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第六十二章 晃と精霊樹 ターナの街

 PCの液晶モニターが壊れてしまい すったもんだの 大混乱に陥りました。

 古いCRTモニターにコネクタ取り付けてやっとPC自体は動かせるようになりましたが 使いにくいったらありゃしない。

 そのせいでか 文字書き作業の乗りが悪く 時間がかかってしまいました。


 文字書きの乗りって重要ですねぇ。

 絡まったツタから抜け出し、ガジェットの作った土のベッドから立ち上がった女性は、俺たちを見て目を丸くしていた。


 「ば、蛮族」


 そして、大変失礼極まりない言葉を発した。


 「蛮族はないでしょう?」


 俺のつぶやきに更に目を丸くしてした。


 考えてみればジャングル迷彩の服を着ていたわけで、ぱっと見だとそういう見え方もするかもねぇ。


 「なに? ここは」


 必死に思い出そうとしている。気絶するほどの衝撃を受けたんだから、記憶が混乱するのも仕方ないだろうね。


 「落ち着いてください。先ずは自分の身体を、指先からゆっくりと確認してください。指を1本ずつ動かして、ちゃんと動くか、痛みはないか、指が終わったら手首、肘、肩とゆっくりやっていってください。

 考えるのはその後で充分です」


 まだ呆けているのか、俺の言った事を素直に実行していく。


 そして肩を廻した時に激痛に顔をしかめた。


 その痛みが呼び水になったようで、身体の色々な所の痛みを思い出したように苦しみだした。


 俺は直ぐに近寄り、治療魔法で診察、全身の状況を確認した。


 骨折はない。でもかなりの打ち身で、内出血も相当のようだ。木のクッションが有ったとは言え、空から落ちたのだからこの程度は仕方ないんだろうな。


 治療魔法を診察から治療に切り替え、全身の打ち身と内出血を治療していく。


 声を出すのも辛いほどだった痛みがどんどん消えていく事に驚愕の目を向けてくる。


 「え? あれ? どうして?」


 「これで怪我した所は治りました。ワイバーンも居なくなりましたし、ゆっくり落ち着いてもいいですよ」


 「で、でも、ここは新羅の森。亜種は除いてもこの世界にいる魔物のほとんどが居ると言われる森です。落ち着いてなど居られません」


 「へー、それは凄い森なんですねぇ。一度はここでモンスター狩りして、データを揃えてみたいですねぇ」


 「な、何を言っているんです? 確かにラット級の魔物も多いですがドラゴン級の魔物も居るんですよ? は、早く森から脱出しなくては!」


 「ラット級にドラゴン級かぁ。なかなかいい仕分けの仕方ですねぇ」


 ここに来るまでに、モンスターとは一度も邂逅しなかった。俺のソードドラゴンの気配で、逃げちゃったってのが真実だけどね。下級ドラゴンでも逃げちゃうだろうしねぇ。


 「あ、あの! いいですか? ここは恐ろしい森なんです!」


 「はい。それは判りました。で、あなたは空を飛んで逃げられますか?」


 「あ、箒。壊されちゃったんだ」


 「予備の箒とかは? 箒って必要なんですか?」


 「な、何を言っているですか! 箒に予備は有りませんよ! 見て判るでしょう」


 なんか、少しずつ怒っていっているような。


 「では、俺たちが送りますよ。どちらに向かって行ってたんですか?」


 「え? 飛空挺でも持っているんですか?」


 「いえ、そう言ったモノじゃ有りません。こちらです。歩けますか?」


 俺が手を貸し立たせてやる。けっこう軽いな。あまり筋肉質じゃないって事かな。


 立たせて歩かせた所、殿を務めるガジェットを見て驚いてた。


 「ゴーレムですか?」


 「全然違います。金属のからくりで出来た、意志を持つ人形という所です」


 「え? ドールですか?」


 「あなたの言うドールとは、たぶん違うと思いますよ」


 お互い、よく判らないという感じだった。しかも、彼女としては早くこの森から出たいと言う事で、些事になる事で議論する気は無いようだった。


 俺たちとしては、ここでお茶会開いて、一眠りしてもいいぐらいなんだけどねぇ。


 そして、もうすぐソードドラゴンのゼンと合流しようという場所で、再び俺が質問をした。


 「北西の方向に向かっていたようですが、どちらに行くつもりだったのですか?」


 「な、なぜそれを?」


 ちょっとだけ脅えてる。


 「俺たちが森の上空を調べていた時にあなたを見つけたんです。そしてワイバーンに襲われていた所も。それで、ここまで助けに来てみた、って事なんです」


 「あ、そうだったんですか。わざわざすみませんでした。ですが、何故森の上空の調査を?」


 「偶々ですね。森、砂漠、山脈、世界樹。調べる事はいろいろありますから」


 「あ、ああ、そうですね。

 えっと、わたしは、新羅の森の北西の外れにいる師匠を訪ねる所だったんです」


 「魔法使いとしての先生ですか?」


 「はい。ターナの街の頼み事を持って行く途中でした」


 「俺たちは魔法について調べている最中なんです。もしよろしければ、その魔法の先生をご紹介頂けませんか?」


 「え? それは、その、ターナの街の住民でも、簡単には紹介出来ない方なんで、いきなりでは……」


 「そうですかぁ。残念ですが、今回は諦めます。ですが、そこまでお送りする事はしますので、安心してください」


 「あ、はい。お願いします。

 ああ、わたしったら、自己紹介もしてなかった。すみません!

