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剣の道  作者: 底虎
兄妹編
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戦いの行方

前回のあらすじ

自分の意思で戦うことを決めた剣太郎

二人の戦いはついに終局を迎える。

 まだ、勝負は決していなかった。

 既にボロボロの状態だった剣太郎は辻の攻撃を受けてもなお立ち上がる。

 そこにはある種の執念のようなものが感じられた。


「死にぞこないがっ、まだ倒れないのですか」


「お前みたいな、仲間をないがしろにするような奴に僕は負けたくないんだ。」


 辻にはたかがそんな理由で立ち上がる剣太郎が全く理解できなかった。

 フラフラと立ち上がる剣太郎の事を彼は気持ち悪く思う。

 辻からしてみれば、先ほどの槌使いの男といい桐木の人間は本当に気持ち悪く思えた。

 なぜ、仲間一人のためにそこまで熱くなれるのか。

 仲間なんて、自分の踏み台に過ぎないのに。

 辻からしてみれば、サルが足止めを買って出たのは単に強い相手と戦いたいという欲求からくるものだと先ほどまで思っていた。

 だが、剣太郎の不可思議な行動を目の当りにして、実は先ほど戦った相手も実は仲間のために残ったのではないのかと思ってしまう。

 辻にはいまだに、仲間がなんなのか理解できていない。


 フラフラになりながらも剣太郎は辻に竹刀を振るう。

 先ほどから、剣に体力を喰わせ続けていたためか剣の重量は相当なものになっていた。

 攻撃力など語るに及ばないだろう。

 辻は、そんな満身創痍にも見える剣太郎の攻撃を軽く受け流そうとする。

 だが剣太郎の一撃はそんなに軽くは無かった。

 受け流すつもりの刀が、力に押し負けて完全に持っていかれてしまう。


(なんだ、あの竹刀の重さは……)


 既に、剣太郎の竹刀は暴力的なまでに重かったのだ。

 その重さは、ボロボロの剣太郎が何故振るうことが出来るのか分からないくらい重い。


「どうしてっ、どうして貴方はまだ戦うことが出来るのですか」


「負けたくないからだよ。仲間をバカにされたまま負けられるわけ無いだろうがっ」


 剣太郎は吠える。

 その慟哭とともに辻へと胴が入る。

 だが、負けじと辻もその場に踏ん張り剣太郎へと反撃をする。

 壮絶な打ち合いが始まる。

 始めこそ手数で勝っていたのは辻だった。

 けれども、威力では剣太郎が勝っていた。

 相手よりも多く打たされること、重い一撃を防ぐこと、この二点が辻の体力をガリガリと削っていく。


(なんだ、なんなんだよ。こいつ、消耗するどころかますます力が増しているじゃないか)


