第九十七章 晃とダンジョン迷走 えげつない罠
一番始めの枝道でトラップを回避した俺たちは、一般的な灯りの強さのまま、元の道を戻る事にした。
行きは俺の、特に明るくしようと力を込めた魔法の灯りで照らしていたため、ほぼ、昼間に近い明るさの中でダンジョン攻略が進んだ。でも、お試しに、って事で、俺たち以外が灯りの魔法を唱えた時の光量を再現して、まるで松明程度の明るさの中、広くて暗いダンジョンの中を進む事にした。
松明程度でも、二カ所、先頭と最後尾の頭よりも上の位置で照らし出している。そのため、見えにくくなるような影は出来ていない。
それでも、照らされてはっきり見える範囲は数メートル。障害物がないから十メートルぐらいは照らせる、って程度で、それより先は薄ボンヤリして、闇に紛れやすくなる。ダンジョンの壁まで光が届かないから、照らしていても真っ暗な中にいるようにも感じる。
暗闇の中から、モンスターが何時、襲いかかってくるか判らない、という恐怖が常につきまとう事になる。
俺の中には闇の精霊も居るため、こういった闇の中でも見通す事ができるので、特に不便も感じないけど、ジェイたちにはほとんど何も見えないのと同じに感じているようだった。
壁まで光が届かないから、向こう側の壁の出口の位置が判らず、自分が真っ直ぐに歩いているのかも確認出来ない状態みたいだ。
実際、出口へと向かっているはずなんだけど、すでに四十五度はずれている。もう少ししたら円を描いて一回りするんじゃないかな。
それを、何時告知するか、タイミングを計っていた所で、この部屋のモンスターが出現した。
あ、俺が部屋の中央のモンスター出現ポイントにかすっていた。見えているようで見えていなかった、とは、この事だねぇ。
「部屋のモンスターは、帰り道でも出現するようだね。前と同じ大雄牛の特大版だけど、この暗さで行けるかな?」
大雄牛は俺の微かな灯りに照らされて、暗闇の中に浮かび上がっているようだ。距離感も大きさもはっきりしない。
「これから、攻略組はこの環境で戦う事になるんですよね。なら、やってみます」
ジェイの言葉に頷いて、レイミーも飛び出した。そのフォローのためにファイエーは横に位置取りをする。
あれ? 俺の防御係が居なくなってしまった。俺自身はどうにでもなるけど、一般のパーティで、回復役を放っておくような戦い方はマズイよね。後で、反省会の材料にしよう。
皆の実力なら、大したこと無い、ってモンスターなのに、暗闇のダンジョンの中での戦いに、頭が回らなくなっているようだ。
あ、ジェイが炎の槍を投げつけたけど、簡単に避けられた。っていうか、ほとんど外していたねぇ。
レイミーも剣の振りを大きく外した。その事に驚いて大きく飛びすさる。
レイミーが下がったのを見て、ファイエーが雷撃を浴びせる。これは見事に命中。まぁ、範囲攻撃だからねぇ。
雷撃でほとんどのヒットポイントは削ったから、後はトドメの一撃だけなんだけど、レイミーとジェイは、お互いの様子がよく見えなくて、攻撃のタイミングを逃している。
今、誰が攻撃する? という問題は、明るい場所でなら互いの動き方で良く判ってはいたはずなのに、暗闇と、攻撃が失敗したという動揺で、互いがどう動くか判らなくなっているようだ。
問題。こういう時はどうする?
答え。声を出して確認し合う。
「皆、お互いに声掛け合って、自分がどうするか、どうして欲しいか言い合って」
俺のその一言で、なんか、目が覚めた、という顔でキョロキョロしだした。モンスターは見ていたけど、周りも見えていなかったんだねぇ。
どうせ暗闇だけど、とりあえず、自分が動く分の空間に異常が無い事は確認出来たようだ。
「レイミーさん。ファイエーさん。炎でトドメを刺します。時間稼ぎをお願いします」
はい。それで正解。やれば出来る子なんだよねぇ。
「まず、私!」
と言ってレイミーも駆け出す。つまり、ファイエーにフォローして、という事だね。
レイミーが大雄牛に近づいて、大雄牛の射程距離に入る寸前、ライが吠える。その声に一瞬びびった大雄牛が動きを止め、再び動き出そうとした時にはレイミーの剣が首筋に突き刺さっていた。
足蹴にして剣を引き抜き、バックステップで下がると、そこにジェイの炎の槍が十本、大雄牛に向かって飛び出した。
距離感が狂って外れたのなら、数で勝負、って事だね。
炎の槍は半分ほどが命中し、ようやく大雄牛にトドメを刺した。
痙攣しながら倒れ、地響きを立てる。そして、しばらく、皆が見つめる中で、大雄牛は魔石に変わった。
「はい。ご苦労さん。このまま居ると、また出てくるだろうから、とりあえず通路に出よう」
ファイエーが魔石を回収して、皆で俺の所に戻ってきた。疲れているだろうけど、後少し頑張って貰い、休憩は通路でして貰おう。
俺の誘導でのたのたと歩き、通路に入った所で、皆が座り込んでしまった。
皆が水筒を出して咽を潤す。俺もちょっとだけ緊張していたようだ。まぁ、ジェイたちが暴走しないかという観点で、だけどね。
「夜に戦った事もあるし、こういうダンジョンも、今回が初めてじゃないのに、異様に疲れました」
ジェイの言葉に、皆の同意が伺える。
「部屋がでかすぎるよねぇ。だから光が届かない。前の小さなダンジョンだと、光が壁に当たって、しっかりと見えていたからね。この差が大きいよねぇ」
そして、少しの間、何もしゃべらずに、じっとして回復するための時間を設けた。
魔法力の回復ではなく、疲労した心の力の回復だね。一緒に無駄に疲弊した体力も回復してもらうけどね。
その間に、俺は目を閉じ、心の中に入り込むイメージを繰り返した。目を閉じただけじゃ、入り込めないから、そこから体に浮き輪を付けたまま潜水するような力業で潜っていくしかない。呼応を使えれば良いんだけど、精霊王になってから呼応が使えないでいた。そのかわり、心の中に潜るやり方が出来るようにはなったんだけどね。
だから、普段はグラウに連絡をとって貰う、ってやり取りが多くなっていた。けど、今、皆の目の前で精霊と話しをするわけにも行かないんで、心の中で、って事になった。
心の中は、呼応と同じように上下もない、明るくも暗くもなく、熱くも冷たくもない、全てが見えていて、それでいて何も見えない世界だった。心の中だから、自分の都合の良い空間、って感じが一番的確な表現なんだと思う。
そこに、多くの精霊たちが居た。
位置取りは、中央に樹木の精。その周りに光と闇の精が一定距離で回っている。その周りに火、風、水、土の四大精霊。そして、それぞれの属性から派生した属性の精霊が、それぞれの属性の周りを回っている。
回って入るんだけど、土の精霊に属する大地の精霊は、土の精霊よりも内側に居て、水の精霊に属する海の精霊と共に、光、闇、大地、海、で、中央の樹精の周りを回っている。
この配置には、色々なしがらみが含まれていそうだった。あまり聞かないようにした方が良さそうだよねぇ。
とりあえず、全ての精霊の前に立ち、一般人の魔法力で、俺の光の灯りと同程度の明るさを出せる方法が無いか聞いてみる事にした。
その答えは、いくつかあったけど、使えそうなのは二つだけだった。