 わたしはターナの街に住む2種使い、キャスと言います」


 「俺は旅の傭兵、冒険者と言って貰えれば嬉しいですけど、判りやすいのは傭兵ですかね。魔法使いのアキラと言います。

 そして、火の魔法使いジェイ。水の魔法使いレイミー、風の魔法使いファイエー、土の魔法使いで心を持った人形のガジェットです」


 「あの? 火の魔法使いというのは、火の魔法しか使えないのですか?」


 「え? いえ、風の刃で攻撃も出来ますし、単に出すだけなら水も使えます。土も多少は動かせると言う程度ですけどね。まぁ、火に関しては、たぶん並ぶ者が居ないというレベルだと思いますが」


 「な、並ぶ者が居ないって、かなり大仰な言い方ですねぇ」


 「そうですか?」


 「そうですよ。例えば、伝説のサラマンダーとかが出てきたらどうするんですか? まぁ、聞いた事もないですけど、もし、サラマンダーが居たら、勝てますか?」


 「サラマンダーと勝負ですかぁ。まぁ、勝負になりませんねぇ」


 「でしょう?」


 「ええ、サラマンダーはジェイの中に居ますからねぇ」


 「ふぇ?」


 暗闇の森の中。魔法の灯りに照らされて、ジェイが金属製の杖からサラマンダーを呼び出した。


 がっくりと膝をつき、それでもジェイを見つめるキャス。


 サラマンダー自体は黒っぽいオオサンショウウオって感じなんだけど、所々ひび割れみたいなのが出来て、奥から赤々とした炎の光を漏れだしている。


 何故か、ジェイの身体と服は影響を受けないが、他人が近づいて手を伸ばしたら大やけどじゃすまない。


 「で、伝説のサラマンダー? 本物?」


 「ジェイ、ありがと、だけど早く仕舞ってね。森が火事になりそうだから」


 サラマンダーの頭を愛おしそうに撫でてから、ジェイは杖の中にサラマンダーを誘導した。


 「せ、精霊使い?」


 「精霊使いとは違うかも知れませんね。呼べば出てきてくれますけど、基本的に火の魔法力を底上げして貰っているって感じですから」


 「火の魔法使い………、あっ! 水の魔法使い? 風? 土?」


 「はい。四大精霊がここに揃っていますね」


 キャスは真剣な表情で俺を見つめてきた。


 「えっと、あるる、じゃなくて………」


 「アキラです」


 「あ、アキラ? その、師匠の所に来てください!」


 「さらし者にされるだけなら、いやですよ?」


 「そ、そんな事ないです! お願いします! ターナの街の事でもあるんです!」


 「まぁ、その先生の所で、落ち着いて話しを聞きましょうか」


 「え、ええ! お願いします」


 「じゃあ、直ぐそこにゼンが居ますから、ゼンに乗ってその先生の所に行きましょう」


 「ぜん?」


 そして、俺たちを待ちきれずに顔を覗かしたソードドラゴンの顔を見て、キャスは再び気絶した。


 ゼンと言わずに、ソードドラゴンと言っておけばよかったかな。とりあえず、きぜつしたキャスをガジェットに任せる。


 「あの、アキラ? 深刻な質問があるんですが?」


 「え? 深刻な?」


 ジェイが言って良いのかどうか、という迷いのある雰囲気で聞いてきた。


 「はい。実は、先ほどのアキラとその女性との会話なんですが、アキラの言っている事は判るんですが、その女性の言っている事が判らなかったんです」


 「へ? えっと、レイミー? ファイエー?」


 「うん、わたしもアキラの言葉だけは判ったけど、その人の言葉はわからなかった」


 「ふぁい。アキラがぁ、よくぅ判るんだなぁぁって思ってましたぁ」


 「あ!」


 これが、アレから貰った翻訳機能? たぶん、ジェイたちとの間にも働いてるけど、今までは同じ言葉だから気付かなかったって事かな。

 えっと、どうしようかな。


 「エイプリル? エイプリルも聞いていて判ってた?」


 『はい。例の交流に必要な言語というモノでしょう。おかげで、艦長と私だけは、この世界に置いて言語の壁が無いモノと再確認しました』


 「そうだねぇ。でも皆はどうしよう」


 『艦長を除いた皆様には、私がそれぞれに同時翻訳することで、ある程度の解消にはなると推察されます』


 「ああ、その程度のマルチタスクは何の負担にもならないんだったよね。じゃあ、皆のヘッドギアに、同時翻訳をよろしく」


 『了解しました』


 「えっと、どういう事になったんです?」


 「うん。ここの人たちの言葉って、ジェイたちが使っている言葉と違うんだね。でも、俺とエイプリルは言葉が違っても会話が出来るという魔法がかかっているんだ。だから、俺はここまま会話して、皆にはエイプリルが聞いた内容を判るように耳の所から聞かせてくれる事になった。

