先輩たちの戦い
今から、ソードロードを行うであろう先輩達はおよそ、バスケットボールのコート1面分くらいの大きさのコートに立っていた。
前衛的ながらも、気高さや美しさを感じさせる防具と少し短めの竹刀を両手に持った二刀流の宮本姫奈。
相対するのは、制服の下に身に付けていたらしいアンダーウェアのような練習着を身に付け、槍を持った真田昌。
二人の先輩の戦いが今、始まろうとしていた。
「なあ、姫奈、下は防具着けてないから狙うなよ?」
「無論だ」
「下っていうか、Tシャツ一枚分しか無くて大丈夫なんすか?」
防具について、疑問に思ったサルが真田先輩に確認する
「オーバーテクノロジーのお陰で問題ないだぜ」
「いやいや、オーバーテクノロジー便利すぎますよね!?」
僕も今度、是非何かの言い訳に使ってみたい。
「このウェア1枚でおよそ上半身全ての防御力がぐっと上がるんだ」
「ただの布切れにしか見えないけれど、その割にはスゴい防御力なのです」
凄いよな、と真田先輩は言う。
すると、戦いたくて仕方ないのか宮本先輩がうずうずし始める。
「そろそろ、やるか。誰か、試合開始のコールをお願いできないか?」
「じゃあ、僕が」
そう言って僕がその役目を引き受ける。
二人が、コート上に描かれている所定位置と思われる場所に立ちお互いが武器を構えたのを見て僕は、試合開始を告げた。
直後、二人は目視できないほど早いスピードで動き出す。
あまりのスピードに僕は二人がどこかへ消え去ってしまったのかと錯覚する。
"ガキンッ"という大きな音で、二人をようやく発見する。
おいおい、木製の物体をぶつけて発生するような音じゃないだろ…。
その音は、真田先輩の槍が宮本先輩の脳天に向けて降り下ろされ、それを宮本先輩が頭上で二刀によって防ぐ音であった。
その光景によってようやく僕は真田先輩が先手をとったということに気がつく。
そして、少しの間膠着状態になる。
先程の一瞬を"動"とするならこの攻防は"静"であろう。
動きはないけれどギシギシと武器が擦れる音がコート外まで聞こえてくる。
しかし、その均衡もすぐに破られる。
「はああっ」という掛け声と共に宮本先輩は槍を跳ね返す。
次の瞬間、彼女は、真田先輩の懐へ潜り込み、腹に竹刀を叩き込んだ。
すると、攻撃をモロに喰らった真田先輩はまるでボールのように場外へと弾き飛ばされる。
「ああっ」と隣で熱心に観戦していたサルが漏らす。
それもそのはずだ、場外に出たら敗けなのに飛ばされていく真田先輩。
僕達3人はこれで決着がついたと思った。
けれども、二人の先輩はまだ戦っていた。
追い討ちをかけるためか宮本先輩は真田先輩の飛ばされた方向へ走る。
対して、真田先輩はコートの外に出てしまったというのに諦めの色を見せない。
「なんで、二人とも諦めてないんだよ…」
僕の声を聴いたのか、真田先輩は僕に向かって語りかける。
「男なら、簡単にあきらめるもんじゃないだろ?」
でも…。
もう真田先輩には打つ手がないじゃないか…。
でも、彼にあきらめの色は無かった。
まずい、このままじゃ地面についてしまう。
そう思ったのもつかの間、コート外に体が着きそうになったと同時に、槍を床に叩きつけた。
そして、しなった槍の反動で真田先輩はコートへと跳躍して戻っていく。
なるほど…!
そういうことか!
