第十参章 晃とドラゴン アイテムボックス
たいしたリアリティがあるわけじゃありませんが、敵を切り裂くと言う戦闘での表現と、解体するという表現があります。
そういった残酷な表現が苦手な方には、心を傷つけてしまう可能性もありますので、読むことを控えていただく方が良いと思われます。
そのような方々には大変申し訳ありませんが、別の機会、別の作品にてお目にかかりたいと希望します。
このような表現が苦手ではない方々には、引き続き、拙い文章と物語ではありますがお楽しみください。
ジェイの師匠の居るのはケアイアーという街で、ファイエーの家からだと村を2つ、街を1つ通過した先にあり、歩きでは2週間ほどかかる予定だ。馬車は街と、近場の村の往復しかないため、馬車で行こうとしたら4つの馬車を乗り換える必要が出てくる。当然、割高になるし、手持ちも少ないので歩きという事になった。
行程のほとんどは野宿という事になるけど、このメンバーだとそうそう危険な事は無さそうだ。今なら大カマキリもグリズリーも一撃で葬る事が出来るだろうしね。今度はモンスターの素材アイテムを採取して、それがどこで、どのような形で売れるか調べてみよう。
旅は順調に進み、俺が用意したフリーズドライのシチューが飽きたとか、軍用ブーツの一般化はしないのかとか、道々、いろいろ言い合いしての、けっこう楽しい歩き旅になっていた。
ちなみに、軍用ブーツはファイエーにも支給して、それぞれが履いている物と、予備としてバッグに入れている物とで、2足ずつ配ってある。さらにエイプリルに頼んで、小型のクロスボウを作ってもらい、4人全員が背負っている。小型とは言っても、腰のベルトの金具に弦を引っ掛け、足を引っ掛ける金具が付いた本体を蹴飛ばして弦をかけるという強弓だ。矢はクロスボウ専用の太く短い形をしたボルトという名の物を使い、これは鉄パイプを加工して作った。
クロスボウに関してはこの世界にも存在するようだった。良かった。本当に良かった。
ちなみに、旅の途中でウサギのような食用の獲物を見つけたとき、4人全員で狙って撃ったら、1匹の獲物に4本のボルトが突き刺さるという結果になった。15メートルは離れてたとは思うんだけど、その精度と威力によほどの事がない限り多用はしないようにしようと皆で誓い合ってしまった。
ウサギは、スタッフが美味しくいただかせてもらいました。
ウサギの皮を剥いで、毛皮かなめし皮として売り物に出来ないだろうかと考え、解体しようとした所、
「誰か、皮をとる解体法を知っているのはいるかな?」
「見るだけなら、見たことありますが。」
ジェイだけが、見たことあるそうだ。他の女性2人は解体後の肉しかしらないって。
「じゃあ、俺がやるから、おおよそでいいから指示してくれるかな。」
言いだしっぺとしては、自分でやるしかないよね。年齢的にも一番年上っぽいしねぇ。
「はい。まずは仰向けに寝かせて、首の下から股間までを一直線に裂きます。」
料理もそうだけど、切れない刃物は逆危ないってことで、軍用ナイフで裂いていく。
「胸の所から腕の、手首の内側にあたるところまでを、また一直線に裂きます。足も同じように。腕の表側を中心に開くって感じですね。首と手首、足首のところで切断しますので、その部分まで裂ければいいです。」
言う方は簡単そうだけど、やるとなったら・・・。
動物の死体と考えると、なんかヤバイことをしている気分になる。肉を食うのは好きだけど、肉の元の動物を殺して解体しているってことは、わざと考えないようにしてきた生活だったもんなぁ。
ありがたく食わせてもらうから、せめて迷わず成仏しろよぉ。
自己中心的な、手前勝手な言葉を心の中で言いながら、ナイフを入れていく。
「裂いたところから皮をめくり、皮と肉をナイフで切り分けていきます。皮の裏の白い所と、肉の赤い部分を分けていく感じですね。あとで肉の部分は削いで落としますから、厳密じゃなくてもけっこうです。逆に皮の白い部分を傷つけないようにするのが重要ですね。」
本当に簡単そうに言うなぁ。物がウサギという小ささだから手間がかかるのか、それとも小さいから簡単に出来ているのか、その判断も出来ないまま皮を切り分けていく。
もう、手なんか血まみれ。水魔法で水を出せるからいいけど、それが無かったら川の傍でやるのが当然な行為だったんだろうな。けっこう行き当たりばったりで行動しているな。
「じゃあ、僕たちは皮を打ち付けて引っ張っておくための木の棒とツタ紐を探してきます。あと、どうせなら焚き火用の薪もあったほうがよさそうですね。」
そう言うや否や、3人で林の中に入って行った。薄情モン!
