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第三十五章 晃と機械の魔法使い ノームの秘宝

 いったんケルス先生の所へ顔を出し、その後は薬草集めや胡椒集めに明け暮れた。ルブロンダルの国王陛下からの返答待ちなんだけど、なかなか無いなぁ、ってことで、一度お伺いを立ててみたが、連絡係によると特に変わりはないそうだ。きっと日時設定で時間がかかっているんだろう、ってぐらいしか言われなかった。


 そして次の日。街を歩き、薬師やもう一人の医者の所に行って、ポーションの状況を確認してみる。どちらも、順調。特に、薬師の方はいくつかの薬草を合わせて、ビタミン不足に効く魔法薬を開発してた。この世界にはまだビタミン不足の概念はないけど、ビタミン不足による病気は存在する。


 「歯茎や古傷から血が出たりする病気や、ひどい肌荒れ、黄疸などの表情が出る貧血に効果がありそうですね。」


 そう言ったら、一生懸命メモをとっていたから、きっと活用してくれるだろう。


 余談になるけど、街の噂ではここの領主が、領主の屋敷を新しくするために特別な増税を計画しているらしい。エイプリルに言ったら、大型のサイのような身体に、溶岩石で作ったような鎧を被せた感じのモンスターがいるそうだ。


 うん、あくまで、いるってのだけ聞いた。


 ああ、良い天気だ。へいわだねぇぇ。


 夕方になり、街の外の小型輸送艇を止めてある場所でガジェットを待つ。


 空から降りてきた小型輸送艇の中から、コンテナを2つ持ったガジェットが降りてきた。


 ガジェットは、俺たちがつけているヘッドギアに似せた頭部構造に変わり、ボディも俺たちの装備に似せた外装になっていた。俺たちと歩く限り、同じ集団ってのがはっきり判るね。ヘッドギアの前面には、まるで忍者の額当てみたいにプレートがはまっている。装備の胸の中央、腰の前掛け、背中、腕当て、足当てにも同じプレートがはまっていた。効率を優先してつけられたはずなのに、それっぽく見えるのは、エイプリルのセンスがいいのかな。


 持ってきたコンテナの一つは加工が終わった水晶と、同じコンテナに銀のプレート。プレートは魔法力吸収用と、無地。もう一つのコンテナには、俺たちの装備が、ガジェットと同じ魔法力吸収プレート付きで入っていた。色は濃い緑。森林迷彩のシャツとズボンも一緒だった。


 早速着替えて、外で魔法を使ってみる事にした。魔法力を多く消費するのは、空間転移魔法ということで、土魔法で台座を作り、文様を掘って硬化させていく。今回文様の中心に描いたのは「も」という文字。ジェイたちにとっては見慣れないけど、形としてはシンプルで、他との区別化には最適だろう。


 10メートル程離れた所から、まずは俺が1人だけで転移。消費魔力は変わらないけど、その後の回復はけっこう凄かった。

 その後、3人が試しての感想も俺と同じで、転移直後の回復量が一番強く、それが徐々に弱くなっていく感じだ。


 「これって、転移直後には、周りに魔法力が多く漂っているってことかな。」


 「転移自体が魔法力を無駄に吐き出しているのかも知れませんね。」


 「それをしておかないと、転移が安定しないっていう可能性もあるけどね。」


 装備につけた魔法力吸収のプレートはかなりの効果があり、これだけでも充分使えるモノだった。あと、連続戦闘時の持久的な効果や、俺の魔法力の全体回復を使用した時に、どれぐらいの効果があるのか、という課題もあったが、それは今しなくてもいいだろうと言う事になった。


そして、ガジェットの性能を見ようと言う事になった時、それを了解したガジェットは俺たちの唱えていた空間転移呪文を聞き覚えで唱えた。


 そして、しっかり転移完了。


 ビックリ。ちゃんと魔法唱えられるんだねぇ。っていうか、スピーカーからの合成音声でも起動するんだ?