 慣れるまでは聞き辛いだろうけど、意味がわからないよりは良いと思うから、ちょっと我慢して欲しいね」


 「すると、僕の方から会話するという事は出来ないってことでしょうか?」


 「ジェイが一旦話して、それをもう一度エイプリルが話す、という感じになるかな」


 「それは、大変ですね。基本、会話はアキラ任せの方が良さそうですね」


 「かもねぇ。まぁ、俺に意見するって事が減るのはマズイかも知れないから、そこら辺はどんどん言ってもらわないとね」


 「はい。判りました」




 「のぴょひぇふぉああああぁぁぁぁああああぁぁぁ!」


 本人は気絶しちゃったけど。方向とだいたいの位置は聞き出せたので、エイプリルに正確な位置を確認して貰ってさっさと移動する事にした。

 キャスはガジェットに抱えて貰い、飛び立つ事数分。目を覚ましたキャスの第一声が宵闇にこだました。


 あれって、どんな意味なんだろうね。エイプリルにも翻訳不可能だった。


 俺はソードドラゴンのゼンの背中で一番前に居る。エイプリルの方向指示をゼンに伝えるのに一番楽な位置って事で。

 ガジェットは一番重いので、重心に近い一番後ろ。当然、キャスもガジェットに抱えられているので一番後ろだ。


 俺としては声を掛けにくいので、なんか言ってるみたいだけど到着するまで無視って事になった。


 星のきらめきの中、山や森がシルエットになって、その境界線が見える。


 その真っ暗闇の中を見つめると、木や草花、その陰で眠る動物と、夜だからこそ動き出した動物の気配がボンヤリとわかる気がする。


 はっきりと判るわけじゃないけど、ああ、居るなぁ、って感じはしっかりと受ける。


 これが闇の精霊を受け入れた事による影響かな? 夜道を歩くのには便利そうだ。それ以外の得は思い浮かばないけどね。


 そしてゼンの翼で十数分ほどで目的地に到着。今回は荷物が重いけど、森の上を飛ぶだけだったし、ソードドラゴンにちょっかいを掛けるモンスターも居ないので単純な夜間飛行となった。


 ゼンって俺よりも夜目が利くようだ。


 真っ暗な森の中、小さな光が灯っているのが判った。時間的に、夕飯が終わって片付け中ってぐらいだろうと思う。もう少し遅いと寝ちゃうかも知れないので、ギリギリ間に合ったって感じかな。


 小さな灯りを目指してゆっくりと降りていく。


 キャスも目的地をしっかり見つけて、変な悲鳴も止まっていた。まぁ、まだ顔は引きつっているみたいだけど。


 垂直での着陸はかなり苦手だけど、重い荷物を背負っているのにゼンはしっかりやってくれた。


 森の片隅。家と森の間のちょっとした空き地に、強引に降り立った。俺の心も流れていたせいで、しっかりと小さな畑を避けての着陸。頑張ったねぇ。


 静かに降りたつもりでも、周りにはかなりの風が巻き起こり、相当な音や振動を振りまいたようだ。

 俺がゼンから滑り降りて、ジェイやレイミーたちを受け止めるために準備していた所で、家から初老の老婆と思しき1人の魔法使いが飛び出してきた。


 ほっそりとした長身で、薄い緑のローブをまとっていた。頭にはやっぱりとんがり帽子。


 魔法使いって、ローブととんがり帽子っていう規則でもあるの?


 まぁ、ソードドラゴンを間近に見て、固まっているだけってのは仕方ないけどね。


 「師匠!」


 ソードドラゴンの上で、ガジェットに抱えられたままのキャスが、家から出てきた魔法使いを見て手を振った。


 「キャ、キャス? これはどういった事だい?」


 ファイエーが降り立ち、ようやくガジェットの番になり、キャスと共にソードドラゴンの背から滑り降りてきた。

 しっかりと衝撃を吸収してキャスに負担を掛けずに降り立つガジェット。

 そして、腕を広げ、キャスが師匠と呼ぶ魔法使いの元へ走り出した。


 俺はソードドラゴンのゼンの顔を撫で、

 「もう少しここで待機していてくれ」

 と言い残し、ジェイたちと共にキャスの元へと歩いていった。


 「夜分に大変お騒がせして申し訳ありません。始めてお目にかかります。俺は旅の傭兵で魔法使いのアキラと申します。一応、冒険者と呼んでもらえれば嬉しいのですが、わかりにくければ旅の魔法使いで結構です。

 そして、俺の大切な仲間である、ジェイ、レイミー、ファイエー、ガジェットです。

 いきなりなんで、代表は俺、アキラが務めます」


 「そうかい。わたしゃ、見てのとおり魔法使いで3種使いのレゼと言う。

 まずは、キャスをここまで運んでくれたようで、それには礼を言っておく」


 「はい。確かに受け取りました。

 偶々、新羅の森の上空で、ワイバーンに襲われて森に落ちたのを知ったので、ここまでお連れしただけの事しかしていませんので」


 「ふむ。それには本当に礼を言う。それで、あのドラゴンはなんなんだい? 今まで見た事も聞いた事もない種類のドラゴンだ」


 「ああ、あれは、幻獣のドラゴンで、種類はソードドラゴン。今は俺がテイムして、ゼンという名を与えてあります」


 「幻獣だと? まさか、あり得ん! 幻獣は幻獣界からこちらに出てくる事はほとんど無いはず。そ、それをテイムだと? なおさらあり得ん。人間ごときに出来る筈もないわい!」


