第二十八章 晃と学園都市 構想
俺が王都から帰ってきてからはコンウッド伯の私兵は見なくなった。なんでも、領主の屋敷の立て直しと警備に忙しいそうだ。あの泣きながら逃げてった兵がどんな報告をしたのかは謎だけど、当分は来ないだろうと思う。ポーションが独占できない以上、ほとんど意味無いしね。
ポーションはとりあえず順調に作られてた。さっそく薬草が不足気味になったのは、いい傾向なのか、それとも悪い傾向なのか。
値段も同じ。これで、患者や買い置きしておくためのポーションを求める人は、自分の好みか、近場で買うとかするだろう。
ファイエーが引き籠もりしてるんで、その間はケルス先生の手伝いと、他のポーション製作者の様子見、森で薬草集めと、胡椒集めとで終始した。
薬草と胡椒は、傭兵が集まる酒場にしっかりとした常時依頼として張り紙してもらい、酒場のオヤジに胡椒買い取りの窓口になってもらった。酒場でも胡椒を使ってもらえるし、街の住人に売るのもOK,行商人に売るのもOK、っと言ったら喜んで引き受けてくれた。高すぎるマージンを取ってると、酒場としての信用もなくすよ、って言っておいたから、良心的価格で商いしてくれるだろう。
そんな毎日を10日程続けて、ファイエーから完成披露をしたいという申し出を受けた。
場所はケルス先生の所って事で、ブラックドラゴンのカバンに入れてホクホク顔でファイエーが歩いていたのが印象的だ。
「まずはぁコンロですぅ。」
耐火性の分厚い台の上に五徳までついている。五徳については小型輸送艇のキッチンシステムの、一番端にあった炎を使う料理用のコンロにあったのを引っぺがしてきたそうだ。
そのキッチンシステムを参考にして、レバーで火力調節できるようになってたのは、文化的に大丈夫かな?
水晶や銀のプレートは、直接炎とは関わらない位置に置いて、熱による劣化を防ぐ形にもなっていた。かなりの完成度。このまま商品化できるんじゃないの?
「そしてぇ、水道ですぅ。」
俺が水道って言ったせいでそうなったけど、水を引き込むパイプがつながっている訳じゃない。レバーを下ろすと後ろのタンク内に水が発生して、前につけた蛇口から出てくるという簡単な仕組み。一度タンクに受けて、それから出てくるって所にいい仕事が見られるね。
本来は診察室に欲しいけど、今は排水設備が無いのでコンロと共に炊事場に置かれる事になった。
「そしてぇ暖房ですぅ。」
出てきたのはほっそりとしたダルマストーブ。俺がイメージで書いて渡してあったもの、そのものだ。上にヤカンも置ける。
これも、コンロと同じような仕組みで、工夫はされているんだけど、俺としてはNGだった。
「ふふぇぇぇぇ? なぜぇですぅ?」
本来なら、バックに「ガーン!」となるんだと思うんだけど、ファイエーはそう言うのと縁無い感じだねぇ。
「なぜって、かなり熱くなるのに、ちょっと細すぎるよ。上に水の入ったヤカンを置くことも考えたら、もっと太くて、簡単には倒れないようにしておかないと怖いよ、火事とか火傷とか。」
この意見には皆も賛成、言われたファイエーもそうですねぇ、って納得していた。仕組みとしては完全に出来上がってたってことで、そこは褒めておいた。
冷房とか、扇風機は、今回は作って無いそうだ。なにしろ、やや寒くなってきた昨今、さらに涼しくなることを考えるのは嫌だったそうだ。うん、よくわかる。
「そしてぇ、これがぁぁぁ、離れたぁ所ぉ同士ぃでぇぇぇ話すぅぅ魔法のぉぉ道具ぅでぇすぅぅ。」
かなり話し方おかしいよ。
でも、俺の考えにかなり近い物になっているようだ。
一つの装置に6つの水晶を使っていて、3つは送る方と見る方の画像用、2つは送る方と聞く方の音声用、1つは通信用になっている。通信用の水晶2つに全く同じ文様を同じように刻んでおけば、遠距離でも魔法の力で共鳴して、同じ情報を共有することになるそうだ。
で、実験で、見事に顔を見ながら話をすることに成功した。
エイプリルに解析を頼んだら、もっとシンプルにならないかな? ファイエーの健闘を称えつつ、そんな失礼な事を考えちゃってた。で、聞いてみたら、シンプル化ではなく、大きな魔力用の水晶に、いくつもの小さな水晶に役割ごとの文様を刻んで仕事を分担する、複雑化による安定性を増した設計を提案されてしまった。将来的に多チャンネル化も視野に入れた設計だそうだ。
その設計図と、実物をいくつか、エイプリル自身に作ってもらうことにした。コンロや水道、安全設計のストーブも一緒に。水晶に魔力を込めることはできなくても、形だけを作るぐらいならエイプリルに任せた方が便利だしね。
で、次の日、エイプリルが作った諸々を見せたら、
「これをぉ作ったぁ方はぁぁ天才ですねぇぇぇ。」
と、通信機の設計図と実物を見比べながら言っていた。かなりへこんでいるのかも?
