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作戦成功後 その1

「・・・・ってことで、無事に子供達は保護できました。」

「お疲れ様。それにしても・・・天ケ原カンパニーがまさかそんな事をしているだなんて・・・最初は耳を疑ったよ。」

「ですよね。俺もです。」


事件の次の日の昼間。俺は梟さんの家へお邪魔していた。

前にもこんな風に事件の事を話したが、まさか今回もお願いされるとは思わなかった。事件があった夜、ベンツでそのまま家まで送ってもらった時だった。未だ燕さんから説教をくらっていた所長が思い出したと俺に駆け寄ってきたのだ。


「梟さんがねー今回の事件のお話しまた千種から聞きたいんだって!だから明日お話ししてきてね!別に学校行ってからでもいいし、サボってもいいから。梟さんならどの時間にもいるし。じゃあ、お願いね!」


そう言って再び正座させられ、隼さんと共に説教を受けながらベンツは勢いよく発進していった。

・・・あれからずっと説教が続いていたんだろうか。だとしたら、物凄く可哀相な気がする。


「けれど・・・今日は大学は良かったのかな?君は真面目な大学生だと聞いていたんだけど。」

「あー・・・なんか、ちょっと行く気分になれなくて・・・。」


なんとなく、気分的に今日は大学に行く気分になれなかった。

単位は取れているし多少のサボりは許される。けどあまりサボりたいと思った事はなかった。俺がこんな風に思う事は、はじめての事だ。

今日は、何だかとても梟さんと話したい気分だったのだ。

俺の気持ちを察してくれたのか、梟さんはふふ、と優しく微笑んだ。


「寄り道をするのは若い子の特権さ、悪い事ではないよ。真っすぐ同じ道を歩いていれば、大事なことを見落としがちだ。途中横道にそれて、新たな発見をして人は大きく成長するんだよ。」

「へえ・・・。」


そう言って、梟さんは持っていたコーヒーを飲む。この人はカップの持ち方から飲み方まで何もかもが優雅だと思う。本当にこの豪邸とぴったりと言いたくなるくらい品がある人だ。

俺には一生真似出来ないものだ・・・・・。


「・・・・しかし、生栁まで出てくるとはね・・・。もうそろそろ、なのかな?」

「へ?」

「ああ、ごめん。こっちの話。」

「・・・・・聞きたい事があるんです。」


俺がサボりたいと思った理由は、昨日の疲れとかもあるけれど一番はそれじゃない。

俺の真剣な態度を察したのか梟さんは持っていたカップをぴかぴかのテーブルの上に置いた。

この人なら、梟さんなら、少しくらい教えてくれるかもしれない。


「俺、何も知らないんです。生栁さんとか、死吊さんとか一体何なんですか?いきなり襲いかかって来たり、平気で武器持ち歩いてるし・・・。それに鵙さんって何者ですか?隼さんと生栁さんの関係は?一里さんと鵙さんの間にもなんかありますよね。それに・・・所長が今回の子供を売りさばくオークションでなんとも言えない顔をしたんです。あの人、昔似たようなことがあったって言ってたけど、一体何が・・・!」

「落ち着いて。」


そう言われ、俺は一気に話し過ぎて乱れた呼吸を整える。一気に話し過ぎたせいでちょっと苦しい。体も汗でべったりしている、冬なのにだ。

聞きたい事がありすぎて、話しているうちに混乱してしまった。本当はもっと少しずつ質問するはずだったのに・・・。

そんな俺に梟さんは嫌な顔一つせず、あの笑顔を見せてくれた。


「気分は落ち着いたかい?」

「・・・は、い。あの、すいません・・・。」

「構わないよ。君の気持ちも多少なりとも分かっているつもりだから。確かに・・・何も知らなさすぎるのも危ないね。」

「危ない・・・?」

「この世界で必要なのは情報だってことさ。力があったって、武器が最強だからって、情報の前にはかなわない。ある程度の知識と力の調和がとれてこそ、この世界で長生きできる秘訣だとわたしは思っているよ。」