 「確かに、普通なら有り得ない事でしたね。いろいろな事が重なり合って、俺たちはそのチャンスを手にしたという所です。

 言うなれば、奇跡的な確率に奇跡が起こったという状況でした。

 まぁ、その事を細かく言うつもりはありませんけどね」


 「う、うむ。」


 「師匠。それよりも、ターナの事です。私はそれを伝えるためにここに来たんです」


 「ターナで何があったんだい?」


 「精霊樹が傷つけられて、3本が燃え、5本が枯れるかも知れないという状況なんです」


 「なんだって?」


 「それで、師匠に急いで来てくれと言われているんです。そ、それと、この方たちにも、是非お手伝いをお願いしたいと思ってます」


 「この幻獣使いをかい?」


 「幻獣使いというだけではないと思います。この方たちは精霊を友としているようなのです」


 「精霊を? それこそ奇跡でも無理な話だろう。物語を読んだ小娘がするような話しだ」


 そして2人が俺たちを見つめた。


 「グラウ? ターナの街の精霊樹ってなに?」


 「ほっほ。ターナの街には、28本の木が植えられておってな、それぞれにかつて交流があった精霊が加護を与えておったのじゃ。精霊は気まぐれじゃからな。精霊はその場から去ってしまったが、加護を受けた木はその属性の力を少しだけ出しながら強く生き続けて居るんじゃ。

 ターナの街の住民は、その漏れ出る精霊属性の力を水晶に溜め、街の結界や、生活の為に利用して居るんじゃ」


 「ああ、それが傷つけられたとかじゃ、これからの生活とか、街の運営がヤバイ事になりそうだねぇ」


 グラウのセリフに目を丸くして居るレゼとキャス。グラウの話した内容は、ジェイたちにも、ここの2人にも通じて居るみたいだ。


 「そ、そのフクロウはなんだい? しゃべる上にやけに詳しいようだが」


 「このフクロウは俺がグラウと名付けた神獣の写しです」


 「し、神獣の写し? さ、更にあり得ん」


 常識が固まっちゃった人かな? 有り得ない、だから信じない。ってなるようだと面倒だよねぇ。


 「グラウ? 俺たちが精霊樹の所に行って、なにか役に立つかな?」


 「お主の治療魔法と、樹精が強力してくれたなら、色々な事が出来るはずじゃ。なんだったら、世界樹に手伝って貰え」


 「木に関する事で、世界樹と樹精が居て駄目なら、確かにどうしようもないかもね」


 「おい! あんたたちは精霊の使いか?」


 「とんでも無い。一部の精霊と友達ってだけです」


 「精霊を友にする、だと?」


 「師匠! ターナの街に!」


 「あ、そう、そうだったね。

 あんたたち。すまないが、一緒にターナの街に来てくれないかい?」


 「ええ、始めからそのつもりでしたよ。それと、俺たちは魔法を探しているので、魔法に関して色々と教えて欲しいと思います。よろしいですか?」


 「この老いぼれの知識でよければ、なんでも聞いてくれていい。精霊樹の結果次第では、極秘の話しでも禁忌の話しでもしてやるよ」


 「ありがとうございます。

 では、早速と言いたいのですが、レゼ殿とキャスさんはどのように移動しますか?」


 「あ、私の箒、ワイバーンに壊されてしまいました」


 「あたしも箒は持っているが、あんたのドラゴンに運んで貰った方が安全そうだね」


 「そうですね。ドラゴンなら、ワイバーンぐらいは逃げていきますからね。でも、ちょっと定員オーバーかな。

 ガジェット。アースドラゴンのダイチを呼んで貰えるかな?」


 「了解しました」


 ジェイのフレイムドラゴンじゃジェイ以外は乗れないし、レイミーのアイスドラゴンじゃ凍えちゃう。ファイエーのサンダードラゴンに乗る勇気のある人間は居ないだろう。結論として、アースドラゴンしかないね。


