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#005 生徒会と『読書部』

バタバタも色々落ち着いたので、また投稿を再開。

一日一話ペースは難しいですが、最低三日更新を目処にしています。


お待たせして申し訳ありませんでした。




 二学期の始まりから、何かと問題だらけの予感しかしない俺達の日々は、その次の日もまた新たな火種を投げ込んできた。


「――と言う訳で、ウチのクラスでも『聖燐祭』の実行委員を決めたいと思います」


 どういう訳で、と言いたくなる気分だ。

 何せ目の前に配られたのは、夏休み前にも目にしたような問題用紙と答案用紙の二枚。

 各科目の重要なポイントをまとめた小テストが置かれている。


 ウチの学園は成績優秀な元お嬢様学園。

 そんな過去の風習もあってか、実行委員などに立候補する生徒は少なくない。

 理由は単純に、内申点が大きく響く可能性があるからだ。

 そういう意味では生徒会は一大目標の一角であるのは間違いなく、こうした祭事の実行委員なども然りだ。


 では何故テストが配られているのか。

 それも単純な話で、成績十分な生徒のみが立候補出来る権利を得られるという、普通の学園ではまず有り得ない考え方が関係している。


 もちろん、こうしたテストは成績に直接は響かない。

 だからと言って低い点を取れば、夏休み期間中に学力が落ちたのだと教師に見られる。

 何より、ウチの学園の特待生はこうしたテストを落とすような真似はしないだろう。


 つまり、皆本気で挑む可能性が高い。

 まったくもって健全な学園であるとしか言えない。


「では、始めてください」


 教師の声に、クラス中で裏返されていた問題用紙が表へと向けられる音が奏でられた。

 それに倣って、俺も早速問題用紙を表へと向ける。

 俺もまた、この学園生活で成績を落とす訳にはいかない一人だ。


 問題を解きながら、答案用紙に答えを記入していく。

 やはり各科目の重要なポイントがまとめられているだけあってか、普通のテストよりは簡単だと言えるだろう。

 出来て当然、出来なければ復習しなさいと告げられているようなものだ。


 ふと動きを止めて耳をすませば、後ろからは僅かな唸り声が聞こえる。

 鈍感系主人公にはこういうテストは絶望的なんだろうか。

 いっそ留年でもしてみると良い。




 三十分という短い時間でテストは終わりを迎えた。

 やりきった表情を浮かべる生徒もいれば、頭を抱える生徒もいるらしい。

 当然、俺の後ろには後者の存在がある。


「なぁ、悠木――」

「――来年は学年が違うのか。残念だな」

「っ!?」


 普段から勉強してない人間の「出来が悪かった」発言は、聞くに堪えないので流す事にする。

 まぁ、俺も特待生じゃなければそっち側にいたとは思うが。











 今日の授業は比較的楽なもの――というより、復習がメインだ。

 おかげで小テストの連続だった。

 巧がどうなったかは敢えて語るまい。

 語る意味がなく、当然誰もが想像出来る結果であった、と言えば良いのではないだろうか。


 ともあれ、そんな一日を過ごし、部室についた俺は改めてレイカの出した提案を思い出していた。


 ――聖燐学園生徒会。

 何故レイカが俺を誘ってきたのかなんて俺には解らないが、誘われた以上は興味が出ない訳じゃない。

 ただし、生徒会に入れば『読書部』を辞める事にはなるのだが。


 生徒会活動をしながら部活に所属するというのは禁止はされていない。

 だが、正確に言うならば不可能だ。


 ウチの学園の生徒会は、毎日のように放課後に集まらなくてはならない。

 学園の校則などの多くは生徒会によって毎年見直され、小さなものから変更が加わっている。

 そういった意味で、実質的な権力を有する生徒会であり、生徒会の総意は一教師の権力を大きく上回る――とまではいかずとも、一教師と同等程度には見られている。


 過去にセクハラめいた行動をする教師が、生徒会によって糾弾されて退職を言い渡された事などもあるそうだ。


 確かに魅力的なポジションではある。

 だが俺を生徒会に入れようなんて、生徒会にとってはあまりにもリスクが高く、メリットがない。

 一年前の噂を知っていれば、なおさらだろう。


「悠木先輩?」

「ん……、何だ?」

「なんか考え事してるです?」


 俺の顔を覗き込んでいた瑠衣が声をかけてきた。

 どうやら顔に出てしまっていたらしい。


「まぁちょっと、な」

「……どうしたです? 真面目に悩んでる顔なんてちょっとレアです。いきなり雪でも降りそうなぐらいの天変地異が起きそうです」

「おいお前、今しがた心配してくれているのかと感心した俺の心を返せ」


 外はまだまだ夏真っ盛り。

 なんと失礼な。

 俺のツッコミに「冗談ですよー」と笑いながら、瑠衣が俺の近くに椅子を引いて腰かけた。


 まだやっぱり、巧に対してどう距離を取れば良いのか迷っているのだろうか。

 なんとなくぎこちない雰囲気はまだ残っている気がする。


「よし、瑠衣。今日のジュースを賭けて勝負しようぜ」

「や、やめといた方が良いですよ……?」