「じゃあ・・・。」

「但し。めーちゃんや隼君や一里君の過去は話せない。後はつっくんもかな。それは本人から聞かなければ意味のない事だからね。」

「それは・・・・分かってます。」


他人の過去をほじくり返す事が良くない事だとは分かっている。それでも知りたいと思う。

けれどやはりそれは本人達の口から聞かなければ意味がないだろう。他人から聞いたって、本人は気分が悪いだろうし、俺だってやっぱり本人達の口から直接聞きたい。

・・・・まだ、あの人たちは聞いたところでうまくかわすと思うけれど。


「いつかはちゃんと話してくれるよ。まだ時期じゃないだけだ。まだ君に話したがらない理由は検討はつくけれど・・・これも言わない方がいいかな。」

「・・・・じゃあ、それもいつかは話して下さい。」

「いいよ。じゃあまず教えよう。この世界・・・裏のことだね。めーちゃんから聞いてはいるよね?表と裏、白と黒、光と闇。表が君達がいるような世界、裏はわたし達がいる世界だ。まあ君は今は中立の立場になるんだろうけどね。」

「そもそも・・・裏ってどういうことなんですか?」

「・・・・君はドラッグが何処から運び出されてると思う?」


普通に考えれば海外とかだろうか。よく空港で麻薬発見!みたいなニュースが流れているから。

最近だと国内で脱法ハーブが流行っているときいたから国内でも生産できるらしいが・・・いまいちよくわからない。


「正解は、裏から表へと運び出しているんだよ。ニュースで良く見るのは、裏の世界の住人が育てたものを表の世界で売って、表の人間が表の客に売ってる光景だ。」

「!」

「本来表の世界にはそういったものが存在しないんだよ。賭博、やくざ者、薬、未解決の殺人事件・・・これらは全て裏の人間が仕組んだ、輸入したもの。表が裏に、裏が表に関わることは本来禁止されている。表は表で、裏は裏の生き方があるからお互い干渉しないようにする・・・はずだったんだけどね。」

「・・・何かあったんですか?」

「戦争、だね。教科書に載っているような大事ではないけれど・・・まあ沢山の人が死んだよ。」


戦争。俺は教科書とかでしかそんなの見た事がない。

けれどそれが、こんな身近で起こっていたなんて、知らなかった。


「13年前の事だ。当時は十神じゅっしんと呼ばれていたんだけど、十の一族が名を連ねていた。今は三つに減ってしまった。」

「亡くなったんですか?」

「ああ。当時六の者が裏と表を一緒にしてしまおうと言い放った。それに賛同したのが一、四、五、七で反対したのが二、三、九、十。八だけは唯一の中立の立場を保った。裏と表の秩序を守ろうとする者と、何もかも壊してしまう者。意見の対立から、ついに戦争が始まった。わたしも見ていたけれど、あれは正に阿鼻叫喚、地獄のようだったよ。沢山の人が殺し殺され、怨み妬んだ。そしてある者達の協力により、戦争は幕を閉じた。けれど犠牲は多かったよ。残ったのは六角神むつのかみ神八代かみやしろ九神岳くかみたけの一族だけ。そして当時の一族の当主達が話しあい、裏と表は一緒にしないことを決めて、二度と争いを生み出さないよう誓いを立てた。」

「九神岳・・・・って鵙さんですか!?」

「そう。彼は九神岳現当主、九神岳鵙だ。一応それなりに偉い立場の子なんだよ。」

「・・・・そうなんですか。」


正直所長とか隼さんとか燕さんがあまりにも馬鹿にするので可哀相な人なんだなと思っていたが・・・実はすごい人だったんだな・・・。

しかし・・・壮大な話だ。小説とかドラマに出来そうな。俺が知らない所で、そんなことがあったんだ。


「今の六角神当主は六角神雀むつのかみすずめ、そして神八代は神八代鶯かみやしろうぐいす。それらと九神岳を合わせて≪三神みつかみ≫と呼ぶ。そして生栁と死吊は六角神の者だ。」

「え!?」

「当主様の護衛といったところかな。そしてさっきも言ったけれど六角神は何もかも壊したいと願っている。そして九神岳は秩序を守ろうとしている。それがどうやらまたもめてきているらしくてね。」

