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剣の道  作者: 底虎
出会い編
6/138

長く濃い1日

 二人の先輩の戦いは予想だにしない形で幕を下ろすこととなった。

 それは、僕たちが二人の戦いに夢中になっている間に現れた人物の介入による試合の終了だった。


 最初にその人物を見て思ったのは"肉"という言葉だろう。

 圧倒的にまで鍛えられた筋肉。

 そして、まるで日焼けサロンで焼いてきたのかと思うほどに黒い皮膚。

 さらに、スキンヘッド。

 どこかの国の軍人かと思ってしまう風貌の男は二人の攻撃を軽々と両手で受け止める。


「今日はぁ~こ・こ・ま・で♪」


 その男は、その身にまるで似合わないような言葉を発する。

 って違和感あり過ぎだろう!?

 しかも、めっちゃ渋くていい声。

 最早、高校生とは思えない謎の男の登場に、思わ驚きや恐怖からか僕たちは身動きができなくなる。

 きっと、蛇に睨まれたカエルというのはこんな気分なのだろう。


「確かに、手ぇ抜いてるみたいだけどぉ、流石に必殺技をぶつけ合うのは危ないわよ」


 渋い声とは対象に、ねっとりとしたしゃべり方。

 聞いているだけで、思わずくらくらしてしまいそうだ。

 しかし、注意されている当の本人たちは試合を楽しんでいたからかかなり不服そうな顔をしていた。

 そんな不満を払しょくするかのように、「それに」と付け加える。


「このままやってたら、昌ちゃんの下半身にも、ダメージがかなりいったんじゃぁない?」


なんか、今下半身って言葉を強調していたような…。

これ以上は危険だと判断し、僕はツッコまない。 

しかし、その一言で、二人は真田先輩の防具がシャツ一枚だったことを思い出したかのような顔をする。

 そして、二人をうまくなだめたオカマは改めてこちらに向き直り、驚かせてごめんねぇと謝った。

 真田先輩といい、宮本先輩といいどうやらここの部活の住人は人を驚かせてしまう癖でもあるのだろうか?

 僕は一瞬本気で考えてしまう。


「そういえば、自己紹介がまだだったわよね。あたしの名前は武田剛士たけだたけし。二人と同じ2年生よん♪」


 なんだと…。サルよりも全然大きい体格、そして、圧倒的威圧感からか僕は彼(?)のことを生徒ではなく顧問だと思ってしまっていた。

 しかも、学年は僕たちの1つ上ときた。

 もしかしたらこの先輩の存在が今日一番の驚きかもしれない。


「あたしの事は気軽にタケねえとでも呼んでねぇ」


 自分から、あだ名の指定してきちゃったよ・・・。

 ちなみに先輩二人からはタケちゃん呼びで呼ばせているらしい。

 とりあえず、僕たちも自己紹介をする。


「なるほど、なるほどぉ。じゃあ、剣ちゃん、秀吉、ミコっちでいいかしらぁ?」


「ちょっと、待ってくださいよ!武田先輩。なんで俺だけ名前呼びなんですか?」


「「ジェラシー?」」


 あだ名付けてもらった組の僕と美子の声がハモる。


「ちげえよ、なんかさっきからねっとりとした視線を感じて少し嫌な予感がしただけだ」


「………。」


しかし、サルの問いかけには全く反応としない。


「おーい、武田先輩?」


「………。」


「……タケねえ?」


根負けしたサルは、先ほど指定されたあだ名で呼んでみる。

すると、「はぁい♪」と言って彼が反応する。

どうやら、僕たちは彼の事をタケねえと呼ばなければならなくなったようだ。


「で、どうして俺だけ名前呼びなんですか?」


「色男だからよぉ」


 サル、ご愁傷様。

 僕は心の中で手を合わせる。

 僕は目を付けられなくてよかった・・・。

 しかし、そう安心できたのはほんの一瞬だけであった。


「別に剣ちゃんが嫌いってわけじゃないのよぅ。ただ、剣ちゃんは守ってあげたくなるような、オーラを出してるからちゃんを付けてるだけよ」


 安心なんてなかったんだ。

 タケねえの一言で脂汗がドバっと出てくる。



「そういえば、剣ちゃんの名字って御剣よね?」


「そうですけど?」


「もしかして、剣道屋みつるぎの御剣さん家の息子さんかしらぁ~?」


 そう、うちの親父はというよりも御剣家は代々、剣道用具専門店を営んでいた。

 そもそも、人が入っているところを僕はめったに見かけたことがないのだが生計が成り立っているという不思議な家業だ。

 というよりも、何で知ってるんだ?


