第二章 晃と天使 依頼
俺が先ずした事は、エイプリルから行動の提案を受け取り、その中で有効そうなものを実行するように命令することだった。
命令されなければ行動できない武装補給艦ゲンブには、軍隊自体も、自国も、敵国さえも無くなっている事が確実で、行動する目的自体が存在しなかった。
登録されている星図も大きく変わり、流された時間経過も正確に測れないため、自分の位置さえも判らず、どこに進むのかという事さえできずにいた。
そこで俺は、ゲンブが持っている星図と今の位置から観測できる星との関連を推測させ、時間経過と現在位置を割り出すように[命令]した。太陽系地球も見つかるかな? という甘い期待も含めて。
結局、誤差20パーセントという、大雑把にこの辺? というぐらいの星図の修正が出来ただけだった。なにしろ、色が変わっているとか、位置が変わっているのも多く、それぞれの星が別の変化率で変わっているため、一律の変化でくくれない状態だった。
誤差が大きく、時間の経過も大雑把になって、たぶんたっぷり時間が流れた、というぐらいしか言えないという事をコンピューターから聞かされた時は、もう、詳しく調べるのは諦めようと思った。所詮、世の中なんてこんなものだよなぁ。
一応、ゲンブが所属していた星系の位置も大雑把にわかったので、たぶんその辺? っていう位置に移動するように命令した。
その間俺は、ゲンブに積まれていた配給品の制服や下着をあさり、元艦長の部屋を自分用にカスタマイズし、レトルトを解凍しただけの食事に舌鼓を打っていた。けっこういい味出してる、これも未来技術か? 数百人が数年分の物資だから、一人ならけっこう無茶できる量はあった。
コンピューター[エイプリル]に説明されながら武装補給艦ゲンブの中を歩き回り、構造や戦力、仕組みや配置とかを覚えていく。
先ず構造は、中心、というより、重心の軸を竜骨として、竜骨に他のブロックをくっつけているつくりになっている。他のブロックとはほとんどが格納庫で、その周りに武装ブロック、重力制御ブロック、生活ブロック、システムブロックが、バランスを考えて配置されている。
武装ブロックには、表に出る砲台と、レーダーや目視攻撃のための望遠カメラ、実体弾と高熱プラズマ砲弾がストックされるエリアが、それぞれのブロックごとに存在した。
ちなみに、元々は自動戦闘禁止の規定で、作業用ロボットが入れない作りになっており、作業も人間が手で行わないと弾一発撃てない作りになっているモノなのだが、修理の際に完全自動化できる様にしてしまったらしい。
「なんで自動戦闘禁止に? やっぱ、戦いは人間がするものだ、とか?」
『できれば人間が直接戦闘に参加するのは、効率的にも、資源的にも避けた方がいいのですが、戦闘時における電子戦では、電子回路や人工頭脳を乗っ取るタイプのウィルスプログラムが、あらゆる形で放射されます。そのため、自律コンピューターなどは、敵の傀儡になる可能性が高いため、軍規により自動戦闘禁止が設定されました。』
「もしかしたら、自分に牙を向く可能性が眠っている武器を、自分のそばに置いて使用する、ってことはしたくないって事かぁ。まぁ判らない話じゃないな。でも、そんなに乗っ取りウィルスってのは凄いのか?」
『わが軍の新鋭戦艦5隻が、進水式の最中に同時に反乱、周りにいた戦艦に攻撃を始めた事件がありました。他にも、戦闘中に味方に砲撃を始めた艦は、艦内の気圧をゼロにして乗員を抹殺、内部から停止させられないようにしていた、という事件もありました。』
「なるほど、すべてを手動にしたくなる気持ちもわかるな。」
『わが軍のウィルスは、敵首都の管理コンピューターまで侵入を果し、わが軍の侵攻に合わせて首都機能及び地上の軍施設のライフラインを停止させたという実績もあります。』
「どっちもどっち、だったかぁ。」
がっくりと力が抜ける気がした。戦争してたんだねぇ。
推進システムというか、船を動かす仕組みは、人工の重力発生装置みたいなもので行うようだ。これは、俺の理解がほとんど着いていけず、なんとなくでしか判らなかった。
まぁ、宇宙戦艦の動力だな。ってところで納得したことにした。
食料や衣料品、薬関係はそのまま残っていたけど、修理用物品や交換用の部品などは、船の修理のためにかなり使ってしまったようだ。だけど、修理が終わって途方に暮れていた時間が長く、その間、周辺の岩やガスを取り込んで工作用の機械を作り、工作用の機械で、使ってしまった交換部品等を再現できるようにもなったそうだ。
「自給自足だねぇ。他の船もそういうのを持てば、補給もしなくていいんじゃないの?」