「・・・神八代の人たちは中立ですよね?止めようとか思わないんですか?」

「それがね。神八代が六角神と手を組んでいるという話だよ。」

「それって・・・。」

「2対1、ではあまりに不利になるだろうね。だから鵙君は君たちを味方につけようとしているんだろうけど・・・めーちゃんがそれは許さないだろうね。」

「所長が?」

「あの子はあくまで中立を保つ気だから。」


そういえば・・・俺がこの世界に足を踏み入れようとした時に所長は言ってた「AMCは中間だ」と。

あれは中立を保つって意味だったんだろう。秩序を乱さない、表は表、裏は裏で生きていく。

まさかこんな所でその本当の意味がわかるなんてな・・・。


「けれど今回の話で変わった。」

「何がですか?」

「天ケ原カンパニーに子供を斡旋していたのは六角神だからね。」

「は!?」

「天ケ原カンパニーは元々六角神一族の一グループ。本来他の一族の者が関わる事は許されていない。そんな事をしてしまえば戦争が再び起こってしまうからね。だから鵙君は君たちに頼んだんだ。中立の立場の人間がやれば、戦争が起こることはない。まあ怨みを買ってしまうけれどね。」

「だからか・・・。」

「まあめーちゃんは分かっていただろうけどね。あの子は賢い子だから。それに一族の者が下手に中立の者に手を出せば神八代が黙っていない。神八代は中立を保つための一族だ。均衡が崩れればすぐさま九神岳と組んでくれるはず、なんだけどね。」

「それが今難しい状況になってきてるってことですか・・・?」

「わたしもあまり情報が仕入れてないんだけどね。おそらく近いうちに会合が開かれるだろう。その時にどうなるか・・・・それによるね。」


コーヒーカップの中身はすっかり冷え切っている。おそらく梟さんのもだろう。

ある程度の情報は得たが、とりあえず整理するのにまだかかる。

けれど一つ言えるのは、やはり俺はとんでもない世界に足を踏み入れてしまっている事だろう。

三神とか、本当にそんな御三家みたいなのが存在しているこの世界。現実とは思えなかった。

けどこれはまぎれもない現実だ。俺は実際に遭遇してきているし、関わってきている。

所長たちが話さなかったのは・・・あまりにも壮大なスケールの話だったからだろうか。

しかし・・・・神八代はまだ良くても六角神とか九神岳とか・・・すげえ名字だな。

俺の日比野だって結構珍しい方なんだが・・・・日本全国探しまわったってそんなかっこいい名字出てこないと思うぞ。


「・・・・はあ。」

「・・・・わたしが話せるのは今はまだここだけかな。けれどもうすぐにわかるよ。否が応でも真実が聞ける日が、すぐ来るさ。」

「・・・前に所長に言われたんです、『真実が君を殺してしまうかもしれない』って。もしかしたらそうなるかもしれないです。・・・・けど、俺は知りたいです。」

「・・・・。」

「きっと、何聞いたって何知ったって、俺のやることに変わりはないですから。俺はAMCです。あの人達と一緒に、なんでもやるって決めたんですから。」

「・・・・ふふ。やっぱり君は面白い。めーちゃんが見込んだだけはある。・・・・本当に、凄い子だ。」

「・・・?最後何か言いました?」

「いや、なんでもないよ。」


最後、何か言われたような気がしたんだけど・・・俺の勘違いか?

けれどあの笑みを見せられてしまってはそれ以上追及できる気がしない。

梟さんの笑顔って反則だよなー・・・なんっかずるい。


「さて、すっかりコーヒーも冷めてしまったようだね。」

「あ、すいません・・・俺がいきなり話し聞きたいっていったから・・・。」

「気にしなくていいよ。それに、もうそろそろ白亜が買い出しから戻ってくるから。また暖かいコーヒーを淹れてもらおう。それまでそうだな・・・地獄のレッスンの話でも聞かせてもらえるかい?」

「・・・・人の嫌な思い出蒸し返す気満々ですか・・・・・。」

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