぽいし、大丈夫だろう。


 

「じゃあ、私はこっちなのでまた明日なのです!」


  途中まで通学路が一緒の美子と別れサルと二人になる。

  すると、 美子の姿が完全に見えなくなったくらいだろうか、突然サルが


「なあ、お前どうするんだ?」


  そう、いつになく真剣に問いかけててくる。

 どうするって…?

 部活の事だろうか?

 僕は自分の中でわからないふりをする。

 でも本当は、その言葉の意味を分かっていた。

 僕はなにも言うことが出来ない。


 二人の間に流れる沈黙をサルが破る。


「美子の気持ちも考えてやったらどうだ?あいつがお前に向ける感情がわからない訳じゃないだろうっ?」


  少し叫び気味に彼は言う。

 ああ、やっぱりそう言うことか。


「美子から好意に近い感情を向けられていることは分かってるよっ。僕だって、そこまで鈍感な訳じゃない。」


 ただ、彼女の気持ちに対する答えをだす事なんて出来ない。

 もう、遠い昔の話だって分かってる。

 でも、僕は彼女に…


 昔、といっても僕たちがまだ小さいころの話だ。

 僕と美子はいわゆる犬猿の仲だった。

 決して、昔から仲が良かったわけではない。

 しかし、ある事件をきっかけに僕たち二人は今のような、どこか歪にゆがんでいるような関係となってしまった。

 そんなことを考えていると、また沈黙が訪れる。


 そして、サルが伏し目がちになりながら僕にまたも問いかける。


「お前、やっぱりまだあの事を気にして…」


「……」


 図星だ。

 僕は、そのサルの言葉に返す言葉を見つけることが出来なかった。

 ただ、サルもそこまで深くは追求する気がなかったらしく、この話題がこれ以上続くことは無かった。


「まあ、今すぐに答えなきゃいけないものでもないか。」

 こんな話をしちまって悪かったな。とサルは謝る。

 そして3度目の沈黙。

 しかしながら、重くなった雰囲気が払われることがなかった。

 ついに僕達は、別れるまでお互いに何も話さなかった。

 別れ際にサルが、「また明日」と言う。

 僕も短く「ああ、また明日」と一言。

 僕の、非日常的な学校生活の1日目は重い空気を孕んで終了する。



「ただいまー」


「おう、遅かったな」


「親父が、出迎えてくれるなんて珍しいな。今日は竹をいじって無くていいのか?」


 本当に珍しい。

 僕のおやじは、暇さえあれば、工房で竹や木材と戯れているような人物だ。


「たまたまだよ。たまたま。それより、なんかいうことあるんじゃないのか?」


 言うこと…。

 確かに言いたいこととか聞きたいことが沢山ある。

 でも、なんで親父はこんなこと聞くのだろう?

 少し怪しみつつも、とりあえず気になっていることを聞いてみる。


「あ、そういえば親父はその、…ソードロードって知ってる?」


 先ほどタケねえから聞いた話では、うちはソードロード用の装備を取り扱っているらしくその真偽を確かめたかった。

 でも、案外自分からこの名前を口にするのは少し恥ずかしいな。

 そう思った僕は思わず赤面してしまう。

 僕はそれを隠すためにとっさにうつむいた。


「…誰から聞いたんだ?」


 うつむいてしまったせいで、親父の表情が見えない。

 でも、いつになく真剣だな。


「実は、俺ソードロード部に誘われて、それで…俺ソードロードをやってみたいんだ」


「大体わかった。お前がその気なら俺は、止めはしねえよ。母さんには上手く俺から言っておいてやる。」


 そういうと、まるで僕のその言葉を言うためにここまで来たかのように、言い終わるとすぐに工房の中へと戻っていく。


「何が、たまたまだよ」


 先ほどから絶対に親父は何か、わかっていたような素振りだ。 

 なんとなく、僕は親父に見透かされていたような気分になった。

 すると、突然工房のドアに手をかけた親父の動きがピタッと止まる。


「秀吉君も、一緒にやるのかい?」


「多分」


「そうか、ならお前のと合わせて美子ちゃんと秀吉君にもとびっきりのをこしらえてやる。ちょっと遅めの入学祝いだ。」


「サンキュ」


 あれ…?

 僕は、素直に感謝しながらあることを疑問に思う。

 でも何で3人ともやるってわかったんだ?

 美子が激しい運動を得意としないことは僕たちの小さい時を見守ってきた親父なら知っているはずだ。

 それなのに、まるで美子も一緒にやると、わかったような口ぶり…。

 そして、先回りして知っていたかのような僕の真意。

 本当に、何がたまたまだよ。

 実は最初から知ってて待ってたんじゃないか。

「やっぱり、わかってたのかよ」と僕が父に問いかける。

 しかし、「たまたまだ」と軽くあしらわれてしまった。

 答えをはぐらかされた僕は、 きっと、先に家についた美子が親に相談したことによって、幹日宅から電話で相談を受けたとかそんな感じだろうと自分なりに納得した答えをだした。

確か、親父たちは同級生で仲良かったらしいしな。


 そこで、ふと美子の家がかなり厳しかったのを思い出す。

 あんな、聞いただけじゃ想像もできない部活じゃOKもらえないよな?


