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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と紅の石
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赤い希望(3)

――きっと秋幸は助かる。


 仲間がいるから。仲間が助けれくれるから。一人で戦っているのではないのだ。

 悠真は思った。紅城で、復讐に息巻いていたときから、悠真はひとりでなかった。佐久だけでない。野江も都南も悠真を大切な者として接してくれていた。紅も悠真を追い出さなかった。遠次も温かかった。夜、襲撃の前に義藤が教えてくれた言葉が脳裏に響いた。


――俺は一人だと思っていたのに、一人じゃなかった。


悠真も義藤と同じことを思った。紅の姿が見えたとき、涙が出るほど嬉しかった。野江たちが助けに来てくれたと分かったときは足が震えた。悠真の心は、既に彼らの中に所属していたのだ。悠真は佐久を見た。佐久が助けてくれる。そう思うと、安心した。そして、佐久は秋幸の胸の上に白の石を乗せた。

「佐久、秋幸は助かるよね」

悠真は自らを安心させるために、佐久に尋ねた。


――白の石は、いかなる傷や病も癒す。


 白の石の力は周知の事実。この石があれば、秋幸は助かるはずなのだ。悠真は佐久の口から肯定の返事を待った。

「さあ、どうだろうね」

佐久は低く答え、悠真はそれが理解できなかった。

「え?」

悠真は息を呑んだ。佐久の返答の意味が分からなかったのだ。白の石は、いかなる傷も癒すはずなのだ。悠真は信じられず、白の石を使う準備をする佐久に問い詰めた。

「なんで?白の石は、いかなる傷も癒すんでしょ。どういう意味だよ」

白の石があるのに、秋幸が助からないかもしれない。それが理解できないのだ。

「確かに、白の石はいかなる傷や病も癒すよ。でも、それは色神白が使ったときだろうね。僕には、白の石を完全に引き出すだけの才能が無いから。僕は、白との相性の良さを持っていないんだ。――でも、命は助かると思うよ。何かの代償を支払ってね」

佐久はじっと黒焦げになった秋幸を見ていた。

「命は助かっても、術士として生きることが出来るかは分からない。悠真君は知らないんだったね。二年前、僕と都南、そして惣爺は死の淵に立っていた。白の石を使って命を永らえたけれども、僕と都南が支払った代償、君なら分かるでしょ。僕は先の朱護頭。都南に及ばずとも、今の義藤と同等の剣術を会得していた。都南は朱軍で、大緋の力を持っていた。僕と都南は、命の代わりに代償を支払った」

佐久は目に涙を浮かべていた。

「優れた才能を持っていて、優れた力を持っていて、優しい心を持っていて、こんなところで未来を閉ざされるなんてね……。この子は強いよ。きっと、僕らに並ぶ力を持った存在だ。紅に力を貸してくれたのなら、僕らも安心なのに。なぜ、世の運命というのは、こんなに残酷で皮肉なんだろうね」

佐久は先の朱護頭だ。悠真はそれが信じられなかった。身体を動かすことが極端に苦手な佐久が、朱護頭として戦えるはずが無いのだ。しかし、もし二年前まで佐久が刀を使うことが出来たら?都南は術の使えない朱将だ。悠真はそれも疑問に思っていた。術が使えないのに、紅に近づくことが出来るはずがない。術が使えないなら、朱軍に入る術は無い。剣術が優れているのなら、官軍に入るはずなのだ。惣次は二年前まで赤の仲間を率いて戦っていた。そして戦うことが出来なくなったから、隠居して下緋として悠真の村に来た。


 赤の仲間たちは二年前の戦いを、隠そうとしていた。そして、佐久と都南は二年前の戦いの後に紅城を去ろうとした。

 佐久と都南が支払った代償。

 二人に欠けたもの。


 白の石の力を完全に引き出すことが出来る者がいなければ、秋幸は生きながらえたところで術士として戦うことが出来なくなってしまう。どのような代償を支払うのか、それは定かでないが、佐久と都南が支払ったもののことを考えると、それは術士として致命的なはずだ。

 秋幸は優れた力を持っている。その力は紅にとっても必要なはずだ。信じることが出来る赤の仲間を増やすことが、紅には必要なのだ。秋幸の人柄を悠真は知っている。絶望的な状況でも、未来を信じることが出来る人だ。紅に忠誠を誓えば、裏切ったりはしない。秋幸のためにも、紅のためにも、秋幸の術士としても未来を閉ざすことは出来ない。


 悠真は辺りを見渡した。何かを忘れているような気がしたのだ。半身を起こす春市。膝を折ったままの千夏。そして、立ち尽くす冬彦。

(冬彦)

悠真は冬彦を見た。冬彦を見て思い出したのだ。色を引き出す強大な力。そして、白との相性の良さ。冬彦は白の石を使うことに優れているのだ。もし、赤との相性が良ければ、歴代最強の陽緋野江に並ぶほどの、色を引き出す強大な力を持っている。

 冬彦が白の石を使ったら?

 悠真は佐久の手を掴んだ。




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