 「ガジェット。お前の魔法の起動方式は説明できるか?」


 「現状では解析および、説明は不可能と判断します。先ほど使用した空間転移魔法の詠唱での起動も、確証はありませんでした。」


 「とりあえず、やってみたら出来ちゃった。ってのは、俺たちと似たような感じだねぇ。」


 「土魔法に関しては、システムの中に専用のデバイスが存在すると推定されます。明確な認識のためのシーケンスは存在しませんが、入出力は確認されています。」


 私製の怪しげなデバイスでもつなげているような感じなのかな。


 「どのくらい魔法を認識している?」


 「物理現象を起こす動作ユニットという認識です。」


 「アキラ? どういう事なんです?」


 ジェイが会話の内容が判らないって救助を求めてきた。


 「こいつ。ガジェットにとっては、腕を動かすのも、魔法を使うのも同じ感覚で、どこからどこまでが魔法なのかわからないって。

 たとえば、腕で地面を掘るのも、土魔法で穴を掘るのも、ガジェットにとってはほとんど同じに感じるようだね。」


 「そういうものなんですか?」


 「まぁ、元々の作りが、ほとんどゴーレムだからねぇ。ゴーレムにとって腕なんて、作り手がこういうモノだと指定したから付いているようなモノだしね。自然に生まれた時から付いてるモノじゃないんだ。」


 「じゃあ、ゴーレムって、6本の腕を持ってたりとかも可能なモノなんですか?」


 「可能だと思うよ。ただ、取り付けて動かせるからと言って、2本腕よりも強いとは限らないけどね。」


 「あ、その理屈は何となく判ります。」


 「さて、ガジェット。君の動作テストを見せてもらうよ。」


 そう言って、手から光の玉を浮かび上がらせる。


 「俺がこの光の玉を動かすから、これを追尾して、出来るだけ接近する事を維持してくれ。」


 「了解しました。」


 俺たちの前には森が広がっている。もともと、森の中に出来た広場に小型輸送艇を止めてただけだからね。

 その森は、木が3メートル以上の間隔で生えていて、しっかり前方を見ていれば全力で走れるぐらいのモノだ。それはガジェットも同じ。横幅的には人、一人と半分ってぐらい。余裕を持たせれば人、2人分ぐらいは必要かな、って感じだから、間隔が3メートルも空いていれば、余裕で走れるはず。


 その森の中に、勢いよく光の玉を放り投げた。速度は80キロぐらい? 草野球で俺が全力で投げるぐらいのスピードだ。


 え? 遅い? ピッチャーとして練習したわけでもないから、こんなモノでしょ?


