作戦成功後 その4
半狂乱でシャッターを切る鷹さんのカメラに写っているのは、あのドレスを着た所長の姿があった。
何故か今回はツインテールにされており、一層可愛らしさが増している。
前回の撮影会と違うのは、そこに燕さんの姿がないだけだ。
所長はのりのりで鷹さんの指示通りにポーズ決めてるし、隼さんも自前のカメラを持ち出してるし、一里さんは相変わらずレフ板係だし・・・俺、このまま引き返すべきなのだろうか。
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、目があった所長が思い切り俺に手を振ってきた。
「ちっくさー!梟さんのとこ終わったんだねー!」
「おや。お帰りなさいませ千種さん。撮影に夢中で気がつきませんでした。」
「・・・・・。」
「た、ただいまです・・。」
「いいところに来たわね!ちょっと貴方もレフ板持って手伝いなさい!もう、これで燕が横にいたらもっと素敵なのに・・・。」
「今回は俺には関係ないって言って早く帰っちゃったよー。うう、まだ足が痛い・・・。」
「俺もです。」
「・・・・ちなみにあれからまだお説教続いてたんですか?」「あの後朝5時までお説教だよ・・・。僕自分で壊してないのにー!壊されただけなのにー!」
「俺もですよ。けれどそう反論すればまた燕さんの怒りがすごいことになってしまって・・・。」
「あー・・・・。」
なんとなく想像できるような・・・。
てか朝5時まで続いたって凄いな。どれだけ文句言ったんだ燕さん。
心の中で所長と隼さんにご苦労様です、と呟き俺は鷹さんの指示通りにレフ板を持った。
「そう!そう、いいわその角度!!もう可愛らしすぎてどうしよう!!ああもうこれで秘蔵ファイルがまた出来ちゃうわね・・・。新しいアルバム買ってこなきゃ。」
恍惚、の言葉がまさしく似合いそうな顔で鷹さんはカメラの中のファイルを覗いていた。
ちらりと横目で見れば、映っているのは勿論所長だ。鷹さんの言うとおり、可愛らしい。
鷹さんの撮った写真はすごく良くて、まるで雑誌とかに載っているようなプロの技だ。
この人、プロのカメラマンになった方がいいんじゃ・・・・。
「そういえば・・・貴方ってダンス踊ったの?」
「へ?」
鷹さんの言葉で、俺はそういえばと思い出す。
・・・いや、思い出したくなかった。梟さんにも話したけれど、あの地獄の8日間はマジで思い出したくない・・・。
けれどあの特訓は結局は本番踊らなかった訳で。
・・・・あれ?踊って、ないよな、俺。
「・・・お、踊ってない・・・?」
「は?って、貴方特訓したんじゃなかったの?」
「しましたよ!そりゃあもう死に物狂いで!っで、でもそれどころじゃなかったというか・・・。」
俺と所長はダンスパーティが始まってすぐに天ケ原野菊と接触し、そのままオークション会場へと向かった。
本当はダンスを踊って、曲が終わった時に誰かの幹部か天ケ原野菊に接近出来ればなと思ってた。
俺達は本当にダンスパーティに来てるんですよーという印象を周りに付け、怪しい動きだと思われないようにする。そうすれば相手に警戒心を持たれる事もないし、天ケ原野菊はダンスが好きだという事だったので、運が良ければ向こうから話しかけてきてくれるんじゃないかという作戦でもあったのだ。
けど天ケ原野菊が話しかけてきたのでその作戦はおじゃんになってしまった訳だ。
まあ、早く作戦決行に移れたからよかったけれど・・・俺の今までの苦労が水の泡ということだ。
「お、俺何のためにあの8日間を・・・!」
「えー、でも作法はちゃんとしてたからいいじゃない。完璧に出来てて、ほんとにおぼっちゃまみたいだったよ。」
「ええ、合格でした。むしろ8日間であれだけ出来るようになったんですから、大したものですよ。それに今後必要になってくるかもしれませんし。一度体に覚えさせたことは、中々忘れられませんから。良い経験だったと俺は思いますよ。」
「そうなんでしょうけど・・・・。」
「・・・一里、音楽ある?」
へ、と俺が声を出す前に一里さんはこくりと頷いた。そして自分のデスクの中からCDを取りだすと、いつの間に置いたのかデスクの上にあるラジカセにセットした。
状況についていけない俺に、所長は手を差し伸べる。
「踊ろーよ、千種。」
「はい?」
「今回は特別!かわいそーな千種の為に、僕が一肌脱いであげるよ。ほら、手を取ってよお兄様。そのレフ板おいてさ。」
「あ・・・。」
「ほら、貸しなさい。」
鷹さんの手に、俺は持っていたレフ板を返す。
空いた両手をみつめ、目の前にいる所長を見る。いつもと変わらず、笑っていた。
つられて俺も笑い、所長の手を取った。
「では一里さん、お願いします。」
隼さんの一言で、音楽が再生された。特訓でも使った「アメイジンググレイス」だった。
曲に合わせて、ステップを踏んでいく。特訓を思い出し、苦痛をこらえて俺は踊っていく。
隼さんはしっかり見てるし、一里さんも見守ってくれている。鷹さんは・・・いつの間にかビデオカメラを持って撮影していた。それどっから出した!
所長と目が合えば、何だか楽しそうに笑われた。
・・・・所長はドレスで決まってるけど、俺はあのスーツじゃなくて唯のシャツとパンツとスニーカーいうなんともラフな格好で、ちっとも釣り合ってないだろう。
・・・・・それでもまあ、楽しいからよしとしよう。
俺は握っている所長の手を、少しだけ強く握った。




