掴み始める
幸からのアドバイスをもとに、部活が終わり家に帰った僕はさっそく親父にあの時の竹刀についていろいろと質問を投げかける。
「つまり、あの竹刀が使いたいってことか?」
「ダメかな?」
「ダメってわけじゃないが、ありゃ実戦向きじゃないぞ?」
なぜだか、親父は少し渋り気味だった。
確かに、実戦には向いていないかもしれないが、それでも僕が使えた武器はあれ一本だったわけだし、あの竹刀を極めてみたいと親父に伝えてみる。
すると、僕の気持ちは決して揺るぎそうにないと悟ったのか、親父は少し苦い顔をしてしまう。
そして、ボソッと「本当のことを言うべきか…」とつぶやいた。
もちろんその言葉は僕の耳まで届いてしまう。
「本当のことってなんだよ?教えてくれ、親父」
どうやら、僕にはその言葉を聞かれたくなかったのか、少し、しまったという顔をする親父。
もうここまで来たら、僕の追求からはどうにも逃れられないと思ったのか、やっと親父は僕に本当のことを話してくれた。
「剣太郎、驚かずに聞けよ?実はあの刀は昔の日本でいう妖刀に当たる代物なんだ」
どうやら、妖刀もオーバーテクノロジー関連の代物らしい。
どうやら親父曰くあの、竹刀には重さをコントロールすることができる機械が組み込まれていたのだが、何かの手違いから呪われているとまで言われた昔の妖刀の機械と混ざってしまっていたらしい。
今でいえば、超能力に必要なエネルギー―PPというらしい。を消費してその機械を動かすことができたのだが、昔の機械故魔力ではなく体力を奪ってしまうのだという。
そして、そもそもあの竹刀には練習の時に重さを簡単に変えられる機能しかついていないから実践には向いていないのだとか。
「でも、使えないわけじゃないんだろ?だったら何とかモノにしてみるさ」
「あれでいいのか?今の技術なら同じような物でも体力より負担が少ないPPを消費するタイプだって作れるんだぞ?」
「いや、せっかくだし僕はあれがいいよ」
僕がそこまで言うと、親父は「わかった、明日の朝までには何とかしてみせる」といい工房へと向かう。
どうやら夜通しで作業をしてくれるようだ。
本当に親父には感謝してもしきれないな。
そして、朝になり学校に行く直前、親父が工房から出てきてたった今完成したであろう竹刀を僕に渡してくれる。
「剣太郎、一応調節はしたが、昔のパーツを使ってる上、妖刀とまで言われた代物のパーツだ。もしかしたら、何か想定外の事態が起こるかもしれない」
「それって、大丈夫なのか?」
「さあな。だが、もし何かあったときは、心を落ち着けて剣のことを信じてやれ。もし、剣がお前のことを認めてくれているのならばきっと剣は答えてくれる」
「親父、まるで剣に意思があるみたいな言い方だな」
「これは剣に限った話じゃないさ。どんなものにでも意思が宿るっていう文化的な意見だよ」
とりあえず、僕はお礼を言って竹刀を受け取る。
そうして学校へと向かうのだった。
授業が終わり、その日の部活。
例によって、幸を勧誘していて部活に遅れていったのだが、練習場についた僕の目に映ったのは信じられない光景だった。
練習用コートには澄ました顔の宮本先輩と見るからに満身創痍のサル。
そして、信じがたいのはその周りの地面からは燃え盛った鋼の塊がいくつも飛び出ていたということだ。
汗が飛び出るような熱気に僕は思わず息をのむ。
「一体、何が起きたんだ?」
「サル君と宮本先輩が練習試合をしたんです」
そう言われて、僕は試合の一部始終を見ていたであろう美子から詳しい話を聞いた。
剣太郎が到着する少し前にさかのぼる。
「猿田少年、能力の調子はどうだ?」
「なかなか、難しいっすね。なんとなく掴めそうなんすけどね」
「そうか。それなら一度、実戦形式で私に試してみないか?」
そういわれたサルもいい機会だと思ったのか、その提案を受け入れることに決める。
そうして、サルと宮本の試合が始まるのであった。
サルは大振りながらも槌の重い一撃を宮本にあてに行く。
しかし、彼女はそれを避けようとせず、わずかな剣さばきでそれをいなしてしまう。
「この程度じゃ、躱す価値もないってことっすか」
「そう思うなら、超能力を加えて攻撃してみたらどうだ?」
そういわれたサルは、前に宮本と真田が戦った時を真似るかのように、槌に能力を乗せて攻撃を放とうとする。
しかし、その攻撃もいなされる。
「君は、能力の暴発を恐れるあまり、どこかでセーブをかけてしまっているな。私が相手なんだ、一度暴発させるくらいの勢いでくるんだ。なあに、危なくなったらすぐに止めるさ。」
「へへっ、そりゃどーも」
そういわれたサルは、槌に能力を込めて思いきり地面を殴りつける。
すると、次の瞬間コート中に沢山の魔法陣が現れ、そこからサルの能力である鋼の塊が突き出てくる。
今度はいなせないようで、彼女は跳躍してそれを難なく躱してしまう。
「ふむ、なかなかにいい攻撃だ。ならば私もそれに応えるまでだ」
そういって、彼女は二対の竹刀に炎をまとわせ斬撃を放つ。
炎をまとった斬撃を。
空中から放たれた炎の斬撃はコート中に降りかかる。
それは、サルや鋼にも容赦なく襲い掛かる。
対するサルも、能力で応戦しようとするが、何とか気絶させられずに済んだといったところだ。
それが、僕が来るまでに起こった二人の戦いの詳細らしい。
というより、宮本先輩は初心者相手にえげつないな…。
僕がそう思っていると、同じことを思っていただろうタケねえが彼女に苦言を呈す。
またも、やってしまったと言う表情の宮本先輩。
それを見て、宮本先輩は戦闘になると我を忘れるタイプなのかと、思わず冷静に分析してしまう。
しかし、いくら一歩ずつとはいえど、超能力を用いた戦闘をサルが行っているのを見るとこれが焦らずにいられるだろうか?
僕はまた一歩おいて行かれたような気になってしまう。
そして、部活が終わり練習場から出ようとするとき、僕はある人物に呼び止められてしまう。
「おい、御剣。ちょっと話があるから残ってくれないか?」
僕を呼び出したのは、真田先輩だった。




