第十章 晃と狼男 銀の弾丸
本来は、得意なものだけ極めるってことになるらしいが、4つとも得意だと器用貧乏になりそうだ。ジェイは習っていないが、4つ以外にも、光や闇、生命や死とかの精霊がいるとか、いないとかで、そこまで考えたら、もうどうでも良くなってくる。
とりあえず、魔法の普及に貢献できそうな基礎魔法ってのを確立していく方向で行くことにする。
魔法の修行で止まっていたゴブリン狩りを、魔法中心でやっつけていこうってことになった。
基本は全員使える風魔法。剣を構えつつ、風で断ち切るってことを繰り返していく。
はじめは皆、力を乗せきれずに、小さなカマイタチ程度の傷をつける程で、ほとんどを剣でさばいていたが、3日もすると風魔法だけでとどめをさせるまでになった。
普通に森の中を歩く3人。その歩みの後には、無数のゴブリンの死体。という無双を通り越してホラーな状況になってた。
ゴブリンの数も尋常じゃなく、依頼は50匹ではじめたのに、気がついた時には250匹を超えてた。どうりで上達するわけだよね、納得、納得。
追加報酬は一匹につき銅貨一枚だったから、金貨20枚の追加報酬だ。村長さんには言わないでおいたほうがいいのか、言った方がいいのか微妙だねぇ。こんなにゴブリンが寄ってくる原因がどこかにあるかも知れないし、言わないとマズイよねぇ。
風魔法でバイオレンスして、村の周りを大きく2周した。3周目は、ゴブリンが集まる原因を探りながら無双する、ってことになったが、特にそれっぽいものは見つからなかった。
見つかったのは、かつての村の跡地。砕けた家の残骸が茂みの中に沈んでいた。
「今の村よりも、しっかりとした作りの家に住んでたみたいだね。」
「はい、でも、もう土台さえボロボロですけどね。ここまでなるのは、100年ぐらいかかるかな。」
「火事とか、戦争とかあれば、半分ぐらいでいけそうだけどね。」
「何があったのか、それを知る手がかりは残っていないようですしね。」
転んだら痛そうなんで慎重に進むと、木で囲まれた中にしっかりとした建物があるのが見えた。
近づくと、半壊しかけた神殿のように見えた。この程度なら住む事も出来そうだな。
「神殿か、教会か。なんの神様を信仰してたんだろう?」
2人に振り向いてみるが、2人とも首を横に振る。
茂みをかきわけ、入口に到着。ドアは倒れていて、ノックのしようも無い。
外から見たら綺麗に見えていたが、中に入ると獣臭い匂いが充満していた。
「なんか、当たりっぽいねぇ。」
その言葉で、レイミーとジェイが構える。
「魔法のみとかに拘らずに。もしかしたら全力戦闘が必要かも。」
予想をつぶやいて、片手に銃、もう一方にスタンガンを握る。口での詠唱で魔法も使えるから、武器を3つ持ったような感じだ。レイミーも片手にロングソード、片手に軍用ナイフを構えて最前列に立つ。ロングソードは両手で持って切りかからないとならないけど、切れ味抜群の軍用ナイフのおかげで、ちょっとした盾としてロングソードを使う戦い方をするようになった。
後衛はジェイ。火の強力魔法は、まだまだ俺たちには真似できないから、俺たちが時間を稼ぐ間に詠唱してもらい、強めの呪文でドカンとやってもらう。
これが、今のところの俺たちの戦闘スタイル。
2列の柱が整然と立ち並ぶ、謁見の間のようなホール。約20メートルはあるだろうか、その奥には蠢くゴブリンと、リビングアーマー。さらに、一人の全裸の男。がっしりした体形なんだけど、虚ろな目をしてぼんやりしている。裸で、しかもゴブリンたちの中にいるだけでも、普通の人間じゃないと判っちゃうけど、なんか様子もおかしい。
ゴブリンたちだけはこっちを見て、睨んでいる。獲物が来たというよりは、邪魔なヤツが来たという雰囲気だ。なんかの計画的行動の予定でもあったのかな。
ゴブリンたちが、そんな頭のいい事をするとは思えない。従えて、実行させる、頭と力を持ったのがいると思うんだよね。
「あの人間っぽいのが、ボスでしょうか?」
ジェイが恐る恐るという感じで聞いてくる。立ち位置からは、それっぽいんだよね。
「今の雰囲気からは、そこまで知的には見えないんだよねぇ。」
俺のセリフに、同意の沈黙が流れた。でも、
「ひでぇじゃねえか。俺がバカっぽいってかぁ?」
虚ろな目で宙を見ていたまま、野太い声で、全裸男が言ってきた。20メートルぐらいの距離があり、普通ならまるっきり静かな場所でも、なかなか聞こえなかったはずだ。しかも、騒いでいないとはいえ、ゴブリンのざわつきの真ん中でそれを聞き取ったのか?