「…ストーカー?」 


先ほどの事もあってか、僕の顔が思わずひきつる。


「あら、やだ。ストーカーとかじゃないわよぅ。ただ、お得意さんだし珍しい名字だったから聞いてみただけよ?」


 僕はめったに見かけない貴重なお得意様を発見してしまったようだ。


「そういうことだったんですね。でも、よくあんないつ潰れてもおかしくない様なお店に通ってますね」


「潰れないわよぅ。だってあなたのおうちはソードロード用武器の製作販売がメインですもの」


「ええええええっ」


 15年間生きていて初めて知った衝撃の新事実だ。

 さっきまで、非日常だとか思ってたけどめっちゃ日常じゃん。

 日常すぎるよ。

 意外なことにそのことに驚いたのは僕だけではなかった。

 というか、僕たち3人は当然としても、宮本先輩と真田先輩までびっくりしていた。


「こんな近くに武器専門店があったのならなぜ教えてくれなかったのだ」


「だってぇ、二人ともいつもどこかからか武器を仕入れていたりしたからてっきり自分のお店を見つけてるかと思ったのよぉ」


「そもそも、そんなに沢山お店があるのです?」


「沢山はないな。私はいつも電車で1時間ほどかけて都心まで買いに行っていたんだ」


「ていうか、店なんてあったのかよ!?」


 真田先輩はどうやらそういう店があるということすら知らなかったらしい。

 でも、知らないならどうやって武器を手に入れてたんだ?

 どうやら、同じことを考えていたらしいサルが質問を投げかける。


「いや、俺は普通にネットショッピングでポチッとしてるだけなんだよ」


 ネットで買えちゃうのかよ!?僕的にはそっちの方が驚きだ。


「でも、まあ剣ちゃんはラッキーよね」


「ああ、武器を親父に頼めるからですか?」


「それもあるけどぉ、親に入部届の同意書書いてもらうの楽じゃない」


 あ…。

 すっかり失念していた。

 うちの学校では規則として、部活の入退部には原則保護者の同意が必要となる。

 自分でもよくわからない競技を人に説明するなんて至難の技だろう。

 ましてや、美子なんかはそれがとても大変だろう。

 なぜなら、彼女の家は割と大きめの神社であり、かなり厳格な家庭であることを幼馴染である僕は知っている。

 それに美子は…。

 僕の思考は他ならぬ美子の声によって遮られる。


「あの、とってもソードロード部楽しそうなのですが、私は運動が苦手で、多分私にはできないと思うのです。」


 だから、マネージャー業務とかでも大丈夫ですか?と美子は先輩たちに問いかける。


「んまぁ、そうなのねん。でも、大丈夫よ。個人戦なら話は別だけど団体戦の場合は、後衛に回れば運動神経とか関係ないから気にしなくても大・丈・夫♪」


 ん・・・?

 団体戦で後衛?

 剣道とはそもそも団体戦のルールが違うのだろうか?

 美子が、「えっと…」と口ごもったことで、タケねえは僕たちが団体戦の存在自体知らないということに気が付く。


「あら、昌ちゃんも姫奈も団体戦について教えてあげてないのぉっ?」


「時間がなくてだな・・・」


「ゴメン、妹の事しか考えてなかった」


 なんでだろう、2年生たちの会話を聞いていると一番存在がふざけているタケねえが一番まともに見えてしまう。


「仕方ないわねえ。副部長のあたしが責任もって教えてあげるわぁ♪」


 そして、衝撃の新事実。

確かにしっかりしている人だとは思ったけど、まさか副部長だったとは…。

 じゃあ、部長は誰なんだろう?

 宮本先輩なのかな?

 僕は、部長が誰か聞こうと思ったが、タケねえから団体戦の説明が始まり、聞きそびれてしまう。


タケねえの言っていた団体戦についてまとめるとこんな感じだ。



 ・各チーム1:1や三つ巴、中には5チームくらいが同時に戦うこともある

 ・チーム人数は試合によって変動するが下限5、上限10というのが相場らしい

 ・試合は、体育館のような狭い場所ではなく、無人島やオーバーテクノロジーによる地図上に存在しない人工島やVRヴァーチャルリアリティ空間における仮想市街戦など様々なフィールドがある。

 ・勝敗条件はリングアウトが無くなって、拠点制圧などの広いからこそできるような条件が課せられる



 およそ、この4つが主要なところ。

 

「しかし、思っていたよりもソードロードという競技は奥が深いんだな」


 「確かに、VR空間なんて、体験したことないから早く体験してみたいな」

 

「もしかして、この学校の豊富な設備のどこかにあるのです?」


「残念だけど、流石にそこまではないのよねぇ。近くにあるから今度みんなで行きましょっ」


 最後にぼそっと、「二人っきりでもいいわよ」とか聞こえたような聞こえなかったような…。

 すると、何やら考えていた様子の美子が口を開く。


「団体戦が個人戦と全然違うというのはわかったのですが、後衛って何をするです?」


 確かに、僕も気になる。

 先ほど、銃なんかも武器として存在していると宮本先輩が言っていたので狙撃だろうか?


