第九十五章 晃と二世界統一 ダンジョン攻略
ターナの街の近くにあった、大陥没と呼ばれた場所に、小高い丘が出来ていて、そこに地獄の門を適当に模した扉があった。
俺は、グラウとガジェット、そして、木こり衆から急遽借り出した、ボードとコルトと一緒に、地獄の門をくぐった。
先頭はガジェット、次に俺、後ろにコルトとボードが続く。
トンネルの中の道は急勾配の下り坂で、土は比較的軟らかい。俺の足跡は付かないけど、ガジェットの足跡は確実に残っている。
「急な坂道だから気を付けて」
後ろの二人に声をかけるために振り返ったら、後ろは真っ暗だった。ヤバイ、忘れていた。いつものメンバーだったら、誰かしら魔法で灯りを作ってくれてたんだよねぇ。
「ガジェット。悪いけど、後方にも追従する灯りを出しておいて」
「了解しました」
これで、後ろを付いてくる二人の足下も明るくなった。
「二人とも、灯りは直接見ないようにね。目が眩んじゃって、しばらく何も見えなくなっちゃうから」
俺の忠告にコルトがコックリと頷いて返してきた。ボードの方は、周囲を警戒するので忙しそうだ。
それからしばらくは沈黙の行進が続いた。
「ガジェット。俺たちはどのくらい降りたかな?」
「門からですと、垂直方向に二十メートルになります」
いい加減飽きてきたので、ガジェットに聞いてみたら、既に七階か八階分ぐらいの高さになっていた。
「このまま変わりない道が続くのかなぁ?」
「四十メートル先で傾斜が無くなり、広い空間に出ます。その空間の広さは現在測定中です」
「えっと、部屋って事かな? それとも、通路が広がるって事かな?」
「不明。現在測定中です」
「すると、けっこう広いんだ? 判っている範囲で言うと?」
「高さは推定で十二メートル前後。左右は二十メートル以上、奥行きは百メートルまで測定されました。現在、測定継続中です」
「空を飛べる事は無いけれど、中型のドラゴン程度の大きさなら、暴れ回れる、って大きさだね」
「現在、熱源、及び振動探査には反応がありません。土魔法による広域探査を実行しますか?」
「ああ、一度やっておいた方がいいね。何か条件がある?」
「現在、光魔法を二重に使用し、通常計器による観測を高密度で実行中です。土魔法による広域探査を行う場合、どちらかを停止させる必要があります」
「ああ、ここだとエイプリルの監視が届かないから、その分、ガジェットが周辺警戒に力を入れてたんだねぇ。ゴメン、気付かなかった。
周辺警戒はグラウにして貰うから、ガジェットは灯りと土魔法をお願い」
「了解しました」
「グラウもよろしく」
「ふむ。任せておけ」
「艦長に状況報告。この洞窟の形状が判明しました。大まかな配置を投影します」
さっそくガジェットが探査の結果を報告してきた。それをトンネルの壁にCGで投影する。
その映像を見るに、このトンネルは相当な大きさの蟻の巣状になっているようだ。所々部屋のように広くなった場所がある。
「まるでゲームのダンジョンだな」
「なんだ? その、げえむのだ、なんとか、って?」
一緒に映像をみていたボードが、コルトにしがみついたまま聞いてきた。
「ああ、ごめん。ダンジョン、ってのは迷宮って訳されるけど、要はここみたいに、人が迷うように作られた建物のことなんだ。城みたいなのとか、塔、そして、こういう地下に作られた物もあって、他人が入ってきたら、道に迷わせたり、罠に落としたりとかの仕掛けがある物も作られていた、というお話しがあったんだ」
「な、なんだ、お話し、かよ」
「そう。お話しなんだけど、ここがそのお話しを参考に作られていたら………」
「お? おい?」
「一歩踏み込んだら、いきなり地面が無くなっているかも」
「……」
「いきなり、何十本もの槍が、両方の壁からザクッ! とか」
「……」
「隠し部屋に」
「……」
「宝箱とか」
「お宝かよ!」
ナイス突っ込み。ボードも少しは元気が出てきたようだ。
「まぁ、ここがそういうダンジョン、って決まったわけじゃないけどね」
「でも、誰かによって作られた物なんだろ?」
「うん。それは間違いない。ガジェットは前に、元の大陥没に潜った事があったよね。その時と今を比べてどう違うかな?」
「規模が十倍以上になっていると推定されます。形状も、以前は歪で、昆虫が作成したような不規則性も見られました」
「入り組んでいる、って所は同じだけど、ほとんど別物って事だね。見ると、壁や天井、そして床もきっちりと平らに出来ているし、人間並みの考え方をするような存在がこのトンエルを作ったのは間違いないね」
「な、なんだよ。その、人間並みのなんとか、って」
「人間か、獣人か、翼人か、それとも、人間以上の存在か、って感じで特定出来ないだけなんだけどね。とりあえず、人間以下、って事は無さそうだよねぇ」
「作ったのは、人間かも知れないって事か?」
「人間が、一瞬………、じゃないにしても、例えば、三日でこれを作れると思う?」
「無理だろうけど、あんたならどうなんだ?」
「うっ、どうだろう? 穴掘るだけなら出来るかな? いや、ここまできっちりとしていて、通路と部屋を区別して、ってなると難しいだろうな。設計図があるとして、十日は欲しいなぁ」
「あんたも人間以上の部類に入るんじゃないのか?」
「ううっ。それを言われると……。と、とりあえず、人間以上の存在が、人間よりも素晴らしいかは別問題だしねぇ」
「自分で言うのかよ」
とにかく、一つ目の部屋の手前で遊んでいても仕方ないので、そろそろと進む事にした。
今度はガジェットが土魔法を使って、地面の中の事を「知る」事が出来るので、罠や隠し部屋を見過ごす事も無いし、道に迷う事も無いので安心して歩けた。
そして第一の部屋に到着。
元々通路も大型トラックが通れるぐらいの大きさがあったが、部屋はさらに広いと感じる。ガジェットの作った灯りが、対面の壁を映さない。俺自身は闇の中でもはっきり見えるけど、それでも、向こう側は霞んではっきりしない。
ガジェットの観測だと、横幅は六十メートルほど。奥行きは百二十メートルほどの、二対一の比率の長方形の部屋だと言う事だ。高さは十二メートルだから、大体ドミノの牌を倒して置いてある感じかな。その部屋を通路としてのトンネルが繋いで迷路を造っている。
「何も無いね。ただの地下広場って感じだねぇ」
「ああ、まぁ、地獄って場所には見えない、ってのは確かだな」
本当にだだっ広いだけの更地で、サッカーの試合が出来そうな感じだ。
とりあえず警戒はするけど、魔法の灯りも届かない広さなんで、周りは真っ暗。俺たちと、俺たちの周りの地面だけが見えている状況で、何処をどう警戒したらいいかも判らない。
まぁ、ガジェットとグラウで本格的な警戒をしているから、俺が手を抜いても問題無いんだけどね。
「動体反応。十二時に四、六時に四」
「何か、地面から沸き上がってきおったぞ」
そのガジェットとグラウからの警告が来た。
真正面と真後ろに四つずつ? 挟まれたのか?