 でも、遅かったようだ。ガジェットは余裕でついて行ってる。


 急に移動方向を真横に曲げる。


 ガジェットも瞬時に反応。


 森の木々の間を縫うように移動。

 完全に一定距離を保って追従する。


 フェイントを入れて、引きはがそうとランダムな動きを取り入れる。

 前後左右に軽快に動き、一定距離を保つ。


 上に上げ、急に下げるという上下のフェイントも入れつつ、地面すれすれを這い回らせたり、木の後ろに隠れるようにしたりして、逃げ回らせる。


 結果は完敗。ケイドロだったら、簡単に捕まってるねぇ。


 遠隔操作で動かしてただけなのに疲れた。


 「誰か、俺の代わりに逃げ回ってみない?」


 ジェイたちは揃って首を振った。


 「凄い動きですねぇ。しかも繊細で丁寧って感じがしました。」


 「ホント、凄い技術で作られてるんだね。でも、凄すぎるってのが難点かな。」


 「え?」


 「ガジェット、武器は何を持ってる?」


 エイプリルが、俺の護衛用に持たせた武器だから、かなりぶっ飛んでるかも知れないから、全部確認しないと。


 で、全部展開してもらったら、やっぱりぶっ飛んでた。


 俺の感覚で言うと、対戦車ライフルのような力を持つマシンガンが両腕に隠されていて、胸からは高出力レーザー、足には超小型のミサイルポッドが隠されていた。

 俺の感覚だから、実際はもっと凶暴な武器かも知れない。試射してないから正確な威力も判らないし、判っちゃいけない気もする。


 「ダメだよぉ。これは、使うなとは言わないけど、俺の命令が無い時はしまっておいてね。」


 「アキラ? これは、どのくらいの武器なんですか?」


 「あの千のモンスターの侵攻を思い出して。」


 「はい。」


 「あれを、俺たちがいつもの夕食を作り始めて、食べ終わり、片づけが終わるってぐらいの時間で、全滅できるかも。

 しかも、それだけ時間がかかるのは、移動する手間があるから、ってことぐらい。

 近場に全部がいたら、入れたお茶が冷めないうちに終わっちゃうかも。」


 「そんな凄い武器なんですか?」


 「凄いっていうか、容赦がないって感じかな。近くにモンスターと戦っている人がいたら、巻き込まれて一緒に死んじゃう可能性が高いしね。」


 「あの、光魔法みたいな感じですか?」


 「それが一番わかりやすいね。そういう、問答無用で相手をぶっ壊す魔法を、撃ちっぱなしにできるって感じだね。」


 「それは確かに容赦がないですね。でも、大きな戦力になりませんか?」


 「大きすぎて使い物にならないって感じ。

 それに、俺たちの目的からも、これを頼るのはマズイんだよね。」


 「マズイんですか?」


 「俺たちは魔法を普及させて、それを使って賢く戦えば、モンスターなんて恐れずに生きていける、ってのを広めたいわけなんだよね。」


 「まぁ、おおよそはそんな感じですよね。」


 「でも、ガジェットは、ここにいる1体しかない。

 他の人たちにはガジェットが無いんだから、ガジェットの無い戦い方を広めていかないといけないんだ。

 どんなモンスターにはどんな魔法が効くのか、とか、どのぐらいの力が必要なのか、とか、どんな戦法が有効なのか、とかもね。

 俺たちは、その最前線で、その戦い方を見せていかなければならないんだ。実際に見せなくても、そうしたっていう事実は作りたい。そうする事で、俺たちの後をついてくる人たちが頑張れると思うんだ。

 ガジェットがいるから、俺たちにはそれができたんだ。って思われたら、頑張って強くなってくれないと思うんだよね。」


 「そうか、僕たちを目指して、強くなろうという希望を与えなければならないんですね。」


 「確かに俺たちは特別な装備を持っているし、精霊との親密な関係も持っている。けど、それは、他の誰かにも可能な事だし、他の何かで代用できるモノのはずなんだよね。あと、努力とかでも補えるモノのはず。

 だけど、ガジェットの武器は、それを超えちゃっているんだ。」


 「ですね。そうか、アキラがエイプリルさんを僕たちに紹介しなかったのも、それなんですね。

 僕たちがエイプリルさんに頼り切ってしまうと、僕たちが強くなる事を諦めてしまうかも。」


 「それが一番怖かったのは本当だね。

 次に大きな理由は、………。」


 「理由は?」


 「あー、状況が複雑すぎて、説明が面倒だったから。……です。」


 「アキラがそこまで言うほどの面倒ですか。なんか、それだけでも恐ろしいですねぇ。」


 「いつか、忍耐力を試す試練を受けなければならなくなった時にでも話すよ。」


 「ははは………。」


 「とにかく、ガジェット? 他に武器はないかな? 無ければその機動力と力だけをメインにしてもらいたいな。」


 「こちらの武器はいかが致しましょう。」


 そう言って見せてきたのは、水晶窟の闇が持っていた両手斧だった。


 「あ、それ、持ってきてたんだ。それは武器として使う事はできるのかな?」


 俺たちには重すぎて使えなかったけど、ガジェットなら楽に振り回せそうだ。

 

 そして、まるで細い木の枝でも振り回すように両手斧を片手で振るガジェット。


 「森に突進して、木を10本切り倒してくれ。」


 俺の命令が発せられたと同時に、ガジェットは森の奥に移動し終わった。そして、通過した後の木がほとんど同時に倒れた。丁度10本。


 「やっぱ凄すぎだよねぇ。」


 「た、確かに。」


 「ガジェット。お前の仕事は、基本的に俺たち4人を守る事だけだ。俺たちが攻撃された時、その攻撃から俺たちを守るのはいいし、攻撃してきた相手に反撃するのもいいが、積極的に攻撃に参加はしないでくれ。だが、特別に命令があれば、それには従って欲しい。」


 「了解しました。」


 「それと、戦闘時と通常時の区別はできるか?」


 「要求されるレベルが不明です。」


 「そっか、じゃあ、たとえば、街の中で、俺たちの誰かが喧嘩になって、誰かに思いっきり殴られた時に、どんな行動をとる?」


 「護衛対象の4人が武器を用意していない場合なら、喧嘩相手の生命の遵守が必要と判断します。ただし、殴られるという行為が命に及ぶ脅威の場合は別だと判断します。

 生命遵守の場合は、行動に出ず、命令を待ちます。それ以外の場合は、対象を除外する事から破壊までの間で判断を実行する事になります。」


 「うん、良い答えだ。その調子で頼むよ。

 それと、お前にこれが使えるか試してもらいたいんだが。」


 そう言って俺は、ノームの腕輪を外してガジェットに渡した。


 「それは、土属性の精霊ノームの腕輪だ。まずは普通に持って、なにか土魔法を使ってみてくれ。」


 「土魔法の指示をいただきたいと思います。」


 「そうだな、じゃあここにテーブルを作ったり、お前と同じ形の土人形を作ったりしてみてくれ。」


 言うやいなや、あっという間に出来上がった。なんか、調子いいのかな?


