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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と紅の石
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赤の犠牲(2)

誰かが犠牲にならなければならない状況。

 春市は己を犠牲としようとし、千夏がそれを止めた。


千夏が紅の石を使って春市の刀を弾き飛ばしたのだ。紅の暗殺に繰り出すために準備していた千夏は、紅の石を持っていたようだ。誰かが加工したのだろう。千夏の色に合わせられていたが、微妙に色は違った。加工師柴のように、優れた加工が出来る者は稀だということだろう。


 千夏は刀を構えて、強く言い放った。

「させない、そんなことさせない」

言った千夏の声が震えていた。

「俺は、誰も死なせたくないんだ!」

春市が叫ぶように言った。誰かが犠牲にならなくてはならない状況。春市は、皆を生かすために己の命を捨てようとした。そして千夏は、春市を死なせたくないから、死のうとする春市を止めるのだ。

「誰も死なせたくない、って思っているのは春市だけじゃないのよ!私も、誰も死なせたくない。春市を死なせたくない!」

千夏が震える声で叫んだ。ならば、誰が犠牲になると言うのだ。悠真は惣次の石を握り締めた。


――紅、助けて。

――惣次、力を貸して。


悠真は願った。下村登一が作り出した牢獄の中に、春市と千夏は囚われているのだ。下村登一の命じるがまま、恐ろしい選択を強いられている。状況を打開するには、悠真が惣次の石を使って紅に助けを求めることだけだが、悠真にはその力が無い。

 この状況を作り出した責任の一端は悠真にある。だから、悠真は秋幸に目を向けた。平凡な印象だけれども、優れた才能を持っている秋幸ならば解決策を見出せると思ったのだ。

 秋幸は、春市と千夏の様子を、じっと見つめていた。なぜ、秋幸は何もしないのか。悠真は分からなかった。

「秋幸」

悠真は秋幸の袖を掴んだ。秋幸ならば、春市と千夏を止めることが出来ると思ったのだ。互いに生きて欲しいから、自ら死のうとしている彼らを救うことが出来ると思ったのだ。秋幸は袖を掴む悠真の手を見て、哀しく笑った。

「俺には何も出来ないよ。俺が乱入したって、状況は混乱するだけ。誰かが死ななくちゃいけない。それは俺でも良い。でも、二人が争っているのは、皆が生きる道を探しているから。俺が死んだら、二人の意志はどうなる?それにね、俺は無駄死にしたりしない。ここで命を自ら絶ったとして、紅が助けに来なければ何にもならない。俺が死ぬのは、紅が皆を救う鍵となるためだけ」

悠真には秋幸の考えが一寸も理解できない。皆が生きる道を探している。それは、己の命も生きなくてはならないのだ。秋幸は無鉄砲に突き進む小猿悠真とは違う。そして、優しさのため己が犠牲となろうとしている春市の気持ちも、春市を救おうとしている千夏の気持ちも考えている。だから秋幸は動かない。


しかし……


――俺が死ぬのは、紅が皆を救う鍵となるためだけ。


秋幸も己の死を視野に入れているのだ。無駄死にはしない。しかし、無駄死にでなければ、死ぬという意味だ。


 誰かが犠牲にならなくてはならない。誰も犠牲にしたくない。誰もが同じ気持ちなのだ。「犠牲」といいう言葉は、火の国の民が好む言葉だ。特に「自己犠牲」という言葉が好まれている。他者のために美しく散る。未来のために、美しく散る。しかし、悠真は嫌いな言葉だ。何があっても、生きたい。他人を犠牲にするのではなく、自分を犠牲にするのではなく、皆で生きていたい。悠真は願った。

「殺しあえ!殺しあえ!」

登一が叫んだ。

 残酷な言葉。その言葉で誰かが命を落とす。


 それに掻き立てられる様に、春市は落ちた刀を拾い、直後、千夏は春市に斬りかかった。春市は刀で受け止めた。二人は隠れ術士。兄弟四人が集まれば、野江を阻むほどの力を持つ。兄弟は信頼で結ばれ、力で結ばれている。

「どちらかが死ななくちゃいけないなら、戦って決めればいい。喜ばせるためにも。私は、誰も死なせたくない。春市が私に生きて欲しいと思っているの。平等に決めましょ」

千夏はそう言った。

「俺は千夏とは戦わない。千夏、俺を殺せ」

春市が千夏に言った。千夏がその刀をまっすぐと春市に向けた。

「なら、春市。私を殺して」

直後、千夏が刀を己に向けた。

「止めろ!」

春市が大声で千夏の行動をとめた。



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