 俺のゼンも、刃が至る所から出ていて、ちょっとだけ怖いってのはあるみたいだけどね。


 そして、レゼの家を挟んで反対側にアースドラゴンが幻獣界より現れ出でた。


 「俺たち4人はソードドラゴンで行きます。ガジェットとお2人はアースドラゴンに乗ってください」


 「あ………、ああ」


 そしてレゼは自分の家に入って、出かける準備を始めた。間もなく家の明かりが消え、あたりは星明かりだけの世界になった。


 この世界に降りたって、星明かりというのがかなり明るいってのを知ったんだよなぁ。さらに、今は闇の精霊のおかげで暗闇もなんとなく見通せる感じがする。


 そして、出かける準備を終えたレゼが箒を2本持って家から出てきた。


 「一応、帰り用に箒は持って行かなければならないだろうからね。この1本はあたしのお古だ。キャスにやるよ」


 「あぁ、ありがとうございます、師匠!」


 「感謝して、あたしを師匠と呼ぶつもりなら、今度からワイバーンに落とされんじゃないよ」


 「は、ははははは、はい~」


 「では、灯りを作りますんで、念のため下向いて目を閉じておいてください」


 そう言ってから、ちょっと高い位置に追随型の灯りを、かなり明るめに作り出した。


 皆が目を開けて、周りを見る。うん、皆の顔が判る程度には明るい。


 「じゃあ、ドラゴンに乗り込んでください」


 「光の呪文だと? 完成せずに打ち捨てられたはずじゃないのか?」


 そのつぶやきはしっかり聞こえた。遺跡に隠されていた呪文だから、そういう過去もありそうだね。

 とりあえず、今はターナの街に行く事が先決。エイプリルにターナの街と思われる場所へのマーカーを出して貰い、俺とガジェットはドラゴンを舞い上がらせた。


 移動はアースドラゴンの速度に合わせ、ゆっくりと星の海の中を飛んでいく。


 天の川の淡い光の帯が夜空を2つに切り裂いている。無数にある小さな点さえもはっきりと見える本当の星空。これだけ明るいと星座の星も判りづらいと思うんだけど、1等星と呼ばれるモノは、その存在をはっきりと示していた。