「距離は前後共に十五メートル。拡大中でしたが高さ一メートルになった状態で変化が止まっています」
「俺たちって、今、この部屋のどの位置に居る?」
「ほぼ中心位置と言えます」
「つまり、前後共に、逃げにくい場所で発生するトラップ型、という事かな」
「不明です。可能性はありますが、断定は出来ません」
「あ、そりゃそうか。初めての遭遇だもんねぇ」
そして、ガジェットの作った魔法の灯りに照らされて、そいつらの姿が見えてきた。
「コボルト?」
犬と人間の顔を混ぜ合わせて、その顔をぶん殴って腫らしたような顔をしている、身長一メートルほどの、子供体型のモンスターだ。手には、何処かで拾ってきたような太い木の枝を持っている。棍棒代わりだろうけど、一対一だと怖くはないレベルだ。だけど、集団で襲ってきたら、かなり鬱陶しいけど、魔法での範囲攻撃が当たれば簡単に倒せる程度の雑魚キャラだ。
魔法を覚えたての頃に、風魔法で無双していた頃が懐かしい。
「脅威を排除します」
あ、俺は通常の敵だと攻撃行為をしないから、ガジェットに任せる、って頼んでいたんだった。
「待って、ガジェット。
ボード、コルト、二人で戦ってみない?」
「あ? あれってモンスターだろ?」
「モンスターだけど、雑魚だよ。ちょっと力の強い子供、って程度の力しかない。あの、持っている棒だって、当たっても我慢出来る程度の攻撃力しかないよ」
「そうなのか? そんな弱いモンスターが居るなんて知らなかったなぁ」
「ああ、でも、袋だたきに会うと反撃しにくくなって、その内、ボコボコにされるってのは判るよね」
「お? ああ、まぁ、そりゃそうだな」
「その剣に慣れてみるには、丁度いい敵って事だね。やってみない?」
「ん、コルト? どうする?」
その問いに、コルトはあっさりと頷いた。ボードにはそれが意外だったみたいだけど、直ぐに剣を抜いて構えた。
「ボードは前、コルトは後ろの四匹を。ほんの少しでもヤバイと感じたら直ぐにこっちに戻るように移動すれば、ガジェットが援護に出るから」
「判った」
「斧と違って、剣はハンマーを振り回すように扱ってくれ。大振りでいいから振り回して、もし外れたら、もう一回転振り回して当てるつもりで。それも外れたらもう一回転、って感じで」
「よっしゃー!」
ボードが、言われたとおりに剣を振り回しながら、こちらに迫って来たコボルトに向かって突入した。
剣は振り回すのが基本だけど、敵に当てる時に、しっかりと刃を立てておかなければならない、って注意をし忘れた。
まぁ、斧や鉈を使い慣れているから大丈夫だろう。
実際、なんの問題も無かったしね。
ボードもコルトも、危なげなく剣を振り、ほとんど野球のバッティング練習でもしているかのようにコボルトを弾き飛ばしていた。
「グラウ。闇の精霊と精神の精霊に、この周囲と、あの二人の心の状況を監視しておくように頼んでくれるかな」
「あの二人もじゃと?」
「うん。ここで戦う事で、邪霊のような影響を受けないかが心配なんだ」
「なるほどのぉ。ふむ。どちらもしっかり監視すると言っておる。ついでにお主の方もじゃがな」
ボードとコルトが戦っている最中に、小声で頼んでおいた。
「ハァ、ハァ、い、意外に疲れるもんだな。ハァ、ハァ」
ボードとコルトが息を切らせて戻ってきた。
「ご苦労さん。疲れたのは、慣れて無いからだと思うよ。体力的には、この程度で根を上げる体してないだろう?」
「まぁなぁ。コルト、お前は大丈夫か?」
ボードの質問にコクリと頷く。なんか、始めて会った時と比べてもリラックスしているような感じを受ける。
この環境がリラックスできる危ない性格? それとも、俺たちしか居ないからかな?
まぁ、詮索はしないでおこう。まだ、調査は始まったばかりだ。
俺はカバンの中に入れっぱなしだった古着の一つを取り出し、それをナイフで切り裂いて数枚のタオルを作った。
「地面の土を使って剣の血をぬぐって、このタオルで綺麗に拭いておいて。特に脂はしっかりと落としておいて」
「おう。判ってるって」
そう言って、二人とも地面に剣をなすりつけ始めた。猪、鹿、ウサギ、鳥とかを捌いた事があれば、刃物の扱いは判っているってことだよね。
判っていなかったのは、ここに来たばかりの頃の俺だけだよねぇ。
二人が剣を拭いている間に、俺はコボルトの様子を見る事にした。
首が綺麗に無くなっているモノ。腑をぶちまけて、未だにピクピクしているモノ。頭の半分が潰されているモノ。見事な前屈を見せているモノ、いや、背骨側だから、前屈じゃなくて後屈かな? という四体のコボルトの死体があった。
うん。問題ないね。
コボルトじゃ、皮を剥いでも使い道無さそうだなぁ、なんて考えていたら、そのコボルトの死体が溶け始めた。
もしかしてヤバイ? ガスか? 液体か? 死んだコボルトだけに影響か? それとも、俺たち全員?
「ガジェット! ガスチェック!」
俺は叫びながら後退し、ガジェットと位置を交換する。俺の慌て振りに驚いたボードとコルトが走って近づいてくる。
「どうした?」
「とにかくまとまって。グラウ!」
「判った!」
俺、ボード、コルトが一カ所にまとまった所でグラウが高密度の防御結界を張る。これで安全かは判らないけど、何もやらないよりはましだ。
そして、ボードとコルトも、コボルトが溶けていくのを目撃した。
「げぇ! どうなってやがる?」
「判らないけど、現れた時も地面から湧き出すように出てきたから、死んだ場合も地面に帰っていくのかな?」
「まぁ、そう言われりゃそうかも知れないけどなぁ」
「だけど、念のため、ここで様子を見よう。ガジェット、ガスは?」
「現在の所、有害物質は検出されていません」
そして、コボルトは完全に消えてしまった。
もうしばらく様子をみて、ガジェットに確認した。
「ウィルス検査は実行不可能でしたので検査は行ってはいません」
「かまわないよ。ありがと。また土魔法での調査をお願い」
「了解しました」
グラウの防御結界も解いて貰い、俺たちはコボルトの居た場所に近づいてみた。
「本当に何も無くなってるねぇ。木の棒も無い」
「いや、なんか在るみたいだぜ」
そう言ってボードがつまんで拾ったのは、小指の爪程度の石だった。それが四つ。丁度コボルトが居た位置にあったそうだ。
コルトにも頼んで、後ろの四匹の場所にも行ってみた。
そこもコボルトは消えていて、同じような小石が四つ残っていた。
「グラウ? 判る?」
「ふむ。こいつは、ドラゴンドロップと同じ類の低級な物のようじゃの。ドラゴンドロップと比べると雲泥の差じゃが、これでも、同じ大きさの水晶よりは魔法の効率が良いじゃろう」
俺はその説明を聞いて、脱力し、四つんばいになり、頭をたれた。
ただ、無言で地面を叩く。
誰だよぉ。この世界をケーム化しようとしているヤツは!