 「作業効率はどんな感じだ?」


 「良好です。通常以上の精度と効率を確認しました。」


 「相性は良いみたいだねぇ。じゃぁ今度は、ノームを呼び出してみてくれ。」


 「ノームを呼び出すという行為が不明です。」


 うーん。感覚的な事だから、どう言ったら良いか判らないな。そもそも、俺はノームの呼び出しに成功した事あったのかなぁ。いつも、呼ぶ前に来ていたような気がするし。


 助けを求めてジェイの方を見るが、そっぽを向かれた。レイミー、ファイエーにも。


 「あー、とにかく、その腕輪に土属性の魔法力を通してみて。そして、ノームに出てきて欲しいって、腕輪に向かって語りかけてみて。」


 これで呼び出せるかは疑問だけど、やらせてみて、できなければ諦めればいいかな。


 「ほう、こいつは面白い。」


 出てきちゃったよ。やってみるもんだねぇ。


 「今日は酒はないのか?」


 カバンに残ったウォッカの1瓶を取り出す。この流れは諦めよう。


 「おお、この前の火のような酒じゃな。」


 「で、このガジェットが、腕輪の持ち主ってことでいいのかな?」


 「こいつか? こいつは、半分ほどは最適じゃな。半分ほどの理由で、こいつじゃなくてもいいんだがなぁ。」


 「説明して欲しい。ガジェットに何か問題が?」


 「問題はない。こいつの中には、我らがノームの秘宝と呼べる物がすでに入っておる。そこにこの腕輪を与えても、ほんのちょっと便利になるというぐらいだからのぉ。」


 「ノームの秘宝? それのせいで、ガジェットは土魔法を使えるようになってたのか。」


 「なぜ、こんな所にあるのかは判らんがの。じゃが、正式に渡された物である事は間違いないのぉ。」


 「ガジェット。お前の胸の中の秘宝とか言うのを見せられるか?」


 「はい。」


 何か、胸の当たりのパーツが複雑に動いてから、観音開きに装甲が開いた。


 その胸の中央には、宝玉とでも言うような、淡い光を発する透明な玉がおかれていた。


 「ほっほ。しっかり働いているようじゃな。」


 「じゃあ、ガジェットにはこのノームの腕輪は使わない方がいいのか?」


 「それでもいいし、あの宝玉にその腕輪をはめ込んでもいいぞ。じゃが、一度組み入れると、他の者に譲るという事が難しくなるがのう。」


 「他の者、かぁ。なかなか、その他の者ってのが見つからないんだよね。特に土属性って、持ってる人も少ない傾向だけど?」


 「それは、この世の者が、偏っているからじゃがな。じゃがまぁ、ワシとしては、ノームの秘宝を守る意味でも、こいつに使ってもらいたいもんじゃがのう。」


 「そっか、腕輪よりもこのノームの秘宝の方が大事なものなんだなぁ。

 わかった。この腕輪はガジェットの物としよう。」


 「ほっほ。なら、その腕輪をちょっと貸せ。」


 そう言ってガジェットの腕から腕輪をひったくると、小さな金槌のような道具で、細かく叩き始めた。そして、腕輪の一回りをいじった後に、


 「ほれ、これを宝玉にはめ込むんじゃ。」


 ノームから腕輪を受け取り、ガジェットの胸の宝玉に腕輪を近づけただけで、自然と腕輪が宝玉に巻き付いた。


 「よし、よし、良いできじゃ。」


 そう言ってガジェットの方に歩き出すと、そのまま姿が薄くなり、消えていった。


 腕輪の中に入ったのかな。


 「ガジェット。胸を閉じていいぞ。」


 これで、4つの属性の力が揃った事になるのかな。


 ガジェットに再び土人形を作らせて効率を確かめさせたら、簡単な動作限定だけど土人形を動かしてみせた。効率どころか大幅なレベルアップって感じだ。


 「よし、じゃあ、ガジェットはこれから、その斧を武器として使っていってくれ。でも普段は素手で対応してもらいた。」


 「了解しました。」


 「あとは、俺たち4人とエイプリルの命令を聞いて貰えれば問題ないかな。まぁ、普段は俺たちについて歩いて、重い荷物を運んだりってぐらいになりそうだけどね。」