一つは、単純に呪文を強化するもの。もう一つは転移魔法の応用で、外の太陽の光だけを転移させてしまうというモノ。どちらも、今までのモノよりも魔法力を使うけど、太陽光並みの灯りを確保出来る。光魔法の灯りは、リモコンドローンのように動かす事が出来るが、転移を応用した方は一カ所に固定と言う事になるらしい。これは、街灯のように使う事が出来るかもと思ったけど、作る時に込めた魔法力が切れたら自然に消えてしまう構造だと言う事だ。
将来的には街灯としての利用方法もある方はともかく、現実的に使えそうなのは強化型灯り魔法だねぇ。
俺は、光の精霊からその紋様術式と、気を付けるポイントを聞き出してから心の世界から抜け出した。
外から俺を見ていたなら、まるで寝ていたように見えたかも知れない。
軽く、うつらうつらして、はっと顔を上げた、って見えただろうな。まぁ、それはそれでかまわないけどね。
「ジェイ」
「あ、休憩は終わりですか?」
俺が目を覚ましたから、それなら出発するんだろう、と、思ったらしい。
「ちょっと、この術式で灯りの魔法を起動してみせてくれないか?」
まず、俺自身が光魔法で紋様を空中に描き出す。その紋様の一つ一つの意味を説明して、どんな効果が有るのかを意識して貰う。
ファイエーもメモ帳を取り出して、「ふん、ふん」鼻息を荒げながら見入っていた。
そして、ジェイが魔法を発動して、光魔法の灯りを作り出す。
俺が今まで出していた灯りを消すと、ジェイの単体での灯りの明るさが判った。
かなり眩しい。ジェイは慌てて天井付近にまで上げて、光の元を離した。
先ほどの、一番明るい時の俺の灯りを、昼間の明るさとしたら、ジェイのは薄曇り、って感じだ。だけど、松明と同じ程度と比べると、雲泥の差がある。
これなら、暗闇に脅える事も無さそうだ。
「いいんじゃないかな? ジェイ? どんな感じ?」
「ちょっと、起動の時に魔法力を持って行かれましたが、その後はいつも通りの灯りの扱いと同じですね。でも、しばらく時間を開けないと、二つ目は難しいと思います」
そうとう、魔法力を消費したらしい。一般冒険者にできるかな?
「レイミーもやってみてくれるかな?」
レイミーは、ファイエーにメモを見せて貰いながら光魔法で紋様を描き、同じように起動に成功した。同時に、天井付近まで移動させる。
二つ揃うと、さすがに充分な明るさになって、ほとんど晴天の昼間に近い状態になった。
「うん。ちょっと、疲れるけど、出来なくはないと思う」
実際出来たわけだしね。いや、レイミーは一般冒険者の事を言っているのかな?
「まぁ、灯りを作った後は、二人でも休憩が必要みたいだね。門の入り口の所に、深く腰掛ける事が出来る椅子でも作りつけておこうか」
半分は冗談で言ったんだけど、なぜか激しく賛同された。やっぱ、かなり疲れるみたいだね。
「ファイエー。魔法力を回復させるポーション、って、出来ていなかったっけ?」
「あぁぁる事はぁ、あぁるんですぅがぁぁ」
試作品は完成しているんだけど、回復量が微々たるモノだったそうだ。作って直ぐの物は、かなりの回復量なんだけど、一日置いておくだけで、約十分の一程度の回復量になってしまったらしい。二日目以降は、単なる草の汁だったとか。
要は、魔法力が逃げ出すのを抑えておけなかったわけだ。まだまだ、研究が必要だねぇ。
とりあえず、俺は、今の三人。いや、ガジェットも入れて四人の魔法力にテコ入れする事にした。
目を閉じて、第三段階、と心の中で唱える。すると、体の奥底から魔法力が沸き上がってくるのを感じた。
その力を右手に誘導して、精霊王の宝珠を作る。さすがに第三段階。あっという間に出来上がった。それを、あと三回繰り返す。
俺の左手に、精霊王の宝珠が三つ。こぼれ落ちそうに乗っている。そして、右手には最期の一つ。
「それは、スザクたちを幻獣にしてしまうほどの魔法力を持った玉ですよね?」
「うん。使役獣たちは、自分の体の中に取り込んで、一体化したから幻獣と同等になったんだけどね。
ジェイ、レイミー、ファイエー、ガジェット。これを一つずつ受け取ってくれないかな?」
「これと、一体化するんですか?」
「それは駄目! 絶対に駄目!」
そんな事をされたら、俺との関係が色々とマズイ事になる。
「この玉に手を置いて、ここから魔法力が流れ込んでくるイメージを持ってもらえればいいんだ。俺が呼応を使って、皆に魔法力を回復させたのと同じ感じになると思ってもらえれば良いはず」
それを聞いて、ジェイたちが宝珠を取って、手を置いて瞑想の様に目を閉じた。
「う、うわ!」
ジェイが驚きの声を上げる。他の二人も同様の感じを受けたようだ。ガジェットはポーカーフェイスで判らない。
その隙に、俺は制限を第二段階へと落とした。
「す、凄いですよ。なんか、ぶわって来ました。もう、一気に回復です」
「それは良かった。なら、それはそのまま皆に上げるから、魔法力の回復に使って。
実は俺、呼応が出来無くなっちゃってねぇ。その代わりに、それが作れるようになったんだから、良かったのか、悪かったのか判らないけどね」
「あ、そうだったんですかぁ。いつもなら呼応を使ってくれるはずなのに、どうしたのかな? って密かに考えていたんですが、そんな理由があったとは」
「ああ、その玉は、扱いに気を付けてね。実感したとは思うけど、かなりの魔法力を持っているからね。これからの、魔法が重要になってくるこの世界では、戦争の原因にもなりかねない物のはずだよ」
その一言で、ジェイたちの顔が一瞬で引き締まった。ちょっと青くなっているかな。
「えっと、その。確かに、そうかも知れません。スザクたちを変えた力や、これだけの魔法力の回復まで出来る物なんて、そうそう有るもんじゃ無いですよね」
「うん。一体化しちゃうと、スザクたちみたいに変質しちゃうからね。ジェイたちが使ったら、人間を辞めちゃう可能性もあるしね。普段は隠しておいて、こっそり魔法力の回復に使ってよ」
「は、ははは、いいんでしょうか?」
確認と言うよりも、呆れ気味に呟いた。
「あ、そうだ、マジックバッグには入れないでね。どんな影響があるか判らないから」
「そ、そう言えば、マジックバッグには魔法力を流し続けているから、えっと、空間拡張、でしたっけ? それで、カバンの中が広がって居るんですよね。そこにこの玉を入れたら……」
「良くて、中の空間が広がりすぎて物を取り出せなくなるか、悪くて、マジックバッグが弾け飛ぶか。最悪なのは、何が起こるか判らない、って所だね」
「………」
大きさとしては、女性の握り拳二つ分ぐらい。大きいわけではないけど、持ち歩くにはかさばるかな。
そこで、ふと思い立って、地面から金属抽出を行う。材質は鉄。しかも、出来る限り不純物を取り除いた純鉄にした。それを中が空洞の球形に成形して、火の精霊を表す紋様の形にくり抜いた。紋様は全部で四カ所に入った。そして、鎖を通す穴を開け、命のシンボル用に持っていた鎖を通す。
「ジェイ。ちょっとそれ貸して」
ジェイに渡した宝珠を再び手に取り、宝珠が一時的に小さくなるように念じる。すると簡単に宝珠は形を変え、ビー玉ぐらいの大きさになった。
あ、この方がいいんじゃない?