一人寂しく、血まみれになりながらウサギの皮を?ぎ取る作業を続けた。これって、はじめにしっかり血抜きをしておけば、もっとやりやすかったんじゃねぇ? 後悔先に立たず。いつも思うのは、先に言えよ後悔。
後悔。ほんと、先に言って欲しかった。なにしろ、ウサギの血の匂いに釣られて、狼みたいなヤツが一匹、林の木々の間を歩いてくるのが見えた。けっこうデカイ。
「ヤバイかな?」
立ち上がって、手の平を上にして水魔法の「発生」の呪文を唱える。何度も「発生」を繰り返し、ジャバジャバと水を出して手を洗っていく。手を拭いている暇は無い。とりあえず血で手が滑るって心配をなくしただけで、戦闘準備に入る。
超振動ブレードを引き抜き地面に付きたて、クロスボウを装備。
弦を引いてボルトをセット。
まず、どの魔法を使うかを考える。ジェイたちにも伝わるように、爆発系の魔法にするか、風の刃で切り裂くか? 子牛ほどもある狼でも、ゴブリンを簡単に切り裂いてきた魔法で充分に倒せるはずだ。
問題は狼というのは群れで狩りをするという事だ。今、目の前にいる狼が斥候で、あと何匹居るのかがわからない。
ヴルヴルヴルヴルヴぅ
唇だけを開き、牙が良く見えるようにしながら唸ってきた。典型的な威嚇だ。ウサギを置いていけば命は取らない、とかそんな感じなのかも知れない。けど、子牛ほどの狼でも、一匹だけなら遅れは取らないつもりだから、ここは引けないね。3匹までなら一撃も受けずに倒せそうだけど、それ以上だと一人ではきつくなる。ジェイたちがいれば、それこそ10匹でも一気に倒せるけど、今は薪を拾いに行ってるんだからどうしようもないね。
「やっぱ、一気に片付けよう。」
ジェイたちを呼び寄せる必要はないかも。そう思って、風のカッターで切り裂く事に決めた。
「ウインドカッター起動!」
実際は目には見えないけど、一種の風の圧力と思われる力と、魔力そのものという力が飛んでぶつかるのを感じる。
そして、あっけなく両断された。狼にとっては何があったのかもわからないうちに真っ二つになったって感じだろうな。
あ、あの角度じゃ、皮は役立ちそうにないな。失敗しちゃったかな。
油断せずに、周りに気を配る。群れの本体が潜んでいるはず。
案の定、遠巻きに見ながら顔を出してきた。5以上10未満って所かな。木の間を縫うように動いていて、正確には判断できない。狼たちの方も俺の実力を測りかねているようだ。斥候役が一瞬で倒れたのを見ていたし、ここはおとなしく引き下がるかな?
クロスボウで狼の一匹を打ち抜けば、それに恐怖して引き下がるかな? それとも、仲間がやられたってことで怒って攻めてくるかな? 野生の動物ってのはそこら辺の匙加減が難しいよねぇ。
あ、人間にも当てはまるか。そんな事を考えてた時、
「アキラ!」
木の棒を抱えたジェイが声をかけてきた。薪にするための枝を抱えたレイミーとファイエーもいる。
あまり騒ぎ立てないように俺に近づいてくる。そこら辺はさすがだね。
「怪我はありませんか? 状況は?」
「見ての通り。斥候役の一匹にウィンドカッター使ったら、残りの本体が出てきたって所。林の中に群れでいるから、ちょっとだけ厄介かな、って感じだね。」
「ウサギの血が呼んでしまったんでしょうか?」
「たぶんね。」
「すみません。こういう所だと離れた所に、血とはらわたを捨ててから作業しなければならないはずでした。」
「俺も思い当たらなかったから、謝らなくてもいいよ。あの様子だと、旅人も襲ってる可能性もあるから、ウサギが無くても来たかも知れないしね。」
「そうですね。じゃあ、とっとと片付けてしまいましょうか。」
「一人だと、木が邪魔でさくっとは出来なかったんだよね。誰か、試したい魔法とかはあるかな? 木を切らない、燃やさないっていう方向で。」
環境破壊はしないように心がけないとね。なにしろ、魔力量が上がって、さらに精霊の加護で威力も上がっているから、周りへの影響を無視していくと、どんどん世間から離れていってしまいそうだしねぇ。
「そおぉぉいうぅことならぁ、わたしにやらせてくださぁいぃ。」
クロスボウじゃなく、普段から使ってる弓矢を取り出し、矢を番えないで弦だけを引っ張って構えた。見えない魔力の矢が出来上がるのを感じて、さらに呪文を載せていく。
「コンダクト・アロー!」
放たれた見えない矢は、途中から雷光をまとい、一瞬で十数匹の狼を次々と貫いていった。
複数の敵を次々と貫いていく雷撃の矢かぁ。けっこうえげつないかも。でも、単一目標のみの攻撃しかできないという弓矢の弱点を、ものの見事に克服しているね。でも弓矢にする意味が無いのかも、ていうのは言わない方がいいのかも。
