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依頼 その2

「おーい、これ飾り付け頼むー!」

「あ、はい!」


商店街の人に頼まれて、俺はクリスマスツリーに飾りつける飾りを運ぶ。

段ボールの中にはサンタの人形やキャンディ、大きなモールなど様々だ。

他にもサンタへの希望プレゼントが書かれた星型のカードもあり、それも飾り付けるそうなのだがそれは七夕なのではと思う。が、毎年の事だし、他の人たちも特には気にしていないという。

少しだけ見ると「最新ゲーム」やら「くまのぬいぐるみ」やら子供らしいお願い事が書かれている。

まあ今だけだもんな、こうやってサンタにお願いできる年ごろというのも。

俺の家ではサンタは小学生までしかやってこないと母親に言われていたので、中学に上がるとクリスマスというのはただケーキを食べる日だけとなってしまった。

ので、一応中学まではサンタの存在信じてたんだよな俺・・・。あの頃は純粋だった・・・。

感傷に浸っていると次々に段ボールが運ばれてくるので慌てて意識をそっちに戻し、脚立に乗っている一里さんに声をかける。


「一里さん、これこっち置きますね!俺、あっち側飾ってきます。」


そう言うと一里さんはこくりと頷き、再び黙々と飾り付け作業を開始した。

一里さんは体が大きいので脚立に乗ると大きなクリスマスツリーと同じくらいの高さになる。ので上の飾りつけは一里さんが、下の方を俺や背の低い男の人でやることになっている。

俺も別にそこまで低いわけではないのだが、一里さんと比べればな・・・。

おまけに一里さんは手先が超器用なので、こういった細かい作業にはうってつけである。


・・・・さて。俺と一里さん以外の2人はというと。

九神岳鵙くかみたけもず、と名乗った関西弁のお兄さんと何やらお話をしていた。

いつもだったら全員で聞くのだが、今回は商店街の依頼があった為半々で分かれる事となったのだ。

けどいつもは俺と隼さんがこっちの仕事、所長と一里さんがあっちなのだが・・・。

「千種と一里で商店街のお仕事してきてね。あ、しばらく戻ってこなくていいよー。3時間くらいは戻ってこない事、いいね!」

というお言葉を頂いて現在に至るのだ。

まあ隼さん不器用だからこういう仕事なら一里さんがうってつけなんだろうが・・・俺にはそれ以外の理由があると思ってる。

なんとなく、なんとなくだけど。あの鵙さんとやらが来てから一里さんがいつもと違う感じがするような気がするのだ。

それは隼さんに至ってもそうだし、所長も珍しく俺と一里さんの背中を押して早く出てけと言わんばかりに事務所から追い出した。

・・・・・・・何か、あるのだろうか?

まあ、詳しい事は3時間後に分かるだろうし、今はこっちの仕事に集中しないとな。


***********************************


「・・・・あんなわかりやすい態度とんなや。」

「君がここに来るからいけないんでしょ?用があるならそっち行くって何度言えば分かるのかな君は。」

「悪いけどうちいまごたごたなっとんねん。今日だって抜け出すん苦労したんやで?あとちょっとしたら迎えきてまうやろなぁ。」

「なら抜け出さなきゃいいのにー。あの人たち僕らのことすっごい睨むんだからねーうちのお坊ちゃんに手を出すなーってね。」

「過保護すぎんねんてあいつらは。俺もう三十路前やぞ。そろそろ一人でお出かけとかしてみたいねん。のに!未だに外には出してくれへん。ストレスたまってまうっちゅーねん。」

「そのストレスの捌け口をここにするのはどうかと思いますがね。」

「・・・・隼、お前ちょいちょい厳しない?」

「通常運転ですが何か?」

「お前はそういう奴だったわ・・・。つーかうちがごたごたしてんのお前んとこも関係あるんやけど。」

「前にもお話ししましたが、あれはもう俺には関係ありませんから。あそこで何があろうが、俺は無視を決め込んでおりますので。」

「冷たっ!おま・・・まあ、いいわ。そんな話しにきたんとちゃうから。ええと、本題なんやったっけ?」

「知らないよ。しっかりしなよ三十路前ー!」

「渾名みたいに呼ばんといて!意外と嫌やねんぞ30とか!、と思い出した!天ケあまがはらカンパニーって名前、知ってるか?」

「知ってるも何も・・・有名な大手企業じゃんか。何?潰すの?」

「物騒な発想やけど・・・あながち間違っては無いな。ん?物騒な発想って韻ええな。ラップみたいや。」

「・・・・・・はん!」

「鼻で笑われた!」

「まあこれは冗談で。でもほんと面白くないよ。」

「傷ついた!・・・いかん、話進めへん。んでな。あそこ表向きは子供向けのおもちゃやら文房具やらを売ってんねんけど・・・。裏でけっこうやばい事やってるらしくてな。そんで調べてたら、とある事実が分かった。」

「・・・・・何でしょう?」

「人身売買。」

「・・・・・・・。」

「それも子供のな。子供向けの商品作てる会社が子供売り買いしとるなんておかしいわな。けど事実や。身寄りのない子供さらって裏でばんばん売りさばいとるらしいで。それで会社が成り立ってるとも聞くわ。んで、その売りさばいてる場所が特定できた。」

