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#003 来訪者 『櫻 雪那』

 櫻 雪那。

 俺と同じ優待制度を使ったらしい、特待生。

 家はかなりの資産家だそうで、化粧品メーカーの社長令嬢だとかだったはずだ。

 わざわざ優待制度を用いる必要なんてなかったはずだったが。


 切れ長な目に、スラッと伸びた足。涼しげな瞳に艶やかな髪で目の下には泣きボクロ。

 なるほど、確かに美少女として人気を博しているだけの事はある。


 あの涼しげな顔で命令されたら、鋼鉄の意思を持った俺でさえ「はい喜んで」としか言えないかもしれない。


 巧と篠ノ井の視線、それに俺の視線を一身に背負った櫻さんが、俺を見つめた。

 櫻さんが艷やかな髪をなびかせながら、俺に向かって指を差した。


 ……おい俺か? まさかの俺か?


「……風宮 たく――」

「あ、それあっちなんで」


 食い気味に軌道修正してみたけど間に合わなかった。

 あ、なんか顔赤くなってる。美少女の赤面とか俺得過ぎる。


 まぁそうだろう。そうだろうよ。

 別に悔しくなんてない。篠ノ井と巧、俺と櫻さん。

 そんな組み合わせに発展するなんて、これっぽっちも思ってない。


 学園の二大美少女と肩を並べて登校するなんて希望、これっぽっちも……これっぽっち……も……。


「……コホン。風宮巧さん。篠ノ井ゆずさん」

「ん?」

「ゆっきー久しぶりー」


 巧が興味なさそうに返事をして、篠ノ井が手を振って挨拶してる。

 うん? 篠ノ井と櫻さん仲良いのか。


「それと……えっと…………。ごめんなさい。なんだか期待をして待っているような顔で見つめられているのに凄く言い辛いのだけど、名前を知らないから名指し出来ないわ」

「あ、そう……」


 べ、別に期待なんてしてないんだから!

 美少女にフルネームで名前を呼んでもらって、名前の所だけ脳内再生して呼び捨てしてもらってる気分を味わおうなんて思ってないんだから!


 ………………なんだよもおおおぉぉぉ! 憶えとけよおおぉぉぉ!