「お見事。取り残しは無い?」
一応褒めておこう。
「実はぁ、見えている所しかぁ、狙えないんですぅ。ですのでぇ、隠れているのは判りませんねぇ。」
頭をかきながら嬉しそうに言ってくる。褒められたのが嬉しいのは判るけど、喜びながらダメな部分を報告しなくてもいいんじゃないかなぁ。
「今後の課題として、周辺の敵や状況を感知できる魔法の開発なり、調査なりが必要みたいだね。」
「それは旅をする上で必要ですね。実際、僕も旅をするまでは、そういう事を考えもしなかったわけですし、現場で役に立つモノってのは現場でしか思いつかないんですね。」
ジェイがもっともらしくまとめてくれた。さて、狼の素材を剥ぐとしますか・・・って、
「なんだ?」
圧迫感? 身体では感じない圧力? プレッシャーなのか?
背中に言いようの無い、不安を増すだけの気持ちの圧力を感じる。
そして、振り返って見た。
ジェイも感じたのか、同時に振り返った。
少し遅れてレイミー、そしてファイエーが振り返って、空を見上げた。
感知の魔法はもっと早く欲しかった。ホントに後悔先に立たずだねぇ。
見上げた空に、ドラゴンがいた。
しかも目が合った。こっちに来るようだ。
「あー、逃げられると思う?」
楽観的な希望を含ませて聞いてみた。
「僕は、無理だと思います。完全に僕らを狙ってますよね。」
半分ほど絶望的に返してきた。諦めが入ってきてるかな?
「逃げられないのなら、やるしかないだろうね。大丈夫。落ち着いて魔法を使えば、あの程度は倒せるさ。」
空元気だけど、皆にはしっかり動いてもらわないと、ドラゴン相手には勝てないだろうね。お気楽なセリフを言って、皆に戦闘準備をしてもらおう。
2階建て、6畳と4畳半の2LDKバストイレ付き、横に4世帯、8世帯住みのアパートを想像して欲しい。そのアパートがコウモリの羽を付けて飛んで来たら、きっと目の前のドラゴンと同じ感じに見えると思う。
形は絵本の通りと言えるような、羽付きのトカゲの姿。手足には鳥の足を連想するようなかぎ爪。動き方は肉食獣を連想するようなしなやかさを感じた。
下から見上げると、いびつな十字架って感じもする。誰の十字架だ? ベタだけど、俺の十字架じゃない、あのドラゴンの墓標だ、っと無理矢理にこじつける。
「力の差は圧倒的と思おう。だから先制攻撃! 頭か羽の付け根を狙って、何でもいいからぶち込め!」
ギャーーーーン
俺の叫びと、ドラゴンの叫びが重なる。うん、しゃべらないし、知的な感じも受けない。ただの獣だ。さくっとやっちゃおう。
「ウィンドカッター!」 俺の風魔法の刃が飛ぶ。
「アイスジャベリン!」 レイミーが叫ぶ。
「ファイアースネーク!」 ジェイがドラゴンを指差す。
「ライトニングアロー!」 ファイエーが撃ち込む。
乾いた爆発音が響いた。第一撃目はこっちが取った。きりもみしながらドラゴンが落ちてくる。地上に落ちたドラゴンが体制を立て直してブレスを放ってくる前に、さらに追い討ちをかけてブレスを撃たせないようにしなければならない。
「俺が細かく撃ち込む。皆は時間差をつけて強めのやつを打ち込んでくれ!」
一方的にそう言って、俺だけ前に走り出す。ブレスを撃たせないような威力を出すには、距離を詰めないとならない。痛いのを我慢してブレスを撃ち放つなんて真似をされたら、俺たちなんかはひとたまりも無い。
怖いのを我慢しつつドラゴンの手が届く位置まで近寄った。後ろのジェイたちの魔法の射線からずれた所でウィンドカッターを連続で撃ち込んでいく。
狙いはアゴ。
口を開かせない事だけを考えて、ただひたすら撃ち込む。ジェイたちの魔法が一拍置きに打ち込まれる。ドラゴンの顔だけは、ジェイの炎が張り付くように燃え続けている。
これならいけるか? そう油断した時に、ドラゴンが身体を横に回転させた。おそらく激痛に悶えての自然な反射運動だったんだと思うが、その尻尾に、ものの見事に弾き飛ばされた。
息ができない、身体がちゃんと有るのかどうかも判らない状態なのに、ビシビシ痺れて痛いのだけが判る。目は開いていてモノを見ているのに、それが何かも判断出来ないほど混乱している。ヤバイか? そう思ったが、少しずつ感覚が戻ってきたら、自分の体は痺れているだけで特に損傷は無く、打ち身の痛みがあるだけというのがわかった。レイミーに上半身を抱えられて、盾でガードされている状態だったのでしっかり確認はできた。レイミーが妙に泣きそうな顔に見えたのは気のせいかな?
