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#002 実態調査

「――部活動実態調査、ねぇ」


 あの後すぐに雪那に呼ばれ、俺と美堂さんは何事もなかったかのように椅子へと戻った。


 ぼやいた巧が美堂さんから渡されたプリントに目を通しながら、それを篠ノ井へと手渡した。


 ……篠ノ井と瑠衣が一緒になってプリントを覗き込んでいる。

 あの二人に何があったのかと考えると、ああして顔を寄せ合う姿はどうにも胃が痛くなるんだが。


「共学化した私達の年代で、人数が極端に減って半休止状態になってしまった部活が多いのよ。今年度の生徒会はそういった無駄を廃し、しっかりと聖燐学園の伝統に則った部活かどうかを調べて回ることになったんです」


 美堂さんが巧に向かって説明した。


 ようやく俺のもとへ瑠衣からプリントを渡され、雪那と一緒に覗き込んだ。

 やっぱりと言うべきか、そこには多くの幽霊部の名前が挙げられており、そこには俺達が所属している『読書部』の名前もあった。


「5人以下の部活は部室を撤収、か。だったらウチは問題ないよな」

「あら、ここには5人しかいないけど?」

「あ……。そういや水琴のヤツまだ来てねぇな……」


 美堂さんに言われて、ようやく水琴がいない事に気が付いた。

 よくよく考えてみれば、アイツが入部したのは夏休みに入る直前ぐらいだったし、入部届は出したのかね。


 ……ん?

 ウチの部活、顧問って誰だ?