「お、おい、どうした? 大丈夫か?」
「いや、気にしないでくれ。精神的に打ちのめされただけだから」
「はぁ? 良くわからねえんだが?」
「いや、本当にいいんだ。とにかく、これはコボルトを倒した報酬代わりって事らしい。これから、魔法が普及してきたら、こういう物が価値を持つようになると思う」
俺はボードが倒したコボルトの小石をボードに返して言った。
「こいつが、いくらかの価値があるって?」
「今は、誰も使い道を見つけ出せないだろうけどね。魔法の道具に水晶が使われているのは知っていると思うけど、これは、水晶よりも効率が良いかも知れない物、ってわけだ。だけど、まぁ、コボルトを倒した程度で出てきた物だから、そこそこの価値に落ち着くかな」
「こいつがねぇ」
「この先に、もっと強いモンスターが居れば、そのモンスターを倒したら、もっと価値のある石が出てくるかも知れない。
ここは、そういう場所なのかもねぇ」
「前後二カ所に動体反応」
「ホウ。また来たようじゃな」
のんびりし過ぎていたかも知れない。
「ボード。コルト。もう一度頼むよ。今度は、さっきよりも綺麗に戦って見せて」
「おう。じゃぁ、まぁ、小遣い稼ぎと行きますか」
期待通りに、二人ともあっさりと勝利。更に四つずつの石を獲得した。
俺はここでもう一度コボルトが出てくるのを待つように指示して、リポップの時間を計ろうとしたが、今度は三十分ほど待って、ようやくポップしてきた。
今度もボードとコルトに任せて終了。俺たちは先へ進むために歩き出した。
「同じ場所には、同じモンスターが同じ数だけ出てくるみたいだけど、倒した後に再び出てくるまでは、一定時間じゃないみたいだねぇ」
「あれなら、あそこで頑張れば、少なくとも剣の練習にはなるよな」
「もしかしたら、次の部屋は、コボルトよりも少しだけ強いモンスターになるかも知れないから、一部屋ずつ、自信がつくまで戦い慣れてから次の部屋に進む、ってのが基本になるのかもね」
「あの、犬の出来損ないみたいなモンスターなら、俺でも充分に戦えるってのは判ったしな。この剣もけっこう良い物みたいだし、いい剣持って、ここで戦えば、危なげなく強くなれる、って事かな?」
「だと、いいんだけどねぇ。次の部屋にはドラゴンが出てきたらどうする?」
「うへぇ? そ、そんなこともあるのか?」
「判らない。、まぁ、俺たちはそれを調べてるわけだからねぇ」
「そりゃそうだな。なぁ、あんた、この剣……」
「いいよ」
「早っ」
「とりあえず、ドワーフの試作品だからねぇ。できれば、ドワーフたちに、どんな風に使ったか、どんな切れ味だったか、どんな戦いだったか、ってのを話してあげてくれればなお結構、って感じ。
ああ、あと二本、同じ剣を持っているから、それは使い潰すつもりで使っていいよ。使えなくなったらこっちのを渡すから」
「おう。ありがとな。おれ、この剣を気に入っちまったから、嬉しいぜ」
「刃物を研ぐのは慣れてるか、なら、後は二本の剣を研ぎ直しながら使い回して行けば良いだけだな。アカデミーのドワーフの所に行けば、本職に研いでもらえるだろうしねぇ」
その後は、鉄の材質が一定じゃなかった、とか、斧でも当たりはずれがあった、とか、剣は街中の人の居る所では振り回すな、とかの話しをしながら通路を進んだ。
そして、次の部屋に入った。
「前と同じなら、中央に行った所で何かが出てくる、って事になるだろうね。俺の勝手な予想だと、コボルトが前の倍出てくるか、ゴブリンが三匹ずつぐらい出てくるか、狼系のモンスターが二頭ぐらい出てくるか、って感じだけど、それなら、また二人に戦って貰うよ。いい?」
「おう。俺は大丈夫だ。コルトはどうだ?」
ボードの問いに、コクリと頷くコルト。落ち着いているし、ちょっとした自信も見える。
「でも、オーガとか、それ以上のモンスターだった場合は、ガジェットが出るから、俺の側を離れないでくれ。グラウの防御結界で包むし、ガジェットの戦いの邪魔になるかも知れないからね」
「わかった。俺としては、戦ってみたい、ってのもあるし、そのデカイのの戦いってのも見てみたいから、ちょっと悩む感じだけどな。でも、まぁ、あんたの指示に従おう」
後ろでコルトもコクコクと頷いていた。ガジェットの戦い方? 見ない方がいいと思うよねぇ。何しろ、宇宙戦争に使えるように作られた兵器だもんね。まぁ、使うのが戦斧なら、見る事ぐらいは出来るかな。
そんな事を考えている間に、中央に到着。
「動体反応。前後に三ずつ」
「ほっほう。予想通りじゃな」
「ゴブリンだね。二人に戦って貰うよ。見たとおり、コボルトより一回り大きいから、コボルトみたいに吹っ飛ばすのは難しくなってるよ。しかも、見た目の差程度は力が強いから、掴まれたりしないために、懐には入り込まれないようにするのを忘れないで。
あと、剣が食い込んだまま離れない、って事もあるから、その時は剣を引きつつ、ゴブリンを蹴り飛ばして。
剣だけじゃなく、蹴りや体当たりも活用。使える物は何でも使う、って心がけで行こう」
「おう。じゃあ、行ってくるか。コルト! ぬかるんじゃねえぞ!」
そして、一部屋目と同じようにボードが前、コルトが後ろの敵へと飛び出していった。
ゴブリンとは、小鬼と訳される事もある、子供サイズのモンスターだ。物の本によると、妖精だとか、幽霊だとか言われていて、決まった形に定まっては居ないようだけど、ここでは、コボルトよりは大きく、力もそこそこあり、武器は木の枝ではなく、棍棒状の物を持っている、という特徴がある小人型生物のモンスターだ。
しかし、ここのゴブリンは亜種が多く、剣や革鎧モドキを着ているのや、時には簡単な魔法を使うモノも居たりする。
しっかりと見極めないと、痛い目を見るってわけだ。
でも、基本的に体が小さいので、基礎的な魔法で簡単に倒せる。
この部屋のゴブリンは、体には何も身に着けず、持っているモノは単なる棍棒のみ。ゴブリンとしては一番知能が低く、弱い部類に入る種類のようだ。
ボードもコルトも、多少の苦戦はあったけど難なく倒す事が出来た。
今度も死体が消え、残ったのは親指の爪ほどの小石。コボルトの物よりは大きいけど、それほどって物でもない。
また、ここでリポップするのを待った。
ガジェットの計測で十五分。再び裸のゴブリンが同じ数だけ現れた。
「ふぅ。なんか、マンネリって感じだな」
汗を袖で拭きながらボードが戻ってきた。
「ボードは学習して強くなれたけど、出てきたゴブリンはなんの学習もしていなかったかな?」
「がくしゅう? ってなんだ?」
「ああ。えっと、つまり、ゴブリンの方は同じ動きで、同じ間違いを犯してた、って感じたのかな?」
