ようこそ、ソードロードの世界へ
槍と双剣。
およそ普通の剣道からは、かけ離れた武器による戦いが繰り広げられる。
槍と双剣はどちらも見た目は木製にしか見えないというのに、二つの武器が打ち合うと木製の武器から放たれるとは思えない様な音が練習場に木霊する。
空を飛ぶように跳ね、踊りの様な攻撃が繰り広げられる。
そこには一般の常識など通用しない。
常識から激しく逸脱した戦いだった。
これこそが、"ソードロード"という競技の正体だ。
時はこの戦いからほんの少し遡る。
宮本に誘われ、彼女の言う"ソードロード"なる物を見学することにした剣太郎達は長い事歩かされていた。
安易に頷いてしまった彼らは、まさか練習場がこんなにも遠くにあるとは考えていなかったようだ。
「あー、もう。この学校どんだけ広いんだよ」
歩くのに飽きたのか、ついにサルがぼやき始める。
美子がそれをたしなめるも、彼女だって内心はサルと一緒だった。
歩くのに飽きた1年生たちに気を使ったのか、宮本がついでだからと言ってソードロードについて簡単に説明し始める。
「そもそも、ソードロード部って何なんです? 私が以前に学校見学に来た時にはそんな部活は存在していなかったと思うのですが……」
美子が言った言葉だったが、これは1年生全員が思っていたことだ。
彼ら3人で学校見学に訪れた時に、そのような部活は目にしていなかった。
その質問に宮本は少し考え込むような顔をしつつも、ゆっくりと答え始める。
「後で詳しく説明するが、ソードロードはあまり公にされてはいないんだ。競技内容については、剣道をかなりアクロバティックにしたものだと考えてくれれば分かりやすいはずだ」
「いやいや、アクロバティックな剣道ってなんですか!?」
剣太郎は理解できなかったようで、宮本に聞き返す。
しかし、彼の幼馴染はその一言でなぜか理解できたかのようで、彼女に相槌を打ち始める。
「なるほど。じゃあ、剣道のあの重い防具とかもつけないってことっすよね?」
あの一言で理解されないと思っていたのか、無駄に理解を示すサルや美子の反応に宮本の方が逆に驚いてしまう。
「あ、ああ。そうだが、よく分かったな……」
「でも、防具が薄ければ危ないのではないですか?」
「危なくは無いな。理由は、先ほど言った公にされていないという事にも関係してくるのだよ」
彼女の言葉に1年生3人の頭の上にはハテナマークが浮かび上がる。
今度は誰一人として理解を示せなかったようだ。
その、当たり前の反応に宮本はどこか嬉しそうに微笑む。
「オーバーテクノロジーという物を知ってるか? この世界には古くから、時代の技術を遥かに凌駕した技術が世界の裏で常に存在し続けたんだ。その総称が、オーバーテクノロジー。通称、宇宙人の技術」
そこまで言われても剣太郎には何が何だかさっぱり分かっていない様だった。
美子は宮本の言葉で薄々勘付いているようだが、宮本は話を続ける。
「表舞台にはまだ出ることを許されていない技術を試す舞台、とでも言えば少しは分かりやすいかもしれないな。その舞台こそが、ソードロードという競技なのだよ」
「じゃあ、防具が薄くても大丈夫ってそういうことなのですね」
「まあ、一概にそうと言う訳じゃないんだが、今はそう言う物だと思ってくれ」
何やら理解したかのような美子と宮本が話す。
サルと剣太郎。
男二人は完全に話からおいて行かれていた。
「えっと、よく分からないけど、そのオーバーテクノロジーって言うののおかげで、防具が薄くても大丈夫って事っすか?」
サルの言葉に、無言で頷く宮本。
けれども、そう言う理由であったら疑問が生じてもおかしくは無い。
その疑問を剣太郎が口にする。
「そんな凄い技術があるなら、何でさっさと公にしないんですか?」
「その技術によって、過度に科学技術だけが発達するのを技術の提供元である宇宙人達が嫌がったんだ。技術が発展しようと、それを使う人間が進歩しないことには意味が無いと言ってな。だから、今は情報を統制する形で競技が行われているが、将来にはメジャーなスポーツの一つになっているかもしれんな」
通称と宇宙人の技術と宮本は言っていたが、まさか本当に技術の提供元が宇宙人だったとは思わなかったようで、剣太郎達は目を丸くして驚く。
先ほどから彼らは薄々と感じていたが、彼らはどうやら非日常な世界に足を踏み入れていたようだ。
その後も、宮本の説明は続く。
ソードロードの歴史やルールなど。
あまりにも話が長かったので、割愛するが纏めると以下の様になる。
・剣道とは違って、面や胴によって勝敗が決するのではなく、戦闘が続行できなくなったり戦っている場所|(土俵だったりリングのようなコート)の外の地面に足など、体の一部をついてしまうと敗北となる。
・オーバーテクノロジーのおかげで骨折や出血といった外傷はほとんど抑えられる
・昔は使っていい武器は剣だけだったが、槍、弓、銃 (モデルガン)と使用可能武器の増加と共に競技人口も増えていった。。
・武器の増加に伴い、競技人口も拡大。今では全国大会や世界大会が開かれるくらいに。
簡単に4項目に纏めたが、この話だけでも宮本は一晩中でも語りつくせそうな勢いだった。
彼女の詳細な説明と共に、剣太郎は徐々にソードロードへの実感がわいてきた。
彼女の長いソードロード講義は突然終止符を打つ。
