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あの夏を僕らはまだ終われずにいる  作者: 白神 怜司
第二部 二章 『日和祭り』
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#009 ヒーローじゃない

 あの後、巧に声をかけて篠ノ井と一緒に帰る際に、巧にはただ一言「悪いな」とだけ謝っておいた。

 篠ノ井の後ろ姿に何かを感じ取ったのか、巧はそれを聞き入れると何かを言おうとして口を開きかけたが、結局は何も言わずに篠ノ井を連れて歩いて行った。


 冷静になって今なら思う。

 俺、刺されてなくて良かった。


「悠木先輩、どうしたですか?」

「いや、俺の腹部に三角形の穴が空いてなくて良かったな、と」


 小首を傾げる瑠衣にはさすがに刺されなくて良かったなんて言えるはずもなく。


「……はぁ。ったく、ホント損な役回りの多いこと」


 いつもいつも、俺が熱くなるのは損な役回りだよな、と思ってしまう。


 巧に俺の右手が唸りをあげた時は篠ノ井と巧の関係の為に。

 そして今回は、篠ノ井のヤンデレを矯正する為に。


 俺が熱くなる時、いつもあの二人が絡んでいる気がするのは俺だけだろうか。

 どっちも俺が得をしないというジレンマ。

 やっぱり俺って親友キャラがお似合いなのかもしれない。


 もしも何かに襲われたり戦いに巻き込まれたら、、主人公キャラこと巧に向かってこう言うんだ。


 ――「バカヤロウ、俺に構ってる暇があったら、アイツの所へ行ってやれッ」って。

 そしてサムズアップして、「帰ったら何か奢れよな」とか言っちゃうんだ。


 ……何これ、自爆フラグ。

 死にかけながら手榴弾のピンとか抜いちゃってるのに倒せないパターンだよ、これ。


「おい瑠衣大変だ。俺このままじゃ手榴弾使って無駄死にする」

「何言ってるのか解らないですけど、自爆テロみたいな真似しちゃダメですよっ!?」


 おっと、通じてなかった。

 自爆テロとか、そういう発想に飛び火するのか。


 空の太陽が傾いてきて、川原に落とした俺達の影が伸びていく。

 ひぐらしの鳴き声と川のせせらぎを聞きながら、俺達は何故か川の水に裸足で足を突っ込んだまま何も喋ろうとはしなかった。


「悠木先輩が損な役をしてる時は、誰かの為の時だけだと思うですよ」


 連続するひぐらしの鳴き声が止んだ瞬間、瑠衣がそんな言葉を口にした。


「どういう意味だ?」

「悠木先輩は、誰かの為じゃなきゃ損な役もしないです。それに、その相手の為を思ってるから、そういう役が出来ると思うですよ」


 瑠衣はまっすぐ川を見つめたまま続けた。


「あの時、雪那先輩とゆずさんの家の事情についてもそうだったです。誰かの為に何とかしようって、それがもしかしたら、自分に矛先が向きかねない言葉を用いてでもそうしようとするです。そこまでして誰かの為に動ける人って、あまりいないと思うですよ」