「実は魔法が使えないんで、ファイエーが一度作ってくれないと、なにもできなかったんだよね。ホント、ファイエーには感謝だよ。一度実物が出来上がってれば、工夫とかは得意なんだけどね。」
「そういうぅものぉなんですかぁぁ?」
「魔法力を注ぎ込むこともできないし、魔力の流れを感じることもできないしね。これからも、ファイエーには原理的な事をもっと開発してもらわなくちゃね。」
「ふぁぁぁ、わかりぃましたぁぁ。」
「それで、誰かと交信したかったんだっけ? どこにいる人?」
「ふぇ? そぉ、それはぁ・・・。あのぉ。」
「言いにくい人? だったら言わなくていいよ。
あ、そうだ、ファイエーの工房になってるヤツを動かしていいから、それで渡したい相手の所に行ってくるのもいいよ。」
「ふぇぇぇ、いいのですかぁぁ?」
「できれば空飛ぶ箱のことは秘密でね。」
「ふぁぁい、それはぁもうぅ。」
「あの箱の中で、空中に話しかければ行きたい所に行ってもらえるよ。そうだな、あの箱の中にエイプリルっていう人がいるつもりで話しかけるのがいいと思う。細かい場所の指定とかは、あの、陛下が来た時にレイミーと一緒に寝た小部屋に行ってもらえれば、外の様子を見せてもらえるから、そこであっちに行ってくれ、とか、あの山の手前だとか言ってくれれば判ってもらえると思う。」
「ふぁぁい、わかりましたぁ。」
「あと、ポーション製作装置とか、今回作ったのも渡して、気をつけながらって感じになるけど、使ってもらってもいいね。」
たぶん恐縮していると思われるファイエーを送り出し、飛んでいく小型輸送艇を見送った。一応、気の済むまで向こうにいていいとは言っておいたけど、わざわざ離れて暮らしているのだから、いろんな事情がありそうだ。知りたいことは知りたいけど、個人事情の詮索って行為はみっともないから、気にしないっていう外面を維持することにしたよ。
再びファイエーがいないということで、3人での近場の活動になった。ジェイは相変わらずケルス先生の手伝い。俺とレイミーは、薬草を育てるプランター作りを試したり、この街の鍛冶屋で金属材質の選別ができる可能性を育てたり、壺とかを作っている焼き物工房でガラス質の釉薬と言う物があるという話をしてまわった。
本来なら、鍛冶屋は鉄鉱石の取れる場所の近くや、燃料になる炭が取れる炭坑の近くとかにあった方が効率がいいはずだけど、山の中や森の中はモンスターがうろついていて、普通の生活もままならない。
同じように焼き物工房も粘土の取れる場所の近くがいいはず。だけど、現場では仕事に集中できないと言うこともあり、街の壁の中で細々とやっている。そのせいで、新しいことをやろうとしても材料がない。試行錯誤をするための余裕もない。余裕もないから、傭兵雇って護衛してもらいながら研究するなんてのもできない。
現場に村を作って、簡易でも外壁を作ってその中でというのも、細々とではあるようだけど、いくつか存在しているらしい。だけど、焼き物なんかは出来上がった製品を街へと運ぶ間に壊れたりしてしまうため、街で作った方がいいという意見が強い。それも研究が進まない一因になっているようだ。
俺の尻に大ダメージを与えたあの街道と馬車なら納得だ。しかも、たまにモンスターがでるとなったら、なおさらだねぇ。
これは、一括して研究する機関を立ち上げないと、いつまで経っても物作りがレベルアップしないかも知れない。
たとえ、俺が陶器作りを教えたとしても、教えたその時点で止まったまま、ってこともありそうだ。
俺の世界を思い出してみると、そういう研究は、企業の製品開発と、大学の研究室ってのが基本だったと思う。
やっぱり、学園都市みたいな形をとって、研究者に資金と研究場所を提供する必要があるのかも。一般の学生を募って、基礎的な勉強を授業料を取って教え、儲けになる部分を研究に回すってのが基本かな。
これももちろん、人材確保という大きなハードルが上がっただけって事だけどね。
冒険者ギルド、学園都市、研究開発機関、と考えて、それを行うには、どこの国にも属さない大きな土地が必要。しかも、各王国からも来やすく、できれば戦争、戦略的には兵を向ける価値の低い所。攻めるに難く護るに易し、という土地柄とか、そんな都合のいい場所なんてあるかなぁ。
あった。
エイプリルに、その我が儘条件に合う場所を検索してもらったら、丁度いい盆地になってる土地があるそうだ。今は森になっていて、かなりの危険モンスターが生息しているけど、そのせいで人はいないし、これから何かをするには打って付けな場所だった。