そこで、一度作った宝珠を入れる純鉄の玉を成形し直し、半分以下の大きさにし、宝珠を更に小さくしてから中に入れ、大きさを戻してぴったりフィットさせた。
ピンポン球よりは少しだけ小さいというサイズの、宝珠のペンダントのできあがり。
「これ握って、魔法力が回復するか試してみて」
「あ、はい」
ペンダントを受け取ったジェイは、片手で玉を握り、もう片方の手を添えて、目を閉じた。
「あ、あれ?」
「え? なんか拙かった?」
ジェイの疑問の声に焦った。
「いえ、その、魔法の力が、えっと、火の力に偏っているような感じがしました」
「あ、ジェイのだからって、洒落て火の精霊の紋様を入れたせいかな。偏ってたんじゃマズイよねぇ。属性に偏らない方がいいから、外側のカバーは変えた方がいいね」
そう言って手を前に出したら、ジェイは取られてたまるかという感じで抱え込んだ。
「いえ、このままで良いです。っていうか、この方がいいです」
「え? そうなの?」
「はい。その、もの凄く相性が良くなった、って感じがします。だから、その…」
「まぁ、これからジェイが使う物だから、それで良いのならいいけど」
「はい。このままで良いです」
それから、レイミーとファイエーにも作ると言ったら、ジェイと同じように、水の精霊の紋様と、風の精霊の紋様を入れてくれとお願いされた。なんと、ガジェットにまで、土の紋様を入れてくれと要望された。
レイミーとファイエーには、ジェイと同じようにペンダントチェーンを付けて渡し、ガジェットには土の紋様を入れたカバーごと、胸の中の土の精霊の宝珠「ノームの秘宝」の下にあった空きスペースに固定した。
密かに、エイプリルからも森の精霊の紋様で精霊王の宝珠をくれという要望があったのは驚いたけどね。
「これで、皆に限った事だけど、魔法力については心配は無くなったね」
「はい。何時でも呼応のような魔法力の回復が出来る、というのは凄い事です。無限に魔法を使い続けられる、って事ですからね」
「無限はどうだろう……」
「ええ、そこまでとは行かないでしょうけど、今までの僕らからすれば同じような物です。残念なのは、僕らの弟子たちには持たせられない、って事ですね」
「うん。戦争の引き金になる物だからねぇ。下手に渡したら、渡した相手がとんでも無い不幸になる可能性が大きいよね。だから、それを持っている事は秘密にして、絶対に知られないようにね」
「もの凄く簡単に渡されましたが、本当にとんでも無い物ですよねぇ。ああ、やっぱりアキラなんですねぇ」
「ん? どういう意味?」
「いえ。何でもないです」
どういう意味か教えてくれそうな相手を探して、レイミーとファイエーの方を振り向くと、何故か顔を背けられた。
「ガジェット? どういう意味なんだろう?」
なんと、ガジェットにまで顔を背けられた。ガーン。ショックだ。
皆して、俺の事をスーパーイケメンだとか、絶対王者とか、ダンディとか行っているに違いない。これは間違いないよね。
とにかく、皆が回復したと言う事で、さっさと進もうという事になった。
次の部屋は、このダンジョンで一番目の部屋。その部屋に逆向きで進行している。ここにはファングキャットが居るはず。
そして、通常通り、部屋の中央に来た所で出現。
ジェイとレイミーのつくった灯りで、ほぼ昼間の様に明るい状態なので、無難に倒す事が出来た。
その部屋を出ると、一番始めの分岐点にまで戻ってきた。ここには試しで作ってみた石版の道案内がある。あれから二時間以上経っているはずだけど、石版に変わりは無かった。
通路を進み、次の分岐点へ到着。ここを右に行けば、二番目の行き止まりルートだ。何処にどんなモンスターが出るか判らないと言う事で調査に来て居るんだから、当然、行き止まりルートで、マップを完成させるのが俺たちの目標だ。
ここにも、石版の道案内を作ってみた。一応、有れば、俺たちにとっても便利だからね。それは、さっき、一番目の分岐点に戻った時に痛感した。
同じような部屋が続くこのようなダンジョンだと、自分たちがどちらから来たのか、と言う事が確信が持てなくなる事が多いようだ。
一つの漢字をずーっと見続けていると、変な混乱を起こして、その漢字が一時的に書けなくなるという現象に近いかも。
そして、本日、三番目のモンスター部屋に侵入。中央に到着して現れたのは、レギオンコングが、前に五、後ろに五、という。ちょっとした集団だった。
「これは、いきなりレベルがあがったねぇ。ジェイ、レイミー、遊びは無しで、さくっと行っちゃって」
「はい!」「うん!」
良い返事の後、レギオンコング相手にはオーバーキルじゃない? ってレベルの魔法が放たれた。魔法使い放題だからサービス良いんだねぇ。
そして、俺の希望通りに、さくっと終了した。
レギオンコングは、体の至る所から角が生えている、戦闘用に特化したゴリラだ。魔法が無い時は、一対一でも生存を諦めるしかなかったモンスターなんだけど、魔法には敵わないんだよねぇ。
皆が魔石を回収した所で、さっさと次へと進む。詮索は後回し、今はマップを充実させる事が重要だもんね。
次の部屋は、尻尾の先まで入れると体長四メートルを超える大サソリが、前八、後ろ八という集団だった。
「これはまた、初心者にはきつい展開だねぇ。まぁ、ジェイさん、レイミーさん、懲らしめてやりなさい」
「は? なんです? それ?」「ん?」
「い、いいから、やっちゃって」
ああ、通じない、って寂しい。