「うーん。まぁ、そんな感じだ。一回目に俺が失敗した攻撃を直したら、今度は簡単に切れたからなぁ。俺が強くなった、ってよりも、ヤツらが変わらなかった、感じだな」
やっぱり、ここで湧いてくるモンスターは、決められた物が作られて出てくる、って事のようだ。戦闘方法も決められた形で作られるから、経験を次に持ち越せないんだね。
ホントにゲームだ。この形式のゲームを知っている何者かがからんで居そうだけど、想像出来ないなぁ。俺に依頼した神の使徒である天使がかな? 後で聞いてみよう。
「さて、どうする? 次に進むかい?」
「いや、一旦出よう。後詰めの木こり衆が大陥没の淵で待ってるはずなんだろう?」
「あっ、そうだった。このまま放って置いたら、あいつらも中に入ってきちまうな」
「始めはコボルト程度だから、斧や鉈でも充分だけど、戦った経験が無いと混乱するだろうね」
「ああ、俺も、アレが大したこと無いって聞いてなきゃ、やばかったかも知れねえ」
そして、全員が俺を中心に集まり、俺の転移魔法で「地獄の門」の直ぐ前に移動した。
小高い丘になっていた大陥没跡地の直ぐ外側に、メンとロイザーと呼ばれた二人が腰掛けて待っていた。俺たちを見て慌てて立ち上がってこちらにやってくる。それに手を振るボード。
その光景を横目に、俺は中の二つ目の部屋に戻る転移紋様を作ろうとしていた。でも、その場所が紋様に映し出されない。一つ目の部屋や、通路も試したが駄目だった。
「転移魔法で外に出る事は出来るけど、中に戻る事は出来ないみたいだね」
「ほっほう。お主でもか?」
「うん。全力なら出来るかも知れないけど、第二段階だから、少なくても、普通の人間には絶対無理、って感じだね」
一度出たら、また一からやり直しか。もしかしたら、途中にワープポイントとかあるのかな?
「おう、これからどうする?」
後詰めの二人と話し終わったボードが聞いてきた。
「とりあえず、俺たちはノウドに報告だね。ボードとコルトにも一緒に居て貰って、報告が間違い無い事を確認して貰いたい。それと、ここに、『この中、モンスター多数在り、危険』って看板を作って貰いたい。まぁ、読めないのも多いだろうから、モンスターが居るから入らない方がいい、って話しも広めて貰わなくちゃならないけどね」
「なるほどな。で、ここに誰か置いておいた方がいいか?」
「そこまでは面倒見れないよねぇ。看板立てて、しっかりと街に言っておいたら、後は入った者の責任って事にして良いと思う。街から森に出るな、ってのと同じ話しだよね」
何故か、ボードが俺をじっと見つめていた。
「ん? なにかあるか?」
「あ、ああ、いや。あんた、けっこう色んな見方するんだな、って思ってな。うちのガードがついて行きたいと言うだけはあるんだなぁ、って」
「ふふん。おだてても何もでないよ。っと、これは出しておかないとな」
俺はカバンから約束の剣を出して、ボードとコルトに渡した。
「木こり衆に言う事じゃないけど、手入れはしっかりとな。それと、もしかしたら、同じように潜って貰う事もあるかも知れないから、その覚悟は持っていてくれ」
「おう、任せてくれ。俺も、ちょっと面白いと思って来た所だしな。もう少しぐらい付き合うぜ」
後ろでコルトが二本の剣を大事そうに抱えながらコクコクと頷いていた。
そして、メンとロイザーに看板と話しを広めて来る事を頼み、俺たちは転移でノウドの所まで戻って、地獄の門の事を説明した。
ほとんどはガジェットの映像で説明は終わったけどね。
ボードとコルトは、単にノウドの「本当か?」という問いに頷いただけだった。
まぁ、それが大事な通過儀礼なんだけどね。俺だけの話だと、ノウドが俺を信じていても、仲間の「信用出来ない」と言う誰かの声を無視出来なくなる。身内が実際に体験した、という証言は大きいんだよねぇ。
「なるほど。これは、もしかしたら、いいチャンスなのか?」
「いいえ。かなり危険です。
モンスターは湧いてくるために、ほぼ無限と言っても良いかも知れません。これは、死なない、と言う事と同じ意味だと思います」
「なるほど。成長はしないが、死なないモンスターか」
「逆に、こちらは死んだら生き返る事は出来ないでしょう。相応の準備はしていても、部屋を進むとモンスターはどんどん強くなっていきます。一部屋ごとに何度か戦い、戦いに慣れて行くという方法も、ある程度までしか役に立たないと思います。そして、何時かは敵わない敵に遭遇して死んでしまう」
「………」
ボードもコルトも、その状況を想像出来たのか、ゴクリと咽を鳴らしていた。
「なるほど。言いたい事は判る。確かに、もう一部屋、挑戦してみよう、なんて欲を出すと、強力なのにあっさりやられそうだな」
「しかも、問題は金目の物が出ると言う事です。それを目的に入った者は、欲に目が眩みやすいというのは想像しやすいでしょう」
「だな」
「更に、先に入って稼いだ者を襲って、その獲物を横取りすると言う者も出てくるかも知れません」
「うーん。要は、第二の邪霊みたいなモンだな」
「近いかも知れませんね。ですが、逆に考えると、人がモンスターと対抗出来る力を付ける訓練場としては、ほどほどですが、便利ではあります」
「ああ、俺も、始めはそれに目が行ってたな。いい練習が出来て、金が儲かれば、いい装備も揃えられる、ってな」
「はい。ですから、アレに挑戦する者たちに対する商売を考えると、一方的に儲かるだけなんですよね。
挑戦するのは、所詮、あぶれた者たちでしかない、っと割り切れば、美味しい商売ですね。街も潤いそうですが?」
「うーむ」
「ゲートが出来れば、世界中から挑戦者たちが集まり、宿屋や酒場なども儲かるでしょう。良い武器も当たり前のように並び、食料や生活必需品も多く消費される事になりますね。ですが、乱暴な連中が練り歩き、歓楽街も出来上がって、街に住む子供たちには悪い影響を与えるかも知れません」
「なんとも、難しい問題だな。これは、この街だけで考えて良い問題なのかどうか、だな」
「街の民、全員の意見を集める事が必要かも知れませんね。それと、王都の国王にも報告しないとならないでしょう。今までは森羅の森の奥と言う事と、木材や薬草などの品しか特産が無く、貴族にとっても旨味が無かったために自由に出来ましたが、これからは利権問題も出てきそうです」
「あ~、頭が痛てぇぜ。おい、アキラ。答えを教えてくれんか?」
「降参が早くないですか?」
「考えろと言われてもな、何を基準に考えればいいか判らん」
「まぁ、その通りですからねぇ」
そこでまず、昨日、この国の国王を降伏させて、実質俺が支配者になった事を伝えた。