後の懸念は、周辺国家に不可侵の条約を結んでもらって、出来上がったら人材や生徒やらを募らないとならないための条件だ。
それはまぁ、出来上がってからでも間に合うけど、作る前に、周辺の国に許可というか、挨拶というか、後で文句が出ないようにしなければならない。
出来上がった後に、その場所は我が国の一部だから、その学園は我が国の物だ、なんて言われないために、手をつける前にしっかり約束を取っておかないとね。
ルブロンダルとシャシルの両国は、まぁ、何とかなりそうだけど、シャシル王国の東、ルブロンダルの南東に位置するワズムルという王国は、どんな感じなのかまるで判らない。
学園都市、およびギルド本部設立のため、ワズムルに行って、できれば国王と親交を持たねばなるまい。まぁ、国王じゃなく、有力商人でも一般人でもいいけどね。とにかく、その国を詳しく知らねばなるまい。
と言うことで、エイプリルに、通信機7対、14個、そして、3カ国周辺の詳しい地図、できれば立体のを5つ作ってもらうように頼んだ。
通信機は王国同士をつなぐホットラインにしてもらって、俺たちともつながるようにした。3カ国目のワズムル王国にも置くことを念頭に、各国に3個ずつ、地図をそれぞれ1個ずつ配って、連絡と広域的な意識を持ってもらおう。
おっと、国王の城を訪ねる前に、手紙で内容とかかる時間とかを知らせておかないと行けないんだったね。ルブロンダルの方はケルス先生宅を受け取り住所に、シャシルの方は、カイエルさんちを使わせてもらおう。
手紙を出すだけだからと、俺だけでシャシル王国のカイエルさんの領地、勝手知ったるカイエルさんちに行き、顔なじみになった使用人さんに手紙のことを頼み、1週間後にまた顔を出すと言うことで、金貨2枚を渡しておいた。
カイエルさんの屋敷から帰って、とりあえずの合流場所、ケルス先生宅に到着。
最近は訪れる患者も減ったが、それでも人が途切れることは無いと言う程度には忙しい。ポーション熱も冷めた感じで、どうでもいいのに訪れるという人もいなくなった。
俺がいる時はケルス先生が休憩を取るというシフトに自然となり、休憩中は俺の診察をじっくり見ながらおやつをつまんでいたりする。
なんでも、問診の仕方が勉強になるそうだ。メモ代わりに書いている、自称カルテも、今までには無い発想だそうだ。
回復魔法をかけると、相手の肉体の状況がかなり感じられるようになる。その時に、魔法効果を治したい所に集中させるとしっかり治療できるのだけど、治療を行う前の状態で全身を調べて、潜在的な病気や、間接的な不具合を知ることもできた。
腕が痺れるというのを調べた時、心臓の血管が腫れていたってのも見つけられ、治療することができた。
この魔法かなり凄いね。まさしく魔法。
そうして、治療した患者の、名前、男か女か、年齢、訴えた症状、治療した箇所、日付、時間、などを一つのフォーマットで書き残して行くことで、後々に役立てるって話には、これを医者としての義務にしようって事まで言ってきた。そうした方がいいよねぇ。
蛇足だけど、体調不良を訴えてくる患者の中にはビタミン不足も多くいて、治療魔法じゃ一時的な効果しかなかった。聞くと、毎日2食とも同じ物を食べていて、かなり飽き飽きだけど仕方ないとか言っていた。
人間とは、肉だけを食べ続けていても病気になるし、野菜だけを食べ続けてても病気になる。肉類も野菜類もバランス良く食べないとだめだと言い含めていたのは、ケルス先生も感心して聞いていた。
そして診療時間が終わると、俺、レイミー、ジェイの3人で小型輸送艇に帰る。気分は通いの勤務医だね。ジェイだけはポーション製作装置の魔力電池って気分だろう。なんか、絞り尽くされたって顔してるしね。レイミーはフランと一緒に、洗い物や薬草の準備、時たまジェイの交代要員としていろいろやってた。レイミーがフランから聞いた話によると、最近看取る患者がほとんど居なくなったので、気分が落ち込むことも無くなって嬉しい、と言っていたそうだ。
死亡率高いのねぇ。ポーションは生き残り率をかなり高めたんだね。ファイエーには感謝だね。皆で感謝の踊りでも踊ろうか? と言ったら、2人とも本気で悩んでた。
小型輸送艇に着いたら、その向こうにもう一台の小型輸送艇があった。どうやらファイエーが帰ってきたようだ。
いつもの方に乗り込んだら、ソファーに座っていたファイエーが迎えてくれた。
でも、ちょっと元気がない? 目がなんとなく赤いような。
気にしないで普通に接する?