そして次の部屋。このルートは、部屋が三つ続いた後に小部屋になっているから、ここは一応小ボス部屋のはず。
案の定、出てきたのは、高さ七メートル越えの一つ目巨人だった。
「懐かしいねぇ。弱点は判ってるんだから、さっさと足下を攻めて終わらしちゃおう」
一つ目巨人、サイクロプスの足下は、けっこう皮膚が硬くて防御力は高い。でも、それを貫ける力で攻めると、直ぐに立てなくなって巨体としてのメリットを失う。
横倒しにでも出来れば、後は振り回される腕を警戒するだけなので、簡単にタコ殴り出来るというわけだ。
そして、三分も掛からずにサイクロプスは魔石になった。
最期の小部屋に到着。
ガジェットが小部屋の扉を開け始めると、天井から一抱え程度の岩がいくつも落ちてきた。
まぁ、ガジェットは土属性の力が強くて、強化もされている。さらに俺の宝珠という予備の燃料タンクを付けている状態だから、岩が降ってきてもなんの問題も無い。
落ちてきた岩は、ガジェットの直上で砂になり、その砂までもがガジェットを避けて通り、地面に砂の山を作っている。
そして、小部屋の扉は、なんの問題もなく開かれた。
「これ、初心者パーティだったら、どう対応するかねぇ」
「さすがに、難しいですよねぇ」
呑気に会話しながら扉の前のガジェットと合流。
「ガジェット。部屋の罠は?」
「形状的には変化は見られません。しかし、魔法力に関しては数カ所に反応があります」
「何か仕込んでは有るけど、落とし穴では無いってことなんだねぇ」
精霊視で見てみると、確かに地面の数カ所に、魔法力で起動する罠が見て取れた。
まずは魔法陣をメモに書き出して、ファイエーに渡す。そして、水魔法で、勢いのあるジェット水流をぶち当てる魔法で、その地面の魔法陣を撃った。
反応した場所の地面が、四角く切り取られた様になって、そのまま天井まで伸びていった。もし、その地面に乗っていたら、天井との挟み撃ちで潰されていたかも。上手く逃げ出しても、おそらく天井付近まで飛ばされているから、十数メートルの落下は覚悟しないとならないねぇ。
「なかなか、エグイ罠だねぇ。ガジェット、次の罠の場所を、レーザーポインタで照らして」
「了解しました」
本当は精霊視で見えているんだけど、ガジェットの土魔法の探査で判った、って事にするために、ガジェットに協力してもらった。
結局、部屋の中には八カ所の逆落とし穴の罠があり、今は全て、部屋を支える柱になっている。
「これで、火と水の魔法力に反応するのは判ったね」
「これなら、雷系なら反応しそうですが、風と土はどうなるか微妙ですね」
一番奥の祭壇に向かいながら話す。一応、ガジェットの調べで、罠は無さそうだという事だけど、イレギュラーも有りそうなんで油断は出来ない。
そして、祭壇に到着。目の前には、直径5センチほどの魔石の玉が置いてある。
「今度は、どんな罠が仕掛けてあるかな」
「あ、アキラ? なんか、楽しそうですね?」
「え? そ、そうかな?」
思わず顔をゴシゴシ。深呼吸して気を引き締める。う~む、ばれていたかぁ。
「ガジェット? 魔石の周囲の状態は?」
「申し訳ありません。魔石の特性からか、土魔法による診察が上手く働きません」
「あ~、そういう罠でも有るんだねぇ。これは、確実に罠が有ると思った方が良さそうだね」
「どうします? 諦めますか?」
「この後、ここに来たパーティがこれを取って、罠のせいで死んじゃった、ってのはイヤだよね?」
「イヤです」
「なら、どんな罠があるか、出来れば、回避方法とかも調べておかないとねぇ。
と、言う事で、皆は離れて、ガジェットに頼もう」
俺たちは部屋の中央辺りに避難して、奥の祭壇の前ではガジェットだけが待機している。こちらの準備が整ったら、ガジェットが魔石を取る予定だ。
「皆、とりあえず、急に何が起こるか判らないから、空間移動の安全装置に手を掛けておいて、何時でも、何処にでも動けるようにしておいてね」
「はい。準備完了です」「うん」「でぇぇすぅ」
精霊幻獣たちは、俺たちが気を使う必要もないぐらい、機敏な反応が出来る。特に、炎と熱の幻獣であるスザクと、水と氷の幻獣であるリュウは、岩に押しつぶされてもダメージを受けないようにもできる。風と雷の幻獣であるライは、それこそ疾風迅雷の動きが出来る。土と大地の幻獣であるシンは、固さはもちろん、ラリーカーのような速度と動きで移動できるし、大きさも城並みに大きくなれる。
そうそう、簡単には倒せない、中ボスクラスの幻獣だから、俺たちが助けを求める事はあっても、その逆は有り得ないだろう。
但し、グラウは除く。
グラウは単なる辞書。そう割り切らないと、ちょっと悲しくなるからねぇ。
「よし、ガジェット、やっちゃって」
「了解しました」
その声と同時に動き、ガジェットの手には祭壇に置いてあった魔石が握られていた。
ガジェットはそのまま横方向に動き、祭壇からは遠ざかるけど、俺たちには近づかない、という行動をとった。
そして、この部屋の罠が動き出した。
小さな、五十センチぐらいの黒い塊が、部屋の隅からいくつも飛び出して、俺たちの足下を走り回る。
動きが速い、よく見えない。
「ガジェット。捕獲!」
俺の命令で、走り回る物体の一つをガジェットが捕まえた。宇宙戦争に使われる兵器だから、このくらいの早さはどうと言う事も無いらしい。
ガジェットが捕まえたそれは、一見して黒いネズミのようだった。しかも、ガジェットに歯を立てて、囓りまくっている。まぁ、傷一つ付かないだろうけどね。
