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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と紅の石
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赤い希望(4)


 悠真は白の石を使おうとする佐久の手を掴んで止めた。

「悠真君?」

佐久が不信そうに悠真に尋ねた。今、白の石を使うべきは佐久ではない。白の石を使うのに、最も適した人がこの場にいるのだ。

「冬彦だ。冬彦に使ってもらうんだ。冬彦は白との相性が良いから、冬彦なら代償なく秋幸を助けることが出来るかもしれない」

冬彦の白との相性の良さを悠真は佐久に伝えた。佐久がそれを信じる保証は無いが、佐久なら信じてくれると思っていた。佐久は自らの弱点も素直に受け止める度量の大きさを持った人だから。

「冬彦君?……なるほどね、彼が白との相性が良いのなら、もしかしたら助かるかもしれないね。狭隘な力を持った子だから」

佐久が手を止めた。


 悠真は立ち上がり、冬彦の下へ駆け寄った。そして冬彦の腕を掴むと引っ張った。

「秋幸を助けてくれ。佐久じゃないんだ。白と相性が良いのは、冬彦なんだ。全力で、白の石を使ってくれ。冬彦の相性と力があれば、秋幸が助かるはずなんだ」

冬彦は状況が理解できていないようだった。

「どういうことだよ。佐久が……」

佐久が使うべきだと、冬彦は言ったが悠真は冬彦を引っ張った。冬彦は自分の才能に気づいていないのだ。冬彦の白との相性の良さは才能だ。その才能を活かす時は、今なのだ。

 悠真は冬彦を引っ張り、秋幸の横に座らせえた。

「冬彦は、白の石使ったこと無いだろ。そりゃあ、白の石は貴重な石だから。だから、自分でも気づいていないんだ。冬彦が一番相性が良いのは、白の石なんだ。白の石の力を誰よりも引き出すことが出来る。俺には見えるんだ。冬彦は白に愛されている」

佐久が白の石を冬彦に握らせた。

「僕や都南のような代償を支払わせちゃいけない。使ってくれないか?」

冬彦は戸惑いながらも、そっと白の石を握り締めた。

「秋幸を死なせたりしない。こいつは、強い奴なんだ」

悠真が初めて見る白い石は、秋幸を中心に白く光を放った。光は秋幸と冬彦を包んだ。穢れなく、美しい白。白には毒々しさが無い。赤と白は異なる。


――白の石はいかなる傷や病でも完治させる。


悠真は白の石の力を感じた。冬彦は白の石の力を確実に引き出し、秋幸の傷は治っていた。秋幸の傷が治るのと引き換えにするように、白の石は色を失い砕けた。

 悠真は白の石が高価な石である理由を理解した。誰もが、喉から手が出るほど欲しい石のはずだ。白の石は、命のやり取りを行うことが出来る石なのだ。


「よく頑張ったね」

佐久が秋幸の髪を撫でて、自らの赤い羽織を脱いで秋幸にかけた。

「良かった。僕が使うよりも、冬彦君が使った方が確実だった。きっと大丈夫。代償を支払わずに、きっと術士として表舞台に立つことが出来るよ」

佐久は柔らかく微笑んだ。


 悠真は佐久を思った。佐久は優れた術の力と、剣術の腕を持っていた。しかし今は、身体を動かすことが出来ない。そのことを、佐久はどのように捉えているのだろうか。術の力は使えても、術士として未来を奪われたことは事実だ。もし、二年前の戦いの場に冬彦がいたのなら、状況は違うかもしれない。

 佐久と都南は大人だから、現実を受け止めている。佐久は悠真に微笑みかけ、強い目を紅に向けた。

「終了しました」

佐久が深く紅に頭を下げた。紅は頷くと、煙管を登一に向けた。

「野江、都南。捕らえろ。殺すでないぞ」

紅という存在は圧倒的だ。気持ちが良いほど、相手を裁いていく。誰も紅に逆らえない。紅に表から立ち向かうことは出来ない。野江と都南は赤い羽織をなびかせ、朱塗りの刀に手を伸ばした。

「待て!」

登一が叫んだ。


 登一は庭の隅の物にかけられた布をめくった。布の下には義藤が隠されていた。


 登一が短刀を握り白刃を義藤に突きつけ、野江と都南は足を止めた。

「殺すぞ、殺すぞ。殺されたくなければ、後ろへ下がれ。ここから立ち去れ!」

登一が持つ短刀の刃先が義藤に迫り、都南と野江が身動きをとれず固まっていた。それは、春市たち登一の使用人と同じ牢に捕らわれたことを意味する。大切な人を守るためならば、人は信念を捨てる。野江と都南、どちらも動きが取れない。


 希望が絶望に変わった瞬間だった。

今年は一色を読んでいただきありがとうございました。来年もよろしくお願いします。

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