「あ…。でも美子の家はやっぱ厳しいしダメっていわれるんじゃ?」


 しかし、僕の言葉は工房のドアに吸い込まれ、父には届かなかったようだ。




 次の日の朝、昨晩の就寝間近に突然来た


「明日から、一緒に通学しましょう。サル君も誘って。」


 という、美子からの一方的な招集命令により僕は遅刻しないように早めに家を出たのだった。


「お、剣太郎じゃん。今日は早いんだな」


「おはよ。今日は少し早めに出たはずなのに、サルは来るの早いな」


「まあな」


 昨日のシリアルムードとは打って変わって、僕たちは明るかった。

 昨日の雰囲気をずるずると引きずっても仕方ない。お互いにそう言いっているようにも感じとられた。


「そういえば、サルは部活のOKでた?」


「おう!ばっちし貰ってきたぜ。」


「よかった。これからお互い頑張ろうな」


「そういえば、背中に何背負ってるんだ?」


 サルは僕の背中にある背中から大きくはみ出た、結構大きめな布袋を指さして言う。


「ああ、これか?」といって、僕の親父が練習用にと僕たち3人分の竹刀 (オーバーテクノロージー入り)を持たせてくれたことを説明する。


「おおっ。流石は親父さん。話が分かる男ってのは違うな~」


「その口ぶりからして、もしかして相当反対されたのか?」


「ああ、聞いてくれよ。俺の親は俺が頭おかしくなったと思って救急車呼ぼうとしてたんだよ」


 あははっと思わず苦笑してしまう。

 確かに、いきなりそんなこと言ったって信じられないよな。


「美子は説得できてるといいな」


「なあ、剣太郎はどう思う?説得できたかできなかったか。」



「どうかな…。でも、親父が昨日変なこと言ってたんだよな」


 僕はそう前置きを置いて、昨日あった出来事を、説明する。


「確かに不思議だな。でも、親父さんがそういうってことは、きっと美子の両親もそんなに反対しなかったんじゃないのか?」


「まあ、考えても仕方ないか。そろそろ時間だし、来るのが楽しみだな。」



 僕たちはチラチラと周りをうかがう。

 先ほどから、それを目に入れないようには気を付けていた。

 いきなり、不思議な光景に驚き、僕もサルもつい、見なかったことにしていた光景があった。

 それを、ついにしびれを切らした僕がサルに対してこの光景について聞いてみる。


「しっかし、ここって有名な待ち合わせスポットなのか?」


「おいおい、こんな何の変哲もないただの十字路がそんなスポットだと?」


「なあ、サル。それ周りをよく見た後でもういっぺん言ってくれないか?」


 僕たち二人の周りには、いや、僕が来た時にはすでに、6,7人の全身黒タイツな人物が佇んでいた。

 その、異質な黒タイツのせいか、同じ制服を着た生徒はなかなかここを通ろうとしない。

 僕だってサルがいなかったらこんなところには来たくなかったんだけどな。



「おい、剣太郎。さっきからあいつらなんなんだよ?」


「しらないよ!むしろ、ここに先に来てたのはサルでしょ、なんか知らないの?」


「知るか。俺が来た時からいたんだよ」


「サル…よくこんな中一人で待ってられたな」


「仕方ないだろ。約束は約束なんだから」



 二人がこそこそと話し合っていると、ちょうど待ち合わせ時刻になったのだろうか、


「お待たせしたのです!でも、今日はなんか変な人が多いのですね?」


 そう言って美子が現れる。

 すると、美子が現れた瞬間一斉に先ほどまで全然動かなかった黒タイツが動き出す。

 そして、鮮やかな手際で美子を拘束する。

 それに気づき僕たちが阻止しようとするが、突然のことに対応が間に合わない。

 5人ほどが、一瞬のうちにどこかへ美子を連れて行ってしまう。

 残った黒タイツたちは、


「彼女は預かった。返してほしければこの地図の場所まで来るんだな。」


 そう言い残して一目散にどこかの家の屋根をつたって逃げて行った。

 僕達もあわてて追いかけようとするも、あまりの出来事に思わず見失ってしまう。

 あの、鮮やかな動きは昨日の先輩たちの動きにどこか通じる部分があるな。


「こりゃ、厄介なことになったな」


「そうだね。とりあえずこの地図の場所に行ってみようか」


 罠かもしれないが、僕たちが持っている彼女への手がかりはそれしかなかった。


「なあ、剣太郎。こんな時に不謹慎かもしれねえが、なぜだか、俺はニヤニヤが止まらねえ」


「なんだ、サルもか。僕も、実はこのオーバーテクノロジーをこんなに早く使えそうで楽しみだよ」


 まさか、練習用と言って渡された竹刀をこんなにも早く使えるとは。

 何故だか僕は、誘拐犯への怒りと同時に、心が躍ってしまった。

 日常という檻を飛び出し、非日常へと足を踏み入れんとしている僕たちは少し嬉々としながらも鬼気迫る勢いで美子を奪還しに向かうのだった。


 だけど、僕はまだ知らなかった。

 早く美子を救出しなければ、今日もまた遅刻してしまうということに。




 そんな、誘拐劇の一部始終を覗き見るものがいた。

 彼らがいた、十字路の少し向こう側にあるマンションの屋上で、金髪の少女は双眼鏡を片手に事を眺めていた。


「ふふっ。桐木の新入生ルーキーの実力計らせてもらうわよ」


 そして、少女は片手を腰に当て、オーホッホと一人高笑いする。



 もう一人、誘拐劇を見ていたものがいた。

 その少女は金髪の少女とは対照的に、意図せずにその誘拐劇を目撃してしまう。


「……あれって、昨日の。…それにあれ、剣太郎?」


 それは偶然にも、彼らのことを昨日覗き見ていた、少女であった。

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