 さっそく水晶のコンテナをファイエー工房に運び込んだり、装備品のコンテナを移動したりと、クレーンが必要な事をあっさり片づけてもらった。


 そしてコンテナに戻り、俺たちは食事をとって寝る事にした。ガジェットには外で門番代わりに歩哨をしてもらう。


 「なんか、僕たちだけが暖かい部屋で美味しい食事をとって、ゆっくり眠るってのが悪く感じますねぇ。」


 「ガジェットは、腹も減らないし、美味しいっていう感覚も持ってないし、基本的に疲れるという苦痛もしらないんだよね。当然、眠る必要も無いし。」


 「まぁ、理屈はそうなんでしょうが。」


 「まぁ、鳥みたいなモノかな。」


 「鳥? ですか?」


 「俺たちが鳥で、空を飛びながら、地上にいる人間を見て、空を飛べなくて、人間は不幸だねぇ。って思うようなモノだと考えればいい。」


 「空は飛んでみたいと思いますが、飛べない事は不幸でしょうか? って、これの事ですか?」


 「うん。ガジェットにとって、食事を楽しむ事はしてみたいかも知れないけど、しなくても別に不幸ではないだろうね。

 逆に、食事ができなくて不幸だね、なんて言われたり、変な気の使い方をされる方が不幸かも知れないね。」


 「うーわー。なんでアキラはそこまで考えられるんですか?

 確かに、気をつけなければならない事ってのは判るんですけど、今まで考えた事も無かったことですよ。」


 弱きモノに対して気を遣いすぎるほど考えて行動するという事を、当たり前にされてる雰囲気の中で育ったのかな、って思う事もある。それだけ、生きる事に余裕が出てきた社会だったのかな。どんなに力がある人間でも、明日の命の保証も無いこの世界だと、余計に思い知らされるって感じだ。


 「とにかく、ガジェットは、命令を実行して、その成果を上げる事だけを目的にするように作られてるからね。便利に使って、役に立ったら褒めてやるだけでいいんだ。

 そういう存在って割り切って接してもらいたいな。」


 明日の朝には、歩哨の労をねぎらおうと心に決めて、ゆっくりと眠った。


 そして、次の日はガジェットを伴って街を歩いたり、森に出て軽くモンスターを狩って、行動の調整を行った。


 街の中では、元々俺たちの服装が奇抜だったせいか、そこにガジェットが加わっても、たいした変化が無いとか思われたようで、概ね問題はなかった。


 本来は問題がなかった方が問題だとは思うんだけど、俺たちのアイデンティティを保護するために、問題ないなら良いじゃないかぁ。という姿勢でいく事にする。


 戦闘に関しては、俺たちが苦戦するようなモンスターが出てこなかったせいで、ガジェットが動く必要がなかったため、なんの動きも無く終わってしまった。

 一度、全力戦闘をしてみないと、細かい打ち合わせができそうもないね。


 モンスター狩りの途中で捕まえた鹿を、血抜きしたり、そのまま解体せずに街の肉屋まで運ぶのには、かなり便利ではあったけどね。


 そんな過ごし方をしている途中で気が付いた事に、ガジェットが農業知識をかなり持っているという事がわかった。


 何らかの原因で文明崩壊を起こした時に、農作業の教本をガジェットに写して役に立てようとしたらしい。それはもちろん役にたったし、その後に、実際に農作業に従事した経験による補正データも持っている。

 つまり、失われた農業技術の復活だ。


 俺はもとより、エイプリルも食料品に関しては「製品」しか知らない。シチューの中にニンジンが入っているのは知っていても、ニンジンの作り方は判らないわけだ。


 もし目の前にニンジンの種や苗木があっても、俺やエイプリルには区別も付かない。でもガジェットならそれができるってことだね。

 なら、野生種になりかけているニンジンも見つけられる可能性がかなり高くなる。


 ニンジンに限らず、葉物野菜がかなり不足しているし、豆の類も少ない。これからは、俺たちの護衛よりも野菜探しを重要任務にしてもらおうと本気で言ってしまったが、エイプリルも優先順位に悩んだようだ。