とりあえず、コミュニケーションが取れる人間なのか? でもゴブリンを従え、その横にはリビングアーマー。共に、一度は戦ったことのある、人間にとっての敵だ。なら、その男も敵になるんだろう。
「まぁ、確かにバカだけどなぁ。へっへっへ。」
酒にでも酔ってる? 別の所を見ながら、確かに俺たちに向けてしゃべってるって雰囲気は、やっぱ不気味だ。
その心の声が聞こえたのか、ゆっくりこちらを向いてくる。
これは命がけの戦いになる。死力を尽くさなければ、人間としては避けたい無残な死に方が待っている。心の奥で、なにかがそう警鐘を鳴らした。
自然と銃の標準をあの人間に向けている。ゴブリンやリビングアーマーなんて、後回しだ。今はほとんど目に入らなくなっていた。
全裸の男が、こちらに向き、身を屈めたかと思うと、一気にこちらに飛び込んできた。20メートルほどを、2~3歩で! なんというジャンプ力! なんて言ってられない!
レイミーがロングソードで受け止めるように体当たりした。剣を振りかぶる暇もない。男の進行を止めただけでもGJだと思ったのに、レイミーは弾き飛ばされ、ジェイの横に転がった。
「軽いなぁ。」
ニヤニヤ笑うように言った男は、全身を灰色の毛で覆われていた。口先が尖がり、耳が頭の上のほうに移動。手足は、関節の位置が変に上下していく。
四足の獣に変わっていってる。
犬? いや、狼だろう。すると、人間から狼に変身しているってことだ。
「ウェァーウルフ」
ジェイが震えながら言った。
ウェァーウルフ、日本語式英語ならワーウルフ。つまり、狼男、・・・だよ。
なりふりかまわなかった。たぶん、この角度ならレイミーには当たらないんじゃないかな、って程度の気遣いで引き金を引きまくる。
銃という武器を知らなかったのか、あっさり撃たれてくれるけど、ある程度のパンチで殴られているって程度にしか感じて無さそう。一応血は出ているから、弾はめり込んではいるんだろうけどね。
さらに、立ち上がって距離をとろうとしているレイミーにかまわずに、スタンガンを ウェァーウルフに打ち込む。たぶん、たぶんだけど、レイミーに被害はないはず。もうそれぐらいしか気遣い出来ない。本当に余裕が無い。
ギャン!
犬の悲鳴だ。スタンガンが痺れさせたようだ。
それが、どの程度の麻痺になるのかなんて、確かめている余裕も無い。もう一度スタンガンを打ち込む。
「ファイアースネーク起動。」
蛇のように粘りつく、燃やし尽くす炎。俺命名のジェイの魔法が起動した。
炎に絡みつかれるウェァーウルフの様子を見る余裕も無い。スタンガンを口に咥えて、銃の弾倉を急いで交換する。スライドを引いて、また容赦なくウェァーウルフの頭に銃弾を叩き込む。
「やったか?」
グチャグチャになったウェァーウルフの頭を見て、ようやくその言葉を吐き出した。
でも、
火にあぶられ、ひき肉状態の脳みその中で、むき出しの眼球が動いて俺をにらみつけた。
「だめだ! 逃げるぞ!!」
倒したと思っていた2人が、俺の悲鳴のような声に驚き、戸惑う。
風魔法-動作-動作-動作「ウインドカッター起動!」
俺の、今のところ最強の、風の刃の魔法を狼男の頭に打ち込む。そして、すぐ後ろの出口に走り出す。
何かを感じたのか、2人も全力でついてくる。
ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ。逃げろ、逃げろ、逃げろ。
俺の頭の中は、それだけだった。
ゴブリンの追ってくる気配は感じたが、追いついてくるほどではなかった。
もういいだろう。っと言ってくるジェイを急かし、さらに走りに走った。村の近くの道に出て、ようやく俺は休憩をとることにした。レイミーとジェイはすでにへたり込んでいる。俺も、持っている体力以上の体力を使い果たして座り込み、荒れた息が整うまで、何も言えなかった。
とりあえず、命は助かったのか?