その場に居た木こり衆たちは、脱力して、もうどうでもいいや、って顔をしてたなぁ。
そして、今日、王子を連れてルブロンダルとアカデミーを見学に行った事も伝えた。
まず、国王と王子に、他の強い国が多くあるという現実を知って貰い、再教育しつつ、無駄な貴族を減らす事を考えていると話した。
「王子殿下は、アキラの目に敵いそうか?」
「ルブロンダルでドラゴンの背に乗る竜騎士の姿に憧れていたり、ルブロンダルの魔法師団の魔法に驚いていたけど、アカデミーで学びたい、って言ってたから、悪くはない感じですね」
「り、竜騎士? そんなのが居るのか?」
そこで、ガジェットに映像を出して貰った。ボードはそれを見てはしゃいでいる。
「レゼとキャスの連れている鳥も、同じ従魔契約を使っているんですよ。従魔契約は、まず、相手となるモンスターなどに認められる事が第一なんですけどね」
「あんなドラゴンに認められる自信は無いな」
ノウドの言葉は、木こり衆全員の意見を代弁していた。
「まぁ、この騎士たちが乗るドラゴンは、別の事情があって、贖罪として人との契約に従って居るんですけどね」
そこで、簡単に経緯を説明した。利用されてワズムルを襲ったドラゴンを俺たちが解放して、その礼と贖罪でしばらく人間と付き合う事にしたらしい、って程度だけどね。
「つまり、それぐらいの運が無ければ、竜騎士にはなれないって事か」
「まぁ憧れるのは判りますが、なったらなったで、人生全てをドラゴンと過ごす事になりますからね。国の国王に忠誠を誓った騎士とかじゃないと、お薦め出来る仕事じゃありませんね」
「ああ、確かに毎日の生活からして大変そうだな」
「夢」を「現実」で壊しちゃったかな。まぁ、事実なんだから仕方ない。
「ドラゴンの事はともかく、まずは明日、ノウドには、ターナの街の町長として国王陛下と王子殿下に謁見してもらいます。実質は俺が頭を抑えているんで、国王陛下だと言っても気負う必要はありませんけどね。一応、体験者として、ボードとコルトにも付いてきてもらいます。国王陛下にも問題を認識して貰ってから、この街の住民にどうするか選んでもらうか、それとも、国王陛下の命令って事で決定するか考えましょう」
明日、俺がノウドたちを迎えに来るという事を決めた所で、看板を立てていた木こり衆とレイミーたちが到着した。
今日のおさらいと言う事で、ガジェットに映像を投影して貰いながら、今日の経緯を説明して、その日はお開きとなった。
その夜。俺は単身、宇宙戦艦である武装補給艦ゲンブに搭乗して月へと向かった。月に居る、人を守護する役目を持つ神の使徒と会うためだ。
単純な会話をするぐらいなら、命のシンボルを通して心の中でも会話が成り立つんだけど、込み入った話になりそうだったので直接会う事にした。
月。元はエイプリルと同時代の戦略的移動要塞で、直径二百五十キロの球形の人工天体だ。今はほぼ半分が無くなり、歪な形状で内部構造も剥き出しになっている。
内部構造も経年劣化していて、本来の強度は持っていない。ただ、単なる土の塊よりはやや強い硬度を持っているので、自然崩壊するのはかなりの先と予想されている。
この月、一応人工衛星って事になるのかな? とりあえず、この月を、神の使徒は、人の守護星にしようとしている。神の使徒の力を放出しながら月に籠もり、この月に神聖性と意図を作り出そうとしているらしい。そこらへんの仕組みは良く判らないからスルーした。
そして、この壊れ掛かった内部に、エイプリルはゲンブの機材を使って宇宙戦艦の修理ドックを作成中だ。
老朽化していても、かろうじて動く、敵性の無人戦艦を拿捕した事で、月を基地化する事にしたためだ。
敵の無人戦艦だから、何処にウィルストラップが潜んでいるか判らないため、ほとんど作り直しになるらしく、その分、修理ドックも複雑なモノが必要だと言う事で、半年以上経っていても、まだ完成していない。まぁ、優先順位が低いせいでもあるんだけどね。
でも、宇宙戦艦を停泊させるための係留施設は出来上がっているので、今回、ゲンブはそこに接岸する。
月の内側に入り、ゆっくりと接岸していく。エイプリルの操艦なので、特に問題なく接岸を完了した。
エイプリルの時代には戦争中と言う事で、コンピューターウィルスが含まれた電波や、センサーやレーダー、カメラアイに取り付いて欺瞞信号を流す微少なチップがあふれていたそうだ。そう言う時代だから、艦の操作は欺瞞しようも無い単純なカメラアイを見ながら、人間が手動で行うのが普通だったらしい。
実際、ゲンブにもそのためのモニターはある。まるで覗き込む所が二カ所ある顕微鏡みたいな構造で、距離計も映っていないため、二つの目で見ての立体視で距離を掴むというものだった。観測班が数人掛かりでそのモニターを見て、操艦する者に距離や速度、位置を教えたそうだ。
操艦者は、その伝えられた数字だけで、この巨大な艦を停泊させたそうだ。
潜水艦かよ、って言いたくなるねぇ。
通常の移動中や戦闘中はそこまで神経質になってはいなかったけど、味方の要塞などに接岸する場合は、反乱プログラムの仕込まれたウィルスを警戒して手動にする決まりが出来たそうだ。
今は、その心配もないからエイプリルに全て任せられる。
もし、手動で動かさないとならない、ってなったら、速攻で諦めるよ。
大型モニターに映る周囲の状況を見ながら、そんな事を考えていたら、ここまで来た目的の相手が現れた。
武装補給艦ゲンブの主コントロールであるブリッジの、艦長席に座る俺の前に、光り輝く、翼を持った人間型の存在が、何の前触れもなく出現した。
相変わらず、光り輝いているせいで細部が見えない。まぁ、そういう存在、って事なんだろうね。
そして、独特の雰囲気が周囲を包み込む。これで、俺の考えはすべて、この天使とエイプリルに筒抜けになる。でも、なぜか悪い気分はしない。相手が相手だからだろうねぇ。
「東島晃の疑問に答えよう」
心を読むとかの以前に、俺と天使は力を共有しているために繋がっている。そのため、わざわざ質問しなくても、聞きたい事は細部まで把握されている。
始めは天使の方だけ狡いんじゃない? とか思ったけど、実は俺にも天使の考えが筒抜けになるようにする事は出来るらしい。でも、それをすると、俺が俺で無くなる事になる。比較出来るかどうかは判らないけど、精霊王になるよりも人間を辞めてしまう事になるかも知れない。
だから、天使が心を読むのは無駄な時間の短縮のためだけど、その答えは、俺が人間でいるために一つ一つ声で説明する手間をかけてくれている。
で、天使の説明によると、あのダンジョンは、半分は俺のせいだと言う事だった。
なんで?
