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あの夏を僕らはまだ終われずにいる  作者: 白神 怜司
S-Ⅱ 第一部 瑠衣と変わり者少女
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#002 目指すべき姿

※前話とこのお話で合わせてプロローグ的な扱いなので、引き続き瑠衣視点になっております※

 長いようで、それでいて短い春休みの最終日。

 新学年になるので気持ちを一新するために、今日は文房具系を揃えたりノートを変えようと思って、駅前までやってきました。


 今年は必勝勉強術を雪那先輩に教わったので、頑張りますっ。

 学期毎にノートを取り替えて、空いたページは関連した項目などを書き込んでまとめたりすると、要点を確認しやすいとか。


 今年はそれをちょっと真似してみるのです。

 さすが学年トップなのですよ。

 憧れるのです。


 巧先輩とゆずさんは、「悠木に訊く」だそうです。

 いっそ清々してますが、悠木先輩がキレても私は知りません。


「おーい、るーちゃん。おはよう~」


「あ、水琴先輩っ! おはようございまーす!」


 遠くに立っていたのは、買い物に同行してくれると言ってくれた水琴先輩。

 私を見つけて手を振ってくれてます。


 水琴先輩はスキニージーンズにインナーの黒いシャツと、その上からカーディガン。

 背が高くて胸の大きい水琴先輩は、こういうシックな服装が大人らしくて似合ってます。


 対する私はキュロットに七分丈のチュニック、足はニーソ。

 ちょっと春っぽく、かつ新学年で大人っぽくしようと思ったのに、水琴先輩と一緒だと効果がなさそうです。

 寝る子は育つ、という言葉はただの大人の方便だと知りました。

 水琴先輩は昼夜逆転や寝不足が多いのに……むぅ、ずるい。


「会っていきなりジト目されるなんて思わなかったなぁ」


「ご、ごめんなさい。

 ただ、水琴先輩みたいにスタイル良くて大人っぽいの羨ましくて……」


「んー。私はむしろ、るーちゃんみたいに可愛らしい方が羨ましいけどねぇ。

 ほら、背が高いと女の子として扱われないし、胸が大きいと視線とか色々気になるしね。

 お互いに隣の芝生が青く見えるってヤツだと思うよ~」


「むぅ、そういうものですか……?」


「そういうものだよ。さぁ、いこうか」


 水琴先輩はそう言いますけど、確かに周りの人は男女問わず水琴先輩を見てます。


 スタイルの良さもそうですが、喋らなければカッコいい女性です、喋らなければ。

 喋るとたまにオタク系の知識が飛んできたりで台無しです。


 大きな本と文房具が置いてある建物に足を進めて、色々と寄り道しながらお店を見て、買い物。

 今は10時なので、買い物を先に済ませてお昼を食べたら二人で映画を観る約束です。


 なんでも、水琴先輩に進められてこの前読んだライトノベルが映画化するらしくて。

 興味ないかと訊かれたので答えたら、水琴先輩の奢りで行こうという話になりました。


「水琴先輩、やっぱり今日は少しぐらいお金出させてください」


「ん、気にしてたの? いいってば。

 私は収入があるからね。素直に奢られておきなさいな」


「で、でも……」


「それに、るーちゃんはアルバイトとかできないでしょ?」


 聖燐学園はアルバイト禁止ってわけではないですけど、申請する必要があるのです。


 例えば水琴さんの場合、アルバイトという人間観察をしながら生活費を稼ぐという目的もあって、それでも特待生として入寮しているので基本的には許可されているそうです。


 でも私の場合、身体の弱さが関係しているのでお母さんから禁止されています。

 お金が必要ならちゃんとお小遣いでやりくりしなさいって。

 それでも足りなければ、ちゃんと言ってくれたら出すからって。


 ……まぁ、「お小遣い足りてる? 友達付き合いで我慢してない?」ってお母さんに言われますけど。

 大丈夫です、お母さん。

 だって、そもそも友達付き合いがないですから。

 減らないですから……。


「ど、どうしたの、るーちゃん。

 なんだかいきなり遠い目してるけど……」


「あ、ははは……、なんでもないですよ……?