「で、ゆっきーも『読書部』に入りたいの?」


 篠ノ井が櫻さんに駆け寄った。

 元気系美少女とクール系美少女、夢のツーショット。

 俺の脳内にしっかりとこの瞬間を保存しておこう。


「えぇ。『様々な本を読む事で知識を深め、視野を広げる為の部活』なんていう素敵な部があるなら、是非入ってみようと思って」


 そんな理念があったのか。

 俺がこの部を説明された時は「好きに本を読んでダラダラ過ごせるプライベートスペースが手に入る」という、理念もへったくれもなかった内容だったりしたんだが。


「そっかそっか。いいんじゃないかな?」

「うん。ゆっきーなら私も歓迎だよー」


 巧と篠ノ井の二人から歓迎されるなら、俺がどうのこうの言う必要はないな。

 と言う訳で読んでいたラノベに視線を戻してみたんだが、沈黙が流れている。違和感に気付いて顔をあげると、何やら俺に視線が集中していた。


「……その、いいかしら?」

「あー、うん。いいと思うけど?」

「そう……、良かった」


 律儀にも俺の意見を待ってくれていたらしい。

 しかし冷たい雰囲気もあるけど、ああして目を細めて微笑む感じだと可愛らしいというか……。


「……えっと」

「ん?」

「その、名前を聞かせて欲しいのだけど」

「あぁ、永野。永野悠木」

「そう、永野くんね。よろしく」

「あぁ、よろしく」


 まっすぐ目を見て挨拶されるだけで、なんだか胸が高鳴る。

 だが、無駄な期待はするまい。


 だいたい、俺は巧のようなラノベ主人公的なモテ要素なんて持っていないのだ。

 変な期待をしたって、それはただの淡い幻想に終わる。

 そういう気持ちを胸にしたら、きっと馬鹿を見る。


 また、あの時(・・・)と同じような目を見るのは、御免だ。


「それで、永野くんはどうしてそこに座っているの?」

「ん? あぁ、窓辺が好きなんだよ。俺の事は気にせず、そっちに座ってると良いよ」

「……そう」

「ねー、ゆっきーはどんな本が好きなの?」

「私は特に好みはないわ。でもせっかく色々な本があるみたいだし、ミステリー系でも読んでみようかしら」

「あー、だったらねー」


 篠ノ井に連れられて本棚に向かって歩いていく櫻さん。

 ふわりと舞った柔らかい女の子らしい香りを残して、歩いていく。

 美少女は良い匂いを放つのだろうか。


 何冊か手に取って、篠ノ井と櫻さんが席についた。

 篠ノ井に勧められた分厚い本が机の上に置かれ、櫻さんは篠ノ井の隣りに腰を下ろした。

 どうしよう、俺もあっちに行きたい。


 あぁ、でもこれはチャンス、か。

 これで『読書部』は四人。廃部の危機は免れるって事だよな。

 だったら、俺がここを離れても問題はない。

 巧と篠ノ井のラブコメに巻き込まれる日々に終止符を打てる。


 せっかく櫻さんと知り合えたのに、このまま抜けるのは勿体無い気がするけど。


 そりゃ俺だって、櫻さんと篠ノ井の二人と同じ時間を共有出来るんなら、この部活に残ってもいいのかも、なんて思ったりもする。

 だが俺は男だし、モテたいのだ。

 青春を謳歌する為には、他人の色恋沙汰に巻き込まれているばかりとはいかないだろ。


「……さて、巧。櫻さんも『読書部』に入ってくれた事だし、俺は『読書部』辞めるわ」

「え……?」


 パタン、と本を閉じて立ち上がり、巧に告げる。

 俺の突然の退部宣言に、巧と篠ノ井。それに櫻さんまでもが驚いた顔をして俺を見上げた。


「そんな事言うなよ。せっかくなんだから、残ればいいだろ?」

「いや、廃部の危機だったから入っただけだしな。それに俺は特待生だ。二十名しかいない特待枠にいる以上、しっかりと成績を出さなきゃいけない条件もある。そこまで部活に専念出来ないしな」


 方便でもあり、真実でもある。

 実際、これ以上巻き込まれるままっていうのは、俺も勘弁願いたい。

 櫻さんだって、別に俺が抜けたって構わないだろうしな。

 俺が誘った相手ならまだしも。


「っつー訳だから、一応名前だけ残しておくよ。櫻さんが合わなくて辞めるってなったら、人数でまたマズいだろうし」

「悠木くん……。そう、だよね。無理に誘っちゃったし……」

「いやいや、俺は俺で楽しくやらせてもらったよ。篠ノ井が気にする事じゃないって。んじゃ、またな」


 それ以上の言葉は、必要なかった。いや、気まずくて、逃げるのだ。


 そんな急いで辞める必要なんてなかったけど、ずるずる続くのは俺も困る。

 櫻さんと知り合えたのは嬉しかったけど、俺の名前を知らなかったみたいだし、おそらく巧がまた何かしらフラグを立てたんだろ。


 何はともあれ。

 これで俺の日常は、取り戻せたって訳だ。




 ――とか言いつつ、俺は後ろ髪を引かれながら寮に戻っている訳だ。




 ああぁぁぁ! せめて櫻さんとメアド交換ぐらいしてから言えば良かった……。

 いや、今からでもいけるか?


『もし部活で聞きたい事があったり困った事があったら、いつでも言ってよ。そうだ、これ俺のアドレスだから』


 ……ないない。

 俺にそんな爽やかキャラを演じるだけの実力があったら、今頃もうちょっとぐらい華やかな日常を送ってるっつの。

 だいたい、俺に聞くなら篠ノ井に聞くだろうし、我ながら下心が丸見えだ。


 あれだけの美少女相手に、使い古された手法じゃ通用しないだろ。


 結局、残っていたって脈もなく、ただ毎日悶々と過ごしただけだろうしなぁ。

 ……はぁ。諦めるか。


「永野くん」

「んぁ?」


 夕暮れに染まる聖燐学園。

 校舎から寮へと向かって歩いていた俺に声をかけたのは。


「……櫻さん?」


 慌てて追ってきたのか、肩を上下しながら乱れた息を整える櫻さん。

 しばし俯いていたかと思ったら、顔をあげて長い髪を手櫛で払った。


「……永野くん。『読書部』、本当にもう来ないの?」

「へ?」

「その、私が入ったから、永野くんが来なくなるのかな、って」


 ……これはまさか……。


「まぁ、廃部を避ける為に集められたのが俺だから。櫻さんが入ったなら、俺が行く必要もないだろうしさ」

「そんな……。でも、永野くんがいないと……」


 ……健全なる男子諸君。

 これは……あれだよね。期待しても、良いよね。


 だってほら、切羽詰まった感じで、瞳を揺らしながらそう告げる櫻さんだよ?


 ど、どどどどどどどうしよう!?

 これってやっぱりアレですよ!

 巧じゃなくて、俺のフラグだよね!?


 ま、まさか相手が学園の中でも名高い美少女だなんて……。


「……櫻さん?」


 さぁ! 続きを! 言うんだ!

 気付いていますとも、鈍感系じゃないですから!


「お願い、永野くん」


 ――辞めないで、とか!





「私に、協力して欲しいの。篠ノ井ゆずに、勝つ為に」



 ですよねー!



 …………なんとなく分かってたよ、うん。

 どうせそんな事だろうとは……ね。




 ――――でも、勝つ為ってどういう事だ?




 なんだか酷く物騒な提案を持ち掛けられちゃいないか、俺。

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