『工作用の機械を置くスペースも限られており、作業効率も専門の工場の千分の1程度ですので、実用的とはいえませんでした。』
「有り余る時間があったからこその成果ってわけだね。」
そんなやり取りをしながら、ゲンブの故郷とも言える星系に進んでいった。
船が超光速移動するってときは、ブリッジに居座り、船外風景をモニターで見ていたが、特に衝撃とかもなく、見えている星の海も変わりなく、拍子抜けする感じで、それ以来艦の航行には興味がなくなった。
ブリッジの物が3重に見えたり、服着てるのに裸に見えたり、恐竜に見送られたりとかが無かったのは残念すぎる。
そして、ひと月ほど経ったある日、それは見つかった。
戦略的移動要塞ポーリー の残骸。
惑星の軌道には囚われず、独自の軌道で太陽の周りを回っている、小さな惑星ともいえる機械でできた宇宙要塞で、形は機械を詰め込んだ人工の月を作り、その上下を叩き壊し、残った破片だけを浮かべている、っていう無残な状態だった。しかも、表面には砂漠なのかな、って感じに砂状のモノが覆っていた。
「こういうのがあるってことは、お前の故郷で間違いなさそうだな。」
ブリッジの艦長用のシートに座り、一番大きなパネルに映し出された映像を眺めながら聞いた。
『外部的な機能は停止しているようです。熱源反応なし。太陽からの輻射熱のみの反応です。電磁波の発信も太陽からの輻射以外は観測されません。』
「何千万年も前の物だしなぁ。ここまで形が残っていただけでも奇跡なんだろうな。」
『使用できる物資があるかの調査を提案します。』
「あると思う?」
『経年劣化により、使用できる可能性はほとんど無いと推察されます。』
無いのに調査したいという。コンピューターでも望郷の念でもあるのかな、とか考えてみる。
「偵察用の戦闘機ってあったよね。それに作業用ロボットを積んで、遠距離操作で調べてくれ。」
なにか行動させる場合は命令形で、と言われたことを思い出して[命令]する。
『了解しました。念のため、補助の通信機も持たせて、ファイター01、ファイター02を遠隔操作で発進させます。作業用ロボットはそれぞれに2体づつ積み込みます。』
「時間は?」
『発進に45分。現地到着に40分。調査に6時間を予定しています。』
やっぱ、何かを期待してるんだろうな。
「必要と思ったら、もっと時間をかけてもいい。後は任せたよ。何かあったら呼んでくれ。」
椅子から立ち上がりブリッジを後にする。ここは、好きなだけやらせてあげよう。宇宙に浮かぶ移動要塞がこの有様だと、本星の状況はもっとやばいかも知れないしね。これが、心の準備になるのかも。
訓練室で汗を流し、夕食を喰って、ベッドで爆睡。ここの所、同じような生活サイクルが続いている。降りられる星があったら、未知の惑星探査とかしないと頭の中身も鈍りそうだ。
そして調査開始から12時間ぐらい経ったあと、気になってブリッジを訪ねてみた。実際はどの場所にいても[エイプリル]に聞けばいいだけなんだが、船の業務に関することはブリッジで、というのが俺の拘りになっている。
「調査は?」
『現在、残存ブロックの1.2パーセントを調査、移動しました。』
「何かわかったことは?」
『施設内の物質は、構造材を除いて劣化が著しく、1G気圧をかけた場合に破裂する可能性がありますので、居住は不可能と推察されます。記録媒体も本体の物質の劣化から情報の蓄積そのものが不可能になっており、記録を取り出すことができませんでした。』
「まぁ、当然だよな。調査現場の映像とかは見られる?」
『はい、現在の状況を正面モニターに映します。』
通路というか、ほとんどトンネルの道路と言う感じの広い空間が映し出された。横には別系統の照明を背負った作業ロボットが動いており、どのくらいの大きさかの予想ができた。
「調べようにも、調べる物自体が何も無いって感じだね。この要塞のマップとかは持ってる?」
『いえ、要塞の内部構造自体は、必要な情報では無かったので取得していませんでした。取得していたのは、位置情報、コンタクトコード、接触規定のみです。』
「宇宙戦艦に要塞の内部マップは必要ないよねぇ。それで、これ以上調べる必要はあるのかな?」
『この先も、似たような状態だと予想され、利用可能な物資が存在する可能性は、ほぼ無いと推測されます。』
「そっか、じゃあ諦めよう。調査隊の回収を・・・」
時間をかけて、結局無いってのを再確認するだけ、ってのも辛いかなと、諦めさせようとした時に変化があった。
『動態反応。』
「えっ?」
『前方250に発熱体を確認。動いています。』