 ガジェットからデータのコピーをもらい、情報収集用のインセクターの画像解析にその情報を使うと言う事で、なんとかガジェットの任務の優先順位を、護衛が一位としたようだ。


 そんなドタバタした日々を過ごしている内に、ルブロンダルの国王陛下からの謁見許可がおりた。


 1週間後と言う事になったが、その間にゲート用の魔法陣と制御用のプレートを作る事にした。ルーノスとエンデ間のゲートを見ていて思いついたんだけど、ゲートの横に通信機を設置して、互いの準備を確認するのが、手順としては良いだろうという事になった。


 1セットの転送ゲートに、プラットホームが4枚。各プラットホームごとに水晶が8個。通信機に大1個、小4個が2機分。計、水晶が34個に、小さめのが8個必要になる。

 かなりの出費というか、手間暇だねぇ。ガジェットのいた水晶窟からかなり採ってきたつもりだったけど、あと1セットは作れるけれど、もう1セットは無理っぽい感じだ。


 どうせ、シャシルでも同じ事しないとならないし、ワズムルでも最低1セットは必要になるはず。拠点と各国を結ぶので3セット必要になるはずだから、8セット、予備や念のためを考えたら10セットは必要だねぇ。


 水晶だけで400個? めまいがしてきた。


 必要だからやらねばならないけど、ノームに手抜きバージョンを聞き出して無かったら、ちゃぶ台をひっくり返してたよ。


 とりあえず、謁見の日まで余裕があるから、2日かけて水晶窟にこもる事にした。まぁ、ガジェットにブラックドラゴンのカバンと超振動ブレードを持たせて、5人目の労働力としたために、かなり効率が上がり、目標数を簡単にクリアしたんだけどね。あとは、売り物にしたり、効率化の研究用にでもするつもりで確保していった。


 一番始めにこの水晶窟に入った時と比べたら、半分ぐらいに減った? って思えるぐらいガランとしちゃったのは、ご愛敬としておこう。


 まぁ、掘り出せば、まだまだあるんだと思う。たぶん。


 エイプリルと相談して、水晶以外の鉱物の採集も検討した。特に銀が減っていると言う事で、誰も手をつけていない銀鉱でも探せないかと調べてもらった。


 宇宙戦艦のセンサーからすると、地表の表面的な電磁波からは、浅い部分の金属しか測定できないそうだが、それでも地下10メートル程度の深さは調べられるそうだ。

 なんでも、地下に設置された機械や基地を探り出すための標準装備で、実戦ではほとんど役に立たなかったモノらしい。


 そんな宇宙戦争には役に立たない装備でも、とある山の中腹に自然銀が埋まっているのを見つけたそうだ。そこならば、もっと掘ればかなりの銀が見つかる「可能性」もあると言われたが、それについてはとりあえず保留にした。


 そして、俺とガジェットの土魔法で、埋まっている銀を浮かび上がらせる事にした。


 木も生えていて掘り出しにくいけど、何本かの木を根っこごと移動させて広場を作り、そこで魔法を起動させた。かなり固い岩の塊みたいな山だけど、魔法なら苦労もなくより分けていける。


 そして、出てきたのは真っ黒い木の根っこ、みたいな金属。これが銀らしい。銀という文字の艮は根っこという意味があったはず。それって、これの見たままってことなのかなぁ。


 とにかく、銀という物がどういう感じで埋まっているか判ったので、どんどん掘り出す事にする。俺たちが土魔法で浮かび上がらせらた物を、ジェイたちが手持ちでコンテナに運び込んでる。土まみれということで、カバンには入れたくないそうだ。うん、気持ちはわかるから、仕方ないよね。


 ある程度溜まった所でガジェットが小型輸送艇に運ぶという作業分担を繰り返して、この土魔法で掘り出せる分はほとんど採掘し終わった感じだ。


 確かに、地面のさらに下の方に、金属のトゲトゲしい感じを受けるんだけど、これ以上は本格的な銀鉱山とかにするつもりが無いと、掘り出しにくいようだ。


 そして、冒険者というより、鉱山労働者という作業から解放され、2日ほど休んでからルブロンダルの王都に向かった。

 今回はゲートの部品も持っていかないとならないし、さすがにドラゴンのカバンにも入らないという事で、ガジェットに背負ってもらって持ち込む事にする。


 一番大きな部品は、転送ゲートの台になるプラットホーム。一枚岩になるように土魔法で固めた丸い板状の石に、溝を掘って銀を流し込んで文様を描いてある。それが直径6メートル。バラバラにならないように、4カ所を金具ではめ込んであるけど、2階建ての建物の屋根ぐらいまで高くそびえているのを見上げるのは圧巻だ。