ようやく、それを認識できた時に、さらに疲れが身体を襲った。今更ながらに全身が冷たくなり、手の先が震えているのを見た。
「まずは、何がそんなに危険だったのか、教えてくれますか?」
なぜ、全力で逃げたのか判っていなかったジェイが聞いてくる。倒したと思ったんだろうな。
「あれは、狼男、ウェァーウルフだった。」
「はい。」
「あれの特性を知っているかい?」
「あー、人間が力のあるに狼に変身するってことぐらいしか。」
「俺が聞いたことがあるのは、満月の時に最大になる、不死身の特性だ。」
「不死身ですか?」
「あれだけやっても、その後にゴブリンと戦っている最中に完全復活していたかもしれない。」
「「!!」」
ようやく、2人にもその恐ろしさがわかってきたようだ。
「完全復活ですか?」
いや、まだわかってなかったようだ。
「俺が頭を撃ち砕いて、グチャグチャにしたのは見てたよな?」
「はい、いつも以上に念入りなので、驚きました。」
「あんな状態なのに、目玉を動かして、俺を睨みつけたんだ。」
さらに、俺の武器を知らなかったから、頭を打ち砕かれる攻撃を受けただけで、あの敏捷性なら、次は確実に避け、あのジャンプ力で見せた力で、俺たちを圧倒していただろう、ってことも伝えた。しかも、狼だから鼻も効くだろうし、あのタイミングじゃなかった逃げ切るのも無理だったかも知れない、ってのも。
「にわかには信じられませんが、もしその通りだとすると、恐ろしい存在ですね。」
ジェイと同じ気持ちなのだろう、レイミーも頷いている。
「それに、そういう存在が、あそこで集会を開いていたってことも問題だな。」
「確かに、あの勢力で村を襲われたら、領主の街に伝令を送る前に全滅してしまうでしょう。」
「それも、そうだけど、実は、あの勢力を率いる狼男が、誰かの部下とかかも知れない、ってのがあるんだ。」
その言葉で、ジェイも気づいたようで、目を見開いている。
「さらに恐ろしい存在に使われている、下っ端かもって事ですね。」
さらに恐ろしい存在がいる可能性に、レイミーも身を固くする。
「下っ端じゃなく、幹部かもしれないけどね。狼男に比べれば、ゴブリンなんかは雑魚だよね。その雑魚の部隊を率いている、ってことは、雑魚部隊がきちんとやってるか見て来い! とか言われたってことなのかなぁ、って思うんだ。」
「まぁ、ありそうですねぇ。あのウェァーウルフに命令して従わせるような存在ってのが想像できませんが。」
たぶん、さらに不死身の属性を持った、吸血鬼がボスってのが定番だけど、言わないでおこう。確証もないしね。
「とりあえず、この後僕たちが出来るのは、村長に王都の騎士団への討伐依頼を出してもらうことでしょうか? もともと、騎士団が動かなかったからの状況ですが、これほどの危機なら、しぶしぶでも出てくるんじゃないでしょうか。」
「あーーーー、それが、うーん。」
俺が言い淀む。
「俺たちの言葉を信じてくれるのなら、っていう条件がつくんだよねぇ。」
俺の言葉に、2人も沈黙した。
ウェァーウルフを見たってのは俺たち3人だけ。ウェァーウルフの恐ろしさを知っているのは俺だけ。今までの付き合いから、2人は一応信じているみたいだけど、絶対的に? っていうと、そうでも無さそう。そんな俺たちの声を、あの村長が信じるだろうか。
「どうしたらいいでしょうか?」
ちょっと泣きそうになりながら、ジェイが聞いてくる。
選択肢は3つしかない。
このまま、別の街に逃げて。周りの噂を聞かないようにして、のんびり暮らす。
村が実際に襲われるまで、村長を説得し続ける。
俺たちだけで、ウェァーウルフを倒す。
お勧めは、のんびり暮らすこと。平和が一番だよねぇ。
「僕たちだけで倒すしかありませんね。」
あぁ。やっぱり、そういう結論になったかぁ。仕方ないなぁ。
「レイミーは村長さんの所に行って、俺たちが帰らなかったら状況を伝えてくれるかな?」