「ありがとう。もう大丈夫だ。」
そう言って身体を起こす。再度手足を確認し、ちゃんと揃ってるのを見てから、顔を洗うように撫でまわす。手の平に血も付いていないのを確かめてから立ち上がった。よし、手足もちゃんと動く。
まだ心配そうなレイミーを急かしてドラゴンの方に向かう。ジェイとファイエーがドラゴンの間近まで近寄って、詠唱時間の短い呪文とクロスボウで畳み掛けていた。時折、尻尾が振り回され、その時には大きく後退するという状況が出来上がっているようだ。それほど、俺が抜けた穴がでかかったってことなんだよな。皆には悪い事をしてしまったようだ。
超振動ブレードを抜いて、ブレードを振動させる。そのまま、大きく振りかぶってドラゴンに向かって走る。
「頭を狙ってくれ! 俺は首を落とす!」
その言葉で、ジェイとファイエーが火と風の魔法をあご下にぶち込む。けっこう当たってるはずなのに、大きなダメージは与えていない。それでも、ブレスが来るのを妨害しているだけでも意味がある。
また回転攻撃をしてきた。今度は回転の途中で止めて、背中を向けたまま、羽で顔をかばいつつブレスの準備をしようというつもりらしい。口の周りに、妙な文様が光で描かれていく。もしかして、ブレスってドラゴンにとっての魔法なのかな?
「ブレスが来る! 下がって!」
そう言いつつも、俺はドラゴンの脇に滑り込むように突進。ドラゴンの首の横5メートルと言う所まで突っ込み、起動状態の超振動ブレードを振りかぶって投げつけた!
ブレードの刃が届く所まで近づいたら、首の一振りで弾き飛ばされるから、そうならないギリギリの所で回転させながら投擲した。
そして、大急ぎで後退。
その一歩目で、ドラゴンの首の下側を半分、超振動ブレードが切り裂いたのを確認した。
しゃーーーーーっ!
声じゃなく、気管から漏れ出る空気と出血の音が混じって、辺りに響く。傷口のところでは血が泡になってあふれ出ていた。
普通なら、それだけで戦闘不能になりのた打ち回るはずなのに、ドラゴンは顔をこちらに向け、ブレスのターゲットを俺に合わせようとしている。
「ソニックブレード・リターン!」
ジェイたちにターゲットが移らないようにしながら、俺自身もブレスを避けるために左右に反復横飛びを繰り返しつつ、空中に向かって叫んだ。
魔力は込めていない。魔法じゃないから。
エイプリル特製の俺の剣の特別機能、その2。
簡易型重力制御による、剣の帰還システム。
つまり、投げた剣が、空中を漂って帰ってくる、っていう仕組み。正面切った攻撃に使えるほど早くは無いけど、超振動ブレードを起動させたまま空中を飛んでくるように使えば、それなりに効果はある。しかも、今みたいに、通り過ぎた剣は無視して、俺に顔を向けているっていう状態なら、
ブンッ! ドサッ!!
