表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一色  作者: 相原ミヤ
火の国と紅の石
93/785

赤の犠牲(3)

 出口の無い迷宮に春市と千夏は迷い込んでいた。互いを思いやるからこそ、逃げだせない。抜け出せない。刀を下ろした千夏がゆっくりと春市に言った。

「春市、昔、ずっと昔、あれは、女術士に助け出される前のこと。私たちは、大人に利用されるだけの存在だった。そうしなければ、生きていけないから。今も同じ。利用されなければ生きていけないから。あの時、私たちは何も持っていなかった。持っていないと思っていた。でもね、今は違うと思うの。私たちは、この命を持っている。そして、この命は、私たちだけのものじゃなくて、大切な仲間のものでもあるのよ。春市の命が消えて困るのは春市だけじゃない。私は悲しくて辛い。秋幸や冬彦だって同じ。春市、簡単に犠牲にならないで」

春市は頭を抱えていた。

「じゃあ、じゃあ誰が犠牲になるって言うんだ?誰が犠牲になっても、失うものは同じなんだ」

春市の声も震えていた。



「戦いましょ」

千夏が小さく言い、悠真は息を呑んだ。辺りの空気が水を打ったように静まりかえる。その中で、千夏が静寂を破った。

「誰が犠牲になるなんて決められない。なら、本気で戦いましょ。本気で戦って、決めましょ」

千夏が刀を構えた。

「千夏らしい」

言って春市も刀を構えた。


 そして、二人は刀を抜き合い、牙を向け合った。

「止めろ、止めろよ!」

悠真は二人を止めようと叫んだ。二人が冗談で刀を抜き会っていないことは明らかだ。


――誰かが犠牲にならなくてはならない。


そのようなこと、悠真は嫌だった。なぜ、二人が戦わなくてはならないのか。悠真は叫んだ。非力な悠真の言葉は何も意味を持たない。悠真の隣で、秋幸が体を固めていた。

「悠真」

秋幸が小さな声で悠真を止めた。何をしても無駄なのだと、秋幸は知っているのだ。


「殺し合え!春市、千夏。殺しあえ!」

下村登一が玩具を得た子供のように嬉しそうに叫んでいた。


 春市が駆け出し、千夏も駆け出した。二人が振り上げた刀が擦れ、火花が散った。それは、都南と義藤の手合わせのようだったが、手合わせとは違う。手合わせの時は、野江が止めるために戦いを見守っていた。しかし、今、戦いを止める存在がいない。二人は技術向上のために戦っているのではなく、犠牲となる者を決めるために殺しあっているのだ。


 それはまるで遊ぶように、踊るように、二人は刀を向け合っていた。ぶつかり合った刀の衝撃で小さな赤い火花が散る。辺りは暗くなり、ともされた灯だけが辺りを照らしている。暗がりが深い。悠真は何も出来ない。嬉しそうに笑っているのは登一だけだ。

「殺せ!」

登一の声が高らかに響いた。

「殺しあえ!」

悠真は腹立たしさを覚えたが、何も出来ない。手に握る惣次の石さえ使えれば、解決することなのに、悠真が出来ないがゆえに二人は殺しあっている。時間だけが過ぎていく。

 永遠に続くかのような時間。二人は互角で、どちらも決定打を打てずにいた。それが悠真を安心させた。戦いが続く限り、春市と千夏が死ぬことはない。


 素人悠真とは違う角度で、秋幸は春市と千夏の戦いを見ているようであった。秋幸は身を固め、じっと見守っていた。

「時間を稼いでいる」

秋幸が二人を見て言った。小さな声で言った。

「二人は時間を稼いでいる。二人で争うように見せかけている。互いに殺しあっているのなら、とっくに決着がついているはずだ。ほら、千夏が決定打を出せるところで一歩引いた。もしかしたら、春市と千夏は俺たちに賭けているのかもしれない。俺が、何か策を持っていると考えて、時間を稼いでいるんだ」

秋幸のその言葉が、悠真を更に追い込んだ。この状況は悠真が作り出したものだ。悠真が惣次の石を使うことが出来ると言ったから。悠真が惣次の石さえ使うことが出来れば、紅たちがここへ進撃する理由をもつことが出来る。


――力を……


悠真は願った。それでも、紅の石は反応しない。色の声がしない。悠真は紅の石の使い方を知らない。感情だけでは動けない。


 悠真は目を細めて未来を願った。悠真が石を使えない。このことが、大きな犠牲につながる可能性がるのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