元々は二つの世界であり、離れた位置関係にある、俺たちの物理世界と、精霊たちの魔法世界だったけど、邪龍の策謀で二つの世界が一つになってしまった。
そして、二つの世界にはそれぞれの精霊が居たため、一つの世界になってしまった事で二重に存在する事になっていた。
物理世界の精霊は元々弱く、その存在を守るために天使がまとめて守護していた。その状態は精霊王よりも強くまとめ上げていたらしいが、弱い精霊だったためにそれほどの力も無かったらしい。まぁ、天使からしたら、って事だけどね。
その天使と俺が繋がり、その後に魔法世界の精霊と信を交わらせ、俺が精霊王になった。そのため、二重に存在する精霊が大きな守護の元、一カ所にまとめ上げられる事になり、同じ属性の精霊は一つになって、強く、安定した存在になった。
そこまではいい。俺も知っていたし、納得もしている。
でも、精霊とは事象、現象などの象徴であり、力でもある。つまり世界そのものの事。
二重に存在していた世界そのものが、本当の意味で一つになった、っという意味を持っていた。
要は、俺が精霊王になるまでは、この世界は物理世界と魔法世界が中途半端に混じっていただけの状態だった。でも、完全に一つになった事で、今までこの世界に現れていなかった魔法世界の事象が、ようやく現れたと言う事だった。
な、なるほど。元々、この世界に現れるはずのモノだった、って事でいいのかな?
「何らかのきっかけで現れる事もあったと想像できる」
で、アレって、どんな性質を持っているのかな?
「元々は、新しき魂を生み出すための苗床としての存在。この世界と合わさる余波で分裂し、その能力も低下している」
え? 分裂? いくつもあるの?
「然り。我は現在、七十八のダンジョンを確認している」
な、ななじゅうはち? なんで、そんな事に?
「元は大母と呼ばれる魔法生物の生みの親であったが、それを、東島晃の言う邪龍という存在が手を入れたためだ」
邪龍が? なんでそんな事をしたんだろう?
「その真意については我にも謎である」
そのダンジョンは攻略した方がいいのかな?
「大母は成長する性質を与えられ、時間と共に奥深くダンジョンを作っていく。さらに、ある程度の成長に達すると、新たなる芽を離れた場所に埋め込む事で個体数を増やす」
攻略しないと、この星がダンジョンだらけに?
「その認識で間違いない。だが、芽を作る事は希であり、星全体で見ても百年に一体未満となる」
あ、何となく安心出来る材料かな。でも、攻略して、ダンジョンの元になる大母、ってのを倒さないとならないのは、変わらないって事だね。
「然り。されど、人の身にてそれが可能かは疑問。東島晃であれば可能ではあるが、それでは意味がないと考える」
うん。俺が今ある七十八のダンジョンを全部壊しても、俺が居なくなった後に出てきたダンジョンに、人が対応出来なくなる、って事なんだよねぇ。
なら、ダンジョン攻略を支援して、強くなって貰った方がいい、って事なんだよね。
「然り。この点に置いて、邪龍の真意の謎が気がかりではある」
確かにねぇ。邪龍が人が強くなるきっかけを作ってくれた、って事になっちゃうもんねぇ。
あ、そうだ。あの、邪龍と一緒にいた子供については何か知らないかな?
「不明。人間体である事は確かなれど、人間では無い認識も受ける。我の加護の外にある存在と想像できる」
アレは邪龍の方に確認しないとならない、って事だね。
俺がそう結論付けた時点で、天使が俺の前から消えた。伝えるべき事は全て伝えた、って事らしい。周りの雰囲気も、元の状態に戻った。
「エイプリル。聞いてた?」
『はい。艦長が目指す冒険者ギルドの設立が急務となると推察します』
「そうだね。登録と簡単な指導だけじゃなく、ポーションの販売や基礎的な装備の販売もした方がいいかなぁ」
『ダンジョンの性質が、未だ不明です。複数の攻略者の侵入や、同時侵入、帰還方法などの検討が必要と推察します』
「しばらく、俺たちで潜ってみないと、支援さえ出来ないかぁ。それに、あの門の文字じゃないけど、入るなら命を落としても誰にも文句は言いません、っていう感じの誓約書を書かせる必要もあるよねぇ」
とにかく、あのダンジョンは攻略して、ダンジョンを生み出している大母とか言うのを倒さないとならない。アレの話しだと、そうとう強いようだ。ならそれなりの武器や魔法も公開する必要があるわけだねぇ。
明日は森羅キリウの王に話さなければならないけど、周辺三カ国の王にも話さないとならない。ならいっそ、アカデミーで会議を開いて、森羅キリウの王との顔合わせも済ませてしまうか。タイミングってのを計っては居たけど、この事態だと仕方ないね。
「エイプリル。周辺三カ国の王は、まだアカデミーに居る?」
『はい。明日はバックギャモンの大会だそうです』
「………、何というか、さすがだ。一気に気が抜けた。まぁいいや、なら、メイとミニメイ使って、重要な会議があるからと、王と記録官、それに対モンスターの担当の側近を連れてくるように言っておいて。時間は午前中。昼前には終わりたいから、十時ぐらいかな。まだ正確な時計は無いけど、こういう時って、なんて言うんだっけ?」
『ここでの表現では、太陽が天頂と地平の中間に来た時、と言うのが適切と判断します』
「ああ、そうかぁ。まぁ、それで集めといて。俺はキリウの方を連れてくるから」
『了解しました』
「それと、七十八のダンジョンって確認出来た?」
『現在、十二のダンジョンを確認しましたが、地表に現れる入口が門一つの場合、発見が困難になると推察されます』
「確かにそうだよねぇ。洞窟の中に門があったら、尚更見つけるのが難しいよねぇ。まぁいいや、判ってる所だけでいいから、地図に出して見せて」
ゲンブのブリッジの大型モニターに世界地図と点滅する赤い点が表示された。
ターナの街の大陥没の所は良いとして、ワズムルの王都の近くにもあるのか。更に砂漠地帯にも。シャシルも王都に近いね。それと西の山を越えた獣人たちの平野地帯かぁ。ルブロンダルだけは、ちょっとだけ離れている? でも、街と街の間だから、良い位置ではないねぇ。翼人たちの所には無いけど、獣人の砦の近くには在るね。
「なんか、ちょっとしたモンスターとの戦いがあった場所とかに集中しているような気がするんだけど」
『それを設置のためのエネルギーとしていた、という推測も成り立ちますが、別の理由がある場合の可能性が、若干高くなると推察します』
「まぁ、まだまだ、真相は闇の中だよねぇ。判った。この地図をプリント。特にダンジョン周辺の地図は詳細にお願い。ガジェットが撮ったダンジョン内の様子やモンスターとの戦いの様子も判りやすいのをプリントしておいて。各国に持ち帰って貰って、議論して貰わないとならないからね」