 今日もお母さんに出かけてくるって言ったら、お小遣い追加で渡されそうになって。それで「毎月余ってるからいらない」って言ったら、使い道ない(友達いない)のって心配されたぐらいです……ははは……」


「あはは……そ、そうなんだ……。

 い、いやぁ、るーちゃん。愛されてるねー!」


「……時々、愛が重いと感じるです……」


「その発言が重いよっ!?」


 うぅ、どうせ私はお金を使う用事なんてないですよ……。


 学校でも悠木先輩と一緒に生徒会のお仕事を手伝ったので、飲み物代もタダですし、他のお菓子とかは誰かが私の分まで出しちゃうので、お弁当持参の私はお金を滅多に使いませんし……。

 趣味もこれと言ってないですね、そういえば。


 なんだか遠くを見ている私を気遣ってくれたのか、水琴先輩がポンと手を叩きました。


「じゃあるーちゃん、こうしよう。

 映画代は私が出すから、可愛らしいボールペンとかあったら、それをプレゼントしてほしいなぁ~。

 どうしても私の場合、機能性ばっかり重視しちゃうからさ~」


「買いますっ! 任せてください、それぐらい喜んで買いますっ!」


「そ、そう、それは嬉しいなぁ。

 はぁ……、散財するのに目を輝かせるなんて……。

 なんだか、将来この可愛い後輩がダメ男に引っかかりそうで心配だなー……」


 何かをブツブツと呟いている気がしましたけど、それどころではありません!

 水琴先輩に似合いそうで、それでいて私の好みを押し付け過ぎないペンを探してやるですよっ!







「なんかごめんなさいです……」


「あはは、いいよいいよ。

 それより、このペンありがとうね。

 早速新学年になってから学校でも使わせてもらうよー」


 お昼って言うにはあまりにも遅い時間。

 私は水琴先輩に謝りました。


 あの後、買い物を済ませてお昼ごはんを食べてから映画を観る予定だったのに、ペンがどうしても決まらなくてずるずると選び続けてしまって、気が付いたら映画の上映時間になってしまったのです。


 そのまま映画を見て、今に至るのですよ……。


「ほら、食べようよ。

 お腹空いてるから気分が滅入るんだしねー。

 おっ、これ美味しそうだねー」


 うぐぅ、泣きたい。

 結構ゴーイングマイウェイな水琴先輩に、あからさまに話題を逸らすように気を遣われてるです……。

 でも今更うじうじしてもって思えてきて、不承不承に気持ちを切り替えてご飯です。


 うん、水琴先輩の言う通り、ちょっとご飯食べて元気になった気がするです。


「それで、るーちゃん。

 新入部員についてだけど、誰か目星はついたかな?」


「うぅ……、まだまだです……。

 私、この一ヶ月で自分の交友関係の幅の狭さに絶望ですよ……」


「あははは、まぁ気にしなくていいんじゃないかな。

 もしかしたら、るーちゃんが誘わなくても部活に来てくれる同学年の子がいるかもしれないしねー。

 友達を誘えなくたって、同じ部になってから仲良くなるってこともあると思うよー?」


 そう言われて、思わずハッとしました。

 友達を誘わなくたって、新しく入ってくる人と仲良くなれるかもしれない。


 うん、確かにその通りです。

 私はつい、その考えを排除していたらしいです。


「でも、入ってこない可能性も……」


「んー、それはないと思うけどねー。

 悠木クンから聞いたんだけどさ、この春休みを以って廃部になるって部活、ちょくちょくあるみたいだよ。

 部員数の確保ができなかったんだってさ」


「そうなんですか?」


「うんうん。

 共学化で部員数が激減した部は結構多かったんだよー。

 ほら、生徒会長がウチの部室に来たこともあったでしょ?」


「あ、視察でしたっけ?」


「そうそう。

 あの時から規定の人数に足りない部もあったんだけど、いちいち全部を潰して振り分けるわけにもいかなかったみたいでね。その結果、廃部が春になって、三年生で廃部になって追い出される形になる生徒は、他のトコに入部しなくていいって決まったんだってさ。