「はは、買い被り過ぎだろ、そりゃ。俺は基本的に美少女にはイエスマンだぞ? そんな真似出来る様なヒーローじゃねぇんだけどな」

「確かに悠木先輩はヒーローって感じじゃないですね」

「おい、あっさりと――」

「――ヒーローなんて曖昧なものじゃなくたって、悠木先輩はカッコ良いと思うですよ」


 瑠衣が俺の方へと振り向いて、そんな言葉を口にした。

 その顔には、満面の笑顔を張り付けて。


 やばい、こいつ思ってた以上に可愛い。

 久しぶりに俺の好感度パラメータが急上昇した気がする。

 俺チョロい。


「……まぁ普段の性格に難ありって感じですけど」

「っ!? お前ちょっと今の俺の感動と好感度返せ」


 くだらない話をしながら、俺と瑠衣はいつも通りに笑って話していた。

 瑠衣と一緒にいるのも、なかなか楽しいもんだ。





 帰りは何だかんだと話し続けてしまったせいで、思ったよりも遅くなってしまった。

 とりあえず瑠衣の家の方面まで送って行く事にした。

 何故って、そりゃあれだ。

 この小さい子は誘拐されかねない気がしたからだが。


「悠木先輩、私だって高校生なのですよ。そんな小さな子供みたいな扱いをされるのは不本意極まりないのですよ」

「いや、そうは言うけどな。ほら、今ってお盆だろ?」

「……そうですけど」

「色々と出るからな……」


 ………………。


「死ねば良いです死ねば良いです! 悠木先輩は一度その性格を矯正するべきだと思うですよっ!」

「何言ってるんだ、瑠衣。俺はお前を怖がらせる為にそんなセリフを口にしたんじゃない」

「よくもまぁそんな嘘がつけるもんですっ! そのにやけ顔で言っても全く信憑性に欠けるとしか思えないですよっ!」


 おっと、つい顔がにやけてしまった。

 そんな俺に抗議している最中に、瑠衣のスマフォが鳴った。どうやら電話がかかってきたらしい。

 瑠衣は「ちょっと電話です」と言って電話に出て話し始めた。


 他人の電話の内容って、聞いちゃうよな。

 何でだろうな。

 返事から内容をつい想像してしまう。


「……え、明日? で、でも……」


 ちらりとこちらを見て瑠衣が何かを言おうとしていた。

 明日と言えば埋め合わせのやり直しが予定されているんだが、まぁここは助け舟を出してやろうじゃないか。


「別に予定があるなら他の日で良いと思うぞ。お前に合わせるから」


 なるべく電話越しの相手に聞こえない程度に小さな声で告げる。

 電話相手に気を遣わせるのも気まずいだけだしな。

 瑠衣が頭を下げて「ありがとうです」と口パク気味に伝えてから、了承を伝えていた。


 ようやく電話が終わり、瑠衣がこちらを見た。


「ありがとうです、悠木先輩。それに、何だか気を遣わせちゃってごめんなさい……」

「気にすんな。年寄りの俺には連日遊ぶのが少々身体に障るだけだ」

「と、年寄りじゃないと思うですよ……。というか、それじゃまるでお爺ちゃんです……」

「縁側でお茶を飲むってのは憧れはしないが、一度ゲートボールぐらいはやってみたい気がする」

「……悠木先輩の趣向が謎なのですよ」


 呆れ気味に瑠衣に言われた。


「友達と出掛けるのか?」

「はいです。聖燐で同い年の子と出掛けるのは初めてなのです」

「……お前友達いないのか」

「……そうかもしれないです」


 おっと、冗談のつもりでいつものツッコミを待つつもりが、肯定されるとは思わなかった。


「中学生の時から、友達らしい友達もいなくて。私、身体弱いですから、それを利用するみたいに周りの子達に接したりもしてて。それが原因で、天狗になってたです。巧先輩と初めて会った時はその事も関係してたですよ」


 なるほど、巧はしっかり中学生にしてフラグメイカーだった訳だ。


「でも、難しいです。どこまで、どうやったら自然に友達が作れるのか、私にはちょっと難しいみたいです。それに、この小さい見た目のせいで周りも何だか特別扱いしてきて」

「特別扱いねぇ」

「だからむしろ、悠木先輩みたいに素直にからかってくれるのは気が楽だったりするのです」

「ほう、それはつまり俺にもっと身長ネタで――いや、何でもない。何でもないから俺の足を踏むのをやめろ……ッ!」


 