「真空の宇宙空間に浮かぶ廃墟に、熱を持って動くモノ? なんか、悪い予感しかしないんだけど・・・」
強酸の体液を持ち、人間に幼生体を産み付ける宇宙の異邦人さん、とか、戦うことしか考えないロボット兵器さん、とか、数千万年の時間を根性で生き残った幽霊さん、とかを想像してしまった。あれ? 全部イヤだけど、なんか見てみたい気もするなぁ。
『02-01及び02-02を前進させます。01-01及び01-02は現在位置から映像を発信させます。』
ブリッジの前方位置に、4つの大きなモニターパネルが並んで配置され、それぞれに別視点の映像が流れた。
先行した作業ロボットの映像が、分割され、通常目視映像、温度差の視覚映像、物の輪郭を強調した映像、デジタル補正映像に分かれて映し出された。補正映像が一番見やすい。
「サーモの映像だと、まるで人間みたいに見えるな。それも裸に近い感じだ。周りの状況は? 空気とかある?」
『ほぼ真空と言っていい状態です。空中の気温は測れませんが、床の温度はマイナス100度前後です。』
「あっ、歩いて近づいてきてる? なんだあれ、翼?」
『翼を除いた身長は、約3メートルと推定されます。身体は発光しているようです。無重力状態のはずですが、まるで重力があるかのように歩いているように見えます。』
「まるで、天使だ・・・」
俺がそうつぶやいた時、その天使が作業ロボットのレンズを覗き込んだような動きを見せた。身体が発光しているため、詳しい動きはよくわからなかった。
そして突然、映像が途絶えた。モニターはブラックアウトして、何も映していない。
理由もわからずに、4つのモニターすべてが何も映さなくなった。
「やばいのか? 作業ロボットの反応は?」
『反応ありません。ファイター01及び02は反応がありますが、情報伝達をカット。破棄します。』
「何があったんだ? エイプリル、もう一度、あの天使の映像を出せるか?」
『はい、映像を再生します。』
同じモニターに、さっきまでの通路の映像が流れる。そして、一つの映像が先行して消えた。動きはあってる。ついさっき見たとおりの動きだった。でも、天使は映っていなかった。
「天使の映像は? 俺の見間違えだったのか?」
嫌な汗をにじみ出しながら聞く。マジ、ヤバイモノを見ちゃったのかも。
『私にも、光り輝く天使が現れ、20-01のカメラレンズを覗き込んだという認識は覚えています。しかし、映像データにその姿だけが存在しません。認識記憶と実行記憶とが一致しません。』
「あれ? 大丈夫か? 不可解なモノを見て、論理矛盾とか起こしてフリーズしたりしない?」
『宇宙の戦艦のコンピュータですので、あらゆる物理現象をすべて論理認識しているわけではない。という基本設計で作られ、状況から新しい法則を推論するのが基本的な仕事になります。なので、理解不能は、理解不能として研究材料になるという認識を持っています。』
「けっこう融通が利くんだね。だからこそ、人間とコミュニケーションできるってことかな。やっぱ凄いな。で、さっきのあれは何だと推論する?」
『神話の中の天使という存在に酷似しています。神話の中の表現を引用するのなら、もっと大きく、絶対的な力を持つはずですので、同一のモノであるかは確定できません。推論するのなら、要塞内という限定空間にいたため、その存在を小さくしていた可能性があります。』
「そう考えるよねぇ。だとしたら、ここもヤバイって考えられちゃうよね。」
『他の可能性としては天使の姿に酷似した、機械、宇宙生物、または映像的に天使に見えるように偽装した何か。と推論されます。』
「そっちの方がまだまし、って状況なのが怖い所だね・・・」
言い終わらないうちに、突然目の前が光った。
光ったのではなく、光り輝く身体を持つ天使型のなにかが、何の予兆も無くいきなり目の前に現れたんだと認識した時には、腕を前に伸ばした天使に頭を掴まれていた。
俺も焦ったが、エイプリルもかなり焦ったようだ。ブリッジの数箇所だけが非常灯に切り替わり、ブザーがぶつぶつと細切れに鳴り響く。
通路から作業用ロボットが飛び込んできて、アームを伸ばして天使に体当たりしようとして文字通り飛び掛ってきた。
でも、空中の途中で慣性の法則を無視したように止まり、そのあと無造作に床に落ちて動かなくなった。
やばい。頭を掴まれただけなのに、体全部が動かない。なんだこれ。本物の天使なのか? 大天使とかは羽が12枚あるとか言われているけど、この天使は1対2枚の羽だけみたいだから階級としては下なんだろうけど、それでも何の抵抗もできない。
「たしかに階級は下だけどな。」
しゃべった! いや、頭に響いた。なんだこれ、テレパシー?