切断する音じゃなく、空気が震える音だけが短く聞こえただけで、ドラゴンの首が地面に落ちた。
倒した? ドラゴンの経験値ってどのくらいだろ。レベルアップできるよね、ゲームなら。
そう、安堵して、肺の奥の空気を吐き出そうとしたら、首だけなのにまだブレスをだそうとしてる。なんという根性だ。
ドラゴンの首を切り落として俺の足元に突き刺さっている超振動ブレードを抜き、俺はドラゴンの頭めがけて走った。
間に合うか?
ドラゴンの口元には、丸く縁を描くように光の文字のようなものが回っている。ミミズがのた打ち回っているような文字? が、いくつも重なり、円が球になりつつある。
もしかして、ドラゴンのブレスってドラゴン特有の魔法なのか?
とにかく、今は、その魔法が完成する前に、魔法を破壊しなければならない。
超振動ブレードを振りかぶりつつ、全力でダッシュ!
身体がぶつかるとかも考えずに、体重を乗せてブレードを振り下ろした。
ドラゴンの口と一緒に光の球を切り裂き、俺はそのままの勢いでドラゴンの鼻先にぶつかって、勢いあまり、ドラゴンの後頭部の方にまで転がってしまった。
そして、
切られた魔法の球が、爆発した。
実際は溜まったエネルギーが、一気に拡散しただけなんだが、発射寸前にまで溜まっていたせいで、爆発と言っていい程の規模になった。
俺の体感としては、音の無くなった静かな世界で、洗濯機の脱水に巻き込まれたって感じ。それも一瞬で、その一瞬あとには、皆が俺を取り囲んで心配そうに見つめていた。
「・・・・・・・・・・・・!」
なにか、言ってるらしんだけど、何も聞こえない。あ、そうか、鼓膜が破れてるんだな。身体の方も、あまり無事とは言えないかもなぁ。今はまだ麻痺しているらしく、痛み自体よりも、身体の感覚さえ感じない。
「・・・・・・! ・・・・・・!」
本当に何も聞こえないや。テレビの音声を消したまま見ているって感じだ。どうしたらいいかな。この状態で俺が治療魔法を唱えれば治るのかなぁ?
あ、ポーションがあったじゃないか。
俺は、感覚がほとんどない腕を上げて、ファイエーを指差し、そのあと、コップで水を飲むジェスチャーをして見せた。通じたかな?
ファイエーが焦りながら、背中のバッグをあさっている。そして、ポーションの小瓶を出すと、ふたを開けて俺の口の中に注ぎ込んだ。
熱い。熱では無い熱さが、喉の奥から腹の中、そして全身へと広がっていく。
そして、音が戻り、手足の感覚が戻り、身体の芯にまで絡み付いていた疲れが消えていった。
「治った。」
俺は身体を自力で起こし、手を開いたり、握ったりしながら、そう言った。
その一言で、皆の身体からも力が抜けたのか、座り込んで呆れた顔を俺に向ける。
「やっぱり、このポーションってとんでもない物だねぇ。」
立ち上がって、屈伸しながら実感を込めて言ってみる。もしかしたら死ぬのか? なんて考える暇も無く全快するなんて、ホントにとんでもない薬だよ。
「ポーションじゃありませんよ。アキラが死んだらどうしようって、本気で心配しまししたから。僕たちが無茶をするのと、アキラが無茶をするのとでは、意味が違うってことをしっかり自覚してください。」
疲れてはいるけど、真剣に怒ってるらしい。疲れていなければ、正座させられて頭の上から怒鳴られてたかも。
「いや、俺とジェイとで、そうは変わらないだろ? 誰かが死ぬ、なんて嫌だから全力で回避するのは当然だけど、誰ならいいっていう事もないよね?」
天は人の上に人を作らず、人の下に人を作らず。って万札先生も言ってたよ。人は皆平等でしょ?