レイミーは強くなりたいってのがあるけど、縁もゆかりも無いこの村のために死ぬこともないよね。
実は、俺だけだったら、エイプリルの問答無用攻撃で一瞬、って事をできるから、楽なんだけどねぇ。
でも、レイミーは、なんかテンプレートのように怒り、睨みつけてきた。やっぱりねぇ。
「あ、やっぱ、一緒に行く?」
こくりと頷くレイミー。説得はできそうにない。
「仕方ない。皆で頑張ろう。でもその前に、村に戻って村長に言うことは言っておこう。装備も使えそうな物はできるだけ持っていきたいしね。」
俺の言葉に頷いて立ち上がる2人。
エイプリルに、銀の銃弾を作ってもらおう。あと、銀の箱に金属製のワイヤーとかあったら便利かな。
やっぱり、村長は信じてくれなかった。
半信半疑というより、何夢見てんだこの小僧は。という態度だった。でも、計画的にこの村を襲撃する準備が進んでいるのは確かで、ゴブリン50匹、追加報酬は1匹につき銅貨1枚の依頼で、250匹分の右耳を出したら、ようやく恐ろしさがわかったのか、震えだした。
本当は、追加報酬の金貨20枚という方に恐怖してたんだけどね。
街での生活で、半年は暮らせるほどの金額だから、村としたら、家族が1年は暮らせる金額になるんじゃないかな。まぁ使い方にも因るけど。
とりあえず、追加報酬の方は、今回は貰わない。って言ったら、泣きそうな目で安堵のため息を吐き出してた。そして、基本報酬の金貨一枚をもらって、雑貨屋に向かった。
でも、まぁ、山裾の村だから、大したモノがあるわけじゃない。店に並んでたのは、武器としては、小ぶりのナイフ、剣が一本、いくつかの斧ぐらい。武器というより、生活必需品だよねぇ。防具としては、分厚い皮のエプロンみたいな物だけ。盾も無かった。
うん、ここで装備を整えるのは諦めよう。
エイプリルに、2人に渡してもカルチャー的な負担にならないような装備を考えてもらうことにした。できればオーダーメイドで作ってもらう方向で。
その間、店の中で他に役立ちそうな物がないか物色してたら、一つの傷薬を見つけた。
固くて厚い木の実の殻を容器にした中に軟膏が入っている。
気になって、他を物色中のジェイを呼んだ。物色に飽きたレイミーもついてきた。
「これって傷薬らしいけど、ちょっと魔力みたいなモノを感じるんだ。ジェイはどう感じる?」
「え、魔力ですか?」
そう言って、手の平の上に軟膏を置いて、目を閉じた。
「魔力と言うより、もっと、根源的な力っていう感じです。こういう力は、たいていの物には宿っているものですが、これは、その力がかなり強いです。」
「力ある傷薬 って事かぁ。これは買いかな。」
念のため、他の軟膏もジェイに確かめてもらったが、同じ果実の殻の容器のものは、ほとんど同じように力を感じたそうだ。別の、貝殻に入れられた傷薬には力を感じなかったそうだ。
店にあった8個の内、6個を買って2個ずつにわけ、店の主人にその傷薬の製作者のことを聞いた。
傷薬は行商人から買ったものらしい。西の村から来た行商人で、定期的にこの周辺の村々を回っているそうだ。詳しいことは、その行商人に聞かないと判らないって事で、いつか余裕が出来た時にでも、ってことになった。
金魚の糞のようについてくる2人を、あれやこれやと引き剥がし、なんとか一人だけになって小型輸送艇と合流した。
俺を心配したエイプリルのせいで、小型輸送艇の中は、ガトリングガンや、ロケットランチャーなどが所狭しと置かれていた。その中に目的のモノを見つけ、一緒に置かれていた別のリュックに入れて持ち出した。
俺も着ている、防刃仕様の野戦服、軍用ブーツ、鋼線が縫い込まれたグローブ。
レイミーには、縦に伸ばした3角形の先端に剣を装着した形の盾。この盾の内側には、予備の軍用ナイフを2本装着してある。3角形と言っても、流線型で、卵型を縦に伸ばして半分に切ったような形に近い。左腕にがっちり固定するタイプで、盾の先端の剣はスライド式で収納も出来る。けっこうやりすぎたかな?