 王城へ向けて街の中を移動する時も、周りから注目され、子供はついて歩いてはしゃいでいる。気分はサーカスの宣伝のための練り歩き。紙吹雪やビラでもまいて音楽ならすか? とか開き直ってみたいなぁとか妄想してた。


 けっこう疲れる距離を歩き、城壁の門の所に到着したが、門をくぐる事はできそうもなかった。しっかりとした作りで、けっこうな高さはあるんだけど、6メートルの円盤がくぐるのは無理だった。そこで、どうせ門の外のどこかに設置する予定なので、今は門の外の城壁の壁に立てかけておく事にした。一応、門番に見ていてくれと言っておいたが、誰がどうやって持っていくんだって言われたなぁ。


 そして、王都の謁見は、前回と同じ、20人は余裕で入れる会議室のような部屋だった。


 そこで、ワズムルで起こった、砂漠からの昆虫人による襲撃事件を説明。一通り説明してから、エイプリル編集による映像で見せ、ルーノス伯領ガッスの街とエンデ伯領バルカの街をつなぐゲートの実験も見せて説明した。


 会議室の中では、さっそく、持ってきたお試しセットのゲートをどこに置くかで議論になった。


 王都に置く方は、城の城壁の中に置くのは愚作として、できれば王都の街の中、城から一番離れた場所に置く方がいいという話でまとまったが、片割れをどの領地に置くのか、という話でもめた。


 一番遠い場所にある領地に置くという案や、丁度中間に置いて便利を計るという案、一番近い領地に置いて、城の安全を図るという案などが出てきた。


 どこに置くのが得策かという俺の意見を聞きたいと言われたので、どうせ、同じ物をこれから作っていくのだから、将来的に見て便利で安全という構図になるようにと意見してみた。あとは、遅かれ早かれ設置される事になるんだから、国王陛下の一言で片づけた方がいいっていう意見も添えた。


 他の重臣も俺の意見には頷いていたから、それで問題なさそうだ。


 そして鶴の一声、じゃなく、国王陛下の一言でルミス伯領の領主の街に置く事が決まった。


 始めて聞く名前だなぁとか思っていたら、俺が始めて降りたって、レイミーと会ったあの街が所属する領地だった。あの街から、領主の街までは、歩いて朝から夕方でたどり着けるらしい。


 事が決まれば、後は動くだけ。

 ルミス伯領出身の大臣が一人いたので、その人に同行してもらう事にして、ゲートの横に置く通信機を一時的に陛下の元に置き、ついでに書状を用意してもらった。

 これで、ルミス伯との会談もスムーズに行くはず。


 王都側のゲートは街の外壁のすぐ外にある、兵が使う広場に置く事になった。そこへ大臣ともども皆で移動して、ジェイ、ファイエー、ガジェットにゲートの設置を任せる事にした。

 俺は、ここに帰ってくる時のための、転移呪文の目印を設置してから、レイミーとともに小型輸送艇に向かった。


 そして、ルミス伯領ターロウの街の近くで降りて、街の直ぐ近くの広場に転移呪文用の目印を設置。すぐにレイミーと2人でジェイたちのいる場所に転移で戻った。


 ゲートの設置自体は、プラットホームを置くだけって事だから、ほとんどガジェットに任せて終わっていた。


 直ぐにルミス伯に会おうという事で、片割れのプラットホームを抱えたガジェットを中心に、俺の呪文で全員一緒に転移した。


 一瞬でルミス伯領についた事に驚き、目を見開いてきょろきょろしている大臣をなだめ、ターロウの街に入っていく。

 そこからは大臣の案内。

 本当にターロウの街かどうかを確認するため、いろいろ寄り道する大臣を根気よく待ちながら、領主の館に到着。ここの領主の館は街の中にあって、とくに外壁とかは作っていないようだ。


 領主の館の門番をしていた兵士に、大臣が身分を示し、国王陛下からの書状を渡して、すぐにルミス伯との面談希望を告げると、かなりあっさりと応接室へと通された。


 俺たちへの武装解除の指示もなかった。やっぱ、王城に務める大臣の役職の力かねぇ。


 ルミス伯は年配の女性で、ちょっとだけふっくら気味の人の良いおばさんって感じだった。なんでも、旦那が王都へ向かう途中にモンスターに襲われて亡くなり、その後を継いで領主となったそうだ。本来なら別の爵位を持つ者にとって代わられるはずだったけど、旦那が国王陛下と約束を取り付けていて、婦人が爵位を継ぐという異例の待遇を受けたそうだ。


