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剣の道  作者: 底虎
兄妹編
15/138

強くなるために

 次の日の放課後。

 僕はサルと美子には先に部活に行っててもらい、幸を勧誘しに行った。


「なあ、幸。一緒に部活やらないか?」


「……ゴメンね、ちょっと嫌かな」


 僕はとても申し訳なさそうに断られてしまう。

 なぜだか、「嫌」という言葉が胸にグサッと突き刺さる。

 けれども、そんなことでめげちゃいけないよな。

 僕は再度頼み込む。


「……無理」


 ここであきらめたら試合終了だよな?

 とりあえず僕は土下座して頼み込んでみる。


「……恥ずかしいから顔をあげて」


「もしかしてっ―」


「……一緒に部活やりたい気持ちは山々だけど、ごめんね?」


 どう頑張っても断られてしまう。

 ここまで断られては仕方ない。


「ごめんな、何回も頼み込んじゃって」


「……別に大丈夫」


 そう言って、幸に別れを告げ僕は部活へと向かうことにした。

 僕が練習場につくとすぐに、なぜか美子が僕に泣きじゃくりながら飛びついてくる。

 なぜだか、よくわからない僕は振り払おうにも振り払えずにしていると、タケねえが代わりに状況を説明しに来てくれた。


「なんだかぁ~、美子ちゃんは剣ちゃんが試合でボロボロに負ける予知を見ちゃたんだってぇ」


 マジかよ…。

 試合が始まる前からボロボロに負ける姿を想像されるのはどこか悲しいものがあるな。

 ただ、美子は泣きじゃくっているし、ウソをついているわけでもないのだろう。

 それにしたって、そんなに泣きじゃくるなんて、どれだけ僕はボロボロに負けたのだろうか?


「おいおい、御剣。女の子を泣かせるとは感心しないなー」


「僕だって、好きで泣かせているわけじゃないんですよ?」


「いいや、お前が負ける予知で泣いているんだ。それはお前のせいだ」


 どこか理不尽な気もして僕は少しむっとしてしまう。


「いいか、予知は絶対じゃねえ。覆すためにも、男なら強くなるしかねえだろ?」


 そういわれると、確かに僕のせいな気もしてしまう。

 強くなる、か…。

 その言葉は僕にとって一番重くのしかかってくる言葉だった。

 なぜなら、僕はあの事件以来、サルや美子に比べ何の前進もしていなかったから。

 サルは、超能力の発現に加え、あの時使っていた鎚を使いこなし始めていた。

 美子も、微弱ながら杖で攻撃できるようになり、予知もだんだんとマスターしていった。

 でも、僕は?

 あの時使った不思議な竹刀はあれ以来使っていない。

 他にも何本か親父に見繕ってもらったが、それも全然使えなかった。

 超能力だって出る兆しを見せない。

 どうすれば強くなるのか。

 僕はそのことについて悩んでいた。

 先輩たちは、そのうち強くなると励ましてくれるが、僕はなんだかほかの二人において行かれるような気がして、強い焦りを感じずにはいられなかった。


「ふふっ。焦ってるぴょんね」


 またも、どこからともなく現れた部長が話しかけてくる。

 部長はいつもどこからともなく現れ、煙のように消え去ってしまうので、だんだんと僕たちもそれに慣れ、あまり驚かなくなっていた。

 本人はそのことに少し不服そうではあるが…。


「私は、その悩みの解決法をいくつか知っているぴょん」


「本当ですかっ?教えてください」


「私が教えるのは簡単だけど、今回教えるのは私じゃないぴょん。」


「え?」


「君の近くに、一人いるでしょ?君がその強さを知っていて、まだその悩みを打ち明けていない人」


 それって、まさか…。


「明日、勧誘する時にでも聞いてみたらいいぴょん」


 そう言って、いつの間にか部長はまたも姿を消してしまう。

 本当に神出鬼没という言葉がぴったり合う人だ。


 



次の日、僕は部長のアドバイス通り放課後に幸と会っていた。


「……何度来ても、私は入らないよ?」


「いや、今日の用事はそれだけじゃないんだ」


「……?」


 そう言って、幸に今僕がおかれている状況や、強くなるにはどうすれば良いかを聞いてみる。


「…私は基本的に狙撃しかしないから、前衛のアドバイスは出来ないよ?」


 部長め、騙したな。

 そう思っていると、「…でも」と幸が付け加える。


「…そういう時、私は自分にできる一番小さな事から取り組んだよ。…いきなりは無理だけど、積み重ねていけば出来るから」


 僕は、その言葉を聞いてハッとする。

 確かに、僕は強くなると言うことに拘りすぎて、基礎を蔑ろにしすぎていた。


「でも、僕は武器だって全く使えないし…」


「…あの時の竹刀は?」


 あの時のってことは、やはり狙撃で助けてくれたのは幸だったようだ。


「あれは、練習用だから実戦ではそこまで役に立たないって親父が…」


「…でも、あれで敵を倒したよね?」


「そうだけど…」


「…これは、私の尊敬する先輩の言葉だけど、一見役に立たないような事でも極めればスゴい役に立つ時が来る。…だから、その竹刀使いこなしてみたら?」


 そう言われると、なんだか挑戦する前から諦めていた僕が少し馬鹿馬鹿しくなってしまう。

 幸の言うとおり、僕はあれを使って一応は敵を倒したんだ。

 役に立たなかろうが、使いこなして見せるさ!


「ありがとな、幸。お陰でなんとか頑張れそうだ!」


「……どういたしまして。…でもどうしてそんな強くなりたいの?」


「いやさ、近々団体戦の試合があるらしいんだよ。でも新入生だけの試合だから人数足りない分、僕たちは強くなりたいんだ」


「……試合あるの?」


 あれ…?

 そう言えば、勧誘の時に言うのを忘れていたような。


「…だから、部活誘ってきたの?」


「うん」


「…それなら、先にいって欲しかった。…部活に入らないけど、助っ人はしてあげる」


 なぜ、そこまで部活に入りたがらないのか。

 なぜ、試合には出てくれるのか。

 僕は、二つの意味を込めて「どうして?」と思わず聞いてしまう。

 聞かれた、幸は、どうやら二つ目のことを聞かれていると思ったのか、少し頬を朱色に染めながら


「……………友達だから」


 と小さな声で言った。

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