「…………永野クン……」

「……おぉ、誰かと思えば茅野クンじゃないか」


 夜の寮へと戻って来た俺の前に現れたのは、あの華流院園美の誕生日パーティー以来すっかり姿を見せなくなっていた外野クンだった。

 なんだか酷く憔悴している様に見えなくもないが、一体どうしたんだろう。


「そういえば、あのパーティー以来だな。旅行でも行ってたのか?」

「……あぁ、うん。あれを旅行と言うのなら旅行なのかもしれないね……。むしろ拉致された気分、とでも言うべきだったかもしれないけど……。聞いてくれるか?」

「断る」

「っ!?」


 他人の不幸エピソードを聞いても面白くないと判断した俺は、外野クンに「じゃ、おやすみ」とだけ伝えて自室へと戻った。

 何か後ろで騒いでいた気がしたが、この際気にする必要はないだろう。




 部屋へと戻った俺はシャワーを浴びてさっぱりしてから、スマフォを操作した。


「……うおっ」


 色々な相手からメッセージが届いているんだが、一体何事だ、これ。


 まずは瑠衣から。


『明日ごめんなさいです。なので、今度はこっちが埋め合わせする番ですから、楽しみにしておくと良いですよっ!』


 うん、何で最後ちょっと上から目線なのか解らないが、瑠衣らしいメールでデコレーションされた動物が踊ってる。

 こういうの、女子らしいよなー。

 了解と返事を返して次を見る。


『ゆずと何があったんだ? なんか落ち込んでるんだけど』


 ……あぁ、うん。これはどうすれば良いんだろうか。

 いっそ巧にヤンデレ矯正させようか。


 それが一番良い。

 そもそも篠ノ井と俺って巧経由の繋がりだしな。

 まぁ俺の部屋に来た事がなかった訳じゃないけど。


 ならなんて伝えれば良いんだ?

 お前の幼馴染、一歩間違えたら包丁でサクッといっちゃうタイプだぞ。

 いや、これはないな。何の猟奇殺人映画だよ、これ。


 ヤンデレって言って通じるのか?

 ……怪しいな。

 これも一応候補には入れておくべきかもしれないが。


 そもそも篠ノ井がヤンデレって知ってるのって、俺と雪那だけなんだよな、多分。

 よし、じゃあ話があるって事で呼び出すか。


 ――――と思ったら、篠ノ井からメッセージが来た。


『今日はごめんなさい。私、ダメだね。もうちょっとしっかりしなくちゃって思ってたのに』


 ……うーん、ヘヴィーな内容だぜ、篠ノ井さん。


 よし、ここは飴と鞭で行こうじゃないか。

 篠ノ井にとっての飴は巧だろう。

 ちょっと巧を使って篠ノ井のダークサイドを封印してもらおう。


『篠ノ井にはちょっとキツい事言ったんだよ。内容はともかく、お前に関係する事でな。とにかく篠ノ井から話し聞いてみろよ。俺から言う事じゃねぇから』


 送信、と。


 ……あれ、何この俺の親友ポジション全開なセリフ。

 篠ノ井フラグ回収ルートの補佐になってる予感。


 ま、良いか。

 篠ノ井から巧がうまく話を聞いてくれれば別に……って、あの鈍感系にそんな能力あんのか……?

 しかし送ってしまったものは取り消せない。

 なのでもう知らん。


 おっと、篠ノ井にも返信しなくちゃな。

 どうしようか、何を返せば良いんだ、これ。

 でも無視してたら落ち込むよな、あのタイプ。


『いけるいけるお前ならいけるって! 頑張れよ! ここで頑張らなきゃ巧には通用しないぞ!』


 ……よし。


 いやいやいや、良くないだろ、これ。

 熱血か、俺は。


『まぁ、そういう日もあるっつー事で。いつまでも不安がってるぐらいなら、さっさと巧に気持ち伝えれば良いと思うぞ』


 送信、と。

 あの二人が絡むと面倒事ばっかり回ってくるな、ホント。





 結局、その後篠ノ井からは連絡が来なかった。

 きっと篠ノ井と巧の間で何か話し合いが行われたんだろう。





 ――その代わり、雪那からのメッセージが届いた。




『ごめんなさい、悠木クン。私、日和祭りに行けなくなってしまったわ』




 …………は?

次話 2/19 22時


今回の『日和祭』の章は二章構成なので、次から二章目にそのまま突入します。

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