ジェイには、普通サイズの軍用ナイフと、丈夫で軽いというジェラルミン系統の金属を、ダンボールのように折り込んで重ねて頑丈にした丸い盾。
俺は変わらずだけど、銃の弾丸を銀にしたり、スタンガンを左腕の腕当てに直接装備できるようにして、左腕だけで銃とスタンガンを装備できるようにした。銃のホルスターも左用にチェンジ。右腕は、背中のリュックにくくりつけたままだったエイプリル特製の剣を、常に持っておくようにしつこく言われてしまった。
そして、全員に25センチ程度の長さの投擲用ナイフを10本ずつ、ホルスター付きでつけてもらった。投擲用としては大きめで、握って切りつけるのも容易なタイプ。銀で作ってある。
正直、野戦服、グローブ、ブーツだけでもかなりのオーバースペックだとは思うけど、ウェァーウルフを倒すために、自分たちが傷つかないためには必要だと感じた。そう、傷つかないために。怪我したら痛いじゃん?
2人に装備をつけてもらい、丸一日を使って、走ったり、模擬戦闘してもらったりして、慣れてもらった。特にきっちりサイズを合わせた軍用ブーツの履き心地については、お前何もんだよ、という目が痛かった。
間を丸一日空けて、ウェァーウルフとのリベンジマッチに出発。
集会してた神殿までには、ゴブリンの集団2つと戦闘になったが、もともと魔法だけで無双できる相手だから、レイミーの練習相手として散ってもらった。
そして、目的の神殿に近づいた時、そろそろ遭遇の警戒をするか? という所で、
「来たな? 待ってたぜぇ。」
という野太くでかい声が、茂みの中に響きわたった。
どこに居る? 探しても、目には見えない。もしかしたら、自分のすぐ後ろにいるんじゃないのか? とかいう疑念も湧き出る。
「なにやってやがる。さっさと来い! おとといの、あの場所で待ってるぞ。」
どうやら、100メートル程先から声をかけてきたらしい。なんちゅう声だ。しかも、その距離で俺たちの行動を把握しているらしい。まさしく化け物だな。
作戦も決めてない。なにか方針変更があれば、そのつど声をかければいいと思っていた。だけど、異様に耳がいいみたいだから、話したら全部筒抜けになるねぇ。簡単なハンドサインぐらいは決めておいたほうが良かったかも。でもまぁ、後の祭り。今は行くしかないか。
焦らないよう、でも早足で進み、廃墟を抜けて神殿の入口をくぐる。
以前よりも手前にあの男はいた。やっぱり全裸だった。
「ようこそ。じゃぁ、やるかぁ。」
問答無用だねぇ。
男は、半人半獣というレベルの変身をして、2足歩行で歩いて向かってきた。油断はない。さっさと決めようと言う焦りも無い。戦いを楽しもうと嬉しがっている、ってのはしっかり感じた。
先ずはジェイが、ここに来る途中までに唱え続けていた、繰り返し強化した呪文で第一撃を入れる。
「ファイアースネーク起動。」
あっさり避けられ、奥で待機するように命じられていたらしいゴブリンたちに命中した。そして、避けてバランスを崩しているはずとばかりに、俺とレイミーが切りかかる。レイミーが先で、俺がそのフォローとして切りかかったが、その剣の腹をコブシで払われた。
レイミーは少し弾き飛ばされて、多々良を踏んだが、俺は踏ん張り、剣の腹に叩きつけられたコブシに剣を押し付けるようにひねり込んだ。
そして剣の腹を殴っただけのコブシは、崩れるように弾けた。
エイプリル特製の俺の剣の特別機能、その1。
超振動ブレード。
剣は、刀身と刃の部分が別構造になっていて、その刃が超高速微振動する。平成日本の技術では再現できないほどの未来軍事技術だ。超高速微振動してるのに、ほとんどなんの音もしない化け物ぶりで、発砲スチロールを電熱線で切るように、分厚い鉄板も切り裂ける。
指の半分が吹っ飛んだ自分の手を見て、俺の剣が特別だと気づいたようだ。俺の剣をようやく警戒して、少し距離を置いた。
助かる。左手に持ち替えたせいで、命中率が落ちた銃を構えて。撃ちまくる。
ギャィン!