気にかけて訳を聞く?
する? しない? それが問題だ。
ヘタレな俺だから、答えは決まってた。訳は聞かずにスルーしよう。
「おかえり。食事は? まだなら一緒に食べよう。」
お帰りなさい。ご飯にする? お風呂にする? とは、さすがに言えなかった。やっぱヘタレだね。
「ふぁぁぁ、ただいまですぅぅ。おなかぁ空きましたねぇぇぇ。」
にっこり笑ってそう言った。この展開が正解なのか、不正解なのか、俺にはきっと、永遠に判らないんだろうな。
久しぶりの4人の食事。
ジェイもレイミーも何となく判っているようで、余計な突っ込みはしないで、こちらの状況だけを話しながら食事を楽しんだ。
そして食後のお茶の時間には、俺の学園都市計画を披露。研究、教育、そして傭兵たちのまとめを一カ所でやっちゃおうという計画は、ジェイたちには話してあったけど、改めて関心してくれた。
壁のモニターに地図を出し、そして盆地になっている場所を示した。
広さは、大きな街3つ分ぐらい。森になっているから、その木を使って外壁を作り、ほぼ10分の1ほどを使って下水処理施設も作る予定。
平民でも貴族でも分け隔て無く受け入れ、一般教養の知識を教え、その授業料でもって運営、魔法から建築技術、製鉄技術、裁縫、料理、農法、医療、など、人が生きていくために必要なものはなんでも研究させ、その研究成果を教えるという専門教育も有料で行う。
そして俺の傭兵をまとめる組織の中心もそこに作り、管理、運営していく。
と、俺の夢想を熱く語った。
「なんか、かなり壮大ですけど、やればできるかな、って感じが少しします。」
やっぱ、少し、なんだねぇ。
「まぁ、言い出した俺にとっても、まだ、少し、っていう印象だしね。」
「あれ? そうなんですか?」
「なにしろ、教えるのに適した人材がいない。まぁ、場所の確保とかぐらいなら、俺たちでやれば50日ぐらいあれば平らにできるとは思うけどね。」
「妙に具体的な数字ですね。でも、僕もそんなものだと思います。」
「区画を切って、きちんと計画的に建物の位置を決めておけば、初めから大きな建物は必要無いしね。ぶっちゃけ、あばら屋でもかまわないと思ってる。」
「必要になってから、後から建てればいい訳ですね。一番初めの街作りから計画できるのはいい感じですよね。」
「でも、土をほじくり返しても、木を引っこ抜いても、人に教えることができる人材は作れないんだよねぇ。」
「そ、そうですねぇ。」
笑ってる。3人とも。
「研究してもらって、凄い成果を出せる人でも、人に教えることは苦手って人も多いしね。教える人の持ってる知識も大事。本人は本当だと思っている知識が、単なる迷信でしか無かった、なんて事も多く出てくると思うよ。」
「ああ、ありそうですね。」
「ちゃんとした知識を教える、っていう事をしないと、学ぶ場所としての信用が落ちちゃうしね。」
「それに対しては、どうする予定なんですか?」
「教える知識が決まったら。それに対する検証をしていくってことしかないね。
実際に現場に行ってもらって確認するとか、関係者に見せてもらうとか。それができた物を検証済み、できなかった物を未検証って、しっかり書いておくぐらいだね。」
「まさか、知識に信用度がつくとは思いませんでしたね。」
「たとえば、2つの国があって、大昔、戦争したという歴史があった時、2つの国で言い伝えられている歴史は違う物になっているだろうね。いわく、相手の国が悪い、って。
当時の人が、本当は自分たちが悪かった、って思っていても、言い伝える場合は相手が悪いってなるだろうし、初めは自分たちが悪いって伝えても、伝え続けるうちに誰かが相手が悪いと言っちゃったら、それ以後は相手が悪いとしか伝わらないしね。」
「なんとなく、そう思っていましたが、国の歴史でも信用できないんですね。
でも、そういう昔の事はどう検証します?」
「検証しないで、両方の言い分をしっかり教えるってだけだね。
もし、同じ時期の、別の歴史があれば、それも教えるようにするつもり。たとえば、戦争をした2つの国以外の国の歴史とかね。」