『了解しました』
これで今できる事は終わったねぇ。ファイエーが起きていれば、魔法の紋様をカード化した物の完成度について聞きたい所なんだけどね。
脱出の為の転移魔法のカードは完成しているけど、これからのダンジョン攻略に必須になるだろうから、数を揃えないとならないしね。
俺は艦長室へと行き、早めに起こしてくれるように頼んでベッドに潜り込んだ。
そして次の日の昼前。アカデミーの多国間交流会館の中会議室に、俺との交流のある主要国メンバーが集まった。
アカデミーから、俺、ジェイ、ファイエー、レイミーにガジェット。周辺三カ国のルブロンダル、シャシル、ワズムルの各王とその側近。森羅キリウから王と王子、ノウドとボード、ガード、コルト、ゴーダ、サラク、レゼとキャス。翼人代表として、バヤガとその息子。獣人代表として、キャンの砦の長と、セッタ。
獣人や翼人を見た事のない連中も多いんで、かなりざわついていたけど、俺が会議の開始を宣言すると一斉に静まった。
まず、各代表六人の紹介を俺の方からしていく。
その紹介が終わったら、早速本題に入ると宣言した後、俺はこの世界の成り立ちを語っていった。
物理世界、魔法世界、その間の空間を流れるドラゴン。そして邪龍という真意が不明なドラゴンたちによる世界の干渉。その結果の二つの世界の融合。
そして、その融合が進み、今回、世界各地に七十八のダンジョンが生まれた事を語った。
「現在判明しているのは十二カ所です。場所は地図をご覧ください」
エイプリル作成の地図を配り、自分の国の近くにダンジョンがある事を知り、驚く王たち。
「このダンジョンは、元々魔法世界の大母という、魔法生物を生み出すだけの存在だったようです。ですが、二つの世界を一つにする策謀を企てた邪龍により、その性質が変えられているようです」
そして、ガジェットが調べたダンジョンマップや、ダンジョン内での戦いの様子を写した画像のプリント、そして、入り口の門の画像のプリントを配った。
「とてもデカイ蟻の巣のような構造を持った迷宮。俺はこれをダンジョンと呼んでいますが、このような迷路のような地下通路と所々にある部屋で構成されています。この部屋では、部屋の中央に達するとモンスターが湧き出して来ます。
俺たちが経験したダンジョンでは、一部屋目はコボルトが八体湧き出てきました」
俺の背中側にある白い壁面に、ガジェットが記録した映像で、ボードとコルトが戦っている様子の動画が映し出される。
「同じ部屋では、同じコボルトしか出てこないようです。そして、二部屋目は六匹のゴブリンが出てきました」
再び、ボードとコルトの戦闘シーンが上映される。
「昨日はここまででしたが、まだまだ奥は長いようです。そして、基本的には誰かが入らなければモンスターは湧き出てこないようですが、長く放置されていても同様だという保証はありません。さらに、このダンジョンを作った大母という魔法生物は、新しい芽を生み出し、それが他の場所で成長して新しいダンジョンになるという増殖を行うようです」
ざわつきが始まったので、しばらく内輪の話をさせる時間を与えた。言葉で聞いても、具体的なイメージにするのには時間が掛かる場合がある。こういう、今までに無いパターンだと、想像するのは難しいだろう。
「放っておくと、この世界の地下がダンジョンだらけになってしまい、場合によっては地表でもダンジョン扱いされる事が考えられます。そうなったら、人の住む所が無くなってしまう可能性があります」
ある程度経った所で、俺がイメージの補完を行った。これで、現在がどんな状態か判ったかな。
「ですが、急ぐ必要はありません。世界全体で、百年に一つか二つのダンジョンが増える程度だと言う事です」
周り中から、大きく息を吐く音が聞こえた。
「しかし、安心は出来ません。基本的に百年に一つか二つですが、何らかの条件で十や二十がいきなり増殖するという事も考えられます。
何しろ、あの邪龍が関わっていますからね。
さらに、何処かの山の中にでも出来れば普通に対処するだけですが、それが王都の中に出来たら、場合によっては遷都が必要にもなるかも知れません」
今度は息を飲む音が聞こえた。安心させてから落とす、ってのは意地悪だったかな。
「結論を言いますと。各国の方々には、このダンジョンを攻略。つまり、最奥にある大母を倒して、ダンジョンそのものを殺して欲しいんです。ですが、いきなり攻略出来るほど簡単な物では在りません。
各国の兵士の方々には、街の治安を守る仕事と、モンスターから街を守る仕事も在るわけですからね。ですから、兵士とは別に、ダンジョンを攻略する専門チームを育てて貰いたいわけです」
「アキラ殿。それは、アキラ殿が言っていた、あの組織の事かな?」
シャシルの国王が聞いてきた。周辺三カ国の王には、アカデミーと冒険者ギルドを設立する事が俺の目標だと言うのは既に伝えてある。
「はい。特に周辺三カ国で顕著なんですが、家を出る事になった次男坊や三男坊は、仕事にあぶれると言う事で、よく傭兵として依頼を受けてモンスターと戦うという仕事をしています。それでなければ、山賊になったりなどの犯罪に走るしか無い、という世知辛い情勢なんです。そして、その山賊を、依頼を受けた傭兵が退治に出かけて戦い、どちらかが死ぬ、という状況になっています」
何とも言えない状況だよねぇ。各国の王たちも、似たような顔をしていた。国の議題として上がった事もあるのかもね。
「そこで俺は、冒険者ギルドという窓口としての組織を作り、国や商人、その他の一般人、全てからの依頼を受け、それを解決出来る腕のある傭兵に受けさせるという選抜を行い、無駄に死なないような仕組みを考えていました。同時に、モンスターと戦った者たちから意見を募り、それを公開して効率良く戦えるようにもする事で、死に難く、強くなれやすい環境にするつもりでした。
同時に、モンスターの皮や骨、肉などを有効利用出来るように、つまり、金になるようにして、モンスターを倒しただけでも儲かるようにもする予定でした」
「予定でした、という言い方だと、なにか変わったと言う事かな?」
「ああ、いえ、それはそれで進行中です。アカデミーとは、そのためにあるようなモノですからね。モンスターの素材を研究し、有効活用出来るように研究して貰う部門を優先しています。
それとは別に、ダンジョンのモンスターは、倒すとちょっとした小石を残すようです。まだ、コボルトとゴブリンしか確かめていませんが、魔法力に対して親和性の高い、水晶よりも効率のいい物です」