黒ネズミは壁際から発生すると、一直線に走って、当たった獲物に囓る付くようだ。もし、何にも当たらなければ、そのまま壁に当たり、そこで消えてしまう。そして、別の場所から飛び出してくる、という感じのモンスターアタックのようだ。
「ガジェット! 殲滅!」
「了解しました」
ガジェットは腕に仕込まれたレーザー銃をせり出させ、次々と黒ネズミを打ち倒していく。
本当にあっという間に二十匹ぐらいの黒ネズミを撃ち抜いて倒してしまった。打ち抜かれた黒ネズミは、モンスターよりも早く、あっという間に消えて無くなった。しかも、報酬は出ない。
「ぶつかると囓られるから、踊るように避ける事になるね。すると、地面の罠が働いて、天井で潰される、という罠の部屋だったわけだね」
「なかなか、意地の悪い罠ですねぇ」
「まぁ、ここに入った者たちを殺すための罠、って考えれば、まだ、大人しい方じゃないかな」
罠の詳細も判ったので、元の本線の通路に戻る事にした。
帰りも、同じようにモンスターが湧いて出てきたけど、MPが減らない強力魔法使いたちの敵では無かった。
そしてまた、次の行き止まりの枝道に入る。ここは、奥で、更に二本の枝道に別れる構造だ。
「順調にレベルが上がっているねぇ」
「ここまで来るのに、どのくらいの戦いを繰り返さないとならないでしょうか?」
「ファングキャットをどのくらい倒せば、レギオンコングを倒せるようになるか、が問題だね。正直、風魔法の、見えない刃を飛ばす呪文をしっかりと連発する事が出来れば、ここまでは楽だと思う。まぁ、剣、槍、盾だけ、って場合は、ファングキャットでも難しいだろうね」
「確かにそんな感じですねぇ。つまり、魔法使いだけでも大丈夫、と言う事でしょうか?」
「だと、いいけどねぇ。たぶんだけど、魔法の効かないのがその内、出て来そうではあるね」
「え? そんなのが居るんですか?」
「魔法でひょいひょいと進んできた連中が、調子に乗って、その内しっぺ返しを喰らう、ってのは良くある定石でしょう?」
「それは、そうですけど、そういうモンスターに心当たりが無いモノで」
俺もそう思ったけど、それを口に出す前に部屋の中央に到着した。
そして、前後に三ずつのモンスターが湧いて出てくる。それは、自ら動く金属鎧だった。
「あ、なんか、懐かしいねぇ。俺とレイミーがジェイに始めて会った時に、ジェイが戦ってたのがリビングメイルだったねぇ」
「懐かしいのは良いんですが、僕が戦ってたのとはちょっと違うみたいですよ?」
「あれ? なんか肉厚? 風の刃も火の弾も、氷も雷も効き難そうだね」
「あれって、もしかして魔法対策ですか?」
「そうなのかもね」
俺とジェイは、本当にのんびりと会話をしていた。だって、大したこと無いモンスターだもん。
「まぁ、本当の初心者には、絶対的に不利な敵、って事になるんだろうね」
「ですよね」
初心者の火の弾だったら、金属鎧に弾かれて、ダメージを与えられないで終わる、って話しだけど、今ここにいる連中はそんな可愛いレベルじゃないしね。
「今、ここにいる連中だと、グラウ以外は瞬殺出来る雑魚モンスターでしかないね。
と、言う事で、やりたい人居る?」
「あぁぁのぉぉ」
「ん? ファイエーやる?」
「ライがぁ、遊びたいとぉぉ」
「いいよぉ。他には?」
俺を見つめる視線。どうやら大陸亀型の精霊幻獣であるシンも遊びたいようだ。
「じゃ、前はライ、後ろはシンで、遊んでおいで」
ほのぼのとした顔で見つめる俺たちに見送られ、ライとシンが一瞬でリビングメイルの真後ろに回り込んだ。虎の成獣よりも二回りは大きいライはともかく、地面に砂煙を残して爆走する陸亀、ってのは、何度見ても笑うしかない。
ライの疾風迅雷の動きを支える四肢で簡単に潰されていくリビングメイル。同じく、単なる体当たりで、二十メートル以上離れた壁にリビングメイルがめり込むぐらいの衝撃を発するシン。
「これじゃ、遊び足りなさそうだねぇ」
俺の言葉は皆の同意を得た。
ちょっとだけ、リビングメイルが哀れになったよ。
竹を組んで、紙を貼り合わせた張りぼての人形を、パワーショベルで叩き潰せば、同じようになるかな。なんて感じながら、少しだけ満足そうに帰ってくるライとシンを出迎えた。
「えっと、ご苦労? さん。まぁ、えっとぉ、うん。次に行こう」
もう、言葉も出ないから、さっさと次に行く事にした。
次の部屋は、同じリビングメイルが、前に六、後ろに六の配置で現れた。
「なるほど。こういう配置かぁ。なんとかリビングメイルを倒した後、もっと数が多く出てくる、ってのは、心もへこむよねぇ。
スザク、リュウ、遊んできて良いよ」
ここに入った初心者パーティが、どのくらい苦労するのかは判らないけど、今は、スザクの熱で溶かされ、リュウの水流で押しつぶされているリビングメイルが哀れだった。
「うん。ご苦労さん。次に行こう」
そして、次の部屋に居たのは、大型のスパークシープ一頭だった。
通路はこの先で分岐しているから、その前の小ボス、って感じかな。しかも、雷系の魔法は効かないし、風にもある程度は抵抗力がある。剣を突き刺せば感電してしまうし、倒すには火、水、土系統に限られる。
「誰か、やってみる?」
「ふぁぁぁい」
ジェイかレイミー、もしかしたらガジェットがやりたがるかな? って気持ちで聞いたら、まさかのファイエーが答えてきた。ファイエーは風専門じゃなかったっけ?