「いえ。アキラは違います。僕たちはアキラがしたいという理想について来ただけなんです。アキラがいなくなったら、僕たちはまた、力を持ってはいますが役には立たない、ただの石に等しい存在になってしまうんです。」
「そんな、大げさな・・・。」
「大げさではありません。正直に言ってしまえば、僕にはアキラのようなモノの考え方が出来ません。根本的な部分で大きく違うというのがわかる程度なんです。だから、僕にはアキラの代わりは出来ないんです。きっと、他の誰にも出来ない事だと思います。
でも、僕は、僕だけじゃない、ここにいる3人、いえ、この国にいる誰でも、他の誰かで代用すると言う事は可能だと思います。複雑な思いですが、忌み子と言われた僕でさえも、他の誰かで代用はできるんです。
そんなアキラがしようとしている事は、きっと、大きな意味を持つ、大きな何かだと感じています。だから、僕たちよりも大事な存在なはずなんです。僕が死ぬよりも、アキラが死ぬ方が、大きな、取り返しのつかない損失になると言う事を知っておいてください。」
ジェイがいつも通りの口調だけど、かなり真剣に言ってきた。ちょっと、涙目になりかけているのは、どんな感情でなんだろうな。
ファイエーが持ち歩いている金属製のカップに水を入れて、ジェイに飲ませている。
それにしても、俺の存在ってのがそこまで大きくなっているとは思わなかった。かなりの部分で、ジェイの期待だと言う事はわかるけど、確かに俺一人が倒れたらそこでお仕舞いっていう計画に3人を巻き込んでる状況ではあるね。
これから、ポーションの製作や魔法の指南書の配布、冒険者ギルドの発足や貴族や商人からのバックアップを取り付けるとか、関わる人間が多くなってきたら、俺一人が倒れたらお仕舞い、なんていうリスクは避けなければならないというのは確かだね。
なら、一つの屋敷に引き篭もって、報告を聞いて指示を出すという形にするか、リスクを分散させて、突然死を避けるかしないといけないわけだ。現状では、そのどちらも選択できないから、ひたすら自分を大事にするしかないってことだね。
「わかった。これからは、自分を大事にするよ。今まで以上にね。でも、俺にとっては、皆の存在も大事なんだってことは、わかって欲しいな。」
綺麗にまとめてみた。一応本音だよ。でも実際は、特に考えて特攻したわけじゃないから、気をつけるって以上の事は約束できないんだよねぇ。
「さて、それじゃぁ、ドラゴンから使えそうな素材を?ぎ取るとしようか。このままじゃ、狼以外にもいろいろ出てきそうだしね。」
けっこうな量の素材になりそうだから、もしかしたらリヤカーの3~4台必要になるのかも。小型輸送艇を公開して、それに積み込む事も考えないといけないかな。それとも、少しだけ採って残りは諦めるとか言っておいて、小型補給艇で密かに回収とかも有りかな。
ふと、気になることを思い出した。
空を飛んで来たドラゴンの翼が、鳥と比べた場合、明らかに小さいと言う事だ。ブレスも魔法みたいだったし、空を飛ぶのも魔法を応用しているのかも。先ずは翼を調べてみよう。
牙や鱗の回収を3人に頼んで、俺は翼の皮膜を調べていく。
皮膜には、細かいヒダがあり,それはブレスの時に展開していた文字のようなものに似ている。用途は別だけど、きっと魔法が関わっているんだろうな。このドラゴンが飛んでいる姿を見たかぎりでは、少なくとも3倍以上の広さが必要なはずだから、その差を埋める仕組みの魔法がかかるようになってるはずだ。
ドラゴンの翼の付け根から切り離すために軍用ナイフを取り出したが、翼の付け根の骨だけでも俺の胴回りほどもあったため、超振動ブレードを使って解体した。首を切り離しただけなんだが、よく倒せたもんだ。魔法の援護と、その目くらまし効果もあったため、ようやく首への攻撃が出来るようになったんだね。精霊に好かれた魔法使いが4人もいる、なんていう奇跡的な状況じゃなかったら、とても勝てなかったわけだ。
人間で言えば指の間に水かきとしての皮膜がついている状態だから、その指から皮膜を切り出すように捌いていった。片翼で大きなものが1枚、中くらいが2枚、小さめのが1枚切り出せた。触り心地はゴツゴツした皮製品の表面そのものだけど、手触りと違って全体ではかなり柔らかい。
ふと、遊び心で小さめの皮膜で、丸めただけの巾着のようなものを作った。そして巾着の口から中に手を入れてみた。で、まぁ、普通に底に指先が付いた。