「・・・・どこ?」

「毎月1回業者や他の有名企業の人間集めてパーティしとるみたいねんな。表向きは会社の宣伝、けどそのパーティ会場の地下で人身売買のオークションが開かれとる。大抵の人間はこっち目当てで来とるらしいけど・・・。そんで、依頼は。」

「その人身売買を止める尚且つ子供の保護、プラス悪行を暴くってところ?」

「ビンゴや。なんも知らずに会社で働いとる社員はいくらでもおるみたいやからな。その人たちに罪はあれへん。やっとんのは社長の天ケ原野菊あまがはらのぎくと、上の人間一部みたいや。そいつらはとりあえず生け捕りしてな。今回はできるだけ殺しは無しや。殺し無しなら・・・・あの日比野千種とやらを連れてけるやろ?」

「・・・・君はたまに意地悪な事言うよね。」

「話は色々知ってるからな。あの子ついに死体見てもうたんやろ?けどまあ何とか立ち直ってるみたいやな・・・。お前があの子どんだけ気にいっとんのか知らんけど、この事務所にいる以上いつまでもそういう状態じゃあかんやろ。それなりのことは経験しとかんと。」

「・・・・まあ、そろそろそうしなきゃとは思ってたけど・・・。うん、まあ考えるよ。でもさ、別にうちに頼まなくても君の所で解決しようと思えば・・・・・あ。」

「・・・・分かるやろ?調べてんけど、今回のこの件は本来俺らは関わってもいかんねん。けどやっぱどーも気にいらんからな。お前らんとこやったら関係あれへんやろ?なので、危険を顧みず俺は家から出てここまで来たんや。感謝しーや!」

「わーすごーいありがとー鵙くんうれしいなー(棒読み)」

「本当ですね素晴らしいと思います(棒読み)」

「お前ら俺のことほんまは嫌いやろ!?」


***********************************


「只今戻りましたー!って・・・・あれ?鵙さんは・・・?」

「帰ったよー怖い怖いお迎えが来たからねー。」

「傑作でしたねえとても。」

「はあ・・・。」


作業を終えてきっちり3時間後、辺りはすっかり暗くなり事務所へ戻るとそこにいたのは所長と隼さんの2人だけだった。

鵙さん意外と早く帰ったんだな・・・。そういえばさっき商店街で「ものすごい車が止まっている!」という話をしていたが・・・・・まさかな。


「それで、鵙さんの依頼ってなんだったんですか?」

「ああ。それはね・・・。」



依頼内容を聞いて、俺は愕然とした。

天ケ原カンパニーと言えばおもちゃメーカーでは有名過ぎる程の大手だ。俺も小さい頃はそこのおもちゃを買ってもらってたくらいだし。

そんなところが、子供を売り買いしてるなんて・・・・どうかしてる。

止めなきゃ、いけない。


「それで、そのパーティはいつ?」

「8日後だよ。本来パーティは関係者以外は入れないんだけど・・・鵙くんがどうにかしてくれるってさ。さて・・・・千種。」

「はい。」

「ダンスの経験は?」

「はい?」


ダンス・・・・?まあ話ではおそらくパーティ用のダンスのことだろう。

・・・パーティ用のダンスって何だ?


「・・・・・・う。」

「う?」

「運動会のオクラホマミキサーくらいです・・・。」

「・・・・・・?なあにそれ?オクラホマ?ミキサー?どっかのジュース?」

「え、えええ?知らないんですか?」

「君の常識を僕にあてはめないでよ。まあ、なんでもいいや。」


いやでも子供時代誰しもがキャンプファイヤーとか運動会で踊るはずでは・・・?


「僕が言ってるのはワルツとか、所謂社交ダンスだよ。日本で舞踏会なんてあんまり見かけないけど、どうやらそこの社長が大好きらしくてね。パーティでよくやるらしいんだ。ダンスが出来ないとちょっと社長に近寄れないというか・・・。」

「はあ・・・。」

「なのでですね。千種、論文進んでる?」

「え?まあ・・・。」

「大学8日間行かなくても平気ね?」

「・・・・単位は取れてるので大丈夫かと。」

「よし。では特訓です。社交ダンス、パーティでのマナー、その他もろもろ地獄の特訓なのだ!」

「はいい!?え、俺がやるんですか!?」

「だってそのダンス男女で踊るんだよ?僕と身長丁度良いの千種くらいじゃない。隼と一里にはそれぞれお仕事があるし。つっくんに頼んだら一生口きいてくれないだろうしね!」

「ああそれは確かに・・・でも、誰が教えてくれるんですか?」

「うししー。」


所長が指さす先にいたのは、優雅に立っている隼さんだった。

ああ、まあ確かにこの人なら完璧そう・・・!


「・・・俺は甘くないですよ?」

「・・・・・・あ、はは・・・・。」

「がんばー千種!ちなみに僕はある程度できるから千種が踊れるようになったら一緒に特訓してあげるー!」

「・・・・・・。」


・・・・・・こうして、俺の地獄のレッスンが始まった。

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