「お、なんだその自信。まさか占いで一位だったからと今日の自分なら勝てるとでも思ってるのか」

「……いえ、いつも奢ってもらってるので、悠木先輩の懐が寒い時ぐらい私が出すですよ……っ」


 ………………。


「いや、お前それ、まるで俺が外聞を気にしつつお金のなさから勝負を持ちかけたみたいな言い方にしか聞こえねぇじゃねぇか」

「……? 違ったですか……? あ、そういう事にしといた方が良いんなら――」

「――おいやめろ。お前の妙な勘違いで雪那と水琴から凄く冷たい視線が突き刺さる」

「……悠木クン、飲み物ぐらい私が――」

「――お前はお前で真顔で便乗しないでくれないか、雪那」


 明らかに確信して便乗してきた雪那にツッコミを入れる。

 ケタケタと笑う瑠衣に「とにかくジュース買いに行くから手伝え」とだけ告げて、俺は瑠衣を連れて部室を後にした。




「それで、どうしたですか?」

「あ? 何がだ?」

「わざわざ私だけ連れて来た理由です」


 相変わらずの蝉の鳴き声が遠く聞こえる、放課後の学園の廊下。

 眩い陽光とじわりと汗が滲む暑さの廊下を少し歩いたところで、瑠衣が尋ねてきた。


「あー、まぁちょっとした気分転換、だな」

「……私に気を遣ってくれてるなら、そこまでしてくれなくても大丈夫ですよ?」

「いや、今回ばっかりはお前をダシにしたようなモンだ。気分転換したかったのは俺の方だな」

「何かあったですか?」


 所在なく頭を掻きながら呟いた俺に、瑠衣が小首を傾げて尋ねてきた。


「ダシにしたって言ったのに、怒らないのな、お前」

「たまには聞く側にまわってあげるですよ」

「……そりゃどうも」


 とは言ったものの、何を話せば良いのやら。


「瑠衣、部活続けるのか?」

「……それ、結局私の話になっちゃうです」

「俺の悩みどころもそれなんでな。別にお前だけの話を聞こうなんて殊勝な話じゃねぇよ」

「じゃあ悠木先輩、辞めようと思ってるですか?」

「……まぁそうなるわな」


 予想通りの開始に苦笑しつつ、俺は瑠衣から視線を外した。


「実のところ、生徒会に誘われててな。どうするかなって考えてただけだ」

「……生徒会……?」

「あぁ。ただウチの学園は生徒会に入ったら部活との両立なんて出来る気がしねぇからな……」


 いまいち理由を理解していない瑠衣に、生徒会の説明をした。


「……うーん、難しいですね」

「だろ? まぁ『読書部』に入ったのも成り行きだったからな。辞めても良いかもしれないとは思ってるんだけどさ」


 もともとは篠ノ井に誘われ、鋼鉄の意志を曲げてまで入部した部活だ。

 今とあの時じゃ状況は違う。

 だからと言って、生徒会に入れば俺の一年前の噂が面倒臭くまとわりつく気もする。


 簡単に、俺には生徒会なんて柄じゃないと濁しながら瑠衣へと説明を続けると、瑠衣は少し逡巡した様子で歩みを止めた。


「……悠木先輩が辞めたら、きっと『読書部』は解散しちゃうですよ」

「は?」


 階段を数歩下りて振り返ると、瑠衣が寂しそうな表情を浮かべて呟いた。


「私も原因の一部だと思うですけど、今のウチの部はちょっとバラバラです。悠木先輩がいなくなったら雪那先輩も辞めると思うですし、ゆずさんも巧先輩も辞めると思うです。それにきっと、私も辞めるです」


 予想していなかった言葉に、すっかり俺は止まってしまった。


 確かに、今の『読書部』はバラバラだ。


 巧と篠ノ井の追いかけっこのような恋愛も今は鳴りを潜めているし、瑠衣は玉砕した。

 雪那も元々俺との接触も図って『読書部』へと入った訳だそうだし、今では寮やスマフォでやり取りだって出来る。


 なるほど、確かに瓦解しかねない。


「……私は……、私は悠木先輩にはいて欲しいです。夏休み前みたいに馬鹿なこと言い合って大騒ぎしていたあの雰囲気が好きです」

「……そっか」

「でも、悠木先輩が将来の為に生徒会に入るって言うなら、それは私のワガママですから。止めたりは出来ないです……」


 ……コイツは、本当に良い子なんだろうな。


 階段を改めて上って、項垂れていた瑠衣の頭に軽いチョップを落とし、瑠衣の顔をあげる。

 キョトンとした顔でこっちを向いた瑠衣は、その大きな瞳に涙を溜めていた。


「決めたわ。生徒会には入らねぇよ」

「……でも、もったいないです」

「お前なぁ。そこまで止めておいてそれを言うか」

「そっ、それはしょうがないのです! 苦渋の決断だと思えば――」

「――言っただろうが。俺の柄じゃねーよ、生徒会なんて。俺に全生徒の代表になれなんて、そんなの託す方がおかしいっつーの」


 瑠衣の泣きそうな顔を見ているというのも無理な話で、俺は再び振り返って階段を下り始めた。

 その後ろで、瑠衣は笑顔で告げた。


「それもそうですね!」

「よしジュースお前が奢れよ」

「っ!? じょ、冗談です! 私だってそこまで余裕がある訳じゃ……! ちょっと、悠木先輩!」


 あっさり肯定されるのも、ちょっとムカついた。


 ともあれ、水琴への怪文書の件もあるしな。

 生徒会なんて入るのは、やはり辞めておくべきだろう。


次話 5/12 18時


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