銀の弾丸が太ももに当たって、痛さに犬の悲鳴を上げて悶えている。鉛の弾丸の時は、かすり傷程度のダメージしか与えていなかったのに、今は、その痛さそのものに驚いているようだ。
このチャンスを逃すつもりは無いよ。
さらに銃を構えて銀の弾丸を撃ち込む。
「投げナイフを!」
2人に叫んで、俺は剣を床に突き立ててから、銃の弾倉を交換する。
ちなみに、床に突き立てた剣は、そのまま刀身を全部床の中に滑り込ませて、持ち手とつばの所だけが見えている。
投げナイフは、あまりしっかりは突き刺さらなかったようだけど、時間稼ぎにはなったようだ。銀の武器ってので、ここまでダメージを負うとは知らなかったんだろうな。残忍なようだけど、それに付け込ませてもらおう。
剣は床に突き刺したまま、右手に握った銃で銀の弾丸を頭部に撃ち込んでいく。たっぷり打ち込んだ後、超振動ブレードで、首を切り落とした。ついでに、手足、腹を切り落としていく。俺を見る2人の視線が痛いよ。
司令官役の男が死んで、待機しろという命令が無効になったと思ったんだろう。ゴブリンたちが、こちらに向かって襲い掛かってきた。
でも残念。結局雑魚だった。ほとんどを魔法で無双して、あっという間に静かになった。
3人が一息ついて落ち着いたので、ウェァーウルフの検証をすることにする。2人にとっては、結局ちょっと強いだけのモンスターにしか見えなかったらしいからね。
ちょっとグロいが、脳みそグチャグチャの頭を覗き込むと、脳みそが脈動して銀の弾丸を排出しようとしていた。
「なんだこれ。」
さすがにジェイも脅えて、涙目になっていた。
今回は眼球もつぶれているので、睨んでは来ないんだけど、本来なら死んでるはずの肉塊がヒクヒクと動き、あまつさえ、首と胴がつながろうと蠢くのを見て、ドン引きする。
銀の弾丸でも死に切れないのか?
俺は銀のナイフでウェァーウルフの脳みそと心臓を切り出し、銀の箱につめてフタをしてワイヤーをグルグル巻きにしてカバンに収納した。
あとでエイプリルに頼んで、太陽に向かって打ち出してもらおう。途中で蒸発するだろうけどね。
脳と心臓との連絡が出来なくなったせいかな? ウェァーウルフのバラバラの体は、再生が止まっていた。蠢いてもいない。このまま、ゆっくり朽ちていくことになるのかな。他の動物が食べてなくなるのかな、と考えて恐ろしくなった。
「ジェイ、念のため、念入りに燃やしてくれないか? 肉片を他の動物が食わないように。」
「あ、はい、そうですね。燃やし尽くせればいいんですが、やってみましょう。」
[燃やし尽くせ]という所を念入りに繰り返して、ジェイが火の魔法を放つ。
燃え続けている炎を見ながら、ジェイが聞いてくる。
「あの不死身の再生力ってなんなんですか? 実際に見るまで信じられませんでした。」
レイミーも頷く。レイミーは出来るだけウェァーウルフに近づかないポジションをキープしていた。
「俺も詳しくはないんだが、俺の聞いたところでは、死者の呪いのたぐいらしい。だから、ウェァーウルフは呪われた人間の末路ってことになるのかな。」
「呪いですかぁ。しかも死者の。それなら納得できそうです。まだ、あまり信じられんませんが。」
「本当かどうか、確実性は低い知識なんだけどね。その知識だったら、銀の弾丸で撃ち殺せるってことだったのに、とどめは刺せなかったしねぇ。」
まだ脅威の再生力が残っているのか、炎はなかなか消えなかった。それをただ待つ事もないので、神殿のゴブリンがたむろしていたあたりを散策する。
台座やテーブルらしきものが置かれた先には、飾り立てられた、まるで御神体を祭るための台があり、そこには小さくみすぼらしい、木製と思しきワイングラスのような形のカップがあった。中身は何も入っていない。
これが目的だった?