僕にはさっきまでの変態な先輩が少しかっこよく見えた。
彼には手が残されていないと思ったのは僕たちのルールの思い違いが原因だった。
「武器が地面についたら負けだと思ったぜ」
「僕も勘違いしてたよ」
だって、体の一部じゃないもんな。
だからこそ、コート外に弾き出されても、武器を用いて復帰が可能ということだ。
予想外の出来事に思わず僕達は、本日何回目かの驚き顔になる。
「後輩達の驚き顔ってのもいいもんだな。だがこのままじゃ、着地を狩られちまう。こっからが腕の見せどころってもんだぜ!」
「俺のカッコいい所見てろよ!」
と真田先輩が俺たちに向かって叫びかける。
そして地上にいる宮本先輩に向けて、まるで豪雨のような乱れ突きを放つ。
いくら刀が2本あるとはいえ、リーチ的にも突きを防ぎきるのは難しいだろう。
そして無数の突きが宮本先輩を捕らえた…かのように思われた。
しかし、槍は空を切る。
一体どこへ消えたんだ?
僕は目を皿にしてコートを見渡すが、見つけることがない。
またも、先輩の行方を教えてくれたのは音だった。
"ドン"という音が宮本先輩がどこにいるか伝える。
その音は、空中にいる真田先輩よりも更に上、練習場の天井を宮本先輩が蹴った音。
「なっ」
と真田先輩は驚く
対照的に宮本先輩は
「詰めが甘い」
と冷静に一言。
天井を蹴ったことによる加速で一気に距離を詰め、真田先輩にもう一撃喰らわせようと宮本先輩は突撃する。
しかし、それを寸での所で着地した真田先輩は槍で受け止め再び空中へと弾き返す。
ただ、宮本先輩はそれをものともしない。
空中で回転しながら体勢を建て直すと、真田先輩目掛けて武器を空振りする。
まるで何かの舞をしているかのように竹刀を振る。
「なんで、あんなことしてるんだ?」
「剣君、よく見るのです!斬撃がっ!」
美子が少し興奮気味に言う。
その言葉道理に目を凝らしてよく見てみる。
すると、どういうことだろう。
宮本先輩が空振りを重ねる度に、剣先からの"ゴウッ"という風を切る音と共に衝撃波が放たれていたのだ。
空中から降り注ぐ数多の斬撃を防げないと判断したのか、真田先輩は回避行動にでる。
しかし、全てを回避できなかったのか、何発かは真田先輩を掠めていく。
何も身に付けていない真田先輩の腕を衝撃波が掠めた瞬間、何もないはずの先輩の腕に、パソコンかなにかに生じるようなノイズやラグが生じたように見えた。
「なあ、今の…」
「ええ。多分あれが、無駄に高い防御力の正体だと思うのです」
その後、宮本先輩が着地し、お互いの間にまたも、"静"の時間が流れる。
それは、永遠のようで一瞬とも思える時間だった。
僕は思わず息を飲む。
「こんな戦い、見たことがない!」
戦いを通して、ソードロードという競技への魅力が僕の中でどんどんと大きくなるのが分かる。
いつまでも見ていてしまう、そんな戦いだった。
けれど、この"静"の空間から、次の一撃で決まるだろう、と僕は本能的に感じ取る。
それは、二人の先輩も同じだったらしい。
「これで決着をつける」と真田先輩が言う。
対する宮本先輩も「望むところだ」と。
「雷槍瞬突」
「舞え、炎刃よ」
二人がほぼ同時に必殺技のような決め台詞のような物を叫ぶ。
そして、お互いに一気に距離をつめる。
「「うおおおおおおおおおおおおおおおおっ」」
おいおい、ウソだろ…?
距離を詰める二者の武器には信じられないことに、刀には紅蓮の炎が纏われ、槍には電撃のような青白い光を纏っていた。
そして、二人は雌雄を決するべく激突する…はずだったのだが、二人の武器が交わることは無かった。
二人は、僕達が試合に熱中している間に、いつの間にか現れた第三者によって試合を強制的に止められる。
「今日はぁ~、こ・こ・ま・で♪」
二人の必殺技を受け止めながら、その人物は告げる。
その台詞と共に二人の先輩の戦いは終了したのだった。