「その認識で間違いはない。我自体の認識もほぼ間違いは無いな。」
その言葉を頭に響かせながら、手を離してくれた。ようやく天使の全体像が見られるかと思ったけど、光っていて輪郭とかもぼやけている。存在感も絶対的に相手が上だと感じられて、なんかおそれ多い、って気持ちが沸いてくる。
本当に天使みたいだ。もう、それは疑いようが無いって感じ。本人もそう言ってるし。でも、本物の天使があんな所でなにを? なんで俺のところに? もしかして俺を元の世界に戻してくれるとか?
「東島晃にとっては残念だが、時間に関する干渉は我の力を大きく超えている。我には東島晃を元の世界、元の時代に移動されることは不可能だ。他の方法で持って、その目的を果せる可能性があるという情報も持っていない。」
神様とかでも不可能なのかなぁ。
「神なら可能だろうが、可能ゆえに世界に干渉することは無いと考える。ただ、神の気まぐれというモノもあるので、絶対に無いとはいえないが、可能性としてはほとんどないだろう。」
神様ってそういう存在なんだぁ。前から、全知全能だったら、世界なんか作らないだろうな、って思っていたけど、なんか納得。神様って、自分が作った世界の結果を確かめるんじゃなく、途中の移り変わりや人間模様とか見て楽しんでるんだろうなぁ。
「そういった考え方もある。我らには計り知れない存在だと言う事以外、いかような推察も意味を成さないであろう。
そして我がここに来たのは、東島晃に一つの依頼があるためである。」
なんかデジャブ。依頼? こんな大いなる力を持った天使が、迷子の人間一人に何を頼みたいんだ?
「現在の位置から、内側の軌道上に一つの星がある。人間を中心にさまざまな種族が渾然一体となり、特殊な環境で生活をしている。だが、人々は弱く、生き延びる術があっても、それを広く伝えることもできないでいるのが現状だ。東島晃には知識と、ゲンブという力があるゆえに、生きる術やものの考え方、人同士の付き合い方などを、新しく広めて強くすることが可能だと判断し、人々の導き手になることを依頼したい。」
な、なんか宗教的な話し? 我は神の使者なりとか言って、新興宗教とか立ち上げろとかかな。
「宗教を単なる教えとするのならば、その方法で何の異議もない。さらに、神を否定し、物理法則のみを信じるという宗教でもかまわない。」
宗教とは、単に生き延びるための教育。
たとえば、食べ物があるはずの山に、雪が降り積もる時期に入った人間が帰ってこなかった。と言うことがあった時に、「雪山には入ってはいけない。」という教えが出来上がるわけだけど、それだけだとその教えを無視して入って行く者が出てくる。そのため、「雪山に入ると、山の神様が人間を取って喰っちゃう。」として教えを強化したのが、神様と宗教の始まりって聞いたことがある。出典は思い出せないけど・・・。
その、本来は戒めとしてしか存在しない神様なのに、我は神の使者なり、とか言い出して金や物を巻き上げるのが出てきて宗教が狂った、とか言う話もあったなぁ。
元々は死なないように生きていくための知恵ってのが宗教なんだから、その知恵を教えるための宗教ならどんなものでもOKって事なんだな。
でも、神様も否定していいなんて、天使が言ってもいいのかなぁ。
「今現在、星の人々が信仰している神は、かつての支配者の思惑によって名づけられた架空の存在である。よって、我としては否定し、できれば失くしてもらったほうが嬉しく思う。されど、人間の活動の結果としてあるものを否定、破壊することは我の領分にあらず。」
気に入らないけど、その状況を神が楽しんでいるのかも、って思うと、手出しできなくて歯がゆいって感じなんだろうねぇ。ちょっと好感度が上がっちゃったよ。
で、天使の依頼ってのも、なんとなくだけど、一応判った。具体的にどうするか、ってのも俺に一任するって感じで、提案する気も無いんだろうな。これもデジャブだねぇ。
その星の人間たちの状況も、実際に見ないと答えられないってのが普通なんだけど、相手は天使だし、見ても見なくても俺が出す結論は変わらないはずだ、とかいう感覚ででの依頼っぽい。
あ、頷いてる。相変わらず光っててよく見えないんだけどね。
元々、その星はゲンブの故郷っぽいから、行く事は決定してるし、天使様じきじきにチート介入の許可がでたんだから、乗らない手は無いだろうな。故郷の状況を見た後になにをするかってのも決まってなかったし。
「エイプリル、話は聞いていたか?」
俺は暫らくぶりに声を出した。
『はい。会話の記録は残っていませんが、会話の内容は記憶しています。』
さすがは天使の御業。俺の頭の中の返答もエイプリルに伝わってたんだな。
「エイプリルの意見は?」
『現在啓上できる意見、提案等はありません。これからの行動予定などのすべての判断は、艦長に一任されています。』
丸投げか、ってそれが基本姿勢として設定されてるんだったよねぇ。
「よし。これより本艦は、その星の状況に介入する活動を行う。活動内容は状況を随時判断しつつ、臨機応変をもってあたることにする。」
『了解しました。状況判断用の偵察システムを考察し、作成します。』
けっこう、ノリノリみたいだ。あっ、依頼ってことは報酬があるのかな?