 剣太郎はただ打ち合っていた訳ではなかった。

 打ち合いの間も剣に体力を喰わせ続けていたのだ。

 理由は簡単。

 ただ、単純に相手へとプレッシャーをかけるためだ。


 打ち合いでは不利と考えたのか、辻は一端下がる。

 だが、剣太郎には追撃する余裕がなかった。

 恐らく辻には見えていたのだろう。

 剣太郎がその剣の重さ故に機敏な行動が出来ないことを。


 辻流抜刀術にはいくつか弱点が存在する。

 そもそもがカウンターの剣術なため、立ち合い―つまり2撃目以降の抜刀した状態での戦いを不得手とする。

 勿論、その弱点をカバーする技だってある。

 しかし、大体の技には溜め動作と納刀の状態が必要なため、ある程度の距離か相手の動きを上手く読みきることが必要だった。

 神速一閃という辻の技は、強力だからこそ溜め動作も長かった。

 長いといってもほんの1秒程度なのだが。

 だが、戦場ではその1秒が命取りになる。


 剣太郎が機敏に動けないからこそ、距離を取ることで1秒の間が生まれる。

 辻はそれを利用する。


「これで、とどめだああああああっ」


 辻から放たれた斬撃は剣太郎を、その直線上にいる幸へと襲いかかる。

 勿論、剣太郎は避けることも防ぐことも叶わない。

 何をしてもやられると考えた彼はある賭けに出た。

 剣太郎は、辻同様しゃがみこむ。

 そして剣を逆手でもって、辻のように起き上がりながら一気に剣を振るう。


「神速一閃(仮)」


 彼は敵の技を模倣(コピー)したのだ。

 この土壇場で。

 模倣を主体とする戦い方だってあるわけだが、彼はそのような技術を持ち合わせていない。

 防ぐ手が何もないからこそ、敢えて相殺を狙って技を真似したのだ。

 その横凪ぎは、今日剣太郎が見せたなかで一番早かっただろう。

 技とともに斬撃が生じ、辻の斬撃と激しくぶつかり合う。

 だが、そこは偽物(コピー)の定めなのだろうか、圧倒的に力不足だった。

 多少威力が削がれた斬撃が剣太郎を襲う。

 やはり剣術での優劣は火を見るより明らかだった。

 だが、精神面では全くの真逆だった。


(あいつ、たっ2回神速一閃を見ただけで技を模倣してみせただと……!? まずい、こいつはまずい。やつの素質は天才が持つそれだ。このままでは負ける)


(今、一瞬だけど剣の重さが移動した気がする……。これを応用すれば勝てる )


「下手な模倣ですね。本当に貴殿方は完成度が低い。先程の槌使いも下手くそな技で挑んできたものです。狙撃主も近距離で射撃が出来ない欠陥ですし、貴殿方は本当に欠陥製品ですね」


 このままでは負けると確信した辻は、剣太郎を挑発する。

 ただ、挑発しても剣太郎は乗らなかっただろう。

 彼の精神的強みは仲間の存在だったが、精神的弱点も仲間の存在にあると辻は見抜いていた。

 だからこそ、敢えて仲間を蔑むことで彼を挑発する。


(さあ、このままこっちへ来い!僕の間合いに入れば貴方は終わりです)


 彼は、神速一閃ではなく至近距離での居合いによって試合を決めようとしていた。

 先程は攻撃を受け流しきれなかったが、次はない。

 辻は万全の態勢で、剣太郎を迎え撃つ。

 対する剣太郎も、挑発に乗ったのか辻の方へと迫る。

 ただひとつ、辻の予想と違ったのは彼が跳躍したことだ。


(なるほど、体重をかけて一撃を更に重くするつもりですか。いいでしょう、受けてあげますよ)


 この時、お互いに試合のことなど既に考えていなかった。

 両者共に目の前の敵を倒したいという純粋な思いが彼らを突き動かしていた。


 剣太郎は跳躍と共に、身を捻りながら辻へと攻撃を仕掛ける。

 対する辻も、フェイントなど考えず全力の居合いでそれを打ち返す。


 両者の対決は呆気なく決まる。

 辻の居合いが、剣太郎の一撃を弾き返したのだ。


「跳躍したのが運の尽きです。考えはいいですが、自分の力を過信しすぎなんですよおおおおおおお」


 この時、辻は完全に勝利を確信していた。

 いや"辻も"だろう。

 弾かれた瞬間に勝利を確信したのは辻だけではなかった。

 剣太郎の本命の攻撃は一撃目ではなかったのだ。

 辻に弾かれたことで、剣太郎の竹刀は先程と逆方向に押し返される。

 剣太郎はこの時、敢えて弾かれにいったのだ。

 辻に弾かれたことで竹刀が逆方向に加速していく。

 加えて、剣の重さを先端部分に持っていく。

 強力な遠心力によって、剣太郎は一撃目とは比にならないスピードで第2撃の切り上げを辻に繰り出す。

 加速した一撃に辻が追い付くはずもない。

 辻は強烈な一撃をくらい吹き飛ばされる。


「過信しすぎなのはお前の方だったみたいだな」


 ただ、剣太郎も体力を使いきったのか着地に失敗する。

 両者は、しばらく起き上がらなかったが、二人とも起き上がる。

 正しく執念だろう。

 だが、二人の戦いは予想だにしない結果で終わりを迎える。


「……剣太郎っ、横!」


 剣太郎の横に少しいったところに敵チーム狙撃主が立っていた。


「遅いですよ、この役立たずっ。さあ、彼を始末するのです」


「うっせーっつーの。言われなくてもっ」


 剣太郎に弾丸が飛んでいく。

 彼にはもう避けることも防ぐことも出来ない。

 弾丸が当たると思った瞬間だ。

 何者かによってそれは遮られる。


「何故だっ、どうしてこのタイミングでっ………」


 辻の驚愕が戦場に響き渡る。

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