「なぁ、巧。ウチの部活の顧問って誰だ?」

「あぁ、みーちゃん先生な」

「……は?」

「ほら、悠木クン。私達が補習受けるって決まった時に声かけに来た先生いたでしょ?」


 …………はて、誰の事だっただろう。


「……わ、私とキャラが被ってるって悠木先輩が言った先生なのですよ」

「あぁ、あの小さい先生か」

「……な、なんか今のは不意に思い出したフリをしながら馬鹿にされた気分がしたですよ……!」


 バレたか。


 あのおっとりとした小さな先生。

 あの先生がどうやらこの『読書部』の顧問の先生だったらしい。

 俺が入部するに至った時は入部届も巧と篠ノ井が出しに行ってたし、知らなかったな……。


「先輩達がそう呼んでたんだよ。って言っても、俺達も滅多に会わないんだけどさ」

「へぇ、そっか。まぁあんまり出て来られても困るよな。部活の状況が状況だし……、何より瑠衣とキャラ被ってるしな」

「っ!? ね、狙って被ってる訳じゃないですよ!」

「……あの、そろそろ続けても良いかしら?」


 俺達のいつもの展開に、美堂さんが呆れながら声を発した。


 二学期になって生まれ変わった新生徒会。

 まさか編入生が生徒会長に選ばれるなんて思いもしなかったが、さすがは聖燐学園とでも言うべきだろうか。

 美堂コンツェルンの令嬢である彼女ならばと推薦した生徒も多かったんだろう。


 レイカ。

 俺があの7年前の夏の終わりに知り合った、一人の少女。


 小さい頃は『外人レイカ』と俺が呼んでいたんだが、当時名乗っていた苗字は海外特有の、しかも憶えにくい名だった。

 だから俺は『外人レイカ』として憶えたんだが、あの頃のレイカと今の美堂さんじゃ気付けって方が無理な話だ。


 何せ、小学生の頃ってのは女子の方が背が伸びるのが早かったりもする。


 俺も別に背が低い訳じゃないが、レイカは特に背が高く、海外の血も相俟ってか大人びた印象の方が強かった。


 今なら同い年ぐらいだろうとは一見して区別もつくが。

 小学生の頃の俺の印象が払拭されるまで時間かかったのは、そういう部分のせいだろうか。


「――悠木クンもそう思わない?」

「あ? 何が?」


 あ、なんだか真剣な面持ちの皆さんから視線が集まってる。


「聞いてなかったわね」

「悠木先輩、聞いてなかったですね」

「悠木、ちゃんと聞いておけよな~」


 雪那と瑠衣に言われるのは分かる。

 だが巧、お前にだけは言われたくない。


「悪い、考え事してたわ」

「……『読書部』の部室について、よ。必要でしょう?」


 少し苛立たしげに雪那が説明してくれた。


 どうやら、この部に部室が必要かどうかを問われているらしい。

 話を聞きながら美堂さん――いや、もうレイカで良いか。レイカと目が合って、レイカは笑顔を作り上げた。


 その姿に見惚れそうになったその瞬間、雪那に睨み付けられた。

 はい、真面目に考えます。


「……いや、うん。なくなったら困るのは確かだな」

「ただ本を読むだけなのに?」

「この場所で本を読んで、この場所で話し……いや、情報交換をするのが『読書部』の活動だからな」

「そう。じゃあ『読書部』は存続で良さそうね。一応もう一人もいるみたいだし」


 あっさりと引き下がったレイカが何やらメモ帳に書き込みながら答えた。

 こういう展開って普通、廃部の危機に追いやられるフラグじゃないのか。


「存続で良いのか?」

「えぇ、別に問題ないもの。それとも、廃部に追いやられるようなマンガみたいな展開がお望みだったの?」

「いや、そういうのはちょっと面倒だと思っただけだ」


 マンガみたいな、か。

 どちらかと言えばラノベみたいな、とでも言った方がしっくり来るんだけどな。


「人数も部活の稼動状態も特に問題なさそうね。良かったわ」

「良かったって、何が?」

「着任早々に嫌な役をしなくちゃいけないんだもの。何もなく穏便に過ぎてくれるのに越したことはないわ」


 確かにレイカの言う通りだ。


 ――でも例えば『読書部』が廃部にならなくちゃいけないってなっていたら、巧と篠ノ井、それに瑠衣は一体どういう方向に進んだんだろうか。


 俺と雪那はそのまま部に所属しなくても問題はないが、こっちの3人はそうはいかない。

 今のまま廃部なんて流れになったら、そのままバラバラになってしまう気がする。


 そういう点では、俺自身の本音としては今のままであってくれた方が嬉しいのかもしれない。


「じゃ、聖燐祭までに演し物決めておいてね。やるにしてもやらないにしても、ちゃんと提出してもらわないと困るから」

「あぁ、そういえばこんなのもあったわね」


 雪那がレイカからプリントを受け取って呟いた。


 聖燐祭とは言うが、ただの学園祭みたいなものだ。

 そういえば去年は男子の出番があまりにもない学園祭だった気がする。


 元々格式ある女子校だった聖燐学園による聖燐祭は、文化的な発表の場として扱われる事なども多く、そのイベントは高校生としては退屈なものだった。

 その為、一年生の男子は各学年の手伝いに回され、しかも面白みのない2日間を過ごしたんだったか。


 学園祭と言えば、出店なんかをやったりバンドや漫才をやったりとか、そういったイメージがあったんだが、そういった部分はあまりにもかけ離れたものだった。


 しかしどうやら、今年は出店などもやる許可も出て、生徒達のテンションもすでに上がっている。


 始業式が終わったばかりだと言うのに、気が早いな。


「ごめん、忘れてたよー」


 あはは、と所在なく苦笑がちに姿を現した水琴が、部室を去っていくレイカとすれ違うように入ってきた。

 軽い挨拶を交わして椅子に座るが、その表情は妙に暗いというか、強張っているというか。何かあったようにも見える。


 何事もなかったかのように振る舞う水琴とも合流して、俺達は聖燐祭で何をするかと意見を交換する事にしたんだが、その最中。

 突如俺のポケットに入れていたスマフォにメッセージが届いた。


『ちょっと相談があるんだけど、今日寮に戻ったら悠木クンの部屋に行って良いかなー?』


 ――件の水琴からだった。

 グループメッセージになっているそれは、俺ともう一人。雪那の名前も表示されていた。












 まだ太陽が傾き始めたばかりの頃。

 各自聖燐祭でやる演し物について案を考えてくるようにと話した俺達は解散した。


 寮へと戻っている最中、やはり俺と雪那は水琴に対して先ほどのメッセージについて気になり、言及する事になった。


「それで……。一体何だよ、相談って。夏休みの宿題が終わってないからって泣きつくなよ」

「あはは、そういうのじゃないんだよねー……。というか、さすがに私だって宿題はなんとか終わらせたよ。一応特待生の一人なんだし」

「なら相談って何?」


 確かに特待生の一人ではあるが、水琴の場合は特待生らしさが足りない。


「いやね、ちょっと外じゃ話しにくいんだよねー……」

「寮のロビー……は人がいるか。まぁ別に部屋に来る分には構わねぇけど」

「……でも、一応男子と女子の寮の部屋の行き来って校則では禁止されてるのよね」

「まぁ今更だよな……。別に巡回して調べるような感じでもないし、問題は起きてないとは思うが」


 実際、俺の部屋には『読書部』の女子は全員一度は訪れている訳だが。

 というか俺の部屋が溜まり場みたいになっている気がする。


 最初の頃は女子が来る度に胸踊らせていたというのに、そういうのは慣れてしまうと特に何も感じなくなるもので、俺もさすがに胸を高鳴らせる事はなくなった。

 大人の階段を登った訳でもないのに、人は慣れるものらしい。


「とにかく、悠木クンの部屋に集合かしらね」

「あぁ、そうなるな」

「ごめんねー。ちょっと一人で考えてはいたんだけど、色々と厄介というか……。というか悠木クンの部屋でも、本音言うと少し不安なんだけど……」

「そうね。悠木クンの視線が一点に集中する可能性があるわ」


 …………。


「ね、ねぇ、悠木クン。否定するとかしないのかしら……」

「何を言ってやがる、雪那。男は下心がなくても視線がおのずと向かってしまうものであってだな」

「開き直り過ぎだよね……」


 水琴の呆れ混じりの言葉が胸に突き刺さった。




 ようやく寮が見えて来て、俺達は不意に足を止めた。

 寮の前には大きなトラックが停まっていて、何やら荷物を運び入れている最中のようだ。

 お世辞にも引っ越し業者には見えない、ワイシャツ姿の男達が次々に寮の中へとダンボールを運び入れている。


「……何だ、あれ」

「さぁ……。引っ越してきた、と考えるべきじゃないかしら」

「……この時期に、ねぇ……」





 二学期早々、何やら事件が起こりそうな気配が漂っている気がした。

作業に追われる日々……。

もうちょっと更新速度あげれるようにしたい所です。

せめて3日に一話程度は……。

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