 でも、判るような星座は見つからなかった。冬の星座だと、三つ星で有名なオリオン座しか知らないけど、その三つ星が見つからなかった。


 大航海時代になったら、新しい星座でも作った方がいいのかなぁ。


 星空に思いをはせるという、とても似合わない事をしている内にアースドラゴンが高度を落とし始めた。


 まだ、疲れるほど飛んでないから、ターナの街が近いって事らしい。ヘッドギアのアイシールドに映るマーカーも、正面の下方向を指している。


 ターナの街の北にある広場にゆっくりと着陸。ここで何らかの作業をするわけだから、幻獣たちには一旦帰って貰おう。


 ひとしきりゼンの頭を撫でてから幻獣界に帰らせ、灯りを伴ってレゼたちと合流した。


 これからターナの街へと向かう。


 通常の調査だと、認識阻害の魔法のために見る事が出来なかった街がこの先にある。


 「あんたたちは、ターナの街へ行った事は?」


 「いえ、初めてです。ついこの間、ここに街があるという事を知ったばかりです」


 本当は今日だけどね。


 「知ったばかり? どうやって知ったんだい?」


 「普通なら、結界と認識阻害の魔法で、ここに街がある事を知られないようにしているんですよね。

 実際、俺たちはここは森が広がるだけの、人が生きるには厳しい場所。という認識でした。

 でも、精霊の宝を手に入れまして、その目で見た場合、ここには多くの人の住む灯りが確認出来ました」


 「精霊の宝かい。あたしらからしたら、またまた夢物語の存在だねぇ」


 「あ、あの、精霊の宝とは、いったいどんなモノなんですか?」


 「今回活躍したのは、森の精霊の宝と呼ばれる、月桂樹の枝葉を輪にしたモノです」


 「今回? まだ他にもありそうだね」


 キャスの質問に答ええたせいで、余計な事を言ってしまったようだ。仕方ないねぇ。


 「ええ、俺たちが知っている精霊の宝は、ノームの秘宝と海の精霊の龍珠ですね。3つとも固定されて使われているので、俺でも転用は無理な状態ですけどね」


 「ほう、いったい何に使われてるんだい?」


 「それは秘密です。

 まぁ、使用する際に、精霊の宝が納得しないと使用する事が出来ないという事は言っておきます」


 「ふん。あたしらよりも色々知ってそうだねぇ。あたしの話なんて必要無いんじゃないのかい?」


 「知識を集める場合、必要のない情報なんてありませんよ」


 「なるほど。いろいろ経験しているって事だねぇ」


 そう言うとさっさと先に進んでいった。色々な勘違いも含まれていそうだねぇ。


 森の中に出来た空き地から一旦森に入り、ターナの街を目指す。


 でもそこにはしっかりとした道が出来ており、何人もが常にここを通っていた事がうかがい知れる。あの空き地はこの街の港みたいな場所だったのかも知れない。


 そして、森の木々の中に、何か、得体の知れない圧迫を感じた。


 「アキラ、この先に何かありますね」


 「うん、たぶんこれが結界なんだろうね」


 ジェイの質問に俺の推測を話すと、レゼが微かに笑うのが見えた。どうやら、俺の推測は当たっているみたいだ。


 何もない空間をレゼが箒の先でトントンと叩くと、空間が波打ち、綻び、そして『向こう側』を見せ始めた。

 充分に『向こう側』への入り口が開いた所でレゼとキャスはさっさと入っていく。俺たちも周りをキョロキョロしながら続いた。


 入った先は、森の中に繁華街を造ったと言う感じの街だった。


 色とりどりの灯りが灯り、賑やかな店がいくつも並び、本来なら眠りにつくはずの時間だというのに、大勢の喧噪と笑い声が行き交っていた。


 「ここまでの街があったなんて」


 ジェイは呟きながらキョロキョロと見回している。ほとんどお上りさんだ。


 「精霊樹というモノの力なんでしょうが、随分と無駄遣いという感じですね」


 この世界は省エネ世界だったよねぇ。これだけの繁華街のエネルギーを賄うには、相当な力が必要なんじゃないのかな。


 「その意見にはあたしも賛成だね。あいつらは自分では何もしない癖に、金を払えばいいんだろう、などと言って、単純に使い潰して行くだけだからねぇ」


 なんか、ある程度豊かになると、そういうのが出るのは仕方無い事なのかもしれないねぇ。


 しばらくレゼたちの後を着いていくと、おそらく街の中央という位置まで来た。ゆっくり歩いて、だいたい30分ぐらいだったかな。

 周辺3カ国の王都と比べるとやや小さいぐらいだけど、こんな森の中に作られた街だとしたらかなりとんでも無い事だと思う。


 そして、街の中央は大きな広場になっており、そこには10メートルは軽く超える大きくて綺麗な木が28本、中心の1本を取り囲む様に植えられていた。


 「これが精霊樹かぁ。綺麗な木だねぇ」


 「ああ、アキラ、あれを見てください。あれが燃やされたという木じゃないですか?」


 ジェイの指差す方を見ると、無惨に黒い炭と化した木が見えた。俺から見て右手の一角が、被害にあった場所らしい。野次馬も多く、兵士と言うよりも警察官的な役人に近づかないように注意されていた。


 街の役人たちと話していたレゼが俺を手招きしたので、役人の横を抜けて炭の前にやってきた。


 「どうだい? 酷いモンだがあんたにどうにかできるかい?」


 「うーん、はっきり言って自信は全くないです。とりあえず診てみます」


 そういって炭の柱に手を当て、治療魔法を唱えて診察を始めた。


 中はほとんど生命活動のない木の燃えカス。これは治療とか言うレベルじゃないな。まぁ木の治療ってのは出来そうもないけど。


 どうするか考えながら診ていくと、奥の、地中部分はしっかり根が生きている事は判った。


 でも、葉が無いと木は死んでいくしかない。この木には、葉どころか、枝も幹も無い。この根だけでどれほど再生できるんだろうか?


 この事を聞いた時から考えていた通りに樹精に協力して貰おう。


 「樹精、手伝ってくれ」


 診察をしながら声に出すと、俺の中から樹精が飛び出したのを感じた。そして、俺が見ているモノを樹精も見ているという感覚の共有を感じる。


 だけど、樹精が悲しそうな顔で『否定』の感情を送ってきた。


 この精霊樹を助けるのは無理なのか?


 さらに『否定』。


 助ける事は出来ても、今の状況だと無理って事か?


 今度は『肯定』。


 なにか、必要な物がある?


 今度も『肯定』。


 必要な物とはなんだ?


 樹精からイメージが流れてくる。それは、小さく固い、1粒の種。そして、それが芽吹き、葉を伸ばした後に、根を切り、ここの根に食い込ませるイメージだった。


 つまり、精霊樹の種を使って、ここの根に接ぎ木すれば良いんだ?


 大きく『肯定』された。


 他にも精霊樹があるんだから、その枝葉を使ってやる方がいいんじゃないのか?


 『否定』。その後のイメージでは、他の精霊樹の枝葉には他の精霊の加護がかかっているため、それを用いた場合は精霊の加護の宿らない、ただの樹になってしまうみたいだ。


 「ありがと」


 診察を終了させて、俺は樹精に礼を言った。そして、樹精は急いで俺の中に戻っていった。


 そんな俺の言動をじっくり見ていたレゼが俺に近寄ってきた。


 「まず、精霊樹の事から聞かせてくれるかい?」


 俺は診察で見たとおり、根だけはかろうじて残っており、精霊樹の種があれば復活も可能だと話した。他の精霊樹の枝葉を接ぎ木する事は絶対にやってはいけないとの注意も忘れずに。


 「精霊樹の種かい。それはまた難しい問題だねぇ」


 「? 精霊樹はここ長いんでしょう? 種の1つぐらい保管されていないんですか?」


 「精霊樹は花を咲かせるが、実はなかなか成らないんだ。種の1つでもあれば、喜んで精霊樹を増やすつもりなんだけどねぇ」


 「他に精霊樹がある場所はないんですか? 種じゃなくても、芽吹いているモノのでも可能かもしれないんですが」


 「いや、あたしは聞いた事がないねぇ。」


 「グラウは何か知らないか?」


 俺は、俺の肩のショルダーパッドに爪を立てて掴まっているフクロウに聞いてみた。『知識』を司る神の象徴の写しという存在なら、その手の情報を知っているのかもと思ったが。


 「いや。その事は、人は知らないのかも知れんな」


 知識となると、人が考え、記憶し、伝えるという形式が必要らしい。本を読んで知った情報は知識になるらしいが、経験から培っただけのモノは記憶扱いになり、その記憶を誰かに伝えると知識になるそうだ。本やメモも知識と呼べる物らしいけど、グラウには集まってこない情報だということも微妙な感じがする。それが知識の神の拘りなのかねぇ。


 「えっと、それはつまり、人以外なら知ってるかもって事かな?」


 「そうじゃな。一度、世界樹に聞いて見たらどうじゃ?」


 そこでも、レゼやキャスがぎょっとした目で見つめてきたけど、とりあえず無視する。


 「そうだね。せっかく世界樹が琥珀をくれたんだから使ってみよう」


 本来はペンダントにでもしようと思っていたけど、単に肩のポケットに入れっぱなしにしていた世界樹の葉を内包した琥珀を取り出し、ぎゅっと握って世界樹を思い浮かべた。


 たぶん、この使い方でいいんだよね?