そして、巾着をまとめている手に魔力を込めてみる。4属性の性質を与える前の、純粋な力としての魔力だ。そしてまた、同じように手を突っ込んだら、今度はなかなか底に届かなかった。
思ったとおりだ。ドラゴンは翼の皮膜に一種の空間魔法をかけて、翼面積を稼いで空を飛んでいたんだ。もしかしたら重量軽減の魔法もかかっているのかも。
この皮膜を使ってカバンを作れば、アイテムボックスのようなモノが出来そうだ。さっそく3人を呼んで、これを披露する事にした。
今度は中くらいの大きさの皮膜を使って魔力を込め、俺の身長ほどの翼の骨を一本、3人に協力してもらって袋に入れてみた。
3人がかりで持ち上げた骨が、50センチ程の袋の中に全部納まり、なおかつ、俺がその袋を軽々と振り回している、という妙な光景があった。
「よ、よく、気づきましたねぇ。」
ジェイがその発想に対して驚きを示してきた。
「こ、こ、こ、こ、・・・」
ニワトリ・・・じゃなく、ファイエーは、興奮しすぎているようだ。
「・・・・・・・・・。」
レイミーは開いた口が塞がらない、っていうのを実践していた。
手から魔法力を出すのを止めたとたん、袋からゆっくり骨がせり上がり、最後は飛び出して宙に舞った。最後の方は袋を持つ手にもかなりの重量がかかってたし、魔力を切らすと、とんでもない事になるアイテムボックスってことになるな。
「ファイエー。魔力を込めた水晶で、この作用を維持できるかな?」
魔法の道具はファイエーに任せよう。返事もそこそこに、バッグから水晶を取り出すためにゴソゴソし始めた。その間に、俺はジェイと打ち合わせしておこう。
「ジェイ。ちょっと聞きたいんだけど、こういう皮膜でも皮ではあるから、このままにしておくと、乾燥してひび割れたり、腐ったりして使えなくなると思うんだけど・・・。」
「はい。いくらドラゴンの皮でも、やっぱり生のままでは痛みますよね。」
「だよね。だから、皮をそういう、なんて言うか、革製品にするための・・・。」
「あぁ、はい。皮のなめしですね。」
「そう、それ。なめし皮にするって事。そのやり方とかは知らないかな?」
「えっと、木とか草とか、木の実とかの渋みを集めて、何度も漬け込むってことぐらいしか知りません。」
「やっぱ、そういうのは専門家に頼んだ方が良さそうだねぇ。」
「こればかりは、素人が行き当たりばったりで出来ることじゃない気がしますね。」
「でぇぇきぃぃまぁぁしぃぃたぁぁぁ。」
微妙なタイミングでファイエーが声をかけてきた。けっこう、早く出来上がったな。
「無属性のぉ魔法力を入れた水晶とぉ、4属性のぉ4つの水晶をぉ同時に使ったぁ方法のぉ2つのタイプでぇ成功しましたぁ。」
簡易型として、巾着に水晶を、単にくくりつけただけの物が2つ、地面に置いてある。これだけで、アイテムボックスが出来上がるとは、なかなかのお手軽仕様だねぇ。
「見てくださぁい。」
そう言ってファイエーが、レイミーに手伝ってもらって、先ほどの骨を地面に置いた巾着に落とし込んだ。文字通り、落ちていくと言う感じで中に消えていった。
ドヤ顔でファイエーがこちらを見ている。
「今の骨を、水晶を外さずに取り出せるかな?」
入れっぱなしじゃ困るからね。
「はぁい、出しますねぇ。」
巾着に手を突っ込み、中で触れるモノを確かめながらどんどん手を入れていき、肘、肩と入れ、それ以上は頭から突っ込まない限りは入らないよ、という所まで入れても見つからなかったようだ。
「あぁぁれぇぇ?」
中はかなり広いようだ。で、広すぎて、入れたものが探せないという、間抜けな状況になっているらしい。
「水晶からの魔法力を弱めるとか、できるかな?」
「ををを、その手ぇがぁありましたぁ。」
ちょっと不安になってきたぞ。
銀のプレートになにやら刻み込んでから、水晶の側面にあてがう。それから、再び巾着に手を入れると、骨を掴んだ腕を引き上げてきた。
「魔法力のぉ強さでぇ、中の広さがぁ変わるみたいですねぇ。」
「じゃあ、もう一つ。骨を入れた巾着を、もう一つの巾着の中に入れて、あとから取り出すことも可能かな?」
マトリョーシカのような、入れ子構造で持ち運びが出来るかどうか? 出来るのなら、輸送力の大幅アップが期待できるね。街から街への輸送が安く大量にって事になれば、文化的な発達も期待できるから、食生活の改善以外にも、世界的な規模での道具や武器の充実が期待できるようになるだろうね。
