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剣の道  作者: 底虎
兄妹編
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特訓の成果

前回のあらすじ

剣太郎は昌との特訓を思い出す

 一年生の試合が決まったあと、各々が試合を想定した練習をしていた。

 勿論、剣太郎と昌も例外ではない。

 ただ、二人が一緒に練習をしていたかというと否である。

 剣太郎は宮本から剣術を教わり、サルは武田と実践的な組手、美子は一人で射撃の練習と予知の訓練をしていた。

 昌は何をしていたのかというと、1人で素振りしていた。

 そんな二人がいつ秘密の特訓をしていたのだろうか。

 それは、練習が終わった後だ。

 剣太郎は、練習が終わった後に昌に呼び出される。


「秘密の特訓をつけてやる」


「いいんですか?」


「当たり前だろ。ところで、お前はどんな手を使ってでも勝ちたいか?」


 剣太郎はその言葉の真意がくみ取れず、黙り込んでしまう。


「勝ちたいです」


 彼がこの言葉を言うのに、それほど時間はかからなかった。

 この時彼が思い描いていたのは、強くなれるチートアイテム的な物を昌が取り出すのではないかという事だ。

 しかし、昌が言う手というのは全く持って彼の想像とは異なっていた。


「よく言った。短期間で強くなるのは限度があるんだが、実は戦い方を少し変えるだけで自分よりも上の相手に有利に戦えることがあるんだ」


「おおっ」


 思わず、剣太郎は歓声をあげる。

 なんとも都合のいい戦い方があるのだろうか。

 強くなるチートアイテムほどではないが、そういう裏ワザのような物も剣太郎は歓迎だった。


「大きく分けて二つある、一つは―」


 昌はそう言いかけたところで、構えていない体勢からいきなり拳の突きをを剣太郎の腹に叩き込む。

 完璧なる不意打ちだった。

 その場にうずくまりながらも剣太郎は昌の行為に不平を言う。


「いきなり何するんですかっ」


「今のが、強くなる極意の一つ"卑怯な戦法"だ」


 それを聞いた剣太郎は一気に顔をしかめる。

 当然、彼としてはまっとうに戦ってまっとうに勝つのがベストだろう。

 いきなりそんな搦め手を推奨されるとは剣太郎は考えていなかった。


「いやいや、そんなので勝って気持ちいいんですか?」


「気持ちいいから勝ちたいのか? そういうことはもっと実力をつけてから言うんだな」


 正論だった。

 彼の言うとおり、今のままの実力では剣太郎は誰にも勝つことが出来ないだろう。

 それを言われ、剣太郎は何も反論することが出来なくなってしまう。


「もう一つは、っておいおいそんな身構えなくていいぞ?」


 先ほどの事もあり、剣太郎は臨戦態勢だった。


「もう一つはなんですか」


 剣太郎は臨戦態勢を崩さず、「さあ」と昌の次の言葉を促す。

 それに昌も苦笑いしながら続ける。


「もう一つは、避けることだ。別に攻撃しないからそんな警戒しなくていいんだぞ?」


 昌が、避けると言った瞬間に剣太郎はすぐに昌から間合いを取った。

 いきなり殴られるのはごめんなのだろう。


「まあいい。今、お前は俺が攻撃するつもりじゃないのに避けたよな。実はこれがうまく戦うための方法なんだ」


「え? 警戒すればいいんですか?」


「いや、お前がうまく俺の術中にはまったってことだ」


 無意識のうちに剣太郎は攻撃が来ると思い、昌から距離を取った。

 実は、卑怯な手を使う理由はこれにもある。

 相手のペースを崩し、相手がやりやすい戦いをさせない。

 それが戦局を握るカギでもある。


「いいか、これから一週間お前には攻撃をひたすら避け続ける訓練と搦め手を叩き込んでやる」


「避けてどうするんですか?」


「お前なんか特にそうだが、攻撃するのにだって体力は使うんだ。むしろ、空振りする方が体力を多く持ってかれる。体力が切れたらそこを叩けばいいさ」


「やっぱ卑怯ですね」


「なんとでも言え。じゃあまずは、不意打ちについてだが―」


「やっぱ卑怯すぎるっ」


 そこから、試合前日まで彼は練習後にひたすら卑怯な手を叩き込まれる。

 それと同時に、洗脳かのように彼の妹の幸の話や彼がやりこんでいるギャルゲーの情報もなぜか教え込まれる。

 そのおかげか、剣太郎は着実に姑息な戦い方を身に着けていた。


「御剣、いい感じに汚く染まってきたな」


「自分でも悲しくなってきますけどねっ」


「まあいい、そんな事より言っておきたいことがあるんだ。もしも、俺の妹が試合中に撃つのをためらってたら言ってほしい言葉があるんだ―」


「躊躇う…?」






「あと言っておくが、僕の師匠はもっと汚くてもっと速かったよ」


 そう言って剣太郎は吹き飛ばした辻に追撃をかけにいく。

 だが、その攻撃は辻へと届く寸前で弾かれてしまう。

 その距離は非常に近く、少しでも弾くのが遅れれば確実に攻撃を喰らってしまうような距離だ。


「フェイントには驚きましたが、攻撃の直前まで見ればいいだけですね」


 剣を弾いた後、剣太郎が構え直すより先に今度は辻の一撃が、剣太郎に決まる。

 そもそも居合切りというのは不意打ちに対抗するための剣術であり、剣太郎が教わってきた内容を考えると少し分が悪かった。

 ちなみに、一番分が悪いのは先ほど戦ってきた相撲取りの風貌の男のような搦め手が聞かない様な純粋なパワーアタッカーである。

 勿論、そこで剣太郎が終わるはずもない。

 剣太郎の師は決して昌だけではない。

 宮本から剣術を学んできたのだ。

 吹き飛ばされた剣太郎は起き上がりつつ、一気に竹刀に体力を喰わせる。

 本来、斬撃とは剣から放たれる風圧にPPをのせることで爆発的に威力を上昇させ、衝撃波として相手に放つという技だ。

 剣太郎の場合は、PPではなく剣に体力を込めることで剣自体の重さをあげ、剣を振った時に放たれる風圧つまりは攻撃力を強化することで擬似的にそれを再現する。

 剣太郎はより一層重くなった剣を振りあげ、辻めがけて振り下ろす。

 辻ほど早くはないが、それでもまるで竜巻のような衝撃波が地面を抉りながら辻へと襲い掛かる。


(あれ…?)


 その一撃は、惜しくも辻には受け止められてしまう。

 だが、その一撃はかなりの威力の物だった。


(筋力が変わったわけでもないのに、いつもよりも全然強い一撃だ)


 彼は、普段とは全然違う出力に戸惑う。

 彼や竹刀に何か変わったような形跡はない。

 あるとすれば、先ほどの異変くらいだろう。

 そこで、剣太郎はあることに気が付く。

 まるで、剣が相手を切りたいと欲するかのような奇妙な感覚が伝わってくるのだ。

 それは先ほどのような、ドス黒い何かに心が押しつぶされていくようにも感じ取れてしまう。


『さあ、本当に私にふさわしいか試させていただきますよ』


 彼や、辻が戦っている場所であってそこではない場所に一人少女は立っていた。

 同じ場所にいるはずなのに二人が気付く様子もなく、彼女はまるで別の世界から彼を眺めているかのようにも見えた。


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