再び俺の後ろに映像が出る。ボードがゴブリンを倒した後に、地面に小石が残っている様子だった。
「アカデミーでは、これを一定のレートで買い取る事を考えています。魔法の道具として作り替え、販売する事でその資金を回収出来ると考えます」
「それは、アカデミーが独占するという事かな?」
ルブロンダルの王が聞いてきた。
「冒険者ギルドの窓口で買い取る事を考えていますが、どなたでも、買い取り窓口を開く事に制限は設けません。もし、必要になるのであれば、高いレートを設定すれば、その窓口に売りに行く者が多く出るでしょう。それ自体はなんら咎めるつもりはありません。ダンジョン攻略に城の兵を使えば、買い取るという手間も必要ありませんしね。場合によっては、ダンジョンの一つを城の兵専用とするのも制限しません。まぁ、それで、攻略が進まず、街の中にダンジョンが作られた、などという事になっても、関与しませんけどね」
「城の兵よりも、冒険者ギルドに所属する傭兵の方が優れていると?」
「もちろん、初めのうちは兵士の方が優秀でしょう。ですが、冒険者ギルドでは、未踏派の部分の情報を買い取り、それを公開するという手段を使います。そして戦い方の指導も行う。そのため、攻略する人数が多くなります。始めは一部屋目、二部屋目で苦労していた者も、生き残り方を教えておけば、その内強くなります。つまり、時間経過と共に強い冒険者が増えていくわけです」
「冒険者ギルドというのは、国の脅威に成り得るな」
ルブロンダル王が難しい顔で言った。それに賛同するように頷く王も居た。
「いえ。まったくそんな事はありません」
「なに? そうなのか?」
「ええ。ダンジョンで鍛えられた強い冒険者が居たら、国の兵にならないか? って誘ってもかまいませんから」
「あっ」
「例えば、モンスターの軍団が国に攻めてきた時は、冒険者ギルドにモンスター撃退の依頼を出してもらえれば、生き残れそうもない弱い者を除いて、その依頼を優先するように規定する事も出来ます。冒険者ギルドは、冒険者を支援しますが、冒険者自身はバラバラなんです。冒険者が別のダンジョンに行きたいと思ったら、冒険者ギルドにそれを止める事は出来ません。せいぜい、依頼を出す事だけです」
「なるほど、それならば、国の脅威にはならないな」
「もっとも、冒険者ギルドに圧力をかけて、無理な囲い込みを行おうとした場合は、他の冒険者ギルドと協力して、冒険者に依頼を出す事になりますけどね。お互いのために、そんな事は無いと考えたいですね」
「ふふ。アカデミーと同じように、人を育てるが、それ以外はお互いに不可侵というわけか」
ルブロンダル王のわざとらしい結論誘導に苦笑を浮かべながら俺は頷いた。
「それから、モンスターを倒した時に出現する魔法力に親和性の高い小石。えっと、便宜的に魔石と呼びます。断定ではありませんが。
この魔石を使えば、何らかの武器に出来ると考えます。そして、研究が進めば兵器となる可能性もあります」
「すまない。武器と兵器の違いがわからぬのだが」
森羅キリウの王が申し訳なさそうに質問してきた。
「はい。武器とは、人が一対一で戦う時に使う、相手を殺すための道具です。まぁ、基本的に一人が使う道具、って事で、一人で十人をいっぺんに殺す物でも、武器と呼びますね。対して、兵器とは、国と国が戦う時に使われる道具で、基本的に大量殺戮を目的にした物です。まぁ、そのための馬や荷車もそれに含まれる、という見方もあります。
個人が戦うのなら槍は武器となりますが、国同士で戦うなら槍も兵器と言える、という意見もありますので、あまり細かく断定は出来ませんが」
「国同士の戦争か。あまり考えたくはないな」
「まぁ、仲良くやっていきましょう。この館はそのために作ったんですから」
会議場の雰囲気がようやく緩んだ。
「えっと、魔石が兵器、つまり、大量破壊、大量殺戮のための武器になる、という事ですが、これは水晶でも代用出来る物と考えています。要は、効率が良いだけ、って事ですね。必要なのは、魔法開発技術だけ、って事になりますが、これは、各国が密かに頑張っていると思うので、ここでは議題にしません。
アカデミーとしての意見は、勝手にやってて結構です、でも、アカデミーにはちょっかいかけないでね。って事で」
色々と含みのある笑いが周辺三カ国の王たちから聞こえた。まぁ、聞こえないふりしたけどね。
「最期に、アカデミーからの結論を言いますと、出現したダンジョンについては、その領地内にあるダンジョンならば、領地を治める者たちにお任せしたい、と言う事です。ダンジョンを一般開放するか、限定解放するか、国の兵専門にするか、封鎖するかもお任せします。一般開放するのならば、こちらは冒険者ギルドを作り、ダンジョンに挑戦する冒険者を支援したいと思いますので、その設立の許可と、アカデミー同様の不可侵の条約をお願いしたいと思います。この、不可侵の条約が結ばれない場合は、冒険者ギルドは設置しません。さらに、魔石に関しても、アカデミーと冒険者ギルドに関しては、国外への持ち出しを禁止するという法律の適用外としていただきたい。
アカデミーとしては以上です。個人的には、ダンジョン攻略は優先事項として貰いたいのですが、その判断は各国にお任せするという事です。ダンジョンが生み出す魔石を目的に、ダンジョンを完全攻略しない、という方法もお任せします」
そして、この事案は、各国に持ち帰って審議するという事になった。頭数並べて、じっくりと考える必要があるわけだしねぇ。
その後は、全員で昼食と言う事に。軽い食事を摂りながらの歓談が目的だけど、ほとんど初めて見る翼人たちの事を知りたいという感じだったけどね。
その翼人たちには、ダンジョン攻略は基本的にやらないように言っておいた。問題点は知っていて貰いたかったけど、空を飛ぶ事に重点を置く翼人たちに、あの閉鎖空間での戦いは不利でしかない。
アキラ殿に恩を返したい、と言っていたけど、ただでさえ人数が少ない翼人がダンジョンに挑戦して数が減ったら、こっちが居たたまれない、って話しになっちゃう。
そして、未だゲートを設置していない翼人たちの浮島、森羅のキリウと、獣人たちのキャンの砦にもゲートを置く事になり、アカデミー限定での交流をスタートする事にした。
浮島の件では、早速質問攻めに会い、わざわざ言わなかった事が色々とばれてしまった。
エイプリルも、丁寧に映像で紹介してくれたからねぇ。
まぁ、最期は、いつも通り、アキラのする事だからねぇ。と言う事で落ち着いた。いいのか? 俺!