なぜなら、長かった移動が終わり漸く目的地に彼らが辿り着いたからだ。
今は使われていない様にも見える、学園の端に忘れ去られたかのように佇む古い倉庫を指さして宮本は立ち止まる。
彼女の指の先には古ぼけた倉庫が佇むだけで、他に練習場と思しき建物など他に存在していなかった。
オーバーテクノロジーなどの説明を聞いてきただけに、1年生たちはどこか練習場がハイテクな施設なのだろうと期待していた。
期待していただけに、彼らは目に見えて落胆の表情を見せる。
しかし、宮本はそんな後輩の落胆する顔を楽しむかのようにイタズラっぽく微笑むと倉庫のドアを開ける。
若干の期待と共に、1年生は倉庫の中を覗き込む。
覗き込んだ。
けれども、彼らの視界に彼らの期待に沿う様な光景など何一つ広がっていなかった。
何の違和感もない普通の倉庫だ。
不思議なことに、外見と異なり埃っぽく無かった。
不思議そうな顔をする1年生たちを面白おかしく眺めていた宮本は、彼らについてくるように指示し倉庫の奥へと進んでいく。
奥まで進むと、周りに積まれた段ボール箱に隠されるかの様に、古ぼけた倉庫には全く似合わない近未来的なデザインの自動ドアらしきものが存在していた。
彼女が横に設置されたタッチパネルを慣れた様に操作すると、突然ドアが開かれる。
ドアの向こう側はエレベーターだったようだ。
いよいよ、期待通りの展開だと1年生は心躍らせながらエレベータに乗り込む。
因みに、タッチパネルを操作している辺りから宮本は終始ドヤ顔を崩さなかった。
エレベーターが地下に降りていると、剣太郎は身に感じる重力から感じ取る。
そして、エレベーターが止まりドアが開かれる。
剣太郎はこの光景をもしかしたら一生忘れられないかもしれない。
その思いは剣太郎だけではなく、美子やサルも一緒だったようだ。
ドアの向こうに広がる体育館とトレーニングジムの様な見たことのない光景に彼らは目を見開いて魅入ってしまう。
彼らがここまで感動しているのは、ここまで歩かされたことによる疲労感や達成感も入っているのかもしれない。
ただただ、呆然とする彼らに宮本は声をかける。
「ようこそ、ソードロード部へ。私は練習着に着替えてくるから、それまで近くを好きに見て回ってくれ」
そう言って、宮本は奥にある部屋――恐らくは更衣室へと消えていく。
宮本が、消えると堰を切ったかのように言葉が溢れてくる。
1年生たちは各々に、自分の感情の高ぶりを口に出す。
お互いに感想を言い合うのに夢中になっていたのか、いつの間にか他の部員が現れたことに彼らは気づいていなかった。
「おっ、見ない顔だけど、お前ら新入生か?」
後ろから声をかけられて初めて、彼らは他の部員が現れたことに気が付く。
不意に声をかけられたことで、1年生たちは揃って肩をビクリと揺らす。
「あー、悪いな。驚かすつもりは無かったんだ。俺は、2年の真田昌。ここの部員だから安心してくれ」
その声の持ち主は、イケメン男子だった。
髪は金色に染まっているものの、チャラさなどは微塵もなく、むしろ爽やかな雰囲気を纏ったモデルの様な男が話しかけてくる。
彼からの自己紹介に遅れるように、3人も自己紹介を済ませる。
彼の美貌を見て何か思ったのか、美子が唐突に口を開く。
「もしかして、真田先輩って宮本先輩と付き合っていたりするのです? いえ、付き合っていると言ってほしいのです」
「まさか。俺は姫奈とは付き合ってないよ。そもそも俺は、愛する妹と次元を超えた恋にしか興味ないからな」
爽やかな笑顔と共に、突拍子もないことを言い始める昌。
何かの聞き間違いだと、全員が耳を疑う。
彼が、場を和ませるために言ったジョークであると彼らは信じたかった。
けれども、そんなことお構いなしに彼は話し続ける。
「俺の妹は、お前らと同じ1年生なんだよ。これが、可愛くてなあー。よかったら写真でも見るか?それとも、俺の嫁を何人か紹介しようか?」
完全にアウトだった。
口を開かなければ、とてもカッコいい人間だというのに口を開いたとたんに残念さが溢れ出てくる。
彼らが、その誘いを断りずらそうに困っていると救世主かのようにちょうどいいタイミングで宮本が着替えから戻ってくる。
「昌、軽くでいいからこの子たちに戦闘を見せたいんだが、協力してくれるか?」
「了解。俺も後輩を前にいいところを見せなきゃな」
二人は、どうやら生で1年生たちにソードロードを見せてくれるようだった。
彼らのやり取りから、ようやくソードロードの正体が知れると思い、1年生たちは彼らが戦う訳ではないというのにソワソワし始める。
「そう言えば、姫奈。俺の愛しの妹をどうして一緒に連れてきてくれなかったんだ?」
口を開けば開くほどに、昌の残念さが溢れ出る。
そんな彼に宮本は冷ややかな視線を送る。
「それくらい、自分で行けっ」
「いやさ、幸の奴ってば反抗期なのかな? 最近じゃ、俺とまともに目すら合わせてくれないんだよな」
「ものすごい反抗期ですね!?」
和気藹々と試合前に話をしていたが、試合が始まった瞬間にその空気はガラリと変わってしまう。
まるで、戦場にいるかのような緊張感が練習場を包む。
そして、1年生にとって目を疑う様な試合が始まるのだった。
2016年1月7日現在、ここまで改稿中です。
次話から、改稿前の文の為違和感があるかもしれませんがご容赦ください。