わざわざウェァーウルフがゴブリンを率いて、しかも数日留まっていた目的が、これなのかな?
なにげに手に取って眺めてみる。
よく見ても、単なる木で作ったグラスっていうか、カップだねぇ。木でこういう足を付けるのって、単なる酔狂でしかないはずだよね。
同じ場所に置いて、他に何か無いか探してみる。でも、それらしきモノは何も無かった。
ふと、ゴブリンがなにか持ってるのかも? と思ったが、風魔法でズタ切りにして血の海に沈んでいる肉塊を弄り回すのはイヤだった。
ジェイの所に戻ると、まだ燃やしていた。追加で呪文をかけていたので、俺も程ほどにだけど、同じ魔法をかけておいた。
ようやく納得できる程度に炭にして、少し離れた場所で干し肉をかじり、水を飲みつつ休憩の時間をとった。
「さて、どうしますか?」
ジェイが聞いてくる。もうすっかりパーティのリーダーになったな、俺。
「神殿には、なんかのカップが在っただけで、あの連中の手がかりらしいものは何も無かったんだよねぇ。」
「カップですか? なにかの魔法の道具ですか?」
「いや、なんか使い込んだ、古い木製のカップ。ワイングラスみたいな形で足のあるヤツだけど、特に魔力とかも感じなかったな。でも、それなりに大事そうな置かれ方はしてるんだよねぇ。」
そんな話をして、そのカップの置いてある所に3人で行った所、ものの見事に何も無かった。
「あれ?」
「なにも、ありませんね。」
3人で隅々まで探してみたけど、結局なにも見つからなかった。
ほとんど、訳がわからずに、これ以上は調べる事もないということで、村に帰ることにした。
村長には、とりあえずの危機が去ったかもって事を伝えて、出来れば王都宛に騎士団の巡回を頼んだ方がいいと進言するつもり。まぁ、王都も村長も動かない可能性のが高いか。
帰りはゴブリンの襲撃も無く、一度の戦闘も無く帰り着いた。
「そういえば、普通に狩れる動物も居なかったな。ゴブリンに狩り尽くされたのかな?」
「そうですね、あれだけの数のゴブリンが居たんですから、相当減っていると思います。村での食料が不足する可能性もありますね。そろそろ冬の備蓄を始めないとならない時期ですから、心配です。」
食料が捕れない時のための村の蓄えだよな。討伐に金を出せなんて、村長には2重の意味で打撃だったわけだ。出し渋るよねぇ、当然。
で、結局村長と話してみたが信用されず、どちらかと言うと英雄に成りたがっているマッチポンプ扱いにされた。確かになんの証拠も、証人もいない。物証としての銀の箱に入った脳みそと心臓はあったけど、そんな物があることすら、知られてはいけないと思って、二人にも黙っててもらうことにしていた。
まぁ、俺たちは旅の傭兵、仕事が無ければ他の土地に移動するだけ。そういう立場として、村を去ることにした。
ほとんど儲けにならなかったから、次はたっぷり稼ぐ方向で。俺はともかく、レイミーと、特にジェイはそろそろ、しっかり稼がないとね。そうすると、領主とかが居る、街や、都ってことになるんだけど、どっちも遠いから、とりあえず傷薬の情報を仕入れに西の村に向かうことにした。
ジェイはしばらくは村の周囲を警戒するために残りたいと言っていたが、それのせいで、さらに金欠になるのを見るのは忍びなく、強引に連れ出し、一緒に行動してもらうことにした。