「や、やるの?」
「やぁりぃまぁすぅぅ」
なんか、楽しそうに前に出た。そして、ブツブツと呪文を唱えて出した魔法は、酷い勢いで回るつむじ風だった。しかも、所々に雷が発生している。
地面の土や砂を巻き上げ、たぶん、真空の刃になっている所もありそうだった。それが、轟音を立てながらスパークシープに迫る。
さすがのスパークシープも逃げ出したけど、それを追いかけて凶悪つむじ風がスパークシープを包み込み、もの凄い稲光がつむじ風の中で弾けていた。
しばらく後、つむじ風が無くなった時には、そこには何も無かった。
魔石も何処かに飛んで行ったみたいだ。
まぁ、ライが見つけて、くわえてきてくれたけどね。
ファイエーがやりたがったのは、魔法力を使って、俺の玉での大きな魔法力回復を実感してみたかった、ってのも有ったそうだ。だからこそのオーバーキルなんだねぇ。
実際、あのモンスター相手には、もっと簡単な魔法で充分なはずだったモンねぇ。
で、実際に回復してみたら、「を、を、を、を、を」とか言って、変な踊りを踊ってた。
「まぁ、いいや。次行こう、次!」
ここの行き止まりの枝道は、この場で二つに分かれる。両方とも、二部屋と小部屋になっているので、レベルとしては同等と思われる。そこで、ほんの少しだけ俺たちの近くにあった左の通路から行く事にした。
そして現れたのは、前一頭、後ろ一頭の、丸めのイタチという雰囲気の獣っぽいモンスターだった。
「グラウ? あれ、なに?」
なんと、このダンジョンに入って、始めてグラウの知識をあてにする事態に陥った。
「ふむ。なんと珍しいモンスターじゃな。あれは、サンダービーストと呼ばれておる」
「さんだぁびぃすと、って、雷獣?」
「ほっほう。知っておったのか?」
「いや、知らないって。だけど、そんな妖怪? 妖精? みたいなモノ、って話しは読んだ事があると思った」
「なんじゃ。だいぶあやふやじゃな。それはともかく、あれは、素早い動きで走り回り、小さいが致命傷にはなる雷撃を放ってくるぞ」
「雷かぁ。じゃあ、前はガジェット。後ろはジェイでお願い」
「了解しました」「はい!」
ガジェットは土の柱を何本も作り出し、雷獣を追い込んで、追い込んで、急造した落とし穴に誘導した。まるで詰め将棋のようだった。そして、落とし穴に避難したつもりの雷獣がしっかりと穴に入った事を確認した後、土魔法でその穴を閉じた。
お見事でした。
ジェイもまた、炎の柱を作り出し、それを移動させる事で追い込み、最期は四本の炎の柱で囲い込んだ。誘導する時は炎の柱は単純に燃えているだけで、囲い込んでから炎の温度を上げて、一気に燃やし尽くした。
効率的な戦いでした。
「さすがだね」
暗くなっただけであたふたしていた時とは比べモノにならないねぇ。
「さて、次はちょっとしたボスモンスターのはずだね」
「どんなのが来ますかねぇ?」
「通用しなかったとは言え、始めは魔法無効、次は同じで体力削りを目的にしてた。次が雷系無効っぽいのが二回続いたからねぇ。次も雷無効かな?」
そんな予想をしゃべりつつ、ボス部屋の中央に到着すると、湧いて出てきたのはイタチだった。
またイタチかよ。って突っ込みたくなったけど、その体は普通のイタチの三倍ぐらいはある。そして、尻尾が妙に長い。しかも、十数匹居る。
「大きさは違うけど、あの姿には見覚えがあるなぁ」
「ええ、真空の刃を撃ってくる、鎌イタチに似ていますね」
普通のイタチは、だいたい猫並みの大きさと考えると、今、目の前にいるイタチはドーベルマンぐらいの大きさがある。その分、尻尾も長い。
「えっと、ファイエー。念のため、風の防御を」
「はぁぁいぃ」
一瞬で俺たちの周りを渦巻く暴風が取り囲んだ。
と、同時に三倍鎌イタチモドキが尻尾を上げた。そして、目には見えないけど、俺の精霊視や魔法力を感知する事ができる者には判る、真空の刃が襲ってきた。
「やっぱり鎌イタチかぁ。差詰め、大鎌イタチ、って所かな。グラウ? あれの正式名称ってわかる?」
「正式かどうかは判らぬが、ワルウィーゼと呼んで居る所もあるのぉ」
「ワルウィーゼ? どんな意味だろう?」
「さぁてのぉ。危険なイタチとか言う話しもあったがのぉ」
名付けなんて、本当に適当なはずだから、あまり追求しても意味はないよね。
さて、そのワルウィーゼの第一撃を防いだ所で、ワルウィーゼが攻めあぐねている。十数匹で真空の刃を放ったのに、なんの効果もなかったんだから当然かもね。
そして、次の行動は、直接のバトルを選択したようだ。
牙を剥いて襲いかかってくるワルウィーゼ。そして、風の障壁に弾かれて飛ばされていく。
あ、半分が魔石になった。
「あぁ、所詮は、真空の刃だけのモンスターなんだねぇ」
「なんか、弱い者イジメをしているような」
「そんなの、ここまで全部だったよねぇ」
「ああ、確かに。僕たちって悪人だったんですねぇ」
「他人の家の中のモンスターコレクションを、挨拶も無しに乗り込んで殺しまくっている強盗だね」
「は、反論出来ない!」
そんな馬鹿話しを続けている間に、ワルウィーゼは全滅していた。もう少し知恵付けようよ。
魔石を回収して、宝の部屋に向かう。
ここにも扉があり、ガジェットに開けて貰う事にした。当然ここにも罠があり、扉の前に立つと、土魔法で出来た槍が二十本、地面から一瞬で突き出すモノだった。
ガジェットが、その罠の掛かった魔法陣に対して、土を動かす魔法を掛けただけで誤動作を起こし、誰も居ない状態で土の槍を生やしていた。
その槍を無造作にへし折りながらガジェットは進み、簡単に扉を開けた。
部屋に入ったガジェットが、更に土魔法で調べていく。それによると、罠は中央の一カ所のみ。避けて進むか、作動させるかで一瞬迷ったけど、罠の種類を調べるのも俺たちの役目だったのを思い出した。
罠の位置から五メートルほど離れた位置で集合し、俺は短縮登録してある光魔法を唱えた。
「フォトン!」
指先から発した光を収束したレーザーは、見事に命中して魔法陣を弾き飛ばした。
「……………」
しばらく、無言の時間が過ぎた。
「………」
まだ、なにも起こらない。
「……」
どうしたの?