 実は、この婦人は国王陛下の叔母に当たるため、そういう無理もできたらしいけどね。


 ルミス伯と大臣はけっこう顔なじみで、王城でも同郷のよしみで、よく話をしていたそうだ。


 そして、応接室で通信機を取り出し、国王陛下と直接話をさせて、ゲート設置の許可と、管理のための人員を割く事を了承してもらった。


 さっそくゲートの設置に取りかかる。置くだけだから直ぐにでも終わるんだけど、周りへの告知を今日行う事にして、明日の昼に開通式を行う事になった。

 どうせならついでに、ってことで、周りに柵や後から屋根とか作りやすいように、土台になる基礎を作ったりした。


 その後はルミス伯の私兵に、いつもの魔法授業。そのうち王都で習う事にはなっていたけれど、順番待ちでまだ習っていなかったそうだ。

 さらに、ポーション製作装置を領主の館に一つと、街にいる医者に一つを渡すように頼んだ。この街の医者も治療魔法を唱えられればいいんだけどね。とりあえず教本は渡すことにする。


 ちなみに、ここの兵士は、治療魔法を起動できた者はいなかった。街の医者の方に期待だね。


 夕方になってからは領主の館で大臣ともども夕食に招かれ、急な訪問なのにけっこうな食事を用意してもらった。ガジェットの分まで用意されてたのは、ちょっとだけ困ったけどね。


 そして次の日。街の商人や多くの野次馬が、なにが始まるのか判ってはいないけど、なんかあるらしいって理由でけっこう集まってた。


 ルブロンダルの王都から通信が入り、ゲートの横に設置したこちら側の通信機とで会話を始める。


 「これでゲートとやらが動くのだな?」


 通信機の向こうから国王の声が響く。あんた、何、こんな現場まで出てきてるの?


 「国王陛下? そこは、確か、街の外壁の外でしたよね?」


 「うむ。直ぐ近くに外壁の門もあるな。そしてこのゲートが、新たな街の門にもなるわけだな?」


 そう言って、通信機の画像から消えた。なにやってるの?


 と、思ったら、こちらの受け手側プラットホームに魔法の反応があり、そして国王陛下が現れた。


 なにやってるの!


 「おお! ここは確かにターロウの街! すばらしい!」


 順番滅茶苦茶! まずはテストしてからでしょう。ルブロンダルの国王ってもっと、落ち着いた人じゃなかったけ?


 「陛下? 陛下ってそんな人でしたっけ?」


 「? 何を言っているのか判らんが、どういう意味だね?」


 「いえ、アキラ殿の言うとおりですよ。

 アキラ殿、今でこそ少しは落ち着いてきてはいるんですが、イクンシロンは昔から一人で走り出してしまう子供でした。それこそ、周りも見ないで。おかげで、周りの者がいつもハラハラしたものです。」


 「叔母上? そうでしたかな?」


 その後、少しだけイクンシロン王の子供時代の失敗談の話になった。子供時代を知っている親戚のおばちゃんには、いくつになっても敵わないみたいだねぇ。


 「まぁまぁ、叔母上。これより、ルブロンダルへと招待させて頂きますので。」


 そう言い、今度はターロウの送り側プラットホームに。ルミス伯の手を取りながら乗り込み、スイッチを入れてしまった。


 もういいや、好きにして。


 こちらから消えて、通信機の向こうでどよめきが起こるのが聞こえた。


 どうやら無事についたようだ。一安心。


 通信機に、ゲートの安全確認をする専用の兵士を置いてもらうように言い、こちらもまず2人に通信と安全確認に専念してもらうよう頼み、こちらに来ていた大臣と、ルミス伯の護衛、そして俺たちが乗り込み、ゲートを使って転移した。


 ルブロンダル側では、ほとんど祭り状態。


 「親方の所での、ゲート開通のお祝いを映像で見せたのは間違いだったか。」


 「すると、僕らはまた、料理と給仕係でしょうか。」


 げんなりする俺たちをよそに、バーベキューパーティーを派手にしたような宴会が、なし崩しで始まった。

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