衝撃のオーダー
剣皇戦でのレギュラー選考の為の校内戦が行われる。
しかし、その戦いに剣太郎は参加することすら許されていなかった。
言ってしまえば運なのだが、彼は試合出場へのチャンスを失ってしまう。
失意の剣太郎を無視するかのように無情にも、選考は進行していく。
剣太郎の為を思い、後衛である美子は辞退を申し出て自分の校内戦の枠を剣太郎に譲るように部長である卯佐美に進言したのだが、それは却下されてしまう。
「美子ちゃん、潔く退いた剣太郎くんの為にもそれ以上言うのはやめるぴょん」
「……っ!」
卯佐美の一言で美子はなにも言えなくなってしまう。
彼女は申し訳なさそうに顔を伏せる。
「さて、残ったメンバーで試合を行ってもらうぴょん。オーダーはもう決めてあるぴょん」
(オーダーが決めてある……?もしかして剣君にクジを最初に引かせたのって……)
美子は何かを悟った顔をする。
彼女は卯佐美の一言からある事に引っ掛かりそれを確かめたいと考えた。
残りのクジについてだ。
彼女がそれを卯佐美に追求しようと口を開こうとしたとき、感じたことの無い威圧感が彼女を襲う。
美子は、威圧感から出てきた言葉を思わず飲み込んでしまう。
威圧感の主は卯佐美だった。
彼女はニコニコと笑いながら美子にだけわかるようにコソッと人差し指を口に当てる。
その事は黙っていろ。
卯佐美は暗にそう訴える。
幸か不幸か、美子が気付いた疑問や卯佐美の動作を他の面々は気付いていなかった。
「さて、第一試合はサル君vs幸ちゃんだよ! 二人とも頑張るぴょん!」
そのオーダーは部員に衝撃をもたらす。
彼らはてっきり2年生対1年生で戦い、負けた1年生の方にもチャンスが回るようにオーダーが組まれているかと思っていたのだ。
先程の試合内容を重視するという言葉は不利な1年生に対する救済措置なんかでは無かったのかも知れない。
このオーダーで最も動揺しているのは恐らく2年生達だろう。
自分以外の誰かと戦う事になる。
彼らの実力は単純に比べられるものでもなく、状況が違えば試合結果など簡単にひっくり返ってしまう。
しかし、有無を言わさず卯佐美は試合をする二人以外をコーチから出るように命じる。
「(私、勘のいい子は大好きだぴょん。剣太郎君については悪いようにしないからさっきの事は黙っててね?)」
コートから出るとき、コソッと美子に耳打ちをする。
そして、何かを言おうとする美子にウィンクをして審判をするために美子がいる場所とは反対側へと歩いていく。
「まさか、同じ1年生同士で当たるとはな。幸ちゃんには悪いが手加減無しで行かせてもらうぜ」
「……手加減なんてさせないよ? ……特訓の成果を見せてあげる」
そう言って、二人は武器ケースから武器を取り出す。
しかし、幸が取り出したのは彼らが見慣れた彼女のスナイパーライフルではなく、二丁の拳銃だった。
「おいおい、もしかして今まで部活に顔を出さなかったのって……」
「……黒田先生にお願いして稽古をつけてもらったんだ。いくよっ、本気でっ!」
サルは幸と当たると知って、内心では安心していた。
彼女は確かに強いが、1対1ならば勝ち目は十二分にあると。
しかし、今はどうだろうか?
黒田との戦いでは手も足もでなかったサル。
彼女ほど強くはないとはいえ、恐らく戦闘スタイルはサルが苦手とするスピードタイプなのだろう。
予想外に苦戦しそうな戦いにサルは逆に笑みを溢す。
「やっぱ簡単には勝たせてくれないか」
その言葉と共に、サルは鉄塊を幸目掛けて投じる。
しかし、その攻撃はサルから離れてすぐに撃ち落とされてしまう。
射撃モーションは黒田ほどではないが、速かった。
すぐさま幸はサルに反撃の射撃をする。
雷を帯びてはいないものの、当たればダメージは免れない。
「この前みたいに、電撃を纏わせてくれてもいいんだぜ?」
「……そっか、それじゃあいくよ。……完全充電」
そう言う幸は、弾丸ではなく自身に電撃を纏う。
バチバチと幸自身が青白く発光する。
「こんなの聞いてねえよ」
サルがそう言い終わるのと同時に、一瞬の内に間合いを詰めた幸がサルの腹に蹴りを入れる。
突然の出来事にサルはろくに防御も出来ず、吹き飛ばされる。
「幸の奴、いつの間にあんなに強くなってたんだよ」
「流石は、俺の妹だな。剣太郎もうかうかしてると、前衛ですら勝てなくなるぜ?」
「ちょっ、あれを見せられたらそれが冗談に聞こえないんですけど……」
「安心しろって。あれって元は俺の技なんだけど、実は致命的な弱点があるんだよな」
「え?」
「まあ、見てれば分かるって」
そう言われて、肝心なところは昌からはぐらかされてしまう剣太郎。
あの技の弱点も気になるが、兄妹で技を伝授すると言うことの方が彼には関心が大きかった。
(さや姉ちゃんにも頼んだら戦い方教えてくれるかな?)
思えば、辻も姉から技を教わっていたと剣太郎は以前に聞かされたことがある。
案外、兄妹で技を共有するのはポピュラーな事だと思ってしまう剣太郎。
彼がそう考えている間にも試合は進行していた。
試合は、一方的。
幸がスピードと攻撃でサルを圧倒していた。
サルも何とか耐えてはいるものの、彼の防御が破られるのも時間の問題だろう。
試合が経過するにつれ練習場には、サルの能力の痕跡が鉄片として蓄積されていく。
「幸ちゃんの攻撃に耐えるの辛かったぜ! でもこれでおしまいだ。巨兵装甲!」
彼がそう言うと、散らばっていた鉄片が集まりまたそれを繋ぎ合わせるかのように液状の鉄が隙間を埋め、巨大な鎚を形成する。
「うおおおおおおおっ」
そして、鎚を幸目掛けて降り下ろす。
絶体絶命かと思われた幸。
しかし、彼女はまだ焦ってはいなかった。
「電磁領域」
彼女の言葉と共に、彼女の横少し離れた場所に青白い光りの玉が現れる。
そして、サルの攻撃はそれに吸い込まれていく。
何とか軌道を変えようとするサルだったが、鎚は青白い光があった場所から動こうとしない。
「これで、止めっ!」
今なら、銃を撃てば確実にサルを仕留められただろう。
けれども、彼女は銃を撃たずに接近攻撃を仕掛けた。
いや、彼女は銃を撃てなかったのだ。
ソードロードの武器は多くが木製もしくはゴムなどで形成されているが、武器によってはどうしても金属を使ってしまうものがある。
それに対抗するための電磁領域だ。
強力な電磁力により、武器をそらし一瞬の隙を作るために作られた技だ。
しかし、欠点は自分も武器が使えないのと多くのPPを使用することだ。
そのため彼女は接近するしかなかった。
ただ、それが決め手となる。
「武装解除」
サルは鎚から、柄の部分だけを取り出し向かってくる幸へ付きでカウンターを決める。
吹き飛ばされる幸。
彼女は吹き飛ばされながら、青白い発光を失う。
「あの技、PPの消費が激しいんだよ。特に近接が苦手な幸はその分多く電撃を纏って身体能力を向上させなきゃならねえ」
幸が電撃による戦闘補助を失った今、試合はサルの勝利で締め括られた。
「そこまでっ。勝者サル君だぴょん」