「グラウ? これってどういうわけだろう?」
「ふむ。もしかして、なんじゃが、お主の光魔法で、罠の魔法陣が本当に壊されたのかも知れんのぉ」
「「ええ~!」」
あまりの間抜けぶりに眩暈がした。
「そもそも、光魔法は、精霊の紋様を描くのに、もっとも効率の良いモノじゃからな。お主のは特にの。じゃから、地面に仕込まれていた魔法陣にしっかりと影響を与えたんじゃろう。まぁ、ほとんど、ワシの勘じゃがな」
全ての精霊の知識を使えるグラウの勘なら、かなりの確率だろうねぇ。
「皆、悪いけど、大鎌イタチ、いや、ワルウィーゼの所に戻るよ、一回、向こうで戦ってから、またここに戻ろう」
上手くすれば、その行為で罠が復活するはず。
そして、十数匹のワルウィーゼが出現すると同時に、オラオラオラっと強力なつむじ風魔法を飛ばして、あっという間に倒した。
それから、また、宝の小部屋に戻る。
入り口の扉は開いたままだった。部屋の中の罠も復活していない。
「う、無駄だったかぁ~」
「モンスターの方は、部屋から出て、もう一度入れば復活するのに、罠は直らないんですねぇ」
「どんな基準かが判らないよねぇ。もしかしたら、一回限りの罠かも知れないし、俺たちが一旦外に出れば復活するかも知れないし、俺たちにとっては、これ一回キリなのかも知れない。いろいろ試してみたいと判らないね」
「あの、俺たちにとっては一回キリ、っていうのは?」
「俺たちが何回来ても、罠は復活していない、けど、他のパーティには罠として復活しているかも、っていう話し。まぁ、これも、可能性の一つだけどね」
とにかく、罠が判っているのなら光魔法で壊しても良いけど、どんな罠なのか調べるには、光魔法は使えない、って事だけが判った。
ちょっと悲しい。
小部屋の一番奥の祭壇の所まで行く。そこには、ピンポン球ぐらいの魔石が置いてあった。
「ここの罠は、しっかりと観察しておかないとね。ガジェット?」
「はい。祭壇が設置されている壁面全体に影響があると思われます」
「え? また、大岩ゴロゴロかな?」
「不明です」
仕方がないので、いつも通りに俺たちは部屋の中央に退避し、ガジェットが魔石を取ることになった。
俺の合図を受け、ガジェットが魔石を持ち上げる。すると、祭壇のあった壁が綺麗に消えて、その向こうにあった部屋と繋がった。
今までは学校の体育館程度の大きさだったけど、それが二倍の大きさになったと言う感じだ。それでも、通常の部屋よりは若干小さいんだけどね。
その広がった部屋の一番奥には、この罠の主役たちが居た。
白い狼。大きさも普通の大型犬程度。特に変わった所は無いけど、精霊視で見ると、その狼が風を纏っているのが判る。
そんな白い狼が八頭。こちらを見つめて、歯をむき出しにして唸っている。
「グラウ? あれって?」
「ブラストウルフじゃな。近くを通り過ぎただけで、爆風に巻き上げられるぞ」
「やっぱり、強い風を纏っているんだね。剣での攻撃って無理なのかな?」
「唯一、風を纏っていないのは口元じゃな」
「なるほど。口にまで風を纏っていたら、噛み付けないってわけか。でも、わざわざ風を纏っているって事は………。
ジェイ。あの狼たちの足下に、炎のカーペットを敷いてくれないかな? 炎はあまり強くなくていいから」
「あ、はい。判りました」
俺の要望通り、ジェイが炎を出すと、ブラストウルフは自ら炎を巻き込み、燃えていった。
「え~と。戻ろうか」
狼の方からは、犬の泣き声である「キャイン、ギャイン」という声が聞こえていたけど、程なくそれも無くなった。なんという、後味の悪い戦いだったのだろうか。
「俺たちも、風の防壁を使う時は気を付けようね」
「せめて、一度ぐらいは攻撃させてあげても良かったかな? なんて考えちゃうんですけどねぇ」
「この部屋を訪れる、他のパーティは、きっと、同じような戦い方をするんじゃないかな?」
「ですよねぇ」
密かに、この部屋を哀れなるモノたちの部屋と名付けよう。あ、このダンジョンがすべてそうなのかも?
やや肩を落としつつ、俺たちは二部屋戻り、別の分岐へと入った。
第二分岐の一部屋目は、炎に包まれたネズミの集団だった。
「げぇ。ファーリング!」
ジェイが「げぇ」なんて言うのを始めて聞いた。それほど嫌なモンスターなのかな?
「グラウ? 解説よろしく」
「ほっほ。ファーリング、もしくはファーリングマウスと呼ばれている、炎のネズミじゃな。普段は火山などにいるんじゃが、たまに街中に降りてきて火事を起こすとも言われておる。まぁほとんどは言い訳じゃがな」
「ああ、何かの失敗で火事を起こしちゃった時に、ファーリングのせいにしちゃうんだ?」
「うむ。本当なら、その近くの森も焼け落ちているはずじゃからのぉ。じゃが、ファーリングが原因の火事もあるようじゃて、一概に言い訳とも言えんがのぉ」
「ええ、今は、ファイエーさんの作ったコンロがありますけど、以前は、時々、ファーリングを捕まえてかまどに入れる事も流行ったそうです。でも、大抵はすぐに死んでしまうか、逃がしてしまう事も多く、逃げたファーリングに家を燃やされたってのもよくあったそうです」
グラウの解説にジェイが補足を入れてくれた。
「なるほどねぇ。便利に使おうとしたら、しっぺ返しを受けたわけだ。まぁ、それはそれとして、今度は火の魔法が無効化される感じだね。しかも素早そうだ。誰がやる?」
その答えを聞く前に、レイミーが一歩前に出て魔法を解き放った。
大量の水を浴びて、あっさりと魔石に変わるファーリング。更にレイミーは同じ呪文で後方のファーリングも倒して魔石に変えてしまった。
素早くて、捉える事が難しいはずのネズミ型モンスターがあっさりと……。
基本的に、このダンジョンに構成されたモンスター配置だと、俺たちのレベルが高すぎるということか。でも、初心者には、魔法自体を当てる事も不可能かも知れない。ちゃんと、第一分岐や第二分岐でしっかりと経験値を稼いで貰いたいよねぇ。
そして、この分岐のボス部屋に到着。出てきたのは、口の中が溶鉱炉にでもなっているのか? という疑問も出てきそうな、口から炎をチョロチョロとあふれさせている虎だった。
「あ、ファーネスタイガー?」
ジェイには思い入れのあるモンスターだねぇ。以前は捕まっていたファーネスタイガーを解放し、ジェイが火山に送っていったと言う事があった。
それが敵として出てくるのは、ジェイには辛い事かも。
「ジェイ? あれは一応、魔石のモンスターってのは、判ってるよね?」
「あ、はい。大丈夫です」
相手は一頭。だけど、大型で機敏な動きをする虎だ。しかも、火の属性を持っている。
「レイミー、凍らせちゃって……」