 まぁ、これは今回だけの特例らしいんだけどねー」


 知らなかったです。

 でも、確かに3年生になって新しい部活に入るのも、さすがに……ですよね。

 人数が集まらなかった部にいる新2年生は思ったよりいるみたいです。


「私達が危惧してるのは、むしろウチの部長なのよねぇ」


「巧先輩、です?」


「いあいあ、悠木クンだよ、悠木クン」


「……ん? 悠木先輩は部長にならないんじゃ……?」


「あっはっはっ、外堀から埋めていけば責任感の強い彼は逃げないとも!」


「っ!?」


 酷い扱いと思いながらも、思わず私もそれには同意してしまいました。


 確かに悠木先輩は責任感が強いです。

 周囲に流されれば……って、いくらなんでもそれは酷いかもしれないです。


「だ、ダメですよ、水琴先輩。

 悠木先輩は部長になりたくないって言ってましたし……」


「……ふーん? たっくんが可哀想、と言いたいわけじゃないんだねぇ?」


「へ? ――えっ、あ、そ、それももちろんありますよっ!?」


「へぇ?」


「な、なにニヤニヤしてるですかぁっ!

 そ、そうですよ! 昨日会ったからつい悠木先輩が気になっただけですっ!

 他意なんてないですよっ!」


「私は別に何も言ってないけどね?

 ――あぁ、冗談だよ、冗談。

 それで、昨日悠木クンと会ったんだ?」


 むぅぅぅっと睨みつけていると、また水琴先輩が話題を変えました。

 ニヤニヤしてる顔がいかにもな感じですけど。


「昨日、買い物帰りに巧先輩に勉強を教えてたって言う悠木先輩とバッタリ会ったのですよ」


「へぇ、悠木クンは相変わらず面倒見がいいねぇ。

 たっくんの性格は悪くないけれど、勉強教えろって言われたら私なら心折れるかな」


「そ、そこまでですか……?」


「んー、私だってギリギリで30位以内には入ってるからねー。

 そんな私とさえ差は大きいからねぇ……。

 るーちゃんも気を付けて、あの二人みたいにはならないようにしないとだね」


「が、がんばります……」


 そ、そうでした。

 私も頑張らないとですね……。


 ――でも、確かに私はさっき、悠木先輩の都合だけを考えていて。

 水琴先輩に言われるまで、巧先輩の気持ちを考えていなかったです……。


 多分それは、前までなら逆になっていたかもしれない。

 そんな確信めいた予感が、チクリと胸に刺さるような気がしました。


「――それで、るーちゃん。

 悠木クンにキミの気持ちは伝えるつもりはないのかな?」


「ぶふぅ――っ!」


「うわっ、ちょ、汚いよ!?」


「み、水琴先輩のせいですごめんなさい自業自得ですっ!」


「お、落ち着きなよ。

 タイミングが悪かったのは認めるよ、ごめんごめん」


 紙ナプキンで吹きながら水琴先輩が苦笑しつつ謝ってきます。

 自業自得ですっ!


「い、いきなり変なこと言わないでほしいです……っ!

 私の気持ちをつ、伝えるって、な、なんのことですかっ、もうっ!」


「……そっか、ごめんごめん。

 ただちょっと笑わせてやろうと思っただけなんだよ」


 ――あぁ、そうなんだ。

 多分、水琴先輩は――気付いているのだろうと、唐突に理解した。


 今の言い方はただの悪戯の告白じゃなくて、私の態度を見て踏み込むのをやめたのだと。


「……水琴先輩は、私が読書部に入った経緯を知っているのです?」


「うん、まぁね。それがどうしたの?」


「……もし、もしも、ですよ?