 世界樹のあった場所の、独特な空気を思い出してみる。匂いや温度、湿度ではなく、心地よい力という感じの、一種の圧迫感のようなモノ。包み込まれる心地よさという感じもあった。


 世界樹、聞こえるか?


 ー応ー


 おお、通じた。


 世界樹、聞きたい事がある。精霊樹が燃えてしまって、根だけが生きている状態になっている。これを救うために樹精に聞いた所、精霊樹の種が必要だという。でも、ここには種は無い。どこか、精霊樹の生えている場所か、種のある場所を知らないか?


 俺は心の中で、しっかりと言葉を使って思考し、それが世界樹に伝わるようにと願った。


 ー精霊樹は精霊の力がある場所で無くては実を結ばない物なりー


 ああ、だからここでは実が出来なかったのかぁ。


 ー精霊がいて精霊樹がある場所は、ー


 そこで、言葉ではなくイメージに切り替わった。


 緑色の大きなボール。その見えている中心点が世界樹の場所だと認識出来る。そして、今俺たちが居るターナの街に点が穿たれ、次に右上に赤い点が灯った。


 ー森の中に、水の精霊が一種、泉の精がおられる一角に精霊樹があるー


 そこなら種もありそうなんだ?


 ーおそらくー


 わかった、ありがとう。そこに行ってみるよ。


 そう思考した所でつながりが消えていくのを感じた。


 精霊樹の在処は判ったけど、精霊の居場所を人間に伝えるのはどうなんだろう? もし、心ない人間にその情報が伝わったら、何らかの確執が起こっても不思議じゃないねぇ。


 「エイプリル、3D投影で、ワイヤーフレームの球体を出して」


 『了解しました』


 俺の直ぐ目の前に現れた球体に指を指していく。


 「世界樹がここ。現在位置がここ。泉の精はここ。ここに向かって、作業用ロボットで種を採取して来てくれないか? 泉の精との交渉も視野に入れて。今のエイプリルなら出来るはず」


 『了解しました。何らかの問題が発生しましたら、随時お知らせします』


 「ああ、それでお願い」


 これで、エイプリルが作業を終了するまでは、傷ついた精霊樹の治療に専念してればいいかな。


 「レゼさん。精霊樹の種が到着するまでは、燃えた方は後回しで、傷ついた精霊樹を先に診る事にします」


 「ああ、そうだね。で、見込みはあるのかい?」


 「種の方は使いを出しましたので、その使いが現地に到着するまでは判りません。まぁ、今晩中には結果がでているはずです」


 「待ってください。少し、いいですか?」


 それまで傍らで見ているだけだった役人の1人が声を掛けてきた。ちょっと小太りで背の低い初老という感じの男だった。


 「何でしょう?」


 「いえ、貴方は色々な物をお持ちのようで、それに大変興味を持った次第でして」


 あ、やばそう。最初に釘を刺しておかないといけないタイプって感じだ。


 「確かに、色々な縁を持っていますが、それについては一切不問に願います」


 「え? え? いや、ですが、我々もこの街を治める者としてはそう言うわけにもいきませんので」


 「一切不問に願います」


 俺は再度、しっかりと聞こえるように言い放った。


 「………、な、ならば、仕方ありません。残念ですが、貴方を逮捕させて頂きます」


 その言葉と同時に、周りにした役人が剣を抜いて俺の前に立ちはだかった。


 良い物を持っているから、逮捕して没収させて貰いますよ。などと言っているわけだねぇ。なんか、低レベルの悪役のテンプレっぽい感じだ。大したこと考えているわけでも無さそうだね。


 さて対応はどうしよう?

 1 素直に逮捕される

 2 力ずくで包囲を突破する

 3 全力でもって、この街を灰燼と化す

 4 検索してこの街の攻略法を探す


 とか考えていたら、俺たちの前にレゼが割り込んできた。


 「町長! いい加減におし。この街は何時から追いはぎの集団になったんだい?」


 「レゼ様。お言葉ですが、私にはこの街を守る義務があるのです。精霊の力、大きな力があるのなら、それに対抗する力を持たなくては、この街が蹂躙されるだけになります。私はそれを許す立場には無いということです」


 「その結果が追いはぎかい。情けないったらありゃしないねぇ。あんたたちは、実際に自分が何をしているのか判ってるのかい?」


 「それはこれから調べるつもりですよ」


 「本当に馬鹿だねぇ。あんたのその行いが、この街を滅ぼす事になるとは思わないのかい?」


 「何を言いますか。この街には魔法使いの兵士が30人。ここにいるだけでも8人もいるんですよ。もし、レゼ様もこちらに加わってくだされば、恐れる事は何もないと言えるでしょう。さあ、こちらに入らしてください」


 「力が強ければ、他人の物を奪ってもかまわないって言うのかい。ホント情けないねぇ」


 「力がなければ街を守る事が出来ないのですよ」


 「力があれば何をしてもいいと言っているわけかい。残念だが、今日を限りでこの街を見限らせて貰う事にするよ」


 「いいですよ。これで貴方もこの街にとっての犯罪者となるわけですね。貴方の持つ貴重な資産も、没収とさせて頂きます」


 何と言うか、この街の町長は、後先考えない小悪党という感じだねぇ。このまま見ているのも面白いけど、さっさとケリを付けて、ゆっくりと魔法の話しを聞きたいなぁ。


 「あ~、レゼ? どうする? この街全てを焼き払う? じっくり少しずつ焼いていくか、一瞬で灰にするか、とか、いろいろ選べるけど?」


 俺のセリフに、町長たちが引いてる。レゼとキャスも青い顔して引いてるのは何故だろう?