「いえ、僕が行きます」
ジェイが答えを待たずに前に出た。レイミーもその表情を見て、一歩下がった。
そのまま、俺たちから十歩ほども離れ、ファーネスタイガーに対峙、杖をかざして呪文を唱える。
その動きに反応したファーネスタイガーがダッシュでジェイに飛びかかった。
その距離をあっという間につめたファーネスタイガーは、前足を突き出し、口を大きく開けて、ジェイを噛み千切ろうとする。
そこへ、ジェイの作った火柱が突然現れて、ファーネスタイガーは弾かれ、一旦、距離を取った。
ジェイとの間の一定距離を行ったり来たりするファーネスタイガー。だけど、その動きはどんどんと鈍くなっていく。そして、動きが止まったかと思うと、ファーネスタイガーの体表にうっすらと霜がおりた。
ジェイは、火の魔法の特性である、温度管理を行い、ファーネスタイガーから熱を奪っていった。
ジェイにこの呪文を完成させてしまった時点で、あらゆる生き物はその命を凍らせる事になる。
まぁ、対抗策はある事はあるんだけどね。
ただ、ファーネスタイガーは、それには気付かずに終わりを迎えたようだ。
熱を奪われ、冷たい塊になったファーネスタイガーは、ひび割れ、崩れ落ち、そして、消えていった。
ジェイは、落ちていた魔石を拾うと、少しだけ考え、そして、いつもの調子に戻ってきた。
「終わりました。次にいきましょうか」
まぁ、魔石のモンスターだからねぇ。そう、思う事にしたんだろう。わざわざ、突っ込みを入れる必要もないね。
それから、この分岐の行き止まりの、最期の部屋の前に到着。例によって扉が閉じられている。
「扉全体に罠が仕掛けられているようです。推定ですが、扉に手を掛けた時点で作動すると思われます」
ガジェットの調査で、大体の事は判るから便利だけど、初心者たちには無理だろうねぇ。
「じゃあ、ガジェット。少し離れた位置から、土魔法かなんかをぶつけてみて」
「了解しました」
三メートルほど斜め後ろに下がり、ガジェットが土人形を作り出した。それが、とことこと歩いて扉の前に立つと、その扉を開けようと手を付いた。
その瞬間。
扉から何本もの長いトゲが一瞬で伸び、土人形を無惨に貫いていた。
まぁ、土人形なんで被害は無く、そのまま扉を押し開けたのはご愛敬だけどね。
「なかなかエグイよねぇ」
「土人形が作れないと、このダンジョンは難しいかも知れませんね」
「うん。俺もそう思う」
そして、小部屋の中に入ってすぐ、ガジェットが皆を停止させた。
「部屋全体の床に罠です。起動点は一歩先の地面にあります」
精霊視で見ると、確かに一歩先の床に魔法陣が見え、そこから伸びた線が細かく、部屋全体に伸びているのが確認出来た。
俺たちは一旦部屋から出て、ガジェットが土人形を再び作り始める。
そして、土人形が罠の魔法陣を踏んだ。
それと同時に、床から二メートルはありそうなトゲが、部屋中の床からランダムに飛び出始めた。飛び出て、引っ込み、飛び出て、引っ込む、と言う事を繰り返している。出てくるタイミングは同じで、リズム感があれば避けて進めそうだ。
「見てごらん。トゲの引っ込むタイミングを上手く取れば、トゲに刺される事もなく祭壇まで行けそうだね」
「た、確かに、見た目ではそう見えますけど、走る速さが足りなければトゲに追いつかれますし、道を間違えたらお終いですよね? それも、行きと帰りで違う道じゃないとマズイみたいですが、それでも、行かないと駄目ですか?」
ジェイがもう無理、って感じで言ってきた。
ゲームではこんなのもあったけど、現実に目の前にあると、かなり萎縮しそうだ。まぁ、そんな綱渡りみたいな真似はするつもりもないけどね。
「グラウ? 魔石、取ってきて」
「ふむ。判った」
バサバサバサ、っと、飛び立つ時には羽音がするのは仕方ないけど、たぶん、他の鳥の羽ばたき音よりは小さいみたいだ。
そんな羽音を立ててグラウが飛び立ち、部屋の一番奥にある祭壇から、魔石を足で掴んで戻ってきた。
「そ、そうかぁ、僕ならスザクを使えば良かったんですねぇ」
ガジェットの肩に乗っている朱雀が、全くだ、と言う感じでケェェェンっと鳴いた。
そして、グラウが戻ってきたと同時に、祭壇の方の罠が起動したようだ。いきなり部屋が真っ暗になった。灯りの一つは中に入れてあるんだけど、それが見えないほど真っ暗だ。
よく見ると、黒い霧のようなモノが部屋全体を覆っている。
「霧自体は無害みたいだけど、トゲのタイミングを見て走っていたら、いきなり真っ暗になって走り抜ける場所を見失っていたかもね」
「本当に、えげつない罠ですねぇ」
まぁ、罠、ってのは、それだけでえげつないモノだけどね。
「でも、ここの攻略は、鳥形の従魔を従えていないと無理ってことですか?」
「まぁ、俺たちには、スカイボードの安全装置もあるし、それに」
徐々に黒い霧が晴れてきて、まだトゲが出入りしている部屋の様子が見えるようになってきた。
そこで俺は、すぐ足下の、罠の起動点である魔法陣に向かって、「フォトン」と唱えて魔法陣をレーザーで打ち壊した。
同時に、トゲの罠も消えた。
「なるほど。始めからこうしておけば良いわけですね」
「詳細が判っていればね。さすがに、どんな罠なのか確認しないで魔法陣を壊すわけにもいかないからねぇ」
「あ、ですねぇ」
「それじゃ、今日はここまでにして、戻ろうか?」
「あれ? 泊まりがけで攻略するかと思ったんですが?」
「うん。元々はそのつもりだったんだけどね。ここの構造は、本線の道に、枝道がある、ってパターンだから、ここからだと、部屋を一つ一つ戻るよりも、一度外に出ちゃった方が早いんだよねぇ」
「あ、確かに」
「一度外に出るなら、アカデミーの部屋でゆっくり休んで、また明日、って方が効率良さそうだしね」
「それもまた、その通りですねぇ」
と、言う事で、俺の転移で戻る事にした。本日のお役はご免、って事で、スザクやリュウ、ライは小さくなってそれぞれの主の元へ。元々、めい一杯小さくなって体長三メートル越えのシンだけはそのままだけどね。
全員でこのダンジョンの入り口である門の前に転移し、そこから歩いて小型輸送艇に向かった。
まぁ、女性陣がトイレを終えるまでは、俺とジェイは外で打ち合わせをする、って事にしておいたけどね。
でも、やっぱり、ダンジョン内にトイレは必要なんだろうねぇ。もしくは携帯トイレをどうにかするか? 蓋ががっちりと締まる壺という話しもあったよねぇ。
ダンジョン内の壁に穴を開けて、公衆トイレでも作りつけちゃおうか? 後でファイエーに相談してみよう。
ちょっと下世話な事を考えていたら、赤い夕日が山に隠れ、周囲が影で暗くなった。




