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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と紅の石
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赤の犠牲(5)


 冬彦の登場に、登一は狼狽し、腹の辺りを掻くように手が泳いでいた。秋幸が言った。

「冬彦、それは本当なんだな。みんな、解放されているんだな」

秋幸が冬彦に確認し、冬彦は頷いた。秋幸の声は落ち着き払い、低く響いた。


 秋幸は何かを考えている。それは明らかなのに、何をするつもりなのか悠真には皆目検討もつかない。


 その直後、悠真は強い力で突き飛ばされたのだ。突き飛ばされ、投げられる間に、悠真は秋幸に紅の石を奪われた。

 普通の人に見える秋幸も、悠真より優れた力を持ち、容易く悠真は惣次の石を奪われた。それは、紅たちをここに招きこむ証拠。ここに惣次の石がある。それを示せば、証拠となる。


――紅の石は持ち主以外に使用することはできない。


 悠真はそれを知っていた。自分が、他人の石を使えるということは、例外なのだ。なのに、秋幸は悠真から惣次の石を奪った。悠真は地に倒れた。地に叩きつけられた衝撃で、一瞬視界が揺らいだが、悠真の目は秋幸から離れることはなかった。

「秋幸……」

悠真は秋幸を見ていた。秋幸は普通だ。だから接しやすい。その秋幸が、なんとも言えない表情で微笑むのだ。秋幸の手にには、惣次の紅の石が握られている。この地に義藤と悠真がいるという証拠となる石だ。悠真しか使うことが出来ない石。その石を持って、秋幸は何するというのだろうか。

「ごめんな、悠真。こうするしかないんだ。俺は、何も後悔をしちゃいない。自分を責めるな」

秋幸が言った直後だった。


――赤

――赤

――赤

――赤

――赤

――赤

――赤


 燃える炎。

 立ち込める煙。



 悠真は分からなかった。

 赤はとても高貴なのに、とても美しいのに、時に豹変し残酷な色となる。それは絶対的な権力の色であり、力の色であり、死の色。鮮烈に焼きつく赤。


――他人の石は使用できない。

それが人に合わせて加工された石ならば、なおのこと。惣次の紅の石は、加工師柴が惣次にあわせて加工した石。惣次の色と寸分違わず加工しているから、双子の惣次出さえ使うことが出来ない。


 それは分かっていたことだ。けれども、悠真は他人の石を使用することで支払わなくてはならない代償を知らなかった。


 紅たちに証拠を渡すには、惣次の石を使うしかない。悠真は惣次の石を使うことが出来ない。他人の石を使っても平気なのに、術士のように思うがまま石を使うことが出来ない。

「秋幸!」

悠真は叫んだ。目の前の赤い色に叫んだ。


 秋幸は悠真が持っていた惣次の石を使った。


 術士である秋幸にとって、紅の石を使うことは造作もないことだ。


――他人の石は使えない。


 その事実さえ除けば、秋幸は惣次の石を使えない。


 他人の石を使えない。ということは、紅の石の力を発揮することが出来ないことだと、悠真は勝手に思っていた。しかし、他人に合わせて加工された石を使うことは可能なのだ。代償を支払うことを恐れなければ、使うことが出来るのだ。


 他人の紅の石を使った。


 秋幸は惣次の石を使うことをしなかった。春市が倒れても、使おうとしなかった。つまり、他人の石を使うことが、何を意味するのか、秋幸は知っていたはずなのだ。しかし、秋幸は使った。


 悠真が見たのは、紅の石を中心に燃える秋幸の身体。赤い炎は秋幸を舐めるように広がり、秋幸は倒れた。火は瞬く間に消えたが、そこにあったのは黒焦げの秋幸。着物はほとんど燃え落ち、皮膚も変色し、火傷をしていない皮膚が分からないほど。残酷なのは、秋幸が未だに生きていることだ。うつぶせに倒れた秋幸は、小さな息をしていたが、目は閉じられていた。

 命が消える前の姿だ。命の証、赤い色が失われ始めている。秋幸の一色が消えつつある。


 紅に助けを求めるために、仲間を救うために犠牲となったのは「秋幸」だった


「秋幸!」

悠真は叫んだ。

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