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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と紅の石
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赤い希望(1)

 紅に救援を求めるために、惣次の石を使った秋幸は、炎とともに燃え上がった。


 悠真は秋幸のことを思った。今、黒焦げになって倒れている秋幸は、ずっと考えていたはずなのだ。悠真から惣次の石の話を聞いたときから。悠真が惣次の石を使えない。と打ち開けたときから、秋幸は考えていたに違いない。秋幸自身が惣次の石を使って、紅に救援を求めることを、ずっと考えていたはずだ。

 春市と千夏が戦ったとき、秋幸は動かなかった。今、動いても無駄死にになるだけかもしれないから。紅が確実に助けてくれる、という保障がなければ、秋幸は無駄死にになるかもしれないから。


 紅が助けに来てくれるという確信があれば、秋幸が躊躇う必要はない。


 己が犠牲になることで、涙を流す人がいることを知りながら、秋幸は惣次の石を使った。


――ごめんな。


 秋幸の言葉が悠真の脳裏に響いた。

「秋幸!」

千夏が悲痛な叫びを上げた。助からない。他人の石を使用することは出来ない。使用すると、必ず死に結びつく。そういう事だ。


 春市が千夏の刀に倒れた。秋幸は紅に助けを求めるために他人の石を使った。四人の兄弟の二人が倒れた。悠真の頭は真っ白となり、こらえきれず膝を折った。立つことさえ出来なかった。辛くて、現実から逃げたかった。悠真が殺したようなものだ。悠真は強い自責の念に駆られ、死んで、消えたいと願った。祖父や惣次が死んだ時と同じだ。悠真は、再び己の無力さのために大切な人を死なせるのだ。なぜ、ここへ来てしまったのか。なぜ、紅城へ足を運んだのか。悠真が無力だから。悠真が他人の石を使えると、根拠のない自信を持っていたから。悠真の無鉄砲な行動のせいで、秋幸は燃えた。

「どういうことだ、どういうことだ……」

登一が混乱していた。そんな登一の混乱さえ、雑音に聞こえる。どこで判断を間違ったのか。どんな行動をとれば良かったのか。もう一度やり直したところで分からない。

「どういうことだ、答えろ!答えろ、千夏!」

春市が千夏に叫んでいた。千夏は立ち上がると、拳で登一を殴り倒した。登一は地に引っくり返り、高価な登一の着物に土がついた。倒れた登一を見下げて、千夏は言った。

「子供たちは紅の手で解放された。なら、私があんたに仕える理由はない。秋幸が犠牲になって希望を導いてくれたから。忘れないで。私たちの自由を奪う牢獄は、既にないことを」

千夏の言葉は正論だった。そして千夏は暗くなった空を仰いだ。

「ほら、聞こえるでしょ。紅たちが攻めて来る声が。終わりなの。もう、終わったのよ。秋幸の命と引き換えに」

千夏は持っていた刀を捨て、両の手を地につき、膝を折った。それは深い悲しみと絶望の姿。全ては悠真の罪が生み出した結果。消えることの無い悠真の罪。

「秋幸……秋幸……」

千夏がうめくように秋幸の名を呼ぶ。立ち尽くす冬彦。愕然とする千夏。紅が助けに来てくれる。なのに、とても辛い。望んだのは、こんな結末ではない。

「何で、秋幸が死ななくちゃいけないんだ」

冬彦が空を仰ぎながら、泣いていた。彼らは仲間だ。兄弟だ。深い絆で結ばれている。その中の一人が命を失った。それは、悠真の罪によるものだ。


 空を飛ぶ船が、建物を潰すように着陸した。空を飛ぶ船「空挺丸」を操るのは、野江。稀代のからくり師鶴蔵が、野江のために造ったからくり。それが空挺丸。そして、野江が来たということは、紅が助けに来たということ。空挺丸には篝火が炊かれている。赤い炎が辺りを照らし、高貴な雰囲気が漂った。この場に漂う穢れた空気を拭い去るような清清しさと美しい赤が空挺丸から漂っていた。

 待ち望んでいた紅の救援だ。紅が助けに来てくれた。絶望の中に赤い光が差し込む。色の消えた屋敷に、赤い色が灯り始める。

「紅」

悠真は空挺丸を仰いだ。赤い希望とともに、紅がこの屋敷に助けに来てくれたのだ。


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