 私がもしも悠木先輩を好きになったとしたら、それってなんだか、勝手じゃないですか?」


「……勝手、か。

 もしもの話だとして、るーちゃんがたっくんを追いかけて読書部に入ったのに、悠木クンに対して好意を寄せているのだとしたら――その感情は、私は勝手だとは思わないかな」


「……どうしてですか?」


「んー、るーちゃんは勘違いしているんじゃないかい?

 そもそも人を好きになるって感情は、ただキラキラと綺麗なだけの代物なんかじゃないと、私はそう思っているよ」


「……どういう、意味です?」


「好きって感情はさ、結局は自分の感情を押し付ける言葉なんだよねぇ。

 誰よりも近くにいてほしい、誰よりも自分を見てほしい、自分を受け入れてほしい、ってさ。

 欲求と期待と我儘と、そういうのを引っ括めて、私達は「好き」って綺麗な言葉で形容するんだよ。

 私達が感じる好きっていう感情は、親が子に注ぐような「無条件の愛情」じゃないからね。綺麗に輝いているようで、でもドロドロとした感情を伴ったものだよ」


 ――まぁ、ちょっとこれはクサ過ぎる言葉だけれどね。

 そう付け加えて、水琴さんは笑みを浮かべると、照れ隠しに頭を掻きました。


「だから、るーちゃんは勝手ってわけじゃないと思うよ。

 別に負い目を感じる必要はないと思うけどね?」


 もしも、の話っていう建前がなくなってますけど。

 でも、なんとなく水琴先輩が言おうとしていることは、判った。


「……ありがとうです、水琴先輩。

 水琴先輩が言いたいことは、分かりました。

 ただ、私は無理はしてないですよ」


「……ホントに?」


「正直に言ってまだまだあやふやな気持ちですし。

 それに、もし今、気持ちが固まっていたとしても、伝える気にはならないです」


「それは、遠慮してるんじゃ?」


 心配そうに瞳を揺らして、それでも水琴先輩はしっかりと私を見つめて訊ねてきました。

 だから、私もしっかりとかぶりを振ってみせます。


「私、みんなが好きです。

 だから、今みたいに――ただ可愛がられているような、そんな情けない自分でいたくないんです。

 みんなに少しでも近づけるように、一歩ずつでも近づいてみて……その時は。

 きっと、自分なりに答えを見つけるつもりです」


 ――私の背を押せば、私はそれを理由にして気持ちを伝えることもできた。


 水琴先輩はそれを考えた上で、自分がきっかけになることで少しでも私を正当化できるようにと、わざわざこんな話をしてくれたんだと思う。


 その考えは、間違っていなかったみたいで。

 水琴先輩はふっと小さく笑って、背もたれに身体を預けた。


「……まいったなぁ。

 まったく、強いね、るーちゃんは」


「ふふーん、私だって成長しているのですよっ!

 身長だって少しずつ伸びてますしね!」


 水琴先輩はそれ以上は言おうとはしなかったのです。

 きっと、私なりの考え方を理解してくれたんだと思います。





 ――そう、いつまでも甘え続ける自分ではいたくない。





 明日からの三学期、必ず新しい仲間を見つけて、少しずつ近づいてみせる。

 私だって17歳になる、成長してるんだから。


 ふふふっ、あまりしっかりし過ぎて、悠木先輩達が寂しがるぐらいになったら楽しそうですねっ!


 高校二年生生活はいっそ、みんなから頼られる後輩になってやるですよっ!

 そう簡単に頼ってあげないんですよっ!











「――――ゆ、悠木先輩、助けてくださいっ!」






 ――――翌日、私は始業式が終わった直後。

 悠木先輩に助けを求めて涙目になりながら叫びました。






 ……私の決意って一体……。

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