「後衛はかなり重要だ」


 その質問に答えたのは宮本先輩だった。


「銃や弓なら狙撃や援護射撃。ドローンなら偵察。杖なら距離を取って前衛を封殺。」


 と他にも様々な役割について教えられる。

 でも、ドローンはありなんだろうか?

 使っている姿を想像するとちょっとシュールで思わずくすっと笑いがこぼれてしまう。

 武器は他にも存在するらしいが、メジャーなのがこのあたりらしい。


「それに、後衛に大抵チームの司令官的存在がいて、戦況を支持することが多いんだよ」


 そう答えたのは真田先輩だった。


「うーん、それなら私にもできるかもです。あと、杖でどうやって遠距離から攻撃するのです?」


 まさか、魔法なのですー?と美子は目を輝かせる。


「まあ、似たような物ね。私たちはそれを超能力って呼んでるわ。さっき二人が試合の最後に何か派手なことしようとしたでしょ?あれなんかがわかりやすい超能力の例かしら」


 やっぱり、あれは見間違いではなかったようだ。

 しかし、宇宙人の次は超能力か。段々とカオスになってきたな…。


「でも、俺たち超能力なんて使えないっすよ?」


「大・丈・夫♪私たちにはオーバーテクノロジーがあることを忘れたのかしら?」


 やっぱり、オーバーテクノロジーという言葉は便利な言葉だった。

 この一言だけで物事すべて解決してしまいそうな勢いである。


「それに、私たちの剣や槍はせいぜい武器に能力を纏わせたり、能力の発動補助くらいしかしてくれないのだが、杖は持ち主の超能力をふんだんに引き出し、増幅させることができるのだよ。だから遠方まで攻撃が届くのさ」


 宮本先輩の説明によってなんとなく杖のやばさに気が付く。


「超能力とか響きが強そうですし、遠くから前衛を封殺しやすいならみんな杖を使い始めちゃうんじゃないんですか?」


「まあ、いろいろと欠点もあるんだ。精神力や集中を多く要するし、主な攻撃が超能力だ。ガス欠でも起こしたらかなりつらい戦いになるだろう」


「それに、杖には超能力の適性がかなり関わってくるから誰もが使えるってわけじゃないのよぅ」


「でも、目を付けるところはいいと思うぞ。確か、うちの県内にも団体戦メンバーをすべて杖持ちで固めた学校があったはずだ」


 全員杖って、もはや別の競技だろ!?



「さて、そろそろ帰宅時間ね」


 タケねえの言葉で急に現実に戻されたかのような気分になる。

そして、先ほど聞きそびれたことを聞いてみる。


「そういえば、部長とか顧問ってどんな人なんですか?」


「あの人たちは、フリーダムで変わってる人達だから中々会えないんだよな。まあ、会えた時にまた説明してやるよ。あの人たちはかなり変わってるから」


 相当な変人である真田先輩から変わってるって言われるなんていったいどんな人たちなんだろう。

 それに、部長は宮本先輩だと勝手に勘違いしていたがどうやら違ったようだ。

 そして僕たちは行きと同様にエレベーターへと乗り込む。


 今思えば、今日という日は僕のこれまでの人生の中で、最も濃密な1日だったのではないだろうか。

 今日という日が終わってしまうことに若干の寂しさを覚えるが、また明日からもっと楽しい日々が始まると思うと今から楽しみで仕方ない。

 そんなことを思いながら僕たちは地上に上り帰路につくのだった。





「…あ、やっと倉庫から出てきた。」


 御剣達からは決して見えないような場所でずっと彼らが入っていた倉庫を見ていた少女はひとり呟く。


「…ふうん、あれがソードロード部なんだ。……意外と人多いじゃん」


 彼女は意外の欠片も顔に浮かべずに独り言を続ける。

 そして、彼らの姿が消えたのを確認して、満足そうな表情を浮かべる。


「…あいつら、あの部活に入っちゃうのかな?…ちょっと興味深いかも」


 そう呟いて、少女は夕闇の中へと消えていくのであった。

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