「喧嘩の原因を本人たちから聞いて、訳がわからない時は、それを見ていた人に聞くって事ですね。」
「うん、おおよそ、そんなもん。そして喧嘩があっても、それを裁くとかじゃなく、誰と誰が喧嘩してそれぞれの言い分はこうだった、って書いておくだけだけどね。そこに、別の人の目撃談も書くってこともあるわけだ。」
「嘘をついた方は赤っ恥ですね。」
「うん。でも、そういう伝わり方したってのも、歴史の一つだからね。それを教わって、嘘をつくのは赤っ恥って感じてもらうのもいい勉強だと思うよ。」
「そのいい勉強を提供しようという学園なんですね。」
「歴史に限った事じゃないけどね。」
「たとえば?」
「計算の勉強をしてもらって、買い物だけじゃなく、物の管理や調整が楽にできるようになってもらったり、文章を書くと言うことを勉強してもらって、本を書くとか、書物の管理とかもできるようになったらいいね。それに、この世界の事を研究する学問とか、簡単な絵を描くとか、笛を吹くくらいは一般教養として教えときたいね。」
「えっと、この世界の事を研究する学問ってのが、ちょっと判りませんでした。」
「たとえば、火を燃やしたら、なぜ、煙は上に上るんだろう? って事を理屈までしっかり説明できるようにするとか。物を持ち上げて、手を放したら、なぜ物は下に落ちるんだろう? って疑問に答えを出す学問だね。」
あ、固まった。目もまん丸。今まで疑問にも思ってなかったんだろうねぇ。俺なんかは、疑問に思う前に答えを教えられてたけどね。
「えっと、アキラ? それで、その答えは?」
どうしようかな。言えば簡単に説明できちゃうけど、そう言う考え方もするようになってもらおうかな。
「しばらく考えて欲しいな。そのうち答えは言うつもりだけど、なぜ? って疑問を持つことから始まる学問だからね。」
「本当に答えがあるんですか?」
あ、これは、俺も答えを知らないと思ってる? それとも答えを引き出そうとしてるのかな。
「煙が何故上に上がるかだけど、これは、雨が何故降るのか?ってことにかかっているんだ。
物が下に落ちるって方は、あまりかかっていないけど、銅貨1枚とロングソードを、同じ高さで同時に手を放した時のことを想像してごらん。どうなる? あと、ほんの少しだけかかっているけど磁石のことを思い出してみて。」
そのあと、食い下がるジェイたちから逃げるように後片づけを済ませ、周辺国の許可を取るため、ワズムル国に行くこと、その前に通信機をルブロンダルとシャシルに届けることを話してお開きにした。
ちなみに、ジェイは雨が降るのは自然の魔法だと思っていたそうだ。
国王陛下からの返事の手紙があり、皆で登城。通信機や地図は、国王としては大変喜ばしい、と言っていたが、個人的にはいつでもどこでも暖かいお茶が飲める水道とコンロが便利と言っていた。たしかに。
ストーブは、城の、さらに王族が使う部屋だと、広い石造りなので、暖めるのには力不足じゃないのか? という話がでた。でも、上にヤカンを乗せて、ガンガンお湯を沸かせば、暖炉よりは暖まるかも、というのと、乾燥するから、湯気で湿気を保っておく必要も一応説明しておいた。
通信機は、専用の部屋に専用の文官を置くことを推奨、お互いに慣れたら、必要なくても定期的に文官同士で挨拶しておく、というのもいいかもと勧めておいた。
全て、設計図付きで渡したので、城の魔法師団でも再現できるだろう。特にコンロと水道はそこそこの力でできるはずだから、騎士たちの標準装備になるかも知れない。
最後に、世間話的に俺の学園都市の構想を話した。場所も詳しい地図で示して、確かに戦略的にも意味のない場所だと言うことで、あっさり許可が下りた。
そのうちでいいから、不可侵条約を結んでもらい、お試しで留学生を送って欲しいってのも言っておいた。
実際は受け入れ準備ができてからってことになるけど、しっかり言質をとっておく事が大事だね。
ルブロンダルとシャシルの両方で全く同じ話をして、全く同じ反応だったのは、
「2度手間みたいでしたねぇ。」
というジェイの感想で、余計に疲れたとだけ言っておく。
そして俺たちは、ワズムル王国へと飛んだ。