そして、やってみたら実にあっさりと実現できた。
「ファイエー、手持ちの水晶で、いくつ作れる?」
「ポーション製作用のぉ水晶ですがぁ、一時的にぃこれに使うってことならぁ、5つ分はぁありますぅぅ。4属性の力を入れた水晶からぁ力を抜き出してぇ、新たにぃ無属性の力を入れ直すとかがぁ出来ればいいんですけどぉ、その方法は知りませんのでぇ、残念ですけどぉ5つが限界ですねぇ。」
「無いモノはしょうがないね。じゃあ、レイミーと二人で、簡単でいいからバッグなり、カバンなりを5つ分作ってくれないかな。
今は縫い合わせる必要は無いから、木の棒を縦に半分に切って、袋の端をはさんで止めておくとかでかまわないから。
俺とジェイは、その間にドラゴンの鱗や牙、爪を回収しておくよ。出来るだけ袋に詰めて持っていけるようにしよう。」
入れ子構造で持っていけるのなら、実質、バッグ一つが増えるだけで済むしね。3人の了解の肯きを確認して、それぞれの作業に入った。
途中、暗くなってきたために、明かりと獣避けとしての焚き火を、ドラゴンの周りに幾つも起こして作業を続けた。
翌朝、たぶん9時ぐらいの時間に作業終了を宣言した。骨の大部分と内臓、肉は残さなければならなかったが、かなりの部分が皮膜で作った袋4つに入って、それを一つの袋にまとめて入れた。よくよく考えれば、かなりシュールな光景だったけど、まぁ、かなり疲れていて、そういう事もどうでもよく感じてたんだけどね。
明るくなってたけど、焚き火はそのままにして、ドラゴンの肉で朝食ということになった。塩、胡椒をたっぷり使ったんだけど、鶏肉よりもさらにあっさりしすぎていて、美味しいとは感じなかった。他の3人も、ふつー、って言ってた。味を染みこませるような料理法が必要なんだろうな。
ドラゴンの肉も、持っていける分は詰め込んだし、思いっきり眠いのをこらえて、その場を移動する事にする。きっと、この後、ここは獣たちによるエサの取り合いの戦場になると思う。エサが多すぎて、争いにはならないかも知れないけど、それでも多くの獣が集まるだろうから、出来るだけ離れたい。そして、安全な所でぐっすり眠りたい。
それでも、午後遅くなってからようやく休めそうな場所を見つけた。丘になっていて、片方は崖の様に切り立っている。10メートルほどだけど、この高さなら登っては来れないだろう。見通しは、良くも無ければ悪くも無いという感じだけど、かえってこの方が安心できそうだ。
見張りを交代でしつつ、けっこうぐっすり眠って、起きたのは明け方前だった。半日ほど寝ちゃったわけだ。そろそろ野宿には辛いかなという時期だけど、そんなのを気にする余裕も無い内に朝になったという感じ。
さて、ぐっすり眠ったから、朝食の準備をしよう。
「ドラゴンの翼の皮膜でバッグを作ったら、鍋や焚き火用の薪も簡単に運べそうだよねぇ。」
「もしかしたら、バッグの中で眠れば見張りも必要ないとか、なるんですかね。」
「バッグの中はぁ、生きている生物からぁ魔力を吸い出してぇ、広がる空間を維持するためのぉ力にしてしまうかも知れませんねぇ。」
「魔力を吸い出されるのかぁ。それじゃ、休んでいても休まらないねぇ。」
最悪、生命力が枯渇するとかなりそうだ。
「死んだものだとぉ、魔力も拡散してますしぃ、問題はないんでしょうけどねぇぇ。」
「あれ? じゃあ、魔力を込めた水晶とかを入れたら、魔力だけがなくなっちゃう?」
「同じ純属性だとぉ、そうなりそうですねぇ。
銀のプレートにぃ魔力を反射させる術式を描いて覆っておけばぁ、何とかなるとはぁ思いますぅ。完璧にとはぁいかないですけどねぇ。」
「魔力を反射するとか、遮断するとかしないと、持ち運ぶのも危険が伴うとか?」
「そこに気を使っていればぁ、問題ないでしょうがぁ、誰かに譲渡するとかした場合ぃ、その方の扱いようによってはぁ、命の危険もあるかも知れませんねぇ。」
なにか、魔力を遮断する、皮か布製の物で広がった空間用の内袋と、外側を覆う外袋とで、3重の構造にしないと気楽に使えないわけかぁ。
「実用化には、まだまだ課題がありそうだね。なめし皮にしたときに、この魔法効果が残っているかっていう問題もあるしねぇ。」
そんな事を話しつつ、ドラゴンの肉と野菜を串焼きにした朝食を終えた。塩、胡椒だけじゃなく、タレがあったらもっと美味かったのかも。