「うむ。依頼の実行を確認した後から、我の持つ力を東島晃と共有しよう。」
そこまでデジャブじゃなくっても・・・。具体的にはどんな力なんだろう?
「神聖なる力の一部が使えることになる。これは、現地において確認できるはずだ。
交流に必要な言語も今現在の言語と同様に使える。これは量子情報伝達型の人工知能においても同様だ。
そして、依頼の完了に至らなくても東島晃が滅びるまで、その力を失うことはない。」
なんか意味深だけど、まぁ天使の手助けはあまりあてにはしてなかったから儲けものかな。ゲンブがいれば戦争でさえ何とかなりそうだし。相手が宇宙戦艦を持っていないって前提だけど、スペースシャトルとか原爆のミサイルとかまでなら、阻止出来そうだしね。
あの朽ち果てた宇宙要塞を見るに、宇宙技術は発達してないっぽいしねぇ。そういえば、なんであそこに天使がいたんだ? 何の用があったんだろう。
「我はあの小さな星を、力を持つ守護の星へと変える試みを行っていた。」
守護の星? 力? あっ・・・なんかイメージが湧いて出てくる。これもテレパシーの一種かな。守護の星ってのは、○○の星座に火星が入り、○○の星座の人の運勢が強化されました。っていう星座占いの時に使う星の力のことみたい。本来、人工物である宇宙要塞にそんな特性なんか無いはずだけど、天使が留まり、力を放つことでしっかりした星として目覚めさせようという実験らしい。まぁ勝算はあるけど、けっこう難しい技って事で、試みって言葉を使ったらしい。
神の眷属である天使としては、直接的にはそれが精一杯ってことらしい。そこで、単なる人間の俺に行政チート、農政チート、道具の製作方法や学問についての情報チートで人々の生活を変えて欲しいってわけだ。
もともと、その星に向かっていってた、その星の文明以上の技術と知識を持った船だから、天使が依頼しなくても同じようになった可能性はあるけど、それを確実にするってことも天使の介入ってことでは、けっこうギリギリのラインだったようだ。
「我はまた、あの小さき星に戻り、力を放つことにする。彼の星の人々に希望の光を与える勤めに尽力することを願う。」
「あっ、はい、どこまで出来るかわかりませんが、頑張ります。」
俺の台詞が終わるタイミングで、天使の姿が消えていった。
呆けていた。ボーーーっとしてた。夢を見たのかなって思えるほどに、周りは当たり前の状況でしかなかった。かなり緊張してたんだな。緊張が抜けると、さっきまでのやり取りに現実感がまるでなかった。
「エイプリル。天使からの依頼を覚えているかな?」
『はい。映像、音声記録は残っていないので証拠となるモノはありませんが、現在の位置から内側の軌道にある惑星において、内政や技術干渉等を行い、強く整った生活体系を築くように誘導する。という依頼だったと理解しています。』
「あぁ、やっぱ、夢じゃなかったか。」
『艦長。また記録が存在しないのですが、偵察任務に出したファイター01及び02、そして、偵察用に出したロボット4機が、格納庫の定位置に存在しています。』
「・・・・・・さっさと行け、ってことかな・・・・・・。」
『判断材料及び判断指針がありません。』
「まぁいいや。さっさと行こう。星の位置はわかってる?」
ため息とともに吐き出した。
『長距離望遠映像でその星を確認しています。星の軌道ラインも確定済み。その星の衛星軌道に乗る航路も計算済みです。』
「よし。いつもどおり操艦はまかせた。ゲンブ発進。」