 「それは最後の手段にして貰えれば助かるんだけどねぇ」


 「では、この街を一度水没させて、一気に氷らせますか?」


 「もっと、穏便な物はないのかい?」


 「えー、この街に丸一日、雷撃を浴びせ続けるとか」


 「他には?」


 「この街その物を、地下深くに落とし、生き埋めにするとか」


 「更に穏便に頼む」


 「この街に結界を張って、人が出入り出来ない場所にしてしまうとか」


 「更に、更に穏便に」


 「ここの住人に禁断の魔法を使って、心のない人形にしてしまうとか」


 「あ、あんたが言った事は、本当に全部できるのかい?」


 「はい。俺たちも全力を出さないといけないので、かなり疲れそうなんですけどね。幻獣、神獣、精霊の力を借りれば確実に出来ます」


 「ああ。ちょっと待っとくれ」


 レゼはそう言うと町長の方に少しだけ近寄った。


 「聞いたかい? さっさと剣を引きな」


 「レ、レゼ様。あの者の言葉を信用するというのですか?」


 「あたしは、幻獣というのに乗せて貰ってここまで来たんだ。大地の属性を持つアースドラゴンだったよ。他にソードドラゴンという幻獣も居た。ここまで飛んできて、北の玄関広場で幻獣界に帰っていったのをこの目でしっかりと見たんだ。

 神獣が居るのも見ているし、精霊を共にして好かれているのも見てただろ?

 何を持って、信用出来ないなんて言うんだい?」


 「ドラゴン級の幻獣ですか?」


 かなり泣きそうになってる。兵士の方も2~3歩下がってる。


 「あんたはそう言う存在に剣を向けたんだ。その落とし前はどう着けるつもりなんだい?」


 落とし前かぁ。確かにこれからも見くびられないように、ある程度の慰謝料を取っておいた方がいいだろうね。

 俺たちに突っかかっても、損しないって思われるのはアカデミーとしてもマズイ対応になるからねぇ。


 相手がこの街の町長と言うのなら、相当ふっかけさせて貰おう。


 そのために、樹精と相談してみる。


 樹精! 精霊樹の精霊の加護って、一時的に出ていないように見せる事は出来る? 後でまた復活させる事を前提に。


 心の中で、きっちりとした言葉での思考をして樹精に届くように願った。


 『肯定』


 方法はあるらしいね。どんな方法?


 樹精からはイメージが返ってきた。それは俺の呼応。呼応の世界の中で精霊樹を認識して、一時的に加護の力を外に出さないように命令すればいい、ということだ。今の俺になら出来るらしい。


 「レゼ、いいですか? それと、そこの町長さん」


 「ああ、いいよ」「な、なんだ?」


 「えーと、そこの盗賊の頭の町長さんには、しっかりとした落とし前を着けて貰わないと、と考えます。それはもう、俺たちに剣を向けた兵士と町長の命と全財産ぐらいは」


 「な! な、な、なにを」


 「当然だよ! 相手の力量も確かめずに剣を向けたあんたのせいで、街と街の住民全ての命を危機にさらした責任ってやつだ」


 レゼってば、結構辛辣だねぇ。町長となんかあったのかな?


 「まぁ、命を絶って貰っても俺の得にはならないんで、その代わりの物を頂きます」


 そう言ってから俺は呼応を発動させ、魔法力の世界に入っていく。そして周囲を見回すと、レゼやキャスらしき紋章が見えた。紋章? 何だろう、後で聞いてみよう。

 ジェイたちは相変わらず、壮大な大自然という感じの炎や大河、暴風や果てしない大地というイメージなんだけどね。


 そして、まんま精霊樹の形で丸い精霊の加護を抱えた木々が見えた。


 木の姿にだぶって、小さな子供のようなイメージも重なる。これは、人的な意識が育っている最中という感じなのかも知れない。


 精霊樹よ。俺の頼みを聞いてくれ。一時的にだが、精霊の加護を表に出さずに、まるで消えたように見せて欲しいんだ。また頼んだ時は、それを解除するということも頼む。


 俺が精霊樹たちにも響くように願うと、精霊樹が一斉に俺を見つめた、という感覚があった。ちょっとびびったけどね。そして、一斉に『了承』の意識が飛び込み、精霊の加護の丸い玉を抱えていた木々が、玉に覆い被さって隠すような形をとりだした。


 あれで、精霊の加護が消えたように見えるんだろうな。


 俺は、自分の身体に帰る際、精霊樹の中にも魔法力が注ぎ込まれるようにして戻ってきた。


 俺が目を開けた時、レゼやキャス、町長や兵士たちが、目を丸く開いて